違いを強みに変えるために必要な「組織スキル」

小田木朝子氏(以下、小田木):方向性が見えてきたところで、次のステップへ行ってもいいですか?

ギャップが生まれる背景は何か、何が課題なのか。変わり方もいろんな道筋があるがあるということだったので、うまく変わるため、この違いを強みするためにはどんな要件が必要なのか、話を前に進めていけたらなと思います。

「組織スキル」という表現をさせていただきましたけれども、違いが強みになる上で必要なエッセンスは何なのか。そんな観点でぜひお二人に共有をいただければと思います。竹内さんがシンキングタイムに入られましたので、沢渡さんから。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):3つの力でまとめてみました。1つ目が「対話力」。

小田木:最近沢渡さんが発信するいろんな問題解決の1つに、必ず「対話」というキーワードが入ってきますね。

沢渡:それだけ対話の重要性が増していると思います。2つ目が「引き出し力」。引き出す力ですね。3つ目が「アップデート力」。この3つのスキルが非常に大事なのかなと思います。

「対話力」で言いますと、世代間でわかりあっていない綱引きが起こってしまう背景には、お互い対話しようとしない、もっと言ってしまえば対話する経験や能力が備わっていないことが挙げられます。

阿吽の呼吸、または一方的に声の大きい人が相手を従えるコミュニケーションの経験はしているんだけれども、相手を観察して、相手の立場を対話によって疑似体験して、そこから違いを明確にしていく経験や能力って、もっと必要なのかなと思うんですね。

人事に求められる「対話力」「引き出し力」「アップデート力」

沢渡:その中で小田木さんもよく使っていらっしゃる、お互いの「期待役割」。「あなたにこういう期待をします。私はこの期待を背負います」。このようにお互いの期待役割を言語化しながら、組織のゴールに向かって走っていく。これも対話力の1つだと思うんですね。

さらにもう少し大きな組織的な話で言うと、組織のビジョンと相手との接点を見出し、動機付けしていく。例えば会社のビジョンとか、部門・部署のビジョンとか、チームのビジョンと、そのビジョンを達成するためにあなたのこの力が必要です。私はこのように力を発揮します、と。この丁寧な対話って、ものすごく大事なのかなと思います。これが1つ目の「対話力」ですね。

そして2つ目が「引き出し力」。本人と相手の意外な強みとか、意外な特性を顕在化し、チームでパフォーマンスを出せるようにしていく。ベテランにはベテランの良さ、中堅には中堅の良さ、若手には若手の良さがあるはずなんですね。もっと言ってしまえば営業の良さ、開発の良さ、管理部門の良さと、それぞれ良さがあるはず。

意外な強みを見つけていくためにも、これはテーマ3でお話したいと思うんですけれども、やはり景色を変えていく。越境してみる。この経験を増やしていくのも、人事組織としてできることではないのかなと思います。

そして3つ目は「アップデート力」です。観察して対話をしてそれぞれの能力や資質を引き出して、それでも足りていないものは身に付けるしかない。ここで昨今言われている、アンラーニング&リスキリングです。

アンラーニングとリスキリングを目的化しても意味がありません。自分たちの目指す方向はこれ。自分たちの持っている資産、能力、意欲、余力はこれだ、と。その上で理想のゴールを目指すためにないものを、補っていくためのアンラーニング&リスキリング。この順序かなと思います。

同じメンバー・同じ環境で「強み」には気付きにくい

沢渡:小田木さん、もう1つよろしいですか? 対話力、観察力、期待役割の話をしましたが、これは前回もお見せした(スライドです)。

これからの時代は組織を牽引する「ファシリーダー」が必要です。ファシリテーター+リーダーに求められる7つのアクションについて、ぜひ2022年11月19日発売の書籍新刊『話が進む仕切り方』を読んでいただきたいんですけれども、私はここでも「観察」「対話」「期待役割」の合意形成をコアの活動としています。

小田木:対話して引き出して、足りない分をアップデートして、頭の中での構成が非常にしやすいですね。

沢渡:ありがとうございます。コメントで「ジョハリの窓かな」とおっしゃっていただいたんですけれども、おっしゃるとおりです。自分たちでは気付かない強みや能力に気付いていく。でも同じメンバーで、同じ環境で仕事をしていても気付きにくいと思うんですね。

ゆえに景色を変えていく。越境を取り入れてジョハリの窓を開けていく。そして能力を開花させつつ、足りないものを明確にして組織で合意形成していく。このプロセスをどう組織の中に作っていくかが、成長する組織、成長する個人のために間違いなく必須のプロセスだと私は思います。

小田木:ありがとうございます。本の一部かなというぐらいまとまっていました。

多様性を「受け入れる」のは、しんどい時もある

小田木:竹内さんにも聞いてみたいと思います。

竹内義晴氏(以下、竹内):沢渡さんに習って、韻を踏むことにします(笑)。

沢渡:なんと! うれしいな(笑)。

※再掲

竹内:1つ目が「多様性の理解」。2つ目が「チームワークの理解」。3つ目が「コミュニケーションの理解」です。

沢渡:ほう! 見事な韻。

小田木:「その心は」のところを聞いていってもいいですか?

