2024.12.18
データ分析のPDCAサイクルは「ABCD」に変わっていく AIを活用した、これからの経営・業務スタイルの展望
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坪谷邦生氏(以下、坪谷):例えば、採用ですごく苦労している100人の中小企業が、コンサルタントから「採用ブランディングが大事ですよ」と言われて「自社ブランドを作らなきゃいけないのか」となったとしますよね。
その会社がマクドナルドのように、パッと聞いただけで手がかりになるようなブランドを作るにはどうすればいいのかなという気もしたんです。ブランド戦略の知識から、無名の中小企業が自社ブランドを作るヒントをいただけないでしょうか?
田中洋氏(以下、田中):なるほど。でも、今のGAFAもつい20年〜30年前にはまだ影も形もないんじゃないですか。みんな中小企業から出発してるわけなので、そういう可能性がないと思ってはいけないと思います。Zoomに至っては2011年創業ですから。
とはいえ、マーケティングでもブランディングでも、どの市場で勝負するのかということはあります。マクドナルドは誰もが知っているブランドだけど、すべてのブランドがみんなが知っているブランドになる必要はあんまりないんですよ。
「この層の人たちに浸透していればいいんだ」というのは、モノを買う場合も採用の場合にも言えます。マーケティングで言えば市場なんだけれども、採用の場合も市場をどう見極めるかが大事な気がするんですね。
田中:例えば「理系が欲しい」という時に、農業も化学もあって幅広いですけど、「うちは物理学のこういう部分に強い人を求めてるんだ」と。新卒をイメージするなら、物理学科を卒業した人はどういうことを考えていて、どういう就職活動をして、どうやって採用に至るかということを考えればいいわけです。
坪谷:確かに、必要な市場で知られていればいいですね。
秋山紘樹氏(以下、秋山):フォーカスする人材を定めた上で、その人材が何を望んでいるのかをしっかりリサーチして、それに対して自分たちができることを考えていく流れですか?
田中:そうですね。
秋山:そうなった時に、「何をブランドにするのか」がけっこう大きいんじゃないかなと思うんですが、採用ブランドにおける対象というのは何なんでしょうか?
田中:採用について、ブランド価値のどの部分を高めるのかということになると思います。例えば、知名度を高めるのか、その企業についての連想を強化するのか、あるいは、その企業の知覚ケイパビリティやCSR知覚を高めるのか、などです。
坪谷:こういう観点はありそうだと感じました。例えば、何かの商品を作りたいと思っている開発者が相手なら、商品名のブランドを高める必要がある。
でも、1社でいろんな職種を経験して、その会社でずっとがんばる銀行みたいなところなら、企業名のほうがいいのかもしれません。最近は職種にコミットしていて、会社はどこでもいいけどこの商品を作りたいという人も多いと思うので。
田中:そういう意味で言えば、商品名で採用ブランディングをすることがあってもおかしくないですね。
坪谷:新卒一括採用だったら、たぶん企業名のほうがいいですね。
田中:それだとね。ただ、私の甥の話を聞いていると、エンジニアの世界では決してAmazonに就職したとは言わないんですよね。AWSというサービスがあるので、Amazonだと「ECで物を売っているの?」という感じになっちゃうじゃないですか(笑)。
秋山:確かに。
坪谷:何にコミットしているのかによって、高めるべきブランドが違いそうですね。
田中:商品があってもいいし企業があってもいいし、そこは戦略的にフレキシブルに考えていいんじゃないかなと思います。先日、知り合いの企業が一種のCIを行って、企業イメージを高めるための広告活動をしていました。そうしたら、思わぬ効果として、採用に応募する学生が倍に増えたそうです。
ひとつの推測ですが、最近の学生は親に相談して就職先を決めることが多い。親に「ここに就職したいんだけど……」と相談した時、「そんな名前も聞いたことがない企業など止めておきなさい」と言われないことも採用ブランディングにおいて重要かもしれません。
坪谷:それこそ定めた採りたい人たちによって、どこのブランドを高める必要があるかということですね。
田中:そのとおりですね。
秋山:なるほど。
秋山:ブランドの対象は、企業名になる場合もあれば、特定部署やプロダクト名、働き方、はたまた標榜している価値観などになる場合もある。結局、フォーカス人材が何を求めているかによって変わってくるということですね。そのため、フォーカス人材の解像度が低い状態では、ブランド作りは難しいよ、と理解しました。
