ネガティブな課題も、発想の転換で「ポジティブ」に変える

永井翔吾氏:もう1つ、トリイソースさんの例です。資金不足もありまして、なかなかプラスチックの容器が(開発)できなくて、瓶でソースが売られていたんです。瓶って回収しなきゃいけないから「めんどくさい」とか「少し重いから買いたくないよ」ということで、少しデメリットになっていたんですが、「逆に瓶だから良くない?」と発想を転換した。

「瓶のほうが環境に優しいよね」という価値を打ち出していったことで、環境に優しいソースというかたちで、かなりうまく売れるようになってきたという例があります。

社内で「これがボトルネックだよね」と言われてるものや、「うちの会社はこれがデメリットだよね」と言われてるものも、うまく解釈を変えるとポジティブになったりもします。そういう観点で、転換いただけるといいんじゃないかなと思います。

この例で言いますと、今まで課題と思われていたものがプラスになる場合や、社会文化レベルで新しい価値観が広がってきている時は非常にチャンスです。

今、SDGsや環境負荷とかいろいろ言われてますが、大きく「THE資本主義的なモデル」から「よりサスティナブルなモデル」に変わってきています。

THE資本主義的な環境やルールの中ではデメリットだったけれど、どんどんプラスに置き換えられるものが増えてきています。そういうものを狙っていただくのは、非常にチャンスなんじゃないかなと思ています。

新規サービス開発の際は、物事を「分解」して考える

最後の例としましては「また登場かよ」って感じなんですが、課題はWho・Where・Whenの組み合わせになりますので、それを分解して考えていただいて、そのうちの1つをひっくり返してもらうようなイメージです。

ポケットドルツの例です。歯ブラシは「歯をきれいにしたい」というニーズに対するソリューション方法です。「歯をきれいにしたい」が具体的にどういうシーンで生まれてくるニーズなのかというと、会社員が自宅で歯を磨く時ということで、この「自宅で」というのをひっくり返して、自宅ではなく外出先で使うようににしてみたらどうかと。

「会社員が外出先で歯を磨く時」にした場合には、「持ち運びをしたい」ということになります。持ち運びができる歯ブラシってどういうものなのか? ということで、ポケットドルツが生まれたと言われています。

既存のいろんなサービスを考えて、どういうシーンで使われてるものなのか、誰が使っているものなのかを分解して考えるのは、新しいサービスを作りやすいです。「じゃあ、これをひっくり返したらどんなサービスになるんだろうか?」と考えると、新しい、アップデートされたサービスが考えられます。

例えば、化粧系は女性が使うものなので、「女性」を転換して「男性」にしたらどういうサービスになりそうかとか、そういうことも考えていただくと、かなりいろんなアイデアが出てきます。

ここだけ最後に触れさせていただければと思います。アナロジー思考では「イルカ」から「哺乳類」「生き物」「実在するもの」というかたちで抽象度を上げて、抽象度を上げたものと共通点のあるものを探していきます。

ですが転換思考では、抽象化したものから真逆のものに飛ばしてさらに発想を広げていきます。この図の通り、「思考すること」をここまで体系化に図式化してるものがないので、みなさんもなかなか見ないかなと思います。

「中途半端なものは全部切り捨てる」ことも大切

説明させていただくと、アナロジー思考はあくまで効率的に発想を飛ばすものなんです。世の中、組み合わせといったら本当に無限にあるので、少なからず共通点があるものに飛ばしていくのがアナロジー思考です。

共通点がある物事になりますので、これは効率的に思考を飛ばしてるんです。一方で転換思考は、抽象化して思いっきり真逆に振るんです。つまり、一番遠くに(発想を)飛ばしてるんです。

真逆の物事まで思考を飛ばすので、もちろんうまくいかないこともあるんですが、時々、「うわ。確かに、みんなはわからなかったかもしれないけど見つけちゃったよ」「確かにこれはいけるかもしれない」というものが見つかる。“北極から南極に飛ばす”のが、転換思考なんですね。

この「アナロジー思考」と「転換思考」が、一番いい組み合わせだと思っています。物事のつなぎ方は無限にあるので、全部はやれません。共通点があって効率的に飛ばせるものと、ブレークスルーになる可能性があるもの2つにフォーカスしているのが、アナロジー思考と転換思考です。

そして、この間にある中途半端なこと。効率的でもないしブレークスルーするわけでもない、真ん中にめっちゃたくさんあるものは、思考上捨ててしまっているんです。

もちろん、組み合わせによって新規事業やイノベーションが生まれるのであれば、ありとあらゆる世の中のものをつなげて考えていきたいんですが、それは無理なので。いかに効率的につなげるかというと、中途半端なものは全部切り捨てるというのが、アナロジー思考と転換思考の組み合わせです。

逆に言うと、みなさんが新しいアイデアを出したり新規事業を考えたりしていく中でも、アナロジー思考と転換思考を使っていただいて、よくわからない中途半端な物事全部切り捨ててしまって問題ないかなと思います。

