Z世代に選ばれる企業になるには何が必要なのか

大熊英司氏(以下、大熊):みなさん、こんにちは。『SmartHR Next 2023 ヒトを核にした「新時代の経営戦略」実践へ -飛翔する企業への変革-』と題して、3日間にわたってお送りしています。進行を務めますアナウンサーの大熊英司です。よろしくお願いいたします。

企業の変革を実現するのは人であり、そこで大切なのがタレントマネジメントです。このカンファレンスで社会の大変動に対抗し、新時代の組織作りと経営戦略の本質をつかんでいただければと思います。選ばれる企業になり、持続的成長へ変革する秘訣をお届けしていきます。

最終日Day3は「人事戦略」です。人との協働、人事戦略による企業の革新と成長をお伝えしていきます。今日、Today’sファシリテーターとして参加していただきます高倉&Company合同会社共同代表、ロート製薬元取締役の髙倉千春さんです。よろしくお願いします。

髙倉千春氏(以下、髙倉):よろしくお願いいたします。

大熊:2日目の入山(章栄)さんから髙倉さんの話をしっかり聞くようにと言われていますので、よろしくお願いいたします。

髙倉:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

大熊:今日1日すべてのセッションを通して視聴者のみなさまと共にお付き合いいただいて、最後にその学びをまとめていただこうと思います。

それでは今日最初のセッションです。テーマは「口コミ&Z世代マーケティングから判明! 選ばれる企業の方程式」ということで、お二人のゲストに来ていただきました。まず、オープンワーク株式会社代表取締役社長、大澤陽樹さんです。よろしくお願いします。

大澤陽樹氏(以下、大澤):よろしくお願いします。

大熊:もうお一方は、株式会社SHIBUYA109エンタテイメント、SHIBUYA109 lab.所長、長田麻衣さんです。

長田麻衣氏(以下、長田):よろしくお願いします。

大熊:よろしくお願いいたします。このセッションでは、若手人材の争奪戦が激しさを増す中、Z世代に選ばれる企業になるには何が必要なのかということで、口コミサイトとZ世代マーケティングの観点から、その方程式を探っていきます。

社員口コミのポジティブとネガティブの比率

大熊:まずは、大澤さんにうかがいます。ユーザーが590万人以上いる口コミサイトの情報から、Z世代が企業に何を求めているのか、見えてきているのかについて教えていただけますか?

大澤:ありがとうございます。「OpenWork」は、今ご紹介いただいたとおり、日本では最大級の社員口コミサイトです。社員口コミサイトって、実はアメリカやヨーロッパとかではもうかなり普遍的なものです。働く前にその会社がどんな会社かって、意外にみなさんわからないじゃないですか。

今日のテーマで少し出てくるかもしれないんですが、やっぱり就職や転職に失敗したくないし、できるだけ自分にとっていいキャリアを歩みたい。ということで、入社する前、もしくは就職前に、中で働いている人がどんなことを感じているか。どのくらい年収をもらっているか。いくとこまでいくと、なぜ今退職を検討しているかといった社員口コミまで拾うことができるサイトになっています。

「『OpenWork』は590万人のユーザーがいる」と言いましたが、毎年2人に1人くらいの就活生に使っていただいているサービスになっています。そのくらい、入社前に会社から発信されている情報だけでは不安だということです。実際にそこで働いている人、もしくは辞めた人の声も含めて、会社選び、仕事選びをしていこうということで重宝いただいています。

大熊:1つだけ聞いていいですか? 口コミというと、どうしてもネガティブなものが多いのではないかという感じもしますが、そのあたりはどうでしょうか。

大澤:よくいただく質問のトップスリーに入ります。

大熊:あ、普通の質問ですみません。

大澤:いやいや、ありがとうございます。たぶん視聴者のみなさんも気になっているところだと思うんですが、実体はポジティブとネガティブが1対1くらいで、一番多いのは実はニュートラルです。

AIを使って、投稿された文章がポジティブか、ネガティブか、ニュートラルか(を分析する)センチメント分析という方法があります。これをやっていくと、だいたい2対6対2で、ニュートラルです。どちらでもない。

そもそもただのファクト情報ですね。「年収はこのくらいもらっています」とか「残業時間はこのくらいです」という情報が大半を占めていたのが意外な一面かなと思っています。

熱意ある社員の割合は「日本は今、ほぼ世界最下位」

大熊:そんな中、Z世代が求めているものは何でしょうか?

