今、日本企業に必要な「オープンイノベーション」を語る

村田宗一郎氏(以下、村田):それではさっそく、JAPAN OPEN INNOVATION FES2023のオープニングセッションを始めさせていただきます。進行を務めさせていただきます、eiiconの村田と申します。よろしくお願いいたします。

では最初のセッションは、DMM.com創業者の亀山さんをお招きして、「日本の企業に必要なものとは?」ということを、弊社代表の中村と共にさまざま意見をぶつけ合っていただければと思っています。さっそく進めていきたいと思います。

もうご存じない方はいらっしゃらないと思うのですが、まず亀山さんから簡単に自己紹介をいただけますでしょうか。

亀山敬司氏(以下、亀山):どうも、DMMの亀山です。よろしくお願いします。

中村亜由子氏(以下、中村):よろしくお願いします。

(会場拍手)

中村:亀山さんは今、何社ぐらい経営されていらっしゃるんですか?

亀山:会社? 会社数はたぶん20~30個じゃないかな。

中村:20~30個。

亀山:事業はその中で60くらいに分かれています。すみません、調べてこなかったです(笑)。

村田:亀山さん、よろしくお願いいたします。ではあらためて、中村さんからも自己紹介を簡単にお願いします。

中村:eiiconという、オープンイノベーション支援を生業にしている会社を経営しております、中村です。よろしくお願いします。

決裁が遅い……日本企業の“スピード感のなさ”

村田:では、最初の設問に移っていきたいと思います。「これまでの日本のイノベーションについて」です。

先ほども話があった通り、「失われた30年」という言葉も長らく聞こえておりますが、亀山さんのようにこれまでトップランナーで走ってこられた方は、これまでの日本のイノベーションをどう捉えているのかというところから、最初はおうかがいできればと思っています。

まずは中村さんから、これまでの日本のイノベーションについてどう捉えているかをお話しいただいてもよろしいですか?

中村:いや、私はすぐ亀山さんにお話を聞きたくて(笑)。戦後、高度経済成長で伸びて、今は「失われた30年」と言われて、たぶんもう言われ出してから40年ぐらい経ちそうな気もしています。

(高度経済成長で)登ってこられた要因と、今「失われた」と言われている部分を、亀山さんはどう捉えていらっしゃるかをうかがいたいです。

亀山:昔の(日本の)高度成長期と今の中国とは似ているのかもしれない。中国は文化大革命で、日本の場合は戦争があった後に成長したんだと思うんだけど。基本的にその時期は何もないから、起業家だらけだったと思います。

なので、今の中国人がすごく勢いがあるのは、ほとんどのどの業種も創業者がトップに立っていることが多いからかな。

日本の場合そうなっているのはITぐらいで、他の業種は2代目、3代目の社長になる中で、権力を失っているという言い方は変だけど、どうしても民主主義的な経営になっているし、そうなるとやはり決裁が遅い。

中国人がうちに来てよく愚痴るのは、「日本企業のどこと話をしても、1週間で済む話が2ヶ月、3ヶ月、下手をすると1年かかります。一向に進みません」ということで、そういった面で言うとスピードがなくなったかなと。

今の日本企業の構造は「このままじゃヤバい」

亀山:あとは、上場していると株主もいっぱいいるので、例えば自分が株の50パーセントを持っていたら、「基本的に俺の好きなようにやる」ということができるんだけど、株を持っていないとどうしても株主の顔色を見なきゃいけないから、今年の決算を良くするためになかなか長期的な投資ができない。

たぶんみなさんも新しいことをやりにきているんだと思うんだけど、新規事業とかイノベーションはたいてい数年とか赤字覚悟でやらなきゃ、何もできないんじゃないかなと。

黒字になるまでどんどんお金も要るし、いくらか初期の頃にマイナス覚悟でやるしかないので、その分で予算をどれだけ切れるかという話ですね。

うちの場合だったら独裁で、俺は「DMMのプーチン」と呼ばれていますから(笑)、「やるぞ。今年は利益ゼロでいいから、全部広告費に突っ込もう!」とやれば、全部経費になるし税金もゼロというふうに、先行的に長い目で投資ができるんです。

ただそれが上場会社だと、「配当をしろ」とか、今期利益を落としたら翌年は代表でいられなくなるとかね。そうなると、どうしても「じゃあ10パーセント、いや5パーセントだけ新規事業に回そうか」みたいになってしまう。