ビジネスモデルにも使える「2次元マトリックス」とは

話が長くなってしまったんですが、最後に、転換思考の解決方法を考える上で非常に重要で効率的なのが、2次元のマトリックスで考えることです。

「どういう次元でマトリックスを取るのか」というのがあるんですが、2次元で考えますと、「じゃあ、反対側の真逆の象限ってなんだろうか?」と考えることによって、新しいアイデアを生み出すことができます。

これは「私が」というよりかは、イノベーションの鬼と呼ばれた濱口秀司さんがブレイク・ザ・バイアスで2次元マトリックスをよく説明されているので、ぜひみなさんも濱口さんのものを見ていただければと思います。

例えば、濱口さんがUSBメモリを生み出した時の考え方が、実際に図式化されています。今後、世の中の常識は違うところに動いていくだろうということであれば、自分たちはどっち側に行くんだ? ということで、あくまでデータとしては触れられるものを作ろうと、USBメモリを作ったと言われております。

このへんは『SHIFT:イノベーションの作法』という濱口さんの本から引用させていただいたんですが、新しい転換思考をする時にも、「まずはこれってどういうモデルなんだろう?」「どういう関係性なんだろう?」というのを、2次元のマトリックスで起こす。

「今はここにいて、反対側を取るとこうだよな」「今はここにいるけど、世の中の話はこっちに移っていきそうだよな」「じゃあ、逆張りしたらどうなるんだろう」と考えていただくと、非常に有効です。

ビジネスモデルを考えたりする時に、この2次元マトリックスは非常に有効に使えるんじゃないかなと思います。

機械と人間を分けるポイントは「知覚」

フレームワークではないんですが、私自身も非常に重要だと思っている点を最後にお話しさせていただければなと思います。「知覚ドリブン」なんですが、これからますます知覚が大事になってくると思っています。

機械も人間もそうだと言われてるんですが、基本的には、インプット、思考(スループット)、アウトプットという流れで動いてます。

そして人間には、インプットの中に、客観的にぱっと見たものと、実際に脳で思考の対象となるものの間には「知覚」があると思っています。どういう意味かというと、みなさんが同じ景色を見ていても、考えることはぜんぜん違うじゃないですか。

客観的にはみんな同じ情報を取っていても、客観的な情報が一人ひとりの脳に入ってきてる時は、思考するための素材といいますか、料理するための“具材”がぜんぜん違うものになってるんですね。

赤いものを見た時に、例えば情熱的に「わーっ」と思う人もいれば、もしかしたら赤に対してトラウマがあって「すごく怖い」と思う方もいらっしゃったりすると思います。「赤いものを見た」という客観的なインプットは変わらないんですが、そこに対して知覚が入ってきて、知覚を経由して思考の「対象物」になっていく。こんなこと、機械では絶対にないですよね。

今後、基本的なアウトプットや思考は、どんどん機械もできるようになってくるじゃないですか。そうすると、インプットと思考の間にある自動的な解釈(知覚)が非常に重要になってきていて、ここが機械と人間を分けるポイントだと思っています。

そして知覚を鍛えるためには、深く思考していくことやアウトプットを出すことによって、行動したりとかいろんな体験をするのが非常に重要です。

どの情報をインプットして、思考するための”具材”にするかが重要

こんなフレームワークの思考法の本を出しておいて言うのもなんなんですが、例えばこのフレームワークがもう少し画一化してきたら、もしかしたら機械ができるようになっちゃうかもしれないんですよね。

元も子もないんですが、今度はAIが勝手にトレードオフを見つけてきて「こういうサービスどう?」と紹介するような世界が、10年後、20年後には訪れちゃうかもしれないんですよ。そうすると、思考はAIによってどんどんリプレイスされてくる。

さらにアウトプットも、現状では正確に・早く・大量にやるものに関しては、人間はロボティクスに勝てないじゃないですか。いろんなモデルを考えることも、データさえあればAIに勝てなくなってきちゃう。

そうなってくると、思考やアウトプットでも、事前にどういう情報を頭の中にインプットして“具材”にしていくのかという、知覚が非常に重要になってきます。ここが、機械と人間を差別化する最後のポイントなんじゃないかなと思っています。

いろんな経験をして、いろんな感情で、いろんなことを考えたり、いろんな人とやっていると知覚が育まれていくので、1人でずっと仕事してる人に比べれば、同じ情報を受け取ってもいろんなものを吸収し、解釈して、思考の材料にしていけます。

今後、知覚は絶対にポイントになってくるので、ふだんから深く思考したりアウトプットして、行動していただくのが大事になってきます。

最近は「デジタル健忘症」なんて言われちゃったりするんですが、いろんな情報を全部パソコンに暗記させたりと、とにかく効率化させる。全部を機械がやって、自分は効率化された生活を生きると、深く思考したり、アウトプットして行動したり、感情を感じることが減ってきてしまって知覚力が弱まっちゃうんです。

知覚がポイントになること前提にすると、効率化しすぎたり、深く考えない生活をしていくのは、ますます機械・AIに自分自身が代替されていってしまうリスクを高めていくことになってしまいます。

ぜひみなさんも、深く考えたり、たくさんアウトプットして行動しながら、知覚を高めていっていただけたらすごくいいなと思います。すごく長くなってしまったんですが、私からは以上です。みなさん、どうもありがとうございました。

(会場拍手)