
2025.03.07
メール対応担当の8割以上が「カスハラ被害」に クレームのハード化・長期化を防ぐ4つの対策
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安藤健氏(以下、安藤):さっそくですが、今日のテーマは「口説き」「フォロー」「アトラクト」「動機付け」と、いろんな名前で呼ばれている部分です。採用プロセスはステップ1が「母集団形成」。母集団形成は、正確には「候補者集団形成」です。
ステップ2が「情報提供」です。新卒だと、会社の説明会がすごくわかりやすく分かれているんですが、中途採用でも新卒採用でも変わらず、「うちの会社ってこういうものだよ」というのを最初に提供するという意味で言うと、「情報提供」という名前があります。
その後に、見極めるところの「選考」ですよね。うちにとってのいい人材を、ちゃんと精度高く見極めるところが、まずはポイントになってきます。
ところが、一番最後のステップ4の「入社動機形成」が絶対に必要です。結局、どんなにいい人材を見つけても、口説けなければ選ばれない。
「集める」「知らせる」「見極める」「口説く」と書いてありますが、採用の課題をだいたい大きく分けると、大手企業でも、中小企業でも、ベンチャー企業でも、外資系企業でも、国産の企業でも、どの会社でもだいたい3つに分かれると思っています。
「人が集まらない」という母集団形成の問題か、「面接の精度が低い」「いい人が見抜けない」という、入社してから活躍したり定着しないという選考の問題か。それとも「いい人を見つけたけど入ってくれない」という、口説きの問題かにだいたい分かれています。
今回の本(『これで採用はうまくいく ほしい人材を集める・見抜く・口説くための技術』)の内容や、特にこれからの採用市況的に重要になってくるのは「口説く」部分だろうというところで、今日は問題提起をしています。
南賢将氏(以下、南):そうですね。まさにタイトルに「集める」「見抜く」「口説く」と書かれているんですけれども。これは私も経験があるんですが、採用力を上げていかなきゃとなった時に、意外に「採用力は分解すると何なのか?」という議論から始める。
それぞれをどうやって高めるのか? というふうにちゃんと細分化して、今は何に一番課題があるのかを明らかにして改善していくのはすごく大事ですよね。この本のコンセプトも、3つの力に分解しているわけですよね。
南:しかも今回の本は320ページあると思うんですが、そのうち4割ぐらいが「口説く力」に紙幅が割かれています。なので、特に重要なところの「口説く」に絞って、今日は残りの時間でお伝えしていければという感じですよね。
安藤:そうですね。ここ(ステップ4)のページに4割ぐらいを割いているというお話なんですが。これはどうしてかというと、実はこの本の中でも書いたんですけど、この本のターゲットは採用に何らかのハンデを負っている企業だと僕は思っていて。
「ハンデを負っている」とはどういうことかというと、例えばマンパワーがかけられないとか、採用にコストがかけられない、地方企業である、知名度がない、採用ブランド力が低いとか。要は、人気企業ではない企業さんにおいて、採用がうまくいくためには何が重要か。
かけるべきパワーバランスはだいたいの割合として、母集団形成が3割、選考が2割、残りの5割は口説き。ということで、紙面もその分量で割いているという経緯があります。
南:なるほど。
安藤:じゃあさっそく、その「口説き」について話をしていきたいと思います。口説きの原則にして最大のポイントはここだと思っていて、「人を見て法を説きましょう」ということなんです。一人ひとりの価値観に合わせて、本人が得たいものを訴求していく個別性が、原理原則としてすごく重要。
「人を見て法を説く」という言葉が僕は大好きなんですが、お釈迦様が仏法を説く時に、同じ言葉でも、それぞれの人に応じた方法で説法しないと伝わらないよねという故事ですね。考えてみれば当たり前なんですが、みなさんもそれぞれ一人ひとり、何を重視して、何に価値を感じているのかは人によって違う。
性格や価値観の違いと言われるやつですが、これはキャリア選択場面でも当然影響があるわけですよね。何を重視して、転職活動や就職活動をするのか。
それを人事や採用担当者の人は把握して、最適なカウンタートークというか、フォロートークをしていかないといけない。考えてみれば当たり前なんですが、そこに課題がある採用担当者の人はけっこういらっしゃるんじゃないかなと思います。
南:そうですね。
南:ここで重要なポイントは、まさに「人を見て」というところですね。新卒採用で言うと、まさに今の(話にあった)「お釈迦様が仏法を説く」というシーンは、ちょっと似ているかもしれないですね。
そもそも就職をしたことがない、これからしようとしている人に対して、キャリアというわからないものをわかるようにしていくプロセスであるとすると、余計に「わかってもらうための手法」が重要になるということですよね。
安藤:そうなんです。こうやって出すと、「いや、そりゃそうだろ」と思われるかもしれないですが、実際にふたを開けてみると、キラーフレーズがあると思って使っている企業さん・採用担当者がいたりします。
南:キラーフレーズ。
