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中小ベンチャー企業のための”誰をバスにのせるか?”入口と出口の組織戦略(全5記事)

パワハラ被害の報告を受けたら「事実」と「評価」を区別する 現役弁護士が教える、問題社員対応でとるべき「スタンス」

企業にとって適切な人を採用し、問題となる人を降ろす「誰をバスに乗せるのか」問題は、特に社員1人の影響力が大きい中小ベンチャー企業にとっては重要なテーマです。そこで今回は、採用戦略の立案や支援をしてきた白潟総合研究所株式会社の石川哲也氏が「入口の組織戦略」、多数の企業の労使トラブルを解決に導いてきたAuthense法律事務所の今津行雄弁護士が「出口の組織戦略」を解説したセミナーの模様をお届けします。本記事では、今津氏の「出口の組織戦略」のパートより、仮想事例に沿って具体的な対策が語られました。

弁護士が解説する「出口」の組織戦略

石川哲也氏(以下、石川):どれだけバスに乗せる入口を適正化しても、出口のお話はございますので、今津先生にこちらのお話ししていただけたらと思います。では、今津先生バトンをお渡しします。お願いいたします。

今津行雄氏(以下、今津):はい、ありがとうございます。それでは、後半は私のほうから出口の組織戦略というかたちでお話をさせていただければと思っております。こちらに私がお話しさせていただく題名を書いております。

「労務・法務担当者必見! 先延ばしにしてはいけない問題社員への対応~就業規則整備など『予防法務』の具体策も紹介~」というかたちで、問題社員へどういったかたちで対応すればよいのか、というお話をさせていただければなと思います。

私ですが、2011年に弁護士になって、今年で12年になります。基本的にはジェネラルコーポレート、企業法務に関しては何でもやりますという事務所でキャリアをスタートしています。

その中で、非常に労務管理はかなり多くの業務のウエイトを占めておりましたので、今日お話しさせていただく内容としては実際に企業の方、クライアントの方からご相談いただいた内容というのも踏まえながら、守秘義務の関係もあるので具体的な案件についてお話はできませんけれども、お話をさせていただければと思っております。

組織が大きくなればなるだけ可能性が高くなる「問題社員」の課題

今津:総論です。会社はやはり人の集まりです。大きくなればさまざまな価値観を有する社員の方が集まってきます。この多様さが企業の柔軟さであったり、強さをもたらすということは否定ができないだろうと思います。

ただ、これは可能性の問題ですけれども、やはり多くの人が集まればその中で社会通念上とうてい許容できないような言動や考え方を有する人も出てきてしまう。組織が大きくなればなるだけ、その可能性も高くなるということを言わざるを得ません。

そういった許容限度を超えた行動・言動をとる社員について、適切に対処ができなければ、他の社員に大きな悪影響を与え、結果としては会社全体にとっても致命的なダメージになってしまいます。

我々会社は、他の社員のみなさまに良好な職場環境を提供する義務があります。また、同じ船に乗る仲間の人生を豊かにするためにも、会社を守るためにも、やはり問題社員に対しては適切な対処をしなければなりません。ということをまずは総論としてお話をさせていただければと思います。

社員からパワハラ被害を受けた時の対処法

今津:ではこれから中身に入るにあたって、一度仮想事例を置かせていただきました。これは「社員Aから社員Xによるパワハラ被害を受けたと申告がありました」という仮想事例なんですが。

今回は、特にパワハラをする社員の対応の具体策は、という具体的なケースメソッドをお話しするものではありません。ただ、抽象的なお話だけですとなかなかわかりにくいところもあるかなというのもございましたので、いったんこの仮想事例というのを置かせていただきました。抽象的な事例で、これから今津が話をするんだろうなと、頭の片隅に入れながら聞いていただければなと思います。

では中身に入っていきますけれども、先ほどの仮想事例ですね、「社員Aから社員Xによるパワハラ被害を受けたという申告がありました」というこの事案限りで、会社として対応方針の策定は可能でしょうか?

パワハラ被害ってこれ具体的に何でしょうか? そもそもこれ事実誤認の可能性はないんでしょうか? やはりこの仮想事例の限り、この社員Aからのこの申告の限りでは、会社としては何か具体的な対策をとることはできません。ですのでまずは事実調査、これが必要になってくるということになります。

「評価」ではなく「事実」を収集する

今津:では具体的な対応についてお話をさせていただければと思います。まず事実調査ですね。「事実関係の調査・証拠の収集」という章題をつけておりますけれども、調査の基本的な視点としては、調査の際に注意しなければならないのは、「評価」ではなく「事実」を収集することです。

これ実は、多くの企業の方は、この評価と事実の峻別がわかっているようでわからない。極めて実は難しい概念なんだな、というのはこの仕事をしていてわかったことです。

我々が仕事をしておりまして、実際会社から「こういった問題行動が起きました」と、「どう対処したらいいでしょうか、これが事案の概要です」というかたちで報告をまず頂戴して、そこから対応を検討するんですけれども、ほとんどの報告が、事実ではなく評価を調査しているだけに留まっている、というのが極めて多かった。

じゃあ事実とは何ぞや、評価とは何ぞやというお話ですけれども、事実とは「それを聞いた誰もが同じ状況を思い浮かべることができるもの」、これを事実と言います。それに対して評価とは、「それを聞いても受け取った人の数だけ、さまざまな状況が思い浮かべられてしまうもの」、これが評価です。ちょっと抽象的なので、具体的なお話を例として書かせていただきました。

