「DXめちゃくちゃ成功しています」という会社は例外的

渡邊大介氏:今回、店舗とDXをテーマとしたカンファレンスだと思いますので、この流れに則していろいろとお話をしていきたいなと思います。ここでみなさんに1つ、問いかけをしたいなと思っています。

みなさんの会社のDX、どの程度進んでおりますでしょうか? なんとなく頭の中、胸の中で、実際こんな感じじゃないかと思い浮かべながら聞いていただきたいなと思うんですけど。

私のキャリアとしては、サイバーエージェントで広告のデジタル化、人事のデジタル化をやって、現在は接客のデジタル化というかたちで(キャリアを重ねてきました)。特にこのGepooという会社は2017年に立ち上げたので、ここ5年くらいは、B2Bのビジネスのデジタル化を手伝わせていただいていることが多く、累計100社以上の何らかのデジタル化に関わらせていただいていると思います。

その感覚からひもといてみても、「今、めちゃくちゃうまく行っているよ」「自社のDX、めちゃくちゃ成功しています」と答える会社に出会う機会は、本当に少ないなと思っています。

みなさんの中に、もしかしたら「めちゃめちゃうまくいっていますよ」という会社さんもあるかもしれませんが、もしそういった会社さんがいたら、ぜひいろいろと教えていただきたいなと思います。

多くの会社さんが何らかのハードルや障害(に直面していたり)、あるいはもともと持っていた目的を達成しないまま、今に至っているんじゃないか。むしろそういう会社のほうが多いんじゃないかなと、私個人の感覚としては捉えております。

ビジネスの世界から見ると、なかなかピンとこないDXの定義

なぜDXが本来あるべき姿になっていないのか。うまくいっていないのかというところを、少しひもといていきたいなと思います。こういったDX系のカンファレンスや書籍にあたってみると、デジタルトランスフォーメーションは、だいたいこういう整理や定義がされていると思います。

表示しているスライドは、2018年に経産省から発表された「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討」という資料の一部を抜粋したものです。こういった本質論的な定義がなされているかなと思います。

もともとこのデジタルトランスフォーメーション、DXという言葉自体は、2004年にエリック・ストルターマンという大学教授が提唱したものです。それを企業や特定の分野にも転用していこうというかたちで、特に赤枠のような定義がなされているんじゃないかなと思います。

簡単に読み上げると、「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステムの変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確率することである」と定義されています。

しゃべると噛みそうになるぐらいの定義ではあるんですが、みなさん、この定義を聞いてピンと来る方っていらっしゃいますかね。私もいろんな本や論文にあたったりして、言いたいことはなんとなくわかるんですけれども、正直ビジネスの世界では、なかなかピンとこない定義だなと感じています。

日本でもDX関連のいろいろな書籍が数十冊出ていて、「はじめに」とか「第1章」でこのような定義がなされていると思います。とにかくDXというものは、「どうやら単なるデジタル化ではなさそうだ」というところと、「本質的な経営戦略やビジョンにひもづいて、経営が意思決定して進めなきゃいけないものだよね」と書かれている。文献などにあたっていると、そういったところがわかってくるかなと思っています。

実際にこの資料の後半を見ていただいても、このように指針が提示されています。DXは経営戦略やビジョンとひもづいているべきですし、経営トップのコミットメントを必要とするものです。そのための体制や仕組み、あるいは実行プロセスもきちんと整えていかないと、実行は困難なものであるという定義や仕組みの説明がなされていると思います。

「デジタルトランスフォーメーション」の検索推移は下降

これらは正論だなと思いますし、何1つ間違ったところはないなと思うので、否定するべきものではないと思うんですけれども。正直、私や私が対面している顧客との会話ではこうした感想があります。

「言っていることは理解はできる。ただ、環境変化が激しい現代において、そういう理想論だけでは正直やってらんないよね」という感想とか。いったんは長期的な視座や崇高な理念に共感をして取り組んできたんだけれども、経営レイヤーの意思決定なので、正直効果が出るまでに数年かかるんですよね。

