2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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入山章栄氏(以下、入山):『浜松町Innovation Culture Cafe』。今週はお客さまに一般社団法人ベンチャー型事業承継 事業戦略統括兼九州エリア責任者、山岸勇太さん。そして株式会社グリーンエルム代表取締役社長、西野文貴さんをお迎えしました。山岸さん、西野さん、どうぞよろしくお願いします。
西野文貴氏(以下、西野):よろしくお願いします。
山岸勇太氏(以下、山岸):よろしくお願いします。
田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):山岸さんのプロフィールです。大学卒業後、NTT西日本に入社。サービス企画、開発に従事された後、2013年福岡県庁に入庁。福岡・九州初のスタートアップエコシステムの構築に従事されました。
2022年4月より一般社団法人ベンチャー型事業承継に参画し、「中小企業庁 アトツギ甲子園」をはじめ、全国の跡継ぎコミュニティを支援しています。
入山:山岸さんはベンチャー型事業承継という一般社団法人にいらっしゃるということで。白々しく言っていますけど、僕も顧問なんですけどね。実は2023年12月に「植物×企業 生存戦略を考える」というテーマで、まさにこのベンチャー型事業承継の代表理事の山野千枝さんに出ていただいてたんですよ。
今度はベンチャー型事業承継の九州エリアを統括されている山岸さんに来ていただいてるということで、あらためてベンチャー型事業承継とはどういうものか、教えていただけますか。
山岸:ご紹介いただきありがとうございます。我々は事業承継というキーワードを出している団体なんですが、事業承継の中でも同族承継ですね。これが今日1個大きいテーマになると思うんですけど。同族の中で事業を承継するみなさん、これまでは先代にフォーカスが当たりがちだったのを、受け取る側の後継者のみなさんにフォーカスを当てています。
入山:つまりファミリービジネスをやっている方々の、若い世代のほうってことですね。
山岸:はい。若い世代、受け取る側のみなさんにフォーカスを当てて、みなさんが事業を継ぎたくなるような応援とか、継ぐにあたって新しく事業を考えるお手伝いとか。みなさんが日々学ぶコミュニティ運営をしたりして、若いみなさんの支援をやっている団体でございます。
入山:なるほど。実は今、日本で事業承継ってとても大きな問題です。実は日本の企業って99パーセントぐらいは中小企業なわけですけど、そのほとんどがいわゆる同族企業、ファミリービジネスなんですよね。業績は決して悪くないんだけど、後継者がいなくて廃業してしまう企業さんも多いわけですね。
一方で、後継者はいるんだけど、なかなか関係がうまくいかない。結果的にうまく継げないとか、継いでもお父さんが口を出すとか、いろんなトラブルでなかなか(事業承継が)進まないってお悩みの会社がいっぱいあります。山岸さんはそういうところをサポートしているんですね。
山岸:はい。まさにそのとおりです。
入山:ちなみに山岸さんご自身は事業承継者なんですか?
山岸:プロフィールでは触れてなかったんですけど、実は私自身も、石川県で父親が建設業をやっています。実際に話をして、私は「継がない」という選択肢をしている1人です。
入山:そうなんだ。
山岸:「そういった跡継ぎの気持ちがわかる山岸だからこそ、できる支援があるんじゃないか」っていうのもあって、今この活動に携わっています。
入山:山岸さんご自身は、もともと大学を出た後にNTT西日本に入られて、その後福岡県庁だから、もう正直バリバリのエリートですよ。でも、そこからいきなりこのベンチャー型事業承継に入ったのはどうしてなんですか? 自分は継がないんだけど、ベンチャー型事業承継に入って、跡継ぎをする方を支援したいというのは、どういう思いなんですか。
山岸:福岡県庁の在籍時は、ベンチャー・スタートアップ支援の担当に長く籍を置いていました。それは私自身もすごくやりがいを持った仕事だったんですけど、地方でベンチャー支援をやるっていう時に、今の国の動きもあって、「スタートアップを育てよう」「日本の地方からユニコーンを育てよう」みたいな一本槍感がすごくて。
もちろん起業家とか新しいチャレンジャーを地域から出していくのは、僕はすごく大事なことだと思っているし、否定するものでもないんですけど。あまりにその一本槍すぎて、自分自身も後継者だった時代もあるので。「ゼロから起業する以外でも、中小企業の後継者はたくさんいるのに」「ここってめちゃめちゃノーマークだよね」とモヤってた時に、山野が立ち上げたこの団体に出会ったんです。
この時に、ベンチャーと中小企業の後継者が掛け合わさったキーワードを聞いたので、「これだ!」と雷に打たれたような感覚があって。その日から「何かやらせてください!」と話して、翌週には名刺が送られてきました。
「福岡で『跡継ぎベンチャー』を勝手に広げちゃってよ」っていうところから今(につながっています)。
入山:山野千恵さんから、「山岸勇太 九州責任者」みたいな感じで名刺が勝手に送られてきたわけ?