大澤:先に一言だけお伝えすると、意外かと思うんですが、「働きがい」をけっこう求めているというのを、今日いろんな観点からデータをお出ししてみたいと思います。

まず、全体像をつかむ上で働きがいと働きやすさの推移をご覧ください。

オープンワークは2007年に創業した会社で、そこからずっと社員口コミを集め続けています。投稿された口コミをAIを使って、ちょっと難しいんですがベクトル化して、簡単に言うと点数付けをしたんですね。例えば、「この会社は最悪の会社だ」となったら「働きがいはないですね」というふうに機械が判定できるようにしました。

投稿された口コミをすべて分析して、この十数年で働きがいと働きやすさがどう変化したかを調査してみました。そうすると、若者とか関係なく、日本は働きやすさは改善されてきているんです。オレンジ色の線ですね。

大熊:上がっていますね。

大澤:これは働き方改革とかのおかげだと僕は思っています。ただ、働きがいを見てください。ものすごく減退している。

大熊:え、こんなに働きがいがないんですか。本当ですか!?(笑)。

大澤:働き方改革が進んで働きやすくはなったんですが、一人ひとりが今感じている働きがいは、実は減ってきている。これは若者だけではなく、今、日本全体で働きがいが落ちています。

おもしろいデータが1個あるんですが、アメリカのとある調査会社が熱意ある社員の割合を世界で調査し続けて、日本は今、ほぼ世界最下位です。

大熊:えぇ~!?

大澤:125ヶ国中124位。僕、先週最新のデータも集計したんですけど、熱意ある社員が5パーセントしかいない。やる気のない社員が60パーセントから70パーセントいる。

大熊:えぇ~、そうかなぁ。

長田:悲しい。

大熊:長田さん、今のお話はどう感じます?

長田:悲しい現実が(笑)。

大熊:悲しいですよね。日本の企業ってそんなに働きがいがないんですかね?

長田:私は32歳なんですが、けっこう働きがいのある仕事をしていると思うんです。けど、周りの人と話すと、自分が熱意を持って仕事をしていると言える子はすごく少ないなという実感もあるので、事実としてそうなんだろうなとは思いますね。

社員の「働きがい」を上げる3つのポイント

大熊:日本企業ってそんなに働きがいがないんだなってびっくりしました。働きがいを上げるには、どんな対策が必要になってくるんですか?

大澤:これも若手に限らずですが、今日、企業の人事の方や経営者の方も多くいらっしゃると思うんですけど、その方々にちょっとヒントとしてお話しします。

これも「OpenWork」に投稿された口コミです。「OpenWork」は定性的な口コミだけではなくて、定量的に5段階で「あなたが働いた会社は、社員の士気はどうでしたか」「待遇面に満足はしていましたか」「風通しはどうでしたか」というのを聞いているんですね。

どの項目が働きがいと強い相関があったかを調べたところ、緩やかですが、3つの項目で相関があるとわかってきた。

1つは「社員の士気」。これはほぼイコールなので、働きがいそのままだと思います。もう1つが「20代の成長環境」。若い方にとって成長できる場所があると、それを働きがいと感じる人がけっこう多くいる。

もう1つが「人事評価の適正感」。ただ働いているだけ、成長できるだけではなくて、やったことを評価してもらえる、適切にフィードバックをもらえる。こういったことが働きがいにつながりやすいというデータが出ています。

自社にこの3つがあるかどうかを確認いただくのが、まず手っ取り早いかなと思います。

成長できる環境作りができている企業ランキング

大熊:みんな「成長したい」とは思っていると思うし、「それをしっかりと評価してほしい」と思っていると思うんですけど、実際に成長できる環境作りができている企業を具体的に教えてもらってもよろしいですか?

大澤:ありがとうございます。ランキングがあります。

大熊:え、ランキングがあるんですか?