この数年のうちに、なかなか結果が出なかったり、(企業を)取り巻く環境自体が、それこそコロナだったり、世界では戦争が始まったり、日本の円安が続いてしまったりということで変化が激しい。思ったような成果につながらなくて、ちょっとめげそうであるというのが現実のところなんじゃないかなと感じ取っています。

このような感覚が、我々の主観的な思い込みによるものなのかどうかを確かめたくて、こんなデータをお持ちしました。Google Trendsにとあるキーワードを入れた時の検索の推移を表しているものなんですけれども。何のキーワードを検索しているか、おわかりになるでしょうか。

今までの流れもありますので、「あれでしょ」とお気づきの方もいらっしゃるかなと思うんですが、こちらは「デジタルトランスフォーメーション」の検索推移です。この言葉自体は2015年ぐらいから徐々に検索数が上がり始めて、コロナを境に急激な伸びを見せて、実は今は下がっているんですね。

今はデジタルトランスフォーメーション全盛期のような感じがするので、下がっているのは意外に感じる方もいらっしゃるんじゃないかなと思いますが、現時点では世の中の関心は下がってきているというところが、ファクトかなと思っています。

DXには、テーマの異なる3つのフェーズが存在する

この第1期、第2期、第3期というそれぞれのフェーズによって、テーマが異なっていると思いますので、整理させていただきます。

まず、DXと叫ばれ始めた2015年前後ですね。この時に言われていたキーワードは、すでにちょっと懐かしい感じがするんですけれども、「ビッグデータ」「インターネット・オブ・シングス(IoT)」「クラウドコンピューティング」。今となってはクラウドは当たり前のものになり始めていますが、こういったものとセットでDXは語られてきたかなと思います。

先ほどのグラフをご覧いただいたとおり、(第1期は)地道に伸びてきているんですが、急激な伸びを見せたのがCOVID-19だったかなと思っています。

このタイミングでは、ビッグデータやクラウドといったものよりは目的ですね。非対面、非接触、あるいは脱労働集約型のビジネスが求められていたので、それに合わせたデジタルトランスフォーメーションが、一気に世の中に普及したんじゃないかなと捉えています。

具体的にはSlackや、まさにこの画面がそうですけれどもZoomとか。そういったツールの導入が一気に促進されたのが、この3年間くらいだったんじゃないかなと思っています。

これらはある種のファッズ(一過性の小さな流行)のようなものと思うんですが、それが終わって、少しダウントレンドになっているところが、現時点のDXに対する世の中の関心かなと捉えています。

もっと伸びていくべきデジタルトランスフォーメーションへの関心が、少し下がっている要因の1つは、第1期あるいは第2期のデジタルトランスフォーメーションが企業主体で企業のためになされてきたのではないか。だからこそ、今は少し落ち着いたマーケットになってきてしまっているのではないかという仮説を立てています。

具体的には、今までのデジタルトランスフォーメーションは、いかに自社の生産性を上げるのか。あるいはいかに自社がほしい顧客データを取得するのか、といった視点で作られたことが多かったんじゃないかなと捉えております。

DXにいち早く対応した、ある自動車メーカーの現状

これは、我々も仕事を通して思うところが多くあります。こちらは実際の我々の仕事から得られている1つの事例で、自動車業界に対しても大きくソリューションを展開しております。

自動車業界はまさに人口動態の変化や、世界的な市場の変化に影響を受けやすい業界の1つと捉えていますが、DXの要請も非常に強かったんです。かつ、DXに対して対応も非常に早かった業界の1つと捉えています。

これは、とあるメーカーさんと系列のディーラー(自動車販売会社)さんの事例です。メーカーは2014年くらいから、デジタルトランスフォーメーションに大型の投資をしていると聞いています。

