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中小ベンチャー企業のための”誰をバスにのせるか?”入口と出口の組織戦略(全5記事)

ハラスメントは被害者の好き嫌いで処罰できる問題ではない 弁護士が解説する、問題社員との裁判の争点

企業にとって適切な人を採用し、問題となる人を降ろす「誰をバスに乗せるのか」問題は、特に社員1人の影響力が大きい中小ベンチャー企業にとっては重要なテーマです。そこで今回は、採用戦略の立案や支援をしてきた白潟総合研究所株式会社の石川哲也氏が「入口の組織戦略」、多数の企業の労使トラブルを解決に導いてきたAuthense法律事務所の今津行雄弁護士が「出口の組織戦略」を解説したセミナーの模様をお届けします。最終回の本記事では、質疑応答を書き起こしします。

調査の結果、証拠が発見できなかった時は

石川:ではみなさん、ここからは質疑応答のお時間に入っていけたらと思います。「中小ベンチャー企業のための“誰をバスに乗せるか?”入口と出口の組織戦略」ということで、入口私から、そして出口のところの整備、最もセンシティブかつ専門性が必要なところを今津先生からお話いただきました。

チャットのほうに、みなさま向けにアンケートをお送りさせていただきますので、アンケートに回答いただきながら、ぜひ併せてご質問・疑問がある方は入力していただけたらと思います。

Q&Aに入ってる質問のほうに答えていきたいと思います。今津先生、これ1個目いけますか? 「小社の調査の結果、証拠が発見できなかった場合は懲戒処分は難しいでしょうか」って。

今津:はい。ご質問いただけているのが、「調査の結果、証拠が発見できなかった場合には、懲戒処分は難しいでしょうか?」というところなんですけれども、確かに難しいは難しいんですけれども、証拠を作り出すというのはちょっと語弊がありますが、先ほどもお話したとおり供述証拠、人の話というのは後からいろいろと聞くことができるんです。

仮に物的証拠がなかったとしても、その人的証拠ということで、聞き取り調査をしていただいて証拠化をしていくと。最終的には加害者に対しても弁明の機会を与えたりします。

その際に例えば本人が認めたような場合、自白といったりしますけれども、そういったような場合にもこれは証拠になりますので、調査の結果証拠が発見できなかったとしても、あきらめずに粘り強く調べていただければと思いますし。

実際、「証拠なかったです」というご相談をこの先から頂戴した際に、では私たちのほうで入らせていただいて、ちょっと証拠の収集させていただきます、というかたちで証拠を見つけたということもございましたので、結論としては「あきらめないでください」というところかなと思います。

石川:今津先生も超センシティブなのであんまりお伝えできなかったところあると思うんですけど、証拠が見つからなかった時こそ、今津先生のプロフェッショナリティとアートの力が発動されるのかなと思います。

今津:ありがとうございます(笑)。

楽園の言語化を、経営陣と人事でまずやる理由

石川:あとこれは弊社に。「お話ありがとうございました。石川さんの楽園の言語化の部分で、経営陣と人事担当者のみで行うと良いとおっしゃっていましたが、当事者にインタビューするやり方は避けた方が良いのでしょうか? その方が具体的にリアルな内容が出てくる気がしたので気になりました」と。

結論、一番最初は経営陣と人事担当者のみで行っていただきたいんです。なぜならば、経営者と人事担当者で「この人は楽園と感じてくれてるんじゃないか」っていうところから作っていくことによって、そこに会社としての意思が出るんです。

今この瞬間、誰かにとっての最高の楽園ができあがっている会社さんのほうがもちろん少ないので、経営陣と採用担当者さん、人事担当者さんと話すことによって、こういう楽園にしていきたいよね、というのが作れます。

それを作った上で、当事者にインタビューして、具体的な内容っていうのももちろん出てくるといいんですけれども、最初から当事者とやっちゃうと、リアルになりすぎちゃって、楽園性が弱まっちゃうんです。なのでまずは意志として「こういう楽園でありたい」というのと、それを強化していくと解釈して、というのを考えていただけたらよろしいんじゃないかなと思います。

弁明の機会を設けることの意義

石川:あとはこちらいきますか。「先ほど、適正手続きで懲戒解雇をする際に」というやつです。

今津:はい。「先ほど、適正手続きで懲戒解雇をする際に、弁明の機会を付与する必要があるとのことですが、仮に弁明を求めても対象者がこれに応じない場合にはどうしたらいいでしょうか?」というご質問。大変いい質問だと思います。実際、実務においてもよくある出来事です。

この弁明の機会ですけれども、必ずしも弁明をさせる必要はなくて、弁明の機会、つまり「言いたいことあったらどうぞ。場を設定しますよ。それを利用するか利用しないかはあなた次第です」というスタンスなので、なのである意味これは労働者側、問題社員側に防御の機会を与えている。

権利を与えているので、その権利を放棄するのも当然自由なので、基本的には会社としては「弁明の機会を与えましたよ」と、「いついつ話聞きますよ」でも来ませんでした、充分です。なのでそのまま粛々と、弁明はされなかったという前提で、適正な懲戒処分を検討していただくのがよろしいかなと思います。

石川:なるほど。応じなかったら応じなかったで、せっかくのチャンスを......ってだけなんですね。

今津:はい、まったく問題ございません。

石川:しびれますね、2時間ドラマになりそうな雰囲気ですよね。

今津:ですから本当に、こういったケースはとても多いです。

問題社員と裁判になった場合は解決までにどれくらい時間がかかるか

石川:今津先生、ラストの質問です。「対象者が懲戒処分を争っている場合、どれくらい時間かかるか」っていかがですか?

