上司の「問いかけ」が「誘導尋問」に感じる

松原嘉哉氏(以下、松原):次の質問は匿名さんですかね。もし名乗り出られるんだったら名乗っていただきたいですが、「上司の問いの意図が見え透いていて、『これはあなたが答えに誘導してるじゃん!』と思うことがあります。逆の立場で考えた時、誘導尋問にならないように『問いかける』ことは難しいと思うのですが、気をつけるべきことは何ですか」ということです。

質問者2:私です。

松原:そうですね、問いかけがちょっと誘導してる感じに見えることもありますよね。

質問者2:ちょっとだけ補足すると、(上司は)コーチング的な問いかけをしようと意識してくれているんだと感じるんですけど、同時になんか言ってほしいことがあるんだなってわかるので、逆にめんどくさくて。もうそれなら直接言ってくれて大丈夫って、部下的には思ったりするわけですよ。でも逆の立場に立った時に、自分もそうしちゃうかもなと思って。

要は問いかけのフォーマットを変えているだけだと、相手からだと誘導尋問に見えるだろうなと思っているんです。そうならないように気をつけることが何かあれば教えてほしいです。

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下、ピョートル):誘導尋問は、何が悪いんですか?

質問者2:例えば私がマーケティング部で何か商品を担当していて、「テレビCMを出したほうがいいですよね」という結論にしたくて、手法から聞いてくるような。

ピョートル:例えばどういう質問になるんですか? 

質問者2:例えば「次のマーケティング施策はどんなこをやろう?」と聞かれた時に、「どう思ってる?」みたいに聞いてくれるんですけど。昨今の話の流れから、「きっとこれはテレビCMって答えてほしいんだな」って思う瞬間があって。

ピョートル:それって「忖度」じゃないんですかね。

質問者2:部下側の忖度ってことですか? なるほど。ただ経験則的に、例えばそこで「Webサイトを作りましょう」と言ったところで、それが当たる経験がその人との対話の中でないからなのかもしれないですね。

ペアになっている「誘導尋問」と「忖度」

ピョートル:なるほど。ストレートに聞くんですけど、上司との関係は信頼と尊敬がちゃんとありますか。

質問者2:信頼はしていますね。

ピョートル:根拠は? 

質問者2:ただ、仕事に関してはお互いわかってないところがあるから、できれば議論しながら決めたいとは思っています。

ピョートル:お互いがわかっていない理由は何ですか? 

質問者2:なんだろうな。なんか「決めつけられている感じがする」と感じることがあるからなのかな。

ピョートル:ちなみにご自身が、人として、自分の上司を理解しようとする努力をしてますか。

質問者2:なかったかも……。どちらかと言うと、「今機嫌いいかな」とか「元気そうかな」とか、気にするのはそういうところでしたね(笑)。

ピョートル:じゃあ「忖度」ですね。誘導尋問と忖度は、ペアになってしまっているんですよね。

質問者2:そうですね。今の例えは、謎にうまく噛み合っているような会話になっていますね。

ピョートル:責任は誰の責任ですかね。

質問者2:どうなんですかね。どっちもじゃないですか? 

ピョートル:はい。答えになったでしょうかというところなんですけれども。

信頼と尊敬のバランスがない場合は「ストレートに聞く」といい

ピョートル:誘導尋問が悪いと僕は思わないんです。TPOですよね。例えば相手に必要不可欠な行動をとってもらうために、使い方として(誘導尋問が)適切なツールであれば使っていただいてもかまわないんです。

おそらく信頼と尊敬のバランスがなくてお互い遠慮しがちとか、忖度しがちであれば、「どうでしょう」とかストレートに聞いてみると良いと思います。「この部屋暑いですね」「今の温度、どう思いますか」とか。ストレートに言うのは簡単ですよね。でもストレートに言う力には、勇気が必要です。

「そろそろあなたはキャリアを考えたほうがいいんですよね」「あぁ、そうそう。考えたいんです」「今度はどういう仕事をしたいの? 例えばどういう部署で働いてみたいの?」って聞かれると、これはどう見ても「異動してほしい」ということになるんです。

この時間を通じてがんばってみるというより、「もうここまで一緒に働いてきた」「僕からストレートに言うと、たぶん異動したほうがいい」「なぜなら、あなたにとってこの職場、このポジションは最適ではないと思ってます。異動すればもっと気楽にやりたいことがやれると思うんですよね」。

「このチームのゴールは明確で、しばらく変わらない。ここにあと1年間ぐらい居ていただいてもいいし、人として一緒に働くのはとても楽しいんですけれども、ここであなたは幸せになれると思いますか?」と言われたら、なんと言いますか? 