「★月★日、第2会議室で社員Xから暴言を受けた」。これ暴言って何ですかね。「バカ」と言ったのか、「お前なんかやめてしまえ」なのか。この限りで報告を受けた場合には、やはり受け取った人が受け取った人の数だけ、さまざまな情景を思い浮かべられてしまいます。

なのでここで調査が留まってしまっていては、これは事実ではなく評価の聞き取り、評価を収集しているに過ぎないということになります。ですのでそこからさらに一歩、さらに進んで調査をする必要があります。それが下です。

具体的には「★月★日、第2会議室で社員Xからバカと言われた」。おそらくこれは受け取った人が、ほとんどすべて同じような情景を思い浮かべられると思います。なのでこれは事実の聞き取りになるわけです。バカと言われたという事実を評価すると、暴言を受けたというかたちになる、というそういうような建て付けです。

ですので、被害者から聞き取りを受けた時に「暴言を受けたんです」「あ、そうかそうか、暴言を受けたんだな」というかたちで報告書を作成してしまってはダメで、そこからさらに一歩進んで、「報告した上司であったり、相談する弁護士が必ず同じ情景を思い浮かべられるだろうか」ということを考えながら、調査を進めていただければなと思います。

被害申告には「虚偽」と「誤り」の可能性がある

今津:ではここ「調査の端緒」というかたちで書かせていただきましたけれども、じゃあ具体的に先ほどの仮想事例です。「社員Aからパワハラの被害相談を受けた」という際に事実を調査するわけですが、じゃあ具体的に何からスタートするのか、というところですけれども、先ほどの仮想事例においては、事実を把握するための骨格となるのは被害者からの被害申告です。

被害事実については、被害者はすべてを知っているはずです。ですので、まずは被害申告に基づいて被害者からお話を聞いて、1つのストーリーを作り上げてください。この被害者からの被害申告に基づいて形成された1つのストーリーを骨格として、それに肉付けをしていく。証拠であったり事実を集めていく、というようなイメージで具体的な調査を進めていただければと思います。

ただ、この際に気をつけなければならないこと、これも実は会社の担当者の方は陥りがちなんですけれども、被害申告には虚偽の可能性と誤りの可能性、この2つの可能性があるんです。虚偽と誤りってとても似ているようにお感じになるかもしれませんが、法律家的にはまったく別の考え方になります。

1つ目、虚偽というのは嘘という意味です。例えば先ほどの事例でいうと社員Aと社員Xが、実は出世競争をしていた。そうした中、この社員Xを陥れるために社員Aが嘘をついている可能性がある。嘘でパワハラ被害を申告している可能性がある。これが虚偽です。嘘をついてる可能性が1つあります。

もう1つ、誤りの可能性。これは間違ってましたという意味ですけれども、例えば社員Aの椅子の上に画鋲が大量に置いてあったと。朝来た時に社員Aが「これはひどい、パワハラです。誰がやったかは見ていません。なんですけれど、Xさんはいつも私に嫌がらせしてる。だから絶対Xがやったに違いない。Xさんからパワハラ被害を受けました」と申告をしました。

なんですけれども、実はその画鋲を置いた人は、実はZさん。つまり、被害者とされる方の被害申告は間違っていたということになるんです。ですので被害申告には虚偽の可能性、誤りの可能性、この2つの可能性が常に内在をしているので、盲信してはならないということは常に頭に入れる必要があります。

会社の担当者は、仲間が被害を受けたという、助けてくれ、というかたちで相談を受けると、人としてやっぱり信じてあげたい気持ちになる。その気持ちはまったくもってそのとおりだと思います。

ですけれども、ある意味その事実調査という意味においては、少しドライにこの2つの虚偽、誤り、この2つの可能性があるんだぞと、盲信してはならないぞ、ということは常に頭の片隅でけっこうです、入れていただく必要があるかなと思います。

「証拠収集」の基本的な2つのスタンス

では事実調査の基本的なスタンスはお話をさせていただきましたけれども、証拠収集、証拠を集める。当然ですけれども証拠がなければ、その事実、パワハラの事実というのは認定ができません。ですので証拠も集めなければならない。ではどういったスタンスで集めていけばいいんだろうか、という話をさせていただければと思います。

この「物的証拠」の収集を中心にしつつ、供述証拠もバランスよく収集していってください。この物的証拠は何かというと、下に例がありますけれども、録音であったり防犯カメラの映像であったり、要はその証拠そのものによって、まさにその事実が証明できる、客観的証拠といったりしますけれども、そういったものを物的証拠といいます。

「供述証拠」、これ人的証拠といったりしますけれども、この供述証拠はなにかはたぶんみなさんイメージしやすいかなと思いますが、下にありますとおり被害者や関係者、加害者からの聞き取り結果、これを供述証拠といいます。

なぜその物的証拠と供述証拠、バランスよく集める必要があるのか。どっちかじゃだめなんだろうか、なんでバランスよく集めるんですかというところですけれども、実は両者の証拠にはそれぞれメリットとデメリットがあるんです。ですのでこれをバランスよく収集しましょうというお話をさせていただいております。

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