大規模な顧客システムの改修、あるいはユーザー接点も今後デジタル化されてくるだろうというところで、アプリにものすごくお金を掛けています。

今まで営業がやっていた仕事を全部代替できるような多機能なアプリを開発をして、メーカーがそこに思い切り投資して、(施策として)推進して、作ったものをディーラーさんに導入していくという流れで、ここ数年間やってきました。

これ自体はまさに1.0、ないし2.0な感じの取り組みですが、ここまで聞いていると何ら批判すべきものではないかなと思います。ただ実際に我々がディーラーさんの現場にヒアリングに行くと、こんな声が聞こえてきました。

簡単にお伝えすると、サービスあるいはツール自体は何とか導入され、ログインされる状態にはなっているし、使えるようにはなっている。ただ、使い勝手が悪い。あるいはお客さまにお勧めしづらいので、利用が促進されていない。デジタルっぽい言葉で言うと「アクティブでない状態」になってしまっていると、よく耳にしております。

“現場や顧客を置き去り”のDXにしないために

先ほど定義のところでもお話させていただきましたが、本質的なデジタルトランスフォーメーションとは、経営戦略やビジネスモデルそのものを改革していくこと。ステークホルダーを巻き込んだ改革になるべきだと語られることが多いと思います。

それが今までのDX第1期、第2期の在り方だと、どうしても現場やその先にいる顧客を置いていってしまっているところがあったんじゃないかなと捉えています。

ここまででまとめると、企業主語の理想に囚われすぎてしまうと、なんとなくデジタルのツールが入っていて使えるようになっていても、ユーザーのためになっていなかったり、長期的な強みにつながっていない。そういったことが今、現実問題として起こってしまっているんじゃないかなと思います。

みなさんの立場からすると、理想はわかるけど目の前のお客さまにきちんと対応しないと、結果的には長期的な目標達成をする前に息絶えてしまう。そんなところが、実は今デジタルトランスフォーメーションへの関心が下がってしまっている1つの要因ではないかと捉えています。

理想を追い求めることも非常に重要だと思いますが、一方で現実的な成果を積み上げていくことも両方同時に重要かなと思います。我々、デジタルトランスフォーメーションを担っていく担当者は、まさにこの両極を行ったり来たりして、反復横跳びのように思考を切り替えていく。マージしていく必要性が本当に重要なんじゃないかなと捉えております。

デジタルマーケティング領域にも共通する課題感

企業が主体となって、ユーザーを置いていってしまっているという問題は、実はDXだけではなくて、デジタルマーケティングの領域でも同様に起こっています。

簡単にレビューをさせていただきますと、デジタルマーケティングもだいたい同じようなフェーズ分けができると思っています。例えば日本でいうと1996年にYahoo!JAPANができて、1997年に楽天、1998年には私の古巣のサイバーエージェントができて、1990年代後半からいわゆるネット広告が隆盛を極めるようになってきたと捉えています。

これを第1期と定義すると、当時のテーマはバナー広告やメール広告でした。当時はテレビ、新聞、雑誌、ラジオというかたちで、4マスメディアがまだ支配的になっていたと思うんですが、その一番下にインターネット広告があった時代ですね。

ここから徐々にこの順位を上げて行きながら、2010年には、もう少しデジタルマーケティングが柔軟でダイナミックになってきました。オーディエンスデータを活用していこう。あるいは、何とかかんとかオプティマイゼーションという言葉がよく言われ始めたのも、この時期だったかなと思うんですけれども。

よりデータを主体としたビジネスをしていこうというのが、2010年から今に至るまでのデジタルマーケティングの進化の系譜だと認識しています。

これらの進化も先ほどのDXと同じように、やはり主語も目的語も「自社」「企業」だったなと思っています。この中に実際にデジタルマーケティングご担当の方がいれば「わかる、わかる」と頷いていただけるんじゃないかなと思うんですけれども。