竹内:近年「多様性」ってよく言われるようになって、やや流行り言葉みたいになっているところもあると思うんです。でも日本の場合、多様性と言うと、ちょっと前だと少数派の方々に対する態度でしたよね。例えば、LGBTQとか海外の人であるとか、そういった少数派の人を大事にしようというのが、一昔前の多様性だったと思います。

その流れを受けて「多様性を受け入れよう」と、「多様性」と「受け入れる」をセットにして言われることがあるんですが、「受け入れる」ってけっこうしんどい時があって。

例えば自分と考え方がまったく違う人のことを受け入れるというのは、ちょっとしんどい。例えば乱暴な言葉を使う人は、僕にとって受け入れるのはちょっとしんどい。

だけど、自分とは考え方が違うけど「あの人はああいう考え方なのね」と、受け入れはしないがちょっと外に置いておくことだったらできるような気がしていて。「○○さんはこういう考え方なんですね。私は違うけど」とか、「なるほど。確かにそういう考え方もありますよね。僕はこういう考え方ですけどね」という。

世代に「ラベル付け」して捉えるのは多様性ではない

竹内:多様は受け入れなくてもいい。ただそこにある。それが僕は「多様性」じゃないかなと思っているんです。

こういう考え方に立つと、違いを受け入れなくてもいいから、世代間ギャップがあっても「おじさんたちはああだけど、でもそういう考え方もあるか」と、ちょっと距離を置けるようになる。それが多様性なんじゃないかなと思っています。

多様性の文脈でいうと、僕は今51歳なんですけど、「おじさん世代」と言われるようになって。おじさんの世界はけっこう冷たいなって感じることがあるんです。

沢渡:なんと、その世界に入ってみてわかった。

竹内:「おじさんは頭が固い」とか、「おじさんは〜」と言われて世の中世知辛いなとすごく感じるんです。

「多様性が大事」と言うわりには、「おじさんは」と言われちゃう。おじさんは多様性から排除されることが多いんですけど、でも本当はいろんな価値観があるのが多様だと思うので、そういう多様性の理解があってほしいなと思います。

小田木:「おじさん」というラベルをまとめて貼った時点で、もはや多様性は存在しないんじゃないでしょうかと、代表して言いたいと。

竹内:おっしゃるとおり。「世代の特徴を知りたい」というのは重要ではあるんですけど、ややもすると世代にラベル付けをして、「あいつらこうだ」と捉えてしまいがちです。本当はそもそも、一人ひとりが多様なんです。それが本当の多様性だと思っています。

「チームワークの定義」を変える必要がある

竹内:2つ目の「チームワークの理解」は、日本のチームワークはどちらかと言うと「同じ釜の飯を食べる」とか「価値観が同じ」とか「一致団結して」っていうイメージがありますけど、一昔前の同じものを大量に作る時代だったら、それでもよかったと思うんです。

沢渡:おっしゃる通りです。

竹内:今は少数のものをたくさん作る時代だし、売れない中でどうやって新しいものをクリエイトしていくかとか、人がどんどん減っていく中でどう新しいやり方で対応していくかという時代です。

そのような時代には、同じ考え方、同じ価値観よりも、むしろ一人ひとりの個性を大事にして、そこをうまく組み合わせていくのが重要で、おそらく「チームワークの定義」を変えなくちゃいけないのかもしれないですよね。

それぞれの強みを活かして、誰かの弱みを助けながら、同じ理想に向かって歩んでいく。そうやってチームを作るのが本来のチームワークだと思います。理解を変えていく必要があるのかなっていうのが2つ目。

3つ目を「コミュニケーションの理解」にしたんですけど、最近チームワークを良くするために「相手の話を聞きましょう」とか「1on1をしましょう」みたいな方法論がけっこう流行っているんです。

ただ、実際問題多様な人たちを受け入れるために、いろいろ1on1でやろうとするけど、いざ2人きりになったら、今までのように責め立てるコミュニケーションになってしまったり、あるいは尋問のような1on1になってしまったり。

それだと受ける側としては最悪ですよね。なので「なるほど。あなたはそう考えているんだね」という、話を「聴く」スキルが、さっきの1・2を実現するためにも必要なのかなって思います。

「ビジョンなき多様性は多様性ごっこ」

沢渡:ありがとうございます。小田木さん、2ついいですか?

小田木:はい、どうぞ。

沢渡:竹内さんのお話から2つ感じたことがあって。1つが「チームワークの定義を変えなければならない」って、まさにおっしゃる通りだと思うんですね。

どうも日本は過去の製造業型、大量生産型の同調圧力的なカルチャーが長すぎて、それが今は成長の負債になっていると感じています。WHO(世界保健機関)が発表した国際レポートでも、日本は特に「受容度」と「自由度」の2つが先進諸国に比べても著しく低いとなっているんですね。

ここをスキルでもって、さらには仕掛けでもって変えていく取り組みが、あらゆる組織で求められるのかなと思います。

もう1つが多様性の話ですけれども、私はよくこう言っています。「ビジョンなき多様性は多様性ごっこ」だと。ただ単にいろんな人材を(集めたところで)、話を聞いただけで何もしません、何も変わりませんでは、変革も改革も起きないわけですね。

そのコミュニティや組織において「こういうビジョンを目指したい」と。そのビジョンに共感した人、貢献できる人、理解できる人をどう集めていくか。これがないと、組織体である以上成り立たないと思うんですね。

ですから、ビジョンを発信して、ビジョンに共感する人を「この指止まれ」で仲間を増やしていく。それを「ブランドマネジメント」と言いますけれども、そういった行動や支援がこれからの時代はものすごく大事なのかなと思います。

ブランドマネジメントに関しては、来月の「90分腹落ちセミナー」で少し解像度を上げてお話ししようかなと思いますので、来月までお待ちください。

小田木:ありがとうございます。