山岸:そうですね。「無償でいいので何かやらせてください」って言ったら、翌週に名刺が送られてきました。
田ケ原:すごーい! 山野さん、やっぱりかっこいいですね。
入山:やばいね、山野さん(笑)。というわけで、今日はぜひいろいろお話をお願いします。
田ケ原:続いて西野さんのプロフィールです。大学卒業後、「鎮守の森のプロジェクト」技術部会 部会員を務め、2014年グリーンエルムに入社。その後、働きながら大学院に通われ、林学博士を取得されました。
家業であるグリーンエルムにて、複合的な森作りビジネスを展開しながら国内外含めて数千ヶ所の森林の実地調査を行い、ヨルダン、インド、中国などで森作りの指導を行っています。
入山:というわけで西野さん、よろしくお願いします。
西野:はい。よろしくお願いします。
入山:この『浜カフェ』って、日本中の奇人変人がいっぱい来てくれて、毎回けっこう「この人のプロフィールやばいな」って思うことはよくあるんですよ。今回もやばいよね?
田ケ原:そうですね。けっこう気になるところが……。
入山:まずグリーンエルムの話をする前に、大学卒業した後、「鎮守の森のプロジェクト」技術部会 部会員になったということなんですけど、まずこの「鎮守の森」とは何ですか。
西野:そもそも鎮守の森とはどういうものかと申しますと、いわゆる神社やお寺の周りにもともと残されている、自然の森みたいなものです。実はこの「鎮守の森のプロジェクト」という名前もそうなんですが、東日本大震災が起きた後に、その被災した場所に残っている緑を調査していくと、鎮守の森がすごく多かったんですね。
入山:つまり、津波があった後でも(緑が)守られていたところは、神社やお寺の周りの鎮守の森があったということですか?
西野:はい。東日本大震災が起きて、いろんなものが流された後にコンクリートの防潮堤を作ったところもあるんですけれども。それだけではなく多重防災・減災を目的として、いわゆるコンクリート防潮堤の後ろ側、町に近い内陸側に森の防潮堤を作る、公益財団法人の「鎮守の森のプロジェクト」がありました。
入山:なるほどね。
西野:そこに参画をして、東日本大震災の後にいわゆる森作りをやってきました。
入山:そういったご経験の後で、2014年にグリームエルムに入社されて、今はもうすでに代表取締役の社長をされているわけですが。ということは、今日の流れ的に、これはご家業になるんですかね。
西野:そうですね。僕の親父が会社を設立しました。その会社も、そういう森を作る時に使う苗木を育てる会社で、僕はそこの2代目になります。
入山:苗木を育てるんだ。
西野:はい。ちょっと変わった商売でして、一般の方には販売をしないんです。どういうところに売るかって言うと、例えばイオンさんとかのデパートができた時に、植樹祭で周りに木を植える時があるんですね。そういうところに出荷をするので、一般の方にはぜんぜん知られていない、黒子のような商売をずっとしていました。
入山:いわゆる森のBtoBですね。しかも今はその森作りビジネスを展開しながら、ヨルダンとかインドとか中国でも森作りの指導をされてるんですか?
西野:そうなんです。そもそも「森作り」っていう言葉を、僕は日本で使っていてあんまり違和感はないんですが。というのも、例えば関東で言うと、明治神宮の森も人が作った森なんです。でも、100年前の人が150年先を見越して作った森みたいなのは、海外にはないんです。
入山:なるほど。
西野:そういう意味では、日本は森作りの先進国と言っても過言ではないかなと思っています。
田ケ原:知らなかったです。
入山:知らなかったね。でも、確かに言われてみればそうですよね。日本って、都市部でもけっこう森林豊かなところがあるけど、あれは我々の遠いご先祖さまが狙って作ってくださっているわけですよね。
西野:おっしゃるとおりです。いつぐらいから、日本人が森作りに注力していたのかって言うと、実は日本書紀にその記述があります。「スサノオノミコトが、ヒゲの毛を抜いて放つと杉となり、胸毛を抜いて放つと檜となり」とか。例えばそういう記述がけっこうあるんです。要するに「切るだけじゃなくて植えなさいよ」ってことも、実は昔から言われてるんですよね。
入山:はぁ~。知ってた? タガエミちゃん。
田ケ原:ぜんぜん知らなかったです。
入山:めちゃめちゃおもしろいですね。もう1つ西野さんの活動として「里山 ZERO BASE」があるんですけど、これは今のと関連するんですかね?