リタゲ広告に見られる、焼き畑・刈り取り型の手法

やっぱりデジタルマーケティングは、短期的なKPI。コンバージョンという言葉がありますが、コンバージョン偏重、CPA偏重で進化してしまっている。未来の投資をしていくブランディングなどと比べると、焼き畑的・刈り取り型と表現されるように、どちらかというと短期的な視点で繰り広げられるものが、多かったかなと捉えています。

その代表的な施策の1つが、リターゲティング広告だったんじゃないかなと思っています。リタゲを知らない方もいらっしゃると思うので、少し簡単に説明をさせていただきます。

私は実際に飲食店に関わってもいるんですが、例えば私が飲食店の店主だとします。店主として、そろそろLINEアカウントを立ち上げようということで、LINEのサイトに行きました。いろいろ情報を調べたあとに、一定の情報収集は終わったので、「違うニュースでも見るか」と思って、gooニュースに行ったとします。そうするとLINEの広告が出てくるんですね。

みなさん、こういう経験はありませんか。少し前までスニーカーを見ていたら、違うサイトでもスニーカーの広告に追いかけられたり、ショッピングサイトなどを見ていたら、次のサイトでもそのショッピングサイトの広告が出てくるような仕組みがリターゲティング広告です。

訪れたサイトに対して、ユーザーさんをターゲティングして追いかけていくことを、リターゲティング広告、あるいはリマーケティングと言います。一度サイトに来てくれたユーザーさんをターゲティングするので、非常に確度の高いターゲティングになるんですね。

先ほどの短期的なKPIとか焼き畑的な思考でいうと、非常に効果的であると。実際、私自身もリターゲティング広告を活用していたこともありますし、なんなら頼って来た経緯もあるので、一概に悪いとは言えないんですが、こういった施策が評価されてきました。

企業の評価は高くても、ユーザー体験にはマイナス施策

一方で、主語をユーザーに切り替えてみます。みなさんもユーザーの立場になって考えてみると、おわかりいただけると思います。ちょっと言葉は悪いんですが、ストーカーに追いかけられているような印象も受ける施策になっています。企業からは非常に評価が高いんだけれども、ユーザー、生活者からは評価が低い施策。これが企業が主語のデジタルマーケティングの進化がもたらした実態ではないかと思っています。

今まではずっと(これが良い施策だと)考えられてきたんですけれども、やっぱりインターネット上のユーザー体験を良くしないものだと評価されることが多くなってきました。そこで、AppleやGoogleなどのいわゆるメガプラットフォーマーを中心に、こういった施策を禁止していこうという流れが出てきています。

2023年にGoogleがこういったものに対策するという話も出ておりますので、これ以降はリターゲティング広告の手法は、存在感を潜めていくんじゃないかなと捉えています。

このようにDXにおいても、デジタルトランスフォーメーションにおいても、企業が主語、目的語になっているような施策は徐々に徐々に廃れてきています。また、手法としても焼き畑的な手法は、なかなかマーケットと相容れない場合が出てきていると思います。

こういった施策を続けた結果、エンドユーザーに好かれていないとか、短期的な関係性で終わってしまったり、せっかく作ったデジタル顧客接点がアクティブでなくなってしまう。先ほどの自動車業界の事例は、まさにそうですね。大型の投資をして、いろんな顧客接点を使っているのに使われていないといったところが、非常に大きな問題になっているんじゃないかなと思っています。

DXもデジタルマーケティングも、本当に考え方の転換が求められていると思いますし、この転換点は本当にチャンスだなと捉えています。

Webサイトを起点にした、デジタル施策の盲点

こういった転換点とは別に、今後おそらく1年から3年くらいのスパンで、経済的にいいニュースはなかなか期待できない。新規の顧客獲得よりは既存のユーザーさんをどう大事にできるか。エンドユーザーにどうやって好かれていくか。短期的ではなく長期的な関係をどう作っていけるのか。