だから、うちのような会社は100パーセント投資できても、他だと新規事業に5パー、10パーしか出せないという構造になるんじゃないかな。これは誰かに問題があったというよりも、構造的に、仕組み的にそうなってきている感じかなと思いますね。誰にも罪はないけど、このままじゃヤバいということです。

中村:ありがとうございます。

「大きくなりたい」よりも「どうやって長く食っていけるか」

中村:戦後に何もなかったから、みんながアントレプレナーでどんどん事業を作って拡大してきたところに比べて、(日本企業は)守らなければいけないものが増えた。

今お話しの通り、上場企業だと単年度でみなさん会計をやっていらっしゃるから、「今年の収益が」という話になるのはまさにですよね。

村田:そうですね。ありがとうございます。そんな中でも、亀山さんは最初は露天商から始められたという話もすごく有名だと思いますが、その中で「こういったことを意識して新しいイノベーションを起こしてきた」といったものはあったりしますか?

亀山:「大きくなりたい」と思ってやっていたというよりも、「どうやって長く食っていけるかな」ということが基本的な思考かな。例えばビデオレンタルをやっている時に、ビデオレンタルが将来ダメになるなと思ったら、そのビデオレンタルをダメにしそうなインターネットに投資しようかとか。

(インターネットの時代が)来なかったらそれでいいんだけど、来た時にビデオレンタル店は潰れるなと思ったら、そこで稼いでいる間に他のことをやっておこうというのが動機みたいな感じかな。なので、結局のところは「できれば仕事を続けていきたい」というだけ。

基本的な考え方は「儲ける仕組みを作り続ける」

亀山:あと、社員の面倒を見なきゃいけないということで言うと、特に今の時代だと、10年保つビジネスってなかなか難しくて。たぶんスタートアップで勢いのあるやつとかでも、10年ぐらい経ったら衰退するのもいっぱいありますよね。

ビデオレンタルも、なんだかんだ言って30年ぐらい保ったんだけど、コロナの時にあえなく潰れちゃいました。ただ、その時にビデオレンタルしかやっていなかったら今の雇用は守れていないし、今だと他の事業で3Dプリンタ工場とかを持っているので、ビデオレンタルのアルバイトや社員はそっちのほうに異動ができるわけです。

だから儲けるというよりも、「儲ける仕組みを作り続ける」というのが基本的な考え方。それであれば、どんどん異動できるし、ヤドカリみたいに生きていこうという感じで来ました。

中村:「儲ける仕組みを作り続ける」って、みんなやりたいことだと思っていて。オープンイノベーションが進む背景にも、どうやって次のシーズをとか、イノベーションの種を生むかというところでお取り組みの企業は多いんですが、亀山さんの嗅覚では「もうこれはうまくいかなくなりそうだな」というのは、どこで反応するんですか?

亀山:例えば先ほどのビデオレンタル店で言うと、インターネットが出てきた時に、もしかしたらインターネットを使った配信ができないかと考えた。始めた当初は本当に、1分のダウンロードに10分かかったりした時代だったけど。

ただ、技術ってだんだん上がってくるものなので、これがだんだん早くなってきたら、そのうちビデオレンタル店に行かない時代が来るだろうと思っていた。俺が思ったよりも10年遅かったけれども、それでも最近はとうとう来たという感じで、本当を言えば10年ぐらい前にビデオレンタル店はなくなるかなという思いがありました。

ただ、そこまではだいたいみんな想像がつくんだけど、普通はまったくわからない異業種には怖くて行けないよね。

ITバブル前からインターネットに目をつけた亀山氏

亀山:自慢じゃないけど、俺はまったくプログラムを書いたことがなくて(笑)。だから、地元の田舎にいたプログラムがちょっとわかる人間を会社に入れて、そいつに「アルバイトのヤンキーたちにプログラムを勉強させて」と。自分がやりたくないから、「みんな、今からインターネットだ」と、そそのかせて勉強させていた。

中村:それ、何年ぐらいですか?