長田:へぇ~。名誉あるランキングですね。

大澤:名誉あるランキングなんですけど、ここから年齢を絞っていきます。さっきまでは全世代で「OpenWork」に投稿されたデータをAIで分析したものですが、ここからは「OpenWork」に投稿した時に20代だった方が「成長できるよ」と評価した会社をランキングしています。

先ほどの「20代の成長環境」があるというところで、点数が高い会社を調べています。

その結果ランキング上位に入ったのが、たぶん聞き慣れないと思うんですが、ローランド・ベルガーさんは戦略系のコンサルティングファームさんで、フューチャーさんはシステムの構築とかSIerというふうに呼ばれたりします。

3つ目はみなさんご存じじゃないですかね。P&Gジャパンさんって、消費財を作っていてテレビCMとかでもご覧になられると思います。

これを見ていただくと、意外にみなさんが知っている日本の大企業はあまり入っていない。けっこう外資系の会社から、いわゆるベンチャー企業と呼ばれる会社さんまでたくさん入っているというのが特徴かなと思います。

長田:年齢層も平均年齢も、わりと若い会社さんが上に来ているということですかね?

大澤:緩やかにそういう傾向はあるかなと思いますね。

ただ11位以降を見ていくと、日本IBMさんのシステム部門だったり、あとはシティグループ証券さんは非常に有名ですよね。世界的に有名な金融機関だったりします。

若手ばかりが集まっている会社とも限らないんですが、14位のサイバーエージェントさんとか16位のリクルートさん、17位のじげんさんは非常に若い方が多くいらっしゃる会社というイメージはありますね。

ランキング上位企業の共通点

大熊:上位に共通する部分とかあるんですかね?

大澤:あるんです。今日は用意できていないんですけど、各会社に投稿された口コミを分析しました。私たちの強みは人間の主観の「こう感じます」というのを分析して持ってくることなんですね。なぜこの20社が高く評価されているかは、会社によって特徴もあるんですけど、共通する点がいくつかあったのでご紹介します。

1つ目が、ありきたりですけど「裁量権があること」です。チャンスをもらえたり、打席に立てる。同じことばかりをやらされるのではなく、時々挑戦する環境をもらえる。

おもしろいですよね。大きな会社からベンチャーまである中で、実はあんまり会社規模に関わらず、ちゃんと裁量権を与えられている会社は、20代で成長できると感じている方が非常に多かった。

2つ目が、意外だったんですけど、その挑戦・裁量権を与えられた上で「トレーニングをちゃんとする機会がある」。ただ打席を与えられるだけじゃなくて、その上で「どうやってバットを振ったらいいか」とか「バットの持ち方をこう変えたらいいんじゃないか」というのを専門家や上司からしっかりと教えてもらえる。トレーニングする環境が整えられている。

大熊:研修とか。

大澤:そうです。3つ目が、僕はおもしろいなと思ったんですけど「フィードバックをされる環境がある」。先ほど3位にあったP&Gジャパンさんは、フィードバック・イズ・ザ・ギフトという文化があるんですね。

でも今の日本は、ちょっと厳しいことを言ったらハラスメントだとか、厳しいことを言われて「この上司、ホットラインに連絡しよう」みたいなのがある。そうすると、厳しいことを言ったら訴えられるし、上司の人は注意するメリットがもうないじゃないですか。

大熊:そうですね。

大澤:なんですけど、上位に入っている会社は、そもそも会社としてフィードバックを良いとしている。それを与えられる環境を作っている会社は高い評価だったかなと。

大熊:指導は叱るのと違うんですけどね。

大澤:まさにですね。

社員口コミでわかる人事の課題

大熊:髙倉さんはこの口コミの話、ずっと「おもしろい、おもしろい」と聞いていらっしゃいましたけど、どうでした?

髙倉:若い方からこういう率直な声を聞くのは、すごくインパクトがあるなと思います。

やる気があるかどうかという、エンゲージメントサーベイってよくあります。私も25年以上外資と内資でやってきましたけど、グローバルで比較すると20年前から日本は下のほうなんですよ。

「日本人はそんなにアピールしない国民だからそうなんだ」と言われてきたんだけど、本当なのかなと思っていて、今のお話でちょっとわかりました。

それと、「時間を短縮しましょう」とか、働き方改革も組織人事でやってきたんですけど、働きがいということになると、チャンスを与えてくれるかどうかがすごく大きい。

みなさん、70歳まで仕事をしなきゃいけないと思うと、手に何か技をつけて実力をつける。そのために今おっしゃる権限移譲。判断力が勝負なので、そういう場が与えられているか。それから成長となるヒントがちゃんとタイムリーに来ているかが、人事の大きな課題だなと思って、今のご意見をうかがいました。おもしろかったです。

大熊:口コミっておもしろいですね。

髙倉:おもしろいです。