安藤:キラーフレーズというのは、原理原則から言うとないんですよ。「これを言えば、絶対にうちの会社に来てくれるはずだ」というキラーフレーズは、誰にとっても十把一絡げに同じ言葉を言うことですよね。だから、人を見て法を説いているわけじゃないということなんです。
南:なるほど。
安藤:だから、「採用の口説きの場面で、絶対に刺さるような良い言い方はないですか?」と言うと、結論は「ない」ということなんです。だから十把一絡げトークではなくて、「その人に合わせて何を話すか」と「それをどのタイミングでどう話すか」の掛け算が、「口説き力」の構造かなと思います。
南:なるほどね。
安藤:口説きにもステップがありまして、3つに分かれます。最終的にステップ3で「うちの会社にあなたが欲しいんです」と口説いて、仕事の醸成をしていく。
先ほど言ったとおり口説くために、この人に「人を見て法を説く」ためには、逆算的に考えると、まずは「この人って何を大切にしているんだろう?」という情報収集が必要です。情報収集をするためには、本音の情報を把握しないといけないわけですね。性格や価値観で何が大切なのか、何を思っているのかを本音で把握しないといけない。
本音を引き出すためには、信頼関係構築が必要になってきます。まずは目の前の候補者との関係を構築し、その人の胸襟を開いてもらって、本音を収集する。その本音を踏まえた上で、会社にはいろんな魅力があると思いますが、うちの魅力を適切なやり方で提示していく。
南:なるほど。一見すると当たり前なんですが、健さんがいろんな企業の採用を見ていて、本にもなされるぐらいなので、やはりここができてない会社が多いということなんですかね?
安藤:そうですね。いろんな会社の「口説く」ところを見るとキラーフレーズだけを使ったりとか。普通は会社の魅力っていろんな切り口がありますよね。事業の魅力、仕事の魅力、組織文化の魅力、経営者の考え方、ビジョン、戦略とか、いろんな切り口があって、何が刺さるかは人によって違う。
それぞれの会社のコアコンピタンスというか、何が強いかも違うのに、通り一遍で「これしか話さない」というところだけで終わっているところがすごく多い。なので、情報収集や信頼関係構築を端折ってしまっているというのは、すごくあるかなと思います。
南:確かにそうですね。
安藤:今日は、そこのポイントを見ていきましょうということなんですね。
安藤:今のお話をまとめると、徐々に信頼を築いて、その人だけの情報を得ていきましょうというところが、まず最初の課題になってくるということです。
信頼関係構築と情報収集なんですが、「そもそも信頼関係ってどうやって生まれますか?」というところを、ちょっと考えてみたいと思います。大きく分けると4つあるかなと思っていますが、「認知度」「恩義度」「共有度」「共感度」ですね。
これからお話ししていくんですが、お互いを知ることが信頼関係のつながりは一番大きいんですね。なので、「知るは愛に通ずる」ということなんです。これはファーストステップであり、一番強力なところだと思います。
でも、それだけじゃない。例えば「恩義度」といって、「好意の返報性」というものがありますが、人は愛されたければ先に愛すみたいな。こちらから「あなたのことに興味があります」とか「好きだ」って言う。もちろんこのラインナップは採用の文脈だけじゃないので、そういう言い方をしています。
あとは、安心できること。「母親が子どもにとっての安全基地だ」と言いますが、愛着形成にもすごく重要なポイントなんです。「この人は私のことを見てくれているな」「この人のもとに戻れれば、いつでも私は自由に他を探索できる。チャレンジできるな」という存在って、会社でもあるじゃないですか。
それは、専門的には「キャリアスポンサー」って言うんですが、キャリアのスポンサーになってくれる人。採用の場面でも、そういう存在になれればベストではあります。
あとは「共有度」ということで、これにも「類似性効果」というものがありますよね。やはり人は、自分と似ている特性の人が好きだと感じますので、自分との共通点がいかにあるか。
あとは、同じ共通の経験。一体感経験ということで、同じ釜のメシを食う仲間というのは、1つポイントになります。今日のお話じゃないですが、よく内定者フォローでも、内定して、承諾して、入社前のタイミングで研修をやって、一緒にプロジェクトをやる。
そういった、入社前プロジェクトをやらせたりするじゃないですか。あれは、いわゆる同じ釜のメシを食わせて、横のつながりを作るやり方なんですが、それもあります。
安藤:あとは「共感度」というところで、ちょっと高等テクニックになってきますが、ビジョンへの共感とか同じ目的を持っている仲間同士だと、やはり信頼関係は生まれやすい。
「社会的評価」というのは、例えば南さんの会社が第三者から「すごい」とか褒められたり、新聞に載っているとか、認められているというのがフィードバックされると、自分もその組織の一員であるということで、そこで働いている他の人に対しての信頼関係ができたりします。
いろいろ話してきたんですけが、ファーストステップは相手を知ることからで、「知るは愛に通ず」ということです。じゃあ、相手を深く知りましょうと言っても、どこまで知るべきなのか、どんなことを知るべきなのかという、具体的な内容と深さをまずは理解しておかないといけない。
南:そうですね。ちなみに健さん、先ほどの(信頼関係構築の)①~④は、縦にも順番があるという理解でいいんですかね? 下から一気に高めるのは難しいことなんですか?