亀山:25年ぐらい前かな。

中村:1998年。ITバブル前ですね。

亀山:ちょうど、RealPlayerとかMedia Playerという動画ソフトが出てきた頃なんだよね。その頃に、「インターネットで配信できそう」という感じの息吹があったかな。それで始めたのがきっかけですね。

でもそれとは別に、『Nスペ(NHKスペシャル)』とか『クローズアップ現代』で「今後インターネットが来たらこうなります」と、みんなテレビで言っていたしね。

誰でもそういう情報を見ている中で、でも異業種だから自分ではやれないと思ったら、やれそうな人間を探してきて、「ちょっと教えてよ」と言うだけかな。そういう感じでした。だから自分は何もできません(笑)。

中村:いやいや(笑)。

亀山:世間にはIT系社長とは言ってるけどね(笑)。もちろん、ITが何をできるかぐらいは理解しておいたほうがいいけど、実際に自分で作らなくてもいいというのはあるよね。

中村:そうですよね。

亀山氏の経営者としてのルーツ

中村:論理的に考えて、「家にいて、普通にダウンロードして見られるんだったらそっち(インターネット)に移行するよね」と思って、その時代が来るからやろうと。だから亀山さんのすごいところは、異業種にワッと行けるところ。

亀山:異業種にというか、もともとうちの親は商売人で、うどん屋、飲食店、飲み屋さんとかをやっていたので、どっちかというと商売系に育っていて、昔からけっこう家の手伝いをしていたんだよね。海の家を手伝ったり、うどんを作ったり。

だから、お客さん相手だとすごく嬉しかったんだよな。「儲かるのが楽しい」「商売楽しい」みたいなのがあったので、何でも良かったという話です。

たぶん、ここには飲食店をやった人はあんまりいないかと思うけど、飲食店をやるにはやはり限界があって。どうしても接客が重要だし、広く展開するのは難しい。その時に、ビデオレンタルみたいなものだったら、サービスが少々悪くても在庫があればなんとかなると思ったんだよね。

店舗展開まではわかったんだけど、そこから先は本当に「とりあえずやってみよう」ぐらいの話しかなかったという感じですかね。やってみたら意外と、半年か1年経ったら、異業種でもだいたいのことは理解できる。

うちはやっていることがバラバラだけど、基本的なBSもPLもほとんど一緒だし、データ分析も同じ。動画配信事業の分析も太陽光事業の分析も大して変わらないという感じなので。

ビジネス的な感覚で言えば、マーケティングとか決算書がある程度見られれば、売るものが変わるだけでそんなに変わらないですよ。医療系なら医療ベンチャーとか、製造なら製造系ベンチャーと思っているかもしれないけど、そこはあんまりこだわらないでいいんじゃないかなという気がしますね。何でもやってみようということです。

中村:ありがとうございます。

大企業とスタートアップの共創を生むには?

中村:冒頭の話に戻って、戦後というところで捉えると、何にもないところからみんなやってきていて、「どうにかしなきゃいけない」「生き抜かなきゃいけない」と仕事をしてきたけれども、今は(社長が)2代目、3代目になってきて、サラリーマン社長も増えてきた。

そんなに「DMMのプーチン」ではないと思うんですが(笑)、ちゃんと亀山さんの意志で投資をできるから、亀山さんの一存でどんどん新規事業を作れるけれども、今の大企業はそうなっていないというところですよね。

亀山:ここには、とはいえ5パー、10パーは新しいことに予算を出してもらえるという人たちが集まっているのかな?

中村:はい。

亀山:大企業の人が集まっていて、スタートアップと一緒に何かやろうというのなら、それでも1,000億円の10パーセントだとそれだけで100億円あるから、大きいところはけっこうな予算が付くと思うんだよね。

あとは組織的な独立性を保てるかどうか。結局そこで本社からちょっと年配の人が来て役員ヅラをされると、だいたいそれでスタートアップの人は辞めちゃう。「こんなのついていけません」とか。

香港じゃないけど、「自治権をください」「介入しないでください」みたいな感じでやっていくほうが、スピードもあるし一緒にやれるかな。だから、「金だけ出して口は出さないでね」と役員に確約を取ってから、自分たちがスタートアップと一緒にやったほうがいいかなという気はしますね。みなさんが言えるかどうか知らないけどね(笑)。

中村:(笑)。

村田:それが難しいところなんですよね。

亀山:やっぱり難しい? なんかみんな難しそうな顔をしているので。「それが通れば楽なもんだ」と言っている感じがあるね(笑)。

村田:ありがとうございます。戦後の日本について、まさに「誰も悪くないけど」みたいな風潮はあるのかと思います。