西野:はい。まさしく森作りをビジネスモデルとしてできないかということで。我々は人が関わる森・山を「里山」と捉えています。今、杉・ヒノキが全国にすごく多いと思うんですけれども。そういうところは、林業従事者がなかなか採算が取れなくて、手を入れられないのでだんだん山が荒れて、最終的には土砂災害が起きて崩れたりします。
そういうところを我々で買ったり委託を受けて、「その地域にあった樹種を選定して、鎮守の森を作っていこう」というプロジェクトです。
入山:なるほどね。昔はなんとなく建設目的で家の建設とかに使いやすいやつを入れてたんだけど、これからの時代はそんなのいっぱいいらないから、もっと我々を守ってくれたり、本当にその土地に根付いたりする木を植える。何百年ももつ、持続的な里山を作っていこうというわけですね。
西野:そういうことなんです。
入山:ぜひいろいろとお話をおうかがいしたいんですが、タガエミちゃん、ここで告知があるんですよね。
田ケ原:そうなんです。(2024年)3月8日に中小企業の後継者限定のピッチイベント、第4回「アトツギ甲子園」の決勝大会が、品川ザ・グランドホールで開催されます。2024年は入山マスターが審査員を務めるんですよね。
入山:そうなんです。私、第4回「アトツギ甲子園」の審査員として参加させていただきます。
田ケ原:山岸さん、この催しについて教えていただけますか。
山岸:中小企業庁が主催する後継者限定のピッチイベントでして、第4回目を迎えるんですが、過去最多の211名の応募を全国からいただいております。「若い後継者」というキーワードになぞらえるかたちで、39歳以下のみなさんに応募いただいている大会でございます。
3月8日までのステップといたしましては、地方大会、全国で5ヶ所で行われる予定になっておりまして。1月26日の福岡大会を皮切りに、岡山・中国・四国大会、近畿・京都大会、関東・中部を東京で、そして東北・北海道の全国5ヶ所で地方予選を行っています。
そこで選ばれたトップ15のみなさんが、3月4日の決勝大会で経済産業大臣賞を狙ってピッチをされる大会です。
入山:これはピッチイベントってことだから、きっと跡継ぎの方がプレゼンするんですよね。
山岸:そうです。
入山:例えば「お父さまとお母さまの事業を継いで、自分は会社をこういうふうに変えていくぞ」とか、そういうことをプレゼンされるわけですか?
山岸:はい。まさに39歳以下のまだ経営権を持つ前の跡継ぎによるピッチなので。自分が経営者になる時に、こういう新しい事業で、家業や地域や業界を「こういうふうに変えていきたい」っていうことを、4分間で語る大会になっています。
入山:僕も審査員なんで、慎重に選ばなきゃいけないと思ってるんですけど。実はこの跡継ぎ甲子園は今回で第4回なわけですけど、なんと昨年(2023年)の第3回の最優秀賞を受賞したのが、今日もう1人来ていただいている西野さんなんですよね。
最優秀賞で頂点に立ったわけですけど、その時の周りからの反応とか、お父さまとお母さまとか従業員さんとか、どういう反応でした?
西野:それはもう、めちゃめちゃ喜んでいました。本当に兄貴と一緒に壁打ちをずーっと繰り返して、夜中まで練習して出たので。会社のみんなにも応援してもらったので、会社というチームで取ったのはすごく強かったかなと思います。
その後にのしかかってきたのは、やっぱりプレッシャー。「必ず事業を成功させないと」と思いました。
入山:スタートアップ企業でもピッチイベントってあるけど、たぶん優勝しても、せいぜい「投資家の期待に応えなきゃ」とかじゃないですか。だけど、西野さんの場合は、優勝すると「家族の期待に応えなきゃ」みたいになってくるわけですね。
西野:本当にそのとおりですね。やっぱりすごくプレッシャーを感じながら、でも、去年(2023年)10月に代表を交代したんですけれども、会社ってみんなで船を漕いでいるようなイメージで。僕はずっと漕ぎ手のほうで、専門家としてすごく森作りをがんばってやってたんですけど。
でもやっぱり10月からは、船の上に波が来るか来ないか見なきゃいけない役に回りました。そうすると、プレイヤーからだんだんコーチ側もやんなきゃいけなくなって、今四苦八苦してるところですね。
入山:西野さんが去年優勝されましたが、山岸さんも当然関わられている中で、西野さんのピッチはどんな印象でしたか?
山岸:そうですね。やっぱり発表される時から優勝される風格はありました。
入山:おお。
田ケ原:すごい。
山岸:やっぱりご自身の家業が盛り上がるという話だけではなくて、「これで業界や地域を変えていくんだ」っていう視座があって、巻き込み方もぜんぜん違いましたね。
入山:なるほど~。すばらしいですね。
田ケ原:ということで、こちらの「アトツギ甲子園」は公式ホームページより一般観覧が申し込みできます。詳しくは「アトツギ甲子園」で検索してみてください。
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