「家に帰りたくない」子ども時代の原体験

遠藤洋之氏(以下、遠藤):すいません、いろいろ僕から質問してしまって、あっという間に30分過ぎてしまったんですけど、このまま次のテーマをお聞きしちゃっていいんですか?

司会者:大丈夫です。少しずつQ&Aに質問が集まってきていますので、40分くらいから質問にもお答えしていただけたらなと思っております。

鵜尾雅隆氏(以下、鵜尾):では私からも遠藤さんに。遠藤さんも起業されて、ホームページ拝見すると、1つの哲学というか会社道というか、人との関わり方とかに非常に思いが表れているなと思うんですけど。やはり今まで企業と社会って、社会は誰かやっといてくれるけど、企業は企業だという雰囲気が、高度成長期からずっと歴史的にはありました。

そこから融合化してくる中で、遠藤さんとしてはここから5年10年という中で、SAKURUGをどういう会社にしていきたいと思っているのか、あるいは会社を超えて自分はどう思っているのかというも含めて、ぜひ教えてほしいなと。

遠藤:ありがとうございます。それは話したいことがたくさんあるんですけど、コンパクトにまとめてお話しすると、僕自身、子どもの頃の原体験がすごく強くあります。ちょっと家庭環境が複雑で、いわゆるあまり家に帰りたくない子ども時代がありました。だからそんな子どもたちを減らしたいなという思いがずっとあったんですよね。

なので僕は、大学時代は学校の先生になるのがずっと目標で教員免許も取ったんですけど、教員の道ではなくビジネスで教育、世の中を変えたいなと思って、ベンチャー企業に入って独立をしたんですけれども。

会社に集まるのは、アクションをしようと呼びかけると手が挙がる人

遠藤:今、ちょうど会社を作って10年ちょっと経ちまして、今後、事業では2030年までに10事業を30拠点と5年前から言っていますので、あと7年でそこまで持っていく。

あとは何か社会性のあるテーマに対して、アクションしようと呼びかけると、テーマによってですけど、たくさんのメンバーが集まってくれるんですよ。それがSAKURUGかなと思っていて。

先ほどの館山のボランティアの時も「行きたい人!」と言ったら、ワーッと手が挙がりましたし、募金活動とかも僕が何も関与しないところで、いろんなところでいろんなところに対しての支援が始まっていたりもするので、それは残していきたいなと。

あともう1つは、今いろんなソーシャル的なこともやらせていただいているんですけれども、もうちょっと規模を大きくして、それぞれ展開していけたらとは思っていますね。

地方創生みたいなワードが好きなメンバーも多いので、今、東京一極集中と言われていますけれども、それをポジティブに解消することもできればなと。うちの場合、その第1弾が和歌山の白浜町のサテライトオフィスだったので、そういうことも続けていきたいなと思っています。

鵜尾:和歌山というのがいいですね。和歌山の新しく知事になられた、もともとNPO議員連盟の事務局長されていた……。

遠藤:岸本(周平)さんですか?

鵜尾:はい、岸本さん。NPO支援を、国会議員時代はがんばっておられた方です。和歌山モデルって生まれないかなと思っています。

遠藤:本当、そうですね。

鵜尾:そうなんだ。そういうふうに捉えておられるんですね。楽しみですね。

組織内外に必要なのは「境界線をつなぐ人」

鵜尾:いろんな拠点を増やしながら地域の再生を、特にITとかいろんな要素を組み合わせながら、新しいものができあがっていく。それが地域課題解決とかいろんなところに枠を置いて動いていくみたいなことは、すごくあるなと感じます。

社会イノベーションはどう起きるのかという議論は、世界的にもいろいろあるんですけど、ちょっと前は社会起業家と言われるような、結晶化して「NPOで課題解決したいんだ」という人が解決するんだという文脈がありました。

「境界線をつなぐ人」、英語でboundary spanner(バウンダリースパナー)と言うんですけど、大きな組織と組織の間をつなぐ人が、1,000人いる組織でも1人、枠を超えてつなげられる人がいて、その人と外の人が接続することで、それぞれの組織が動いちゃうみたいな。

そういうことが今すごく起こっていて、この「境界線をつなぐ人」が組織の中にも外にも必要です。どうしても日本は縦割りになるので、そういう人材の派遣だったり、若い人がいろいろな地域とかで課題を抱える中で、そういう役割を担っていけるようになっていくと、大きなものが動くと感じますね。

遠藤:そうですね。今、社内でボランティア休暇という制度をちょっとずつ作っています。これも最初のきっかけはPEADさんだったんですけど。やはり会社のメンバーがボランティアとかに行く時に、特別な休暇を付与したり、そういうこともやっていきたいなと思っていて。今思ったのは、その対象がボランティアだけでなくて、NPOでの活動みたいなこともありなのかなとは思いましたね。

