真面目で完璧主義なタイプほど、報連相を後回しに

——報告・連絡・相談は仕事上のコミュニケーションの基本と言われますが、ミスやトラブルのもとを辿ると、意外とできていなかったケースもあるように思います。報連相ができない背景には、どんな要因があるのでしょうか?

鳥原隆志氏(以下、鳥原):そうですね。仕事ができない方だけではなくて、案外できる方も、報告・連絡・相談のプロセスが抜けていることが多いんですね。1つは、その方のお仕事の進め方とかその方自身の特質もあるんですけど、環境がすごく影響しているかなと思っています。

例えば平穏時と言われる、比較的余裕がある状態の時は、報連相がしやすい状況だと思うんです。でも、時間的なプレッシャーがあったり、タイトな状況の時は、やはり余裕がなくなってしまう。報告する側も余裕がなければ、報告を受ける側も余裕がなくなってしまって、さらに報連相しにくくなる状況もよくありますね。

——報告する側としては、「まだトラブルにはなってないから、伝えなくていいか」とか、「こんなこともできないのか」と思われたくなくて、ギリギリまで相談しないこともありそうです。

鳥原:そうですね。そういう方もいらっしゃいます。我々はどちらかと言うと「完璧主義」という呼び方をするんですけど。完全な状態になってから報告しようとされる、いわゆる真面目なタイプの方や、高いレベルの結果を求める方こそ、報連相を後回しにしがちです。

例えば職場で異変が起きたものの、まだどんな状況か確実にはわからないし、これからどうなるかもわからない。そういう不安定な時に、報連相が上手な方は、まず何か異変が起きていることを伝えるんですね。

ただ、完全さを求める方や責任感の強い方で、確実にわかってから報告しようとして後回しになって、結果的に報連相ができないという方も、けっこう多くいらっしゃいますね。そうすると、上司からすると報連相が遅れる、もしくは報連相されていない状況になってしまうわけですね。

相手に不安を抱かせないための「根回し」が重要

——「どのくらいの内容をいつ伝えるべきか」の認識のズレもありそうですね。

鳥原:上司のタイプによりますけど、相手は正確なことを聞きたい一方で、早く聞きたいという欲求もあるわけです。なので、例えば後輩のAさんが、今日まだ出勤していなくて連絡もないという状況があったとします。

自分の後輩なので、いち早く気づいたものの、Aさんがまだ出勤しておらず、連絡もないことを報告するか。もしくはAさんに連絡を取って、どういう状況なのかを把握してから、上司に伝えるのか。

完璧主義な方や優秀な方ほど後者を取るんですけど、上司としては、まず出勤しているはずの人間が1人来ていないことだけでも知らせてもらったほうが、安心して受け入れる余裕が生まれるんですね。

これを後になってから、「実は○○さんが9時に出勤予定なんですが、お昼になっても出てきておらず、連絡が取れません」って言われたら、もう大事じゃないですか。大事で渡されるよりも、朝に来ていないと気づいた段階で、「あれ? 彼、まだ出てきてませんよね」と言われると、心の準備ができます。

報連相ですごく大事なのは、相手に不安を抱かせないための根回しです。根回しは、自分の意見を貫き通すための技のように思われていますけど、それはまったくの誤解です。

相手、例えば上司に衝撃を与えないための役目をするんですね。悪い報告・相談はやはりしたくないものなんですけど、「後ほど、少し良くないご報告があります」と言っておくだけでも、少し緩衝材になるんです。

“忙しそうで話しかけづらい上司”への報告のコツ

——相手を不安にさせないために、こまめな報告が大事だということですね。「上司も忙しそうで聞きづらい」とか「どのタイミングで相談したらいいんだろう」と迷った時に、うまく話しかけるコツを教えてください。

鳥原:オフィシャルで報告しなきゃいけないことと、自分が聞きたいことは少し違うと思うんですね。前者は、もちろん報告の時間とか1on1の時間を使ってやればいいと思います。

ただ、「同僚の○○さんとこういうことがあって、どうしたらいいんでしょうか?」とか、直接上司に関係ないようなことを聞く場合は、上司のオフィシャルな時間を使わないほうがいいと思いますね。だから、例えば一緒に電車で移動している時間を使うとか。