今津:はい。「対象者が懲戒処分を争って裁判となった場合には、解決までにどれくらいの時間がかかるものでしょうか?」。これは本当にケースバイケースというところでとても難しいので、一概にはいえないところではあるんです。

最近は労働審判といって、3回の期日だけで結論を出しましょうという裁判も主流になってきているので、それであれば数ヶ月程度で終わるというところもあるんですが、やはりそれではまとまらなくて、通常の訴訟に移行するというケースもあったりはするので、本当にすみません、ケースバイケースといわざるを得ないんですが。

ただ長くかかればやっぱり1年以上をかかるというケースは、普通にあります、というところかなと思いますので、そういったやはり1年以上かかる可能性もあると、問題社員の対応を誤ると、というのは少し考えながら対応を検討する、というのがよろしいのかなと思いました。すみません、これでちょっと質問に対するお答えになっているか不安ですが。

石川:はい、ありがとうございます。では17時30分になりましたので、あといくつかちょっと質問いただいているので、おもしろいのもあるので、今津先生、2、3分の延長は大丈夫ですか?

今津:はい、大丈夫です。

石川:ありがとうございます。まだ聞いていられるよって方は聞いておいていただけたらと思います。ちょっとおもしろい質問がきてるのでいってみましょうか。これいかがですか? 「お2人とも本日は……」社会情勢からの話です。

ハラスメントは受けた側の感情によって結論が変わる

今津:ご質問が「ハラスメントは受けた側の感情は、気持ちの話なのかなと考えております。そういった側面から今後の社会情勢から、範囲が広がっていくかと思っており、過去に遡っての問題もニュースになっている事実があると思っております。

弁護士の観点から、現在どういった対応をしておくべきかの雑感をお話しいただけるとうれしいです。法的な見解というか、雑感で大丈夫です」という、お優しいフォローもいただきましたけれども。

たいへん非常にすばらしい質問だなと感じております。おっしゃるとおりで、このハラスメントというのは受けた側、同じ行動をしたとしても受けた側が「これパワハラだ」って感じるか、感じないかによって結論が変わってきてしまうという、そういった側面があります。

しかもその社会情勢で、先ほど前半部分で価値観が多様化しているというお話ありましたけれども、やはり「いやだな」と感じるケースというのはとても多くなってきました。そういった意味ではハラスメントの範囲というのは、10年前、20年前よりは着実に確実に広がっているだろう、と思います。

ただ、そうかといって完全な被害者の好き嫌いで処罰ができるという問題ではないんです。なので「これはちょっと私不快でした」と思ったとしても、裁判所は必ずしもそれだけではなくて、客観的に見たときにこれはどうだろうか、多くの人が、同じ事実を受けた時に十中八九嫌な思いするんだったら、それはハラスメントだよね。

だけど十中八九が「別に大したことないよ」と、逆にいったらその嫌だなって言ってる人のちょっと価値観が少し尖ってるだけなんだとすると、嫌だなと思ったとしてもそれはハラスメントにはなりません。

どうしたらいいかというと、確かにニュースをしっかりと見ておくというところはあるかもしれませんが、ちょっとニュースは少し過敏になりすぎてるところがあるので、日々こういったかたちで裁判官と接している弁護士に、「今ハラスメントってどんな考え方なの?」という社内セミナーをやる、というのは1つかなと思います。

石川:なるほど。「弁護士の先生を呼んでハラスメントのセミナーやりました」ってのは、予防法務の観点で効果的なんですね。

今津:はい。おっしゃるとおりでございます。

そもそもハラスメントなのかという論点も、裁判では大きな争点に

石川:ありがとうございます。一応最後の質問ですね。「選考内で飲み会を設定して、相手の本音を引き出すというお話がありましたが、2、3回の選考後に飲み会まで設定していかようにやっていらっしゃるのでしょうか? コツなどあれば教えていただきたいです」

これは嫌がられるので、選考の深いところ、最終面接か最終面接の前ぐらいがいいです。毎回飲んでると時間もすごく取られるので、本当に最後の「いい子だね、取りたいね、相手も好きって言ってくれてるね、楽園性感じてるね、だけど最後に悪魔性を確認しておきたいね」というところでやってたりします。

あともう1個いただきました、今津先生。続けてこれもいけますか?

今津:はい。「裁判官の判例として、『当時の社会情勢を鑑みてハラスメントには当たらない』みたいな判例とかあったりしますか?」というご質問ですけれども、ピンポイントでこれですというのはちょっとすみません、思いつくものはないんですけれども。

実際「被害者がハラスメントを受けました、傷つきました、損害賠償です」で裁判になった場合には、「そもそもこれって違法なハラスメントなんですか」というのは1つ大きな争点になります。

実際私も「これってそもそもハラスメントなんでしょうか」というようなかたちで争ったりしているというケースもありますので、なので当時の社会情勢に鑑みて、ハラスメントに当たらないっていう判断は、ある意味会社側勝訴という意味ですけれども、それは普通にあります。

なので、ただすみません、これはハラスメントになりませんでした、これはハラスメントになりましたっていう、ちょっとそこの具体的な中身までは少しパッとは出てこないんですけれども。

裁判実務上は「そもそもこれって嫌がってますけど、ハラスメントなんですか」ということが1つ争点として、大きな審議の対象になったりするので、結論としては「当時の社会情勢を鑑みて、ハラスメントに当たらないみたいな判定とかありますか」「あります」というところかなと思います。

石川:ではQ&Aも以上となりましたので、本日のですねウェビナーは終了させていただけたらと思います。それではみなさんありがとうございました。

今津:ありがとうございました。

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