鵜尾:しばらく働いてみるとか、週に何時間だけ何ヶ月だけ行くとかね。そういうのだったらできるかもしれません。副業的にね。

遠藤:相互連携じゃないですけどね。何かあるといいなと思います。

鵜尾:人材交流とかいいですよね。NPOと企業でやってみたいという方もいらっしゃるし、そうした連携のかたちって、机で向かい合って議論するより、同じ方向を向いて議論が進むというところでいうと、お互いの価値観をちょっとずつわかるようになっていくのは、すごくいい感じがします。ベースの信頼関係と共感みたいなのが大事じゃないですか。そういう意味では1回お互い交換するってすごくいいような気がする。

この10年間で「NPOで働きたい人」は増加

遠藤:その流れで、先ほどの質問の続きになってしまうんですけど。外から見ていると、NPOで働きたい人は、すごく増えているのかなと思います。どちらかというと人のニーズというか、人が不足していることはないのかなと思っていたんですけど、実際はそうでもないですかね。

鵜尾:そうですね。働きたいという人。つまり人の流入という面では、非常に優秀な方とか意欲のある方がどんどん入ってくるなというのは、この10年間すごく感じています。震災のあとは特にその傾向は強いんじゃないかな。震災で人生観が変わったという方によく会うので、そういう傾向もすごくあったなと、過去10年で見ると思います。

あともう1つは、最近インパクトスタートアップと言われている、企業でビジネスモデルを追求するけれども、社会の問題も解決するというタイプのスタートアップもすごく増えているので、そういったところに行かれる方も出てきているということだと思いますね。

やはりNPOセクターとしては、実は社会の中での役割期待みたいなことが、どんどん上がっている感覚値があって、それを担える。官僚の方もそうだし、政治家も、大企業の人たちも、いろんな海外の事例もそう。いろんな人たちを巻き込みながら、社会問題の解決、デザインすることを考える時に、それを将来担っていけるような人をどんどん巻き込んでいきたいということも、すごくニーズとしてはあるんだろうなという感じがしますね。

全体としてのキャッシュフローとかいろんなものが増えているので、担い手はまだまだぜんぜん足りないということだと思いますね。

遠藤:若い人たちに関わってもらうというのも、期待したいですよね。

鵜尾:そうですね。

社会問題の解決を実体験できる機会を作る

鵜尾:我々社会貢献教育をいろんな学校でやっていますが、今年2月18日に「ファンドレイジング・日本」というのがありまして、そこで発表するんですけど、最近学校で流行っているSDGsカードゲームの寄付版を作ったんです。楽しみながらこういう社会参加をもっとイメージしやすくなるのには、やはりゲーム性が必要だなということでがんばって作って、けっこういいゲームになったので、ぜひ体験していただきたいんですけど。

そういうのもやりながら、高校生、大学生ぐらいの時に社会問題の解決を、もっと実体験できる機会を作るのは大事だなと。学校で教えてはくれるんですよね。「貧困があります」「環境問題あります」と教科書に書いてあるので、みんな知っている。

でも「あなたに役割がある」ということをあまり書いていないので、あれだけ知ると税金を納めていれば誰かがやってくれる気がしちゃうので、そうじゃないかなと。そこは行政だけだと無理かなという感じですよね。

遠藤:そうですよね。僕は先日、名古屋にある障がい者施設みらせんというところで、1日職員体験をしてきたんですよ。週末だったんですけど、施設に10人弱の入所者が来てくれて、一緒にご飯を作って食べて、一緒になって遊んでというのを1日やらせてもらったんですけど。そういう施設で働いている方、本当に大変だなと思って。尊敬の気持ちがさらに強くなりましたし、助けに、手伝いに行っているつもりだったんですけど、逆に学ばせてもらったのはこっちだなと。

鵜尾:なるほどなるほど。

遠藤:そういう機会がたくさん増えたらいいなと。

鵜尾:そうですね。やはり世界観が広がるし、どこかで誰かが助けてくれるなという気もする。私もサラリーマンをやっていた若い頃、そういうNPOとかボランティアとかをやっていた時があったんですが、そこで同じボランティア仲間とかがいますよね。

チームで「関心」を持つことがこれからの企業のかたち

鵜尾:何か独特のセーフティネットだなと思ったんですけど、自分がとんでもない状況になって、事故とかに遭って寝たきりになっても、そういう時にボランティアで仲間になったような人たちって、きっとずっと寄り添ってくれるなという感じがしました。

今、ホームレス支援でがんばっておられる抱樸(ほうぼく)という団体が北九州にあって、現場を見に行ったんです。自分が経営者をやっているとすべて失う可能性があるじゃないですか。