上司に報告をするタイミングもそうですけど、同じ報告をしたとしても、午前と午後でまったく反応が変わってくるんです。午前にがんばって、午後にちょっとボルテージが落ちてくる上司もいたり、逆に後半にボルテージが上がってくる上司もいるので。

あとは前後に何があるかによって変わりますね。例えば私は、講演の前に報告を受けるのはすごく嫌いなんです。なぜかと言うと、ネガティブな報告を受けると、どうしても感情が残ったまま講演しなきゃいけないので、メールや電話は基本的に受け付けないようにしています。

ただ、終わった後はだいぶ頭の中に悪い報告を受け入れる空間ができてくるので、同じ報告を受けても、反応は違うと思いますね。だから本当にわずかな差ですが、エレベーターに乗る前なのか降りてきた後なのかでも、ずいぶん違います。

忙しい上司にどう話しかけるかは、忙しいオーラを出して寄せ付けないようにしている上司なのか、本当に忙しいのかによっても、また変わってきます。ただ、そういったバタバタしている時は、報告・連絡・相談をしても成功しない確率が高いです。

付箋やメールで、「3分だけお時間を頂戴する機会はありますか?」と投げ掛けるのも、間接的な時間の取り方としてはありだと思いますね。

恐らくオフィシャルの場で報告・相談できる内容も、多くて3つぐらいだと思います。3つ以上になってくると、人ってほとんど理解できなくなったり、頭が混乱してくるので。オフィシャルの場では大事な3つの報告を頭に入れて、それ以外は雑談やメール、別のツールを使って聞いていく。こういったことが、上手な報連相の仕方になるんじゃないですかね。

上司の「不安」をうまく利用する

——ちなみに、先ほど電車の移動中や雑談中に上司に話しかけるとおっしゃっていましたが、リモートで仕事をされている方には、どんな報告の仕方がいいんでしょうか?

鳥原:これは上司と部下ではないんですけど、私はオンラインで講義をよくやっていまして、もう3年、4年ぐらい続けて参加されている方がいらっしゃいます。実際の授業とは違って、仕事の悩みとかを打ち明ける方がいらっしゃるんですね。

その方のやり方としては、授業が終わって、一般の質問を受け付けて、みなさんが退出されてから、最後にプライベートな相談を持ってくる。だから、打ち合わせの会議とか1on1の後のおまけの時間を使って相談をするのは、上手な方法じゃないかなと思いますね。

一方で、会議の前のほうが報告を聞いてくれる上司もいらっしゃいます。(会議の前に)早めに座っておく。恐らく会議というのは、上司からすると報告を受ける場なんですね。報告を受ける態勢になっているので、(上司が)早めに会議室に現れたのであれば、そこで報告をするのも1つの方法かもしれないですね。

それから、うちの部下の場合、「少し相談したいことがあります」とあらかじめ言ってくることが多いですね。上司は不安がる生き物ですから、その不安をうまく利用して、「少しややこしいことになっているので、ご相談したいことがあります」と言うと、上司としては早く聞きたいわけですね。だから、相手から聞かせるようにすると、うまく上司の時間を確保できると思いますね。

部下が報告をしなくなる悪循環が生まれる背景

——報連相がうまく機能していない職場の場合は、上司と部下のそれぞれの立場から、どう改善していけばいいんでしょうか?

鳥原:先ほどお伝えしたように、まず部下が報連相を後回しにすると、いきなりドーンと報告や連絡を上司にぶつけちゃうので、相手も「なぜそれをもっと早く言わない?」と、ドーンと反発しますよね。こうやって怒られると、部下としては余計に報告したくなくなりますから、もう悪循環ですね。

ただ、相手もナマモノなので、アプローチを少しだけ変えてみると、本当に部下の反応が変わってくるんです。だから、上司目線で考えてみると、部下からの報告を突っぱねる方法もあれば、それを褒めてあげる方法もある。

例えば報告の内容はともかく、報告をくれたことにすごく感謝してあげると、次から頻繁に報告をくれるようになるんです。でも逆に、報告の内容が悪いものだった時に嫌そうな顔をすると、次から報告をくれなくなっちゃうんですよ。だから、上司も部下も相手が変わることを望むよりも、自分のほうでアプローチを変えるほうが、よほど得策だと思いますね。

——わかりました。ありがとうございます。