坪谷:おかげさまで、だいぶクリアになってきました。
(一同笑)
秋山:あと……ブランドというものをどう捉えるかについて感じるのは、やはり複利効果というか……。ブランドは過去のイメージの蓄積によって作られる部分もあるように思います。
田中:確かに「買う」ということだけで考えると、自分の過去の経験が効いてくるんですよね。「お腹を壊した時に、この胃腸薬を飲んだらよく効いたから、これがいいんだよ」というのは、自分の体で検証しているから確かなんです。
難しいのは、やはり自分に経験がないことなんですね。今まで世の中になかったような新商品が出ることがあるじゃないですか。例えば、「ルンバがいいよ」と言われても、どうしたって「そんなので部屋がきれいになるの?」となってしまう。
おそらく採用はそういう感じで、応募する側にはたぶん経験が蓄積されていないんですね。だから、常に新製品を買うみたいな感じになる。
秋山:なるほど。
田中:さっきのAWSのように、エンジニアの世界だと最高峰だよねと言われると、「じゃあ、僕もAWSを目指そう」というふうになってきますよね。でも、就職も転職も入ってみないと、その会社のことって本当にはわからないわけです。
ある意味ではすごくリスクがあるので、そのリスクを減らすのもやはりブランドの力なんじゃないかなと思うんですよね。
「あの会社ってすごくブラックなんじゃない?」とかね。私は昔電通にいて、今の基準でいうと超ブラックな会社だったんですけど、今は超ホワイトな会社に変わったらしいです(笑)。そういう「評判」を持っている会社ってありますよね。
例えば岐阜県にある未来工業は、年間給与も高いし休みも多いと。採用ブランディングの場合は、そういう評判がすごく大事なんですね。
人が信頼できる情報は、さっき言ったように自分の経験なんですよ。だけど就職の場合は、自分の経験が溜まらないので、どうしても友だちや自分の信頼できる人の意見を参考にするようになります。
「あの会社ってどうなの?」と聞いた時に、「いやいや、あそこは超ブラックだぜ」と言われたら「まぁ、やめようか」となるわけですよ。だから、まず評判を作るのはすごく大事な話だと思います。
秋山:まさにですね。自分自身での経験値が溜まらないからこそ、評判というかたちで情報を集めてきてジャッジをすると。
坪谷:「OpenWork」という会社の評判を載せているサイトがありまして、転職者もけっこう見ているんですよね。そういう意味でいくと、おっしゃるとおり、過去からの積み上げというよりは、現時点の横の評判のほうが優位に立つのが採用ブランドかもしれないですね。
秋山:確かにそんな気もしますね。
田中:それで言うと、私は一般の言葉をブランドのように使うという「コンセプトブランディング」というやり方を提唱しています。例えばハイボールは一般名詞ですけど、サントリーが「ハイボールっておいしいんだよ」と広めたことで、結果的にサントリーのウイスキーの売上がすごく上がりました。
そういうふうに「うちの会社の特徴はこれだよ」というキーワードがあると、言葉がひとり歩きしていく。採用にコンセプトブランディング的な考え方を取り入れていただくと、もうちょっとおもしろいことができるかもしれないですね。
坪谷:それで言うと、サイボウズという会社では「100人100通りのマッチング」というフレーズを掲げていて、その特徴がひとり歩きしているように思います。
田中:それはいい例ですね。
秋山:あとは、サイバーエージェントさんの「実力主義型終身雇用」という、一見アンバランスな言葉の組み合わせも(実力主義+終身雇用)、インパクトがありますよね。
田中:おもしろいですね。サイバーエージェントの場合だと、藤田(晋)さんのようにトップがシンボルとしてワークするのもありはありなんでしょうね。
坪谷:確かにそうですね。
秋山:結局、藤田さんという名前も強いし、サブブランドとしての実力主義型終身雇用といった言葉もあったりして、点ではなく面としてどんどん面積が大きくなっていくと、リーチできる層も広がるんじゃないかなと感じました。
田中:そうですね。消費者や求職者にとっての手掛かりになるキーワードが絡み合っているんだと思いますね。
坪谷:今日は、採用におけるマーケティングとブランディングについてわかりやすく整理していただき、本当に霧が晴れた気分になりました。いろいろなヒントもいただき、ありがとうございました。
田中・秋山:ありがとうございました。
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