自己破産して倒産してスキャンダルになって、全部クビになって全部なくなって、もう家族にも捨てられたみたいな。自分がどうしようもなくなったら……。これは見に行ったらわかりますけど、あそこに行ったら受け止めてもらえる感じがするんですよね。

NPOとかボランタリーセクターって、究極の最後の最後のソーシャルセーフティネットとしてのものがあるから、あれを見ていると、なんか人生なんとかなるやんという気もするというのもあるし、すごく学びが多いですよね。

遠藤:大事ですよね。そういうのが。

鵜尾:でも遠藤さん、本当にいろいろ現場に行かれているし、社員さんも木村さんをはじめ、みなさん関心を持ってやっておられて、1人じゃなくて、チームというかみんながそうなっていく環境を作っているというのが、これからの企業のかたちですよね。

遠藤:だといいですね。それを少しずつ広めていけるようにやっていければなと思っています。

なぜ日本では社会問題が「自己責任」になるのか

司会者:ありがとうございます。お二人が盛り上がっているので、なかなかどうしようかと思いながら聞いていたんですけど、お時間の都合で1つだけご質問を選ばせていただきましたので、お答えいただきたいと思っております。

「社会問題があたかも自己責任、自業自得であるかのように、後回しになっているイメージが日本にあります。これはいったいなぜなのでしょうか」というご質問なんですが、鵜尾さん、いかがでしょうか。

鵜尾:そうですね。日本社会って実はものすごく自己責任ということに関して厳しいというか、特に家族の自己責任という概念が非常に強い社会だと思うんですよね。他者に迷惑を掛けないという感覚ですね。これは確かに伝統的にそうだったということがあって。

例えば、引きこもり。世界中に引きこもりになる、外に出ていけなくなる人はいるんですけど、家庭に引きこもりの人がいる率って、日本が圧倒的に高いらしいんですよ。

普通、NPOとか地域全体で外に行けなくなった人をサポートするんだけど、日本では家庭の責任だとなっちゃう。「孤立・孤独になっているのも本人の責任だ」みたいな。コロナで1個良かった面があるとすると、孤立・孤独という状況をみんなが経験して、孤立・孤独が社会の問題になったこと。どうやら孤立・孤独は自己責任ではないぞということに、共感が広がったわけですよね。

子どもの貧困に関しても自己責任、シングルマザーも自己責任、障がい者の家庭も産んだ人の責任となっていた社会に、例えば「発達障害の子どもが生まれたら親の責任だと言ったら、子どもを作る人がいなくなって少子化になるわけだ」みたいなことが、だんだん世界としての共通知として、今出てきているんだと思うんですよね。

9割以上の人が誰かの世話にならないと生きていけない

鵜尾:でもこの10年を見ているだけでもずいぶん変わったから、次の10年はこの過度な自己責任論は、だいぶ変わる気がしますし、NPOの役割は、それをちゃんと発信していくことだろうなと思うんですね。

誰だってなる。例えば鬱も誰だってなるし、孤立・孤独で孤独死というのは40代で普通のサラリーマンをしている男性、一番危ないですから。ある日突然、離婚してクビになるとか2つ3つ重なったら、あっという間に孤独死まで行くので、これを自己責任と言っていられないですね。となっていくかなという感じがしますね。遠藤さん自己責任論、どう思われますか?

遠藤:本当に今の鵜尾さんのお話をお聞きしていて、自己責任、特に人に迷惑をかけてはいけないという教育が、いい部分もあるんでしょうけど、悪い部分のほうが出過ぎているのかなと思って。インドでしたっけ。ことわざで「人に迷惑を掛けないのではなく、あなたも生きていたら絶対人に迷惑は掛けるんだから、自分が迷惑を掛けられても許してあげなさい」と。そっちのほうがより寛容な社会になるんじゃないかなと思いますね。

鵜尾:そうですね。

遠藤:よりリアル。例えばこの前対談させていただいたD×Pの今井さんとか、ジャパンハートの吉岡さんとかからお話をお聞きすると、「それは個人の責任ではないよな」と思うこともすごくたくさんあるので、それをみんなが寛容になって助け合う世の中になったらいいなと思っていますね。

鵜尾:そうですね。今おっしゃったそのとおりだなと思います。将来介護に遭うかもしれない。認知症になるかもしれない。交通事故に遭うかもしれない。癌になるかもしれないと考えると、誰のサポートも受けないで自己責任だけで生きている人って、たぶん一生と考えたら1割もいないかもね。9割以上の人が誰かの世話にならないと生きていけないという。