安藤:正直、順番はあんまり関係ないんですが、これ(認知度)が一番というのはあります。
南:なるほど。確かに、まず知ろうというのはあるけど、②~④は往復しながら?
安藤:往復しながらというところですかね。
南:そういうことなんですね。
安藤:順番というか、プラスアルファでという感じですかね。
南:ありがとうございます。
安藤:相手を深く知ることが信頼関係構築のファーストステップだというお話をしましたが、「相手のことを深く知る」というのは、「解像度を高く」というふうに言われます。
キャリア採用でも、新卒採用でも、学生一人ひとり、候補者一人ひとりの資質や持ち味や個性と言われるもの。正直、これは全部一緒だと思っていて、何て呼んでもいいんですが、それをきちんと把握できることが重要。
安藤:人間には3側面あって、心理的には「能力」というもので、「性格」「志向・価値観」と、だんだん見えにくくなってきます。能力が一番わかりやすいです。
例えば英検の資格を持っているとか、宅建を持っているとか、ITパスポートを持っているというのは、資格として証明できる。だから顕在的なんですよね。見えやすい。知識があるとか、技術や技能があるとか、「こういうことができる」ということですね。
もう少し内層の部分に行くと、性格はキャラクターと言われますが、要は「その人はこう考えることが多い」という思考や行動のパターンのことです。
もっとボトムというか、もっともっと内面に行くと、「これが好きだ」「これにやる気を感じる」という、その人が大事にしている価値観や志向性、こだわりもある。これは全部、本人のキャリア選択に影響するものですよね。
南:階層性があって、本当に見えにくいものがあるというところが、信頼が重要になってくる理由ですよね。
安藤:そうですね。職務経歴書でわかるのは能力だけだと思いますし、エントリーシートはどうだろう? 薄くは見えるけれども、そんなに深くはないです。
南:そうですね。
安藤:コミュニケーションの中で、こういうことはどこまで一人ひとり見立てられていますか? というのがよくありますよね。
安藤:また地上戦の話をすると、みなさんは「フォローの読み会」というものをやっていますか?
南:どうですか? 今、ちょうど時期的にやっている新卒採用担当の方もいらっしゃると思います。「読み会」というのは、採用の確度を測るための採用チーム内での取り組みのことで、たとえば「目の前の候補者さんは、こちらとしてどれぐらい採用したい方なのか」×「向こうの意向度はどうなのか」でステータスをマッピングするというようなことです。
安藤:そうですね。フォローの読み会をすると、欲しいと思っている人たちをズラっと並べて、うちに対しての志望度がどれぐらいあるのかを、A、B、Cとかで数値化して付けるんです。
南:よく、9マスのマトリックスにしてやっている会社が多いんですかね。
安藤:そうです。「欲しい×来てくれるか」みたいなやつですね。ルールは何でもいいかなとは思うんですが、それを付けた上で、候補者Aさんに対していろんな人たちが関わってきているわけですね。1次面接の面接官、2次面接の面接官、あとは新卒だとグループディスカッションの担当選考官とか、他の人事担当者やリクルーター、座談会で出た現場社員とか。
その人たちから「彼は・彼女は、こういう性格だと思う」「こういうことを言っていたよ」と、いかにエビデンスを拾ってこれるか、みんなで読むわけですよね。「彼女・彼はこれを一番大切にキャリア構築をしようとしているんじゃないですか?」「性格としてはこうだから、こういうトークがいいかもしれない」とか。これを「フォローの読み会」と言うんです。
南:もし「フォローの読み会」を発想として初めて思った方は、ぜひやってみられるといいかもしれません。特に採用の序盤でやってしまうと、人数も多くて、まだまだ不確実性が高いので有効じゃないというか。「そもそもそんな時間もないわ」みたいな感じかもしれないので、最終フェーズとか、揃ってきている段階でやっていくと、すごく良さそうかなということですよね。
安藤:そうですね。僕が例えばフォローの読み会をする時には、一人ひとりの候補者に対して、能力、性格、志向・価値観を出して、それぞれを考えていったりします。
南:そうか。いろんなステップでいろんな人が会っているから、そこを合わせていくという感じですよね。
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