あるいは今、非アクティブな顧客接点をどうやってアクティブにできるのか。こういったところが本当に重要になってくると思っています。

2.0とか3.0とかと言うとややこしくなるので、あまり使いたくはないんですけれども。明確に思考をアップデートする意味でも、あえて使わせていただくと、今までの企業が主語のDX1.0、2.0的な思考から脱却して、お客さま起点のDXを3.0と定義させていただいて、こちらへの思考のアップデートが必要かなと思います。

本来的なDXの定義からすると、意味的に矛盾していることは理解しつつ、エンドユーザーさんに使ってもらえるDXが、本当に必要になってくるんじゃないかなと考えています。

こうしたお客さま第一主義的な取り組みは、それこそ理想論じゃないかと言われるかもしれません。ただ、あらゆるメディアやサービス、プラットフォーム、テクノロジーが進化してきている中で、それらを駆使して徹底的に使い倒すことで、LTVの最大化を目指せるんじゃないかなと捉えています。

このようなLTV思考が、今後必要になってくると思います。これらを満たしたDXあるいはデジタルマーケティングの施策の要点は、3つ挙げられると思っています。それぞれご説明したいと思いますが、1つ目がそのサービスや施策に「アクセス」しやすいかどうか。具体的には、iPhoneの1画面に入っているようなサービスから、アプローチできているかどうかが非常に重要かなと思っています。

デジタル系の施策を考える時は、Webサイトを起点に考えることが多いと思います。ただ、Webサイトって、スマホを開いてブラウザを立ち上げて、検索エンジンに何らかの検索キーワードを入れてようやくアクセスできるぐらい、実はアクセシビリティが悪い施策なんですよね。

そういう意味では、Webサイト以外にも、もっとアプローチしやすいメディアを活用して、ユーザーとの接点を作る必要があるなと思っています。これが1つ目。

デジタルな顧客接点をデザインできる人材へのニーズの高まり

2つ目。3つ目も併せて説明させていただきたいんですが、顧客接点においては、エンドユーザーにとって使ってもらいやすい。あるいは楽しんでもらえるような機能群、コンテンツ群が重要かなと思っています。

今までのDXやデジタルマーケティングは、どちらかというと企業がお伝えしたい情報でした。「新商品が出ました」「こんなキャンペーンやってます」という情報を投下するだけの顧客接点が多くて、あまりユーザーベネフィットがなかったかなと思います。

ユーザーがふだんの生活をする上で「役に立つよね」「ぶっちゃけ、これ楽しいよね」と思ってもらえるような要素を、どんどん盛り込んでいく必要がある。それによって顧客接点をアクティブにしていくことが、今後重要になってくると考えています。

最近CXとかUXといったキーワードが謳われていますが、デジタルな顧客接点をデザインできる人材の重要性が非常に高まってくると思います。我々は、これを「コミュニケーションデザイナー」というふうに定義しています。

今までデジタルマーケターやWebマスターの重要度が高まってきたと思いますが、それと同様に顧客とのコミュニケーション、体験をデザインする人間の重要性が、今後高まってくると捉えています。

現場とユーザー起点のDXで、自動車の点検予約フローを改善

こういった3つの要素のうち、いきなりすべてを満たすのは難しいと思いますし、我々もすべてを満たせているわけではないですが、この3つの要素のうち、2つを満たしている事例をご紹介します。

我々は自動車業界だけを対象にしているわけではないんですが、自動車業界でうまくいっている事例があるので、ご説明いたします。LINEとチャットボットをうまく組み合わせて、3つの要素のうちの2つを満たすような施策をして、好評を得ているものがこちらになります。

この中で、新車を購入された方にはおわかりいただけると思うんですが、新車購入されたあと、半年後の定期点検や1年後の1年後点検があると思います。その点検の予約作業の多くは、今でも電話やメールで行われていたりします。

営業スタッフのみなさんが、物理的に顧客名簿を見てお客さまに電話を掛けて、すれ違いながらなんとか予約を取っています。ものすごい負荷が、スタッフにもお客さまにも掛かっています。LINEとチャットボットを組み合わせることで、こうした負荷をすべて自動化していきましょうという取り組みをしています。