遠藤:本当にそうですね。

鵜尾:そのとおりですよ。

社会的なイノベーションの成功事例を一同に集めた「ファンドレイジング・日本」

司会者:ありがとうございます。それでは最後になりましたが、鵜尾さまからまた明日からもいろいろとイベントが続いているということで、お知らせをいただきたいのですがよろしいでしょうか。

鵜尾:ちょうど明日、明後日、明々後日とオンラインで「Social Impact Day」というのがあります。まさに今日話したような、新しい資本主義の未来のかたちとしてのインパクト・エコノミー、インパクト投資、インパクト評価ということで、いわゆるビジネスセクターも含めた世界イノベーションをどう生み出していくのか。

世界を代表するインパクトムーブメントの主導者、ベンチャーキャピタルの父とイギリスで呼ばれている(ロナルド・)コーエン卿をはじめ、インパクトスタートアップ協会の米良(はるか)さんとか、いろんな方々がいらっしゃって議論をしたりする3日間のオンラインイベントがあります。

もう1つ、私たちファンドレイジング協会で、2月18、19日とアジア最大のファンドレイジングの祭典、「ファンドレイジング・日本」というものを開催します。ありとあらゆる企業、NPO、あるいは社会的なイノベーションの成功事例を一同に集めた大会というのを、やる予定です。

もしご興味のある方がいらっしゃれば、これもオンラインですので、ご参加いただければと思います。ヨーロッパのファンドレイジング協会の会長をお呼びして、ウクライナ、コロナの中でヨーロッパは今どうなっているのかということ。

まさに今日話しました幸福というもの。ウェルビーイングを考えることと社会貢献の関係性。社会貢献って人間のウェルビーイングをすごく上げるんですけど、この幸福論では第一人者の前野(隆司)先生とか、いろんな方に来ていただいて2日間開催する予定です。いろんな方が登壇されますのでぜひいらっしゃってください。

司会者:ありがとうございます。すごく豪華ですね。おそらく今日参加されている視聴者の方々は、すごく関心のある分野のお話がたくさん聞けるかと思うので、ぜひみなさまご参加いただければと思います。そして最後に遠藤さんからもお知らせをお願いします。

遠藤:ありがとうございます。その前に鵜尾さんは、こういった情報をどこで一番発信されていますか? Twitterとかですか?

鵜尾:そうですね。1つはネットワークでの口コミ流しなんですけど、もう1つはFacebookとかTwitterなどSNSで発信します。でも、発信に関しては悩んでいる感じです。もうちょっといろんなところに届けたいと思っています。

遠藤:わかりました。鵜尾さんのFacebookとかTwitterのフォローをすればいいということですね。

鵜尾:ぜひ。お願いします。

「働きがい」は生きていく上で大事なこと

遠藤:じゃあ当社のほうも、我々のSangoportのサービスを簡単にお話させていただきます。画面の表示はちょっと古くてD&Iになっていますけれども、DEIを推進する採用マッチングプラットフォームということで、採用支援をやらせていただいています。

あるカテゴリにけっこう特化をしていまして、時短で働くパパ、ママ、シニアと呼ばれる経験35年以上の方々。あとはLGBTQと呼ばれるジェンダーの悩みを抱えている方。ここに特化した採用のマッチングプラットフォームを運営しています。

うちの会社、実は今90名くらいのうち、20~25パーセントくらいが時短で働くママさんでして、週2とか週3、4とかで、みなさん、自身のペースで働いています。「仕事よりも家族を優先してください」と、僕は伝えているので、ある時「子どもとの時間が増えて、子どもがすごく笑ってくれるようになりました」という声をいただくようになった。

先ほどもお伝えしたとおり、僕自身あまりいい幼少期ではなかったんですが、この働き方って自分が幼少期に思っていた問題を解決できるんじゃないかなと思うようになりました。このサービスはうちのメンバーが思いついてくれて、「やろう」ということになりました。

やはり働き方だったり働きがいというのが、先ほどのウェルビーイングじゃないですけど、僕らが生きていくうえですごく大事なことだなと思っていますし、あとは日本全体の問題で言うと、労働人口不足というのはずっと言われていますし、これからも続くことなので、僕らはそれを今お伝えした3つのカテゴリを通して、解消、解決していきたいなと考えております。

なので、採用に困っている企業さんであったり、あとは時短で仕事を探されている方とかもしいらっしゃれば、ご連絡いただければと思っております。以上です。

司会者:ありがとうございました。本日、日本ファンドレイジング協会の鵜尾さまをお招きしまして、貴重なお話をたくさんおうかがいすることができました。それではこちらで本日のセミナーを終了させていただきたいと思います。あらためまして本日ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

鵜尾:ありがとうございました。

遠藤:ありがとうございました。