LINEというiPhoneの1画面目に入っているアプリケーションを使っているので、非常にアクセスしやすく、予約を全自動化しているので便利です。有益な機能を満たしているということで、こうしたサービスを提供させてもらっています。

本当にシンプルな仕組みで、車を買ってもらった時にQRコードを読み込んでいただいて、自分の情報と買った車の情報を登録していただきます。これでもう準備万端で、半年後や1年後の車検のタイミングが来た時に、自動で通知が届きます。

その通知を開いていただくと、すぐに予定を調整して、そのまま受付完了ができるという、シンプルながらも強力な仕組みを実現しています。これによって、だいたい1ディーラーあたり、営業スタッフ1人分くらいのコスト削減に成功しています。

当然すれ違いなどもなくなってくるので、顧客の負荷も軽減され、現場のステークホルダーからも、非常に好評を得ています。

目の前の課題を解決でき、有益な顧客データも取得可能

先ほどの理想と現実の反復横跳びで言うと、まず現実の課題を満たす施策になっています。この施策を続けていくと、あるいは長期的な視点から解釈をすると、この仕組みによってLINEとチャットボットを通して、自動車購入者のLINE IDが取得できています。

加えてチャットボットなので、会話データという、特殊なインサイトデータを取得することも可能です。こういったデータとCRMを連携することで、例えば営業マンの方が、新車が出た時に購入や買い替えをしてくれそうな顧客リストに、プッシュ型のアプローチをすることもできます。

CDP(Customer Data Platform:顧客一人ひとりの属性データや行動データを収集・統合・分析するデータプラットフォーム)といったテクノロジーとうまくつなぐことによって、類推拡張のような新しい広告ターゲティングの手法にも活かすことが可能かなと思っています。

我々のサービスを通して、あるいはLINEでチャットボットの仕組みを通して情報を取得して、その情報をもとに営業活動を強化したり、新しい広告ターゲティングへと進化できる。長期的な視点でもこういった現実的な実績の積み重ねは、非常に重要だと考えています。

チャットボットを介した会話データも、重要なデータ資産になると思っています。今年3月頃の記事だったと思うんですが、『Forbes』の本国版の記事で、「Zero-Party Data Is New Oil」という記事が上がっていました。

「Zero-Party Data」という耳慣れない言葉が紹介されているんですけれども、定義は「個人が広告主に対して意図的に共有するインサイトデータ」。

まさにチャットボットでのデータは、一人の生活者が積極的に公開してくれるデータで、まさに「Zero-Party Data」の定義にはまると思います。この「Zero-Party Data」をきちんと活用すると、プッシュ型の営業活動や新しい広告ターゲティングにも活かしていけると思っています。こういった会話データの重要性は、今後も高まってくると捉えています。

国内外で活況を見せる、チャットコマースの展望

このような領域が、日本で言うとLINEになりますが、世界ではFacebook Messengerなど、他のチャットインターフェースのサービスもあると思います。

そうしたチャットインターフェースとチャットボットを組み合わせて、マーケティングや接客体験に活かすビジネスが、チャットコマースやC-Commerceと定義されています。

こういったサービスが資料請求やセミナー参加など、いろんなところに活用されていて、めちゃくちゃ注目を集めています。海外では2桁億超の資金調達をするような会社さんが、たくさん登場してきています。また、世界的なコンサルティングファームである、ボストンコンサルティンググループが膨大なレポートを書いていたりと、注目を集めてきています。

このテーマについて、日本でも半年遅れくらいで活況になってきていて、さまざまなメガベンチャーやスタートアップが参入しています。チャットインターフェース×チャットボットを組み合わせてデジタル顧客接点を作っていこうという流れは、今後加速してくるかなと思います。みなさんもぜひ、この領域に注目いただければと思います。