質問者2:上司から部下にってことですか?

ピョートル:そうそう。どっちのほうがいい? 前者は「キャリアを考えましょう。どこに異動したい?」と。これは誘導尋問です。それとも後者のようにストレートに「あなたをこう見てるんだよ。ここまで考えたんだよ」と。上司から言われるなら、どちらで言われたいですか?

質問者2:でも、関係構築ができていれば後者な気がします。

ピョートル:そうですよね。

質問者2:いったん意見を聞きたいかな。

ピョートル:関係性は、後者は良いですね。

リモート下でできる工夫は、ちょっとした「余裕」の提供

ピョートル:上司として言うことによって何が得られるかと言うと、まず信頼ですよね。その次に「いやいや、ピョートル(上司)ごめんなさい。こういう印象を与えてしまった自分が悪かった。実際にはここで、すげーがんばりたい。

ただ何が起きてたかというと、この半年彼氏とずっと揉めてて、もうプライベートがごちゃごちゃで、仕事に集中する余裕がなかったんですよね。なので、1ヶ月だけ許してください。彼氏とこれから別れる予定です。心理状態もよくなかったけれども、がんばるから許してください」と。

そうすると上司として、大切な情報が得られて、「わかった。この子は実際にこの部署で幸せに働いているんだけど、プライベートが不幸せで、いかにそれを解決できるように(サポートするかが大事なんだ)」と理解できるんです。

「わかった。今日顔色があまりよくないのは、寝れなかったんだよね。いつ終わるんだろうと不安なんだよね。でももうちょいがんばって。ちょっと見守ってあげるから、なんとかがんばろうね。もしティッシュが必要であればどうぞ」と言ってくれる上司がいいでしょ。

質問者2:確かに。1点だけ、10秒だけ聞いてもいいですか。

ピョートル:はい。どうぞ。

質問者2:リモートでも同じことが再現できているんだとしたら、「はいどうぞ」ってティッシュは出せないじゃないですか。どういうふうに工夫されているんだろうって思いました。

ピョートル:例えば泣きそうな顔になっていたら、「ちょっと待ってね。いいよいいよ、これしてもいいよ」と言うことですね(笑)。一緒ですよね。

質問者2:なるほど。

ピョートル:今の状態がストレスにならないように、ちょっと余裕を差し上げるんです。「ここで泣いていいよ」とか、もう涙がボロボロと出る時は「5分休憩とって、お手洗いに行ってきましょう」「飲み物をとってきましょう」とかで、いいんじゃない。

質問者2:なるほどな。ちょっと工夫してみます。ありがとうございます。

「相手にすべて合わせること」が相手の成長につながるわけではない

松原:ありがとうございます。次の質問です。「コーチングの方法について、対話による本人の性格・個性の理解だけではなく、性格・個性に応じてアプローチの仕方も対応させていくことが重要という印象があります。性格・個性に応じてアプローチを変えることをふだん心がけていらっしゃいますか」ということです。

ピョートル:いや、すべてにそれができるわけではないですよね。こういった大人数でいらっしゃる会だと、わかんないですよね。ここにいらっしゃる方々の半分は共感を感じていて、半分はすごく怒っているかもしれないですけれども。

相手と1対1になると、集中して好奇心を持っていくことができます。例えば簡単に言うと、相手が数字ばかりを出してくると。つまり論理的思考が強い。だから論理的な質問をすればいいとなります。ただ、相手にすべて合わせることで相手が成長するわけではないんですよね。

論理的な人に対してあえて感情面のアプローチをする理由

ピョートル:例えば営業マンのA君と話すとすごく論理的で、とにかく売り上げを出すことに賭けていると。「A君、わかった。すげーんだね」。この会話は、まさにA君が欲しかった言葉ですよね。

「じゃあ具体的に何をするの? どんなステップでいけば、売上を何パーセント伸ばせるの? 仮説をきっと持ってきただろうし、A君の論理はチームにすごく大切だから、ここでパパッと教えてください」と。するとA君がわーって話すんだよね。

「じゃあA君さ、それに顧客はどういう反応するの?」と聞く。シーンとなる。論理的に考えてきたのに、なんで答えにならないのか。

例えば「じゃあ○○社の××部長はどういう人で、何を求めていて、何を持っていけば喜ぶの?」と聞いても、シーンとなってわかんないんだよね。そこで「わかった。じゃあ、どうやって論理的にその人の喜びが作れるかを考えてみてね」と言うんです。

要は彼には感情、EQ(心の知能指数)、エモーショナルインテリジェンスが足りないんです。そうであれば、それを論理的に研究してもらうことを渡すんですよね。

逆に、例えば超感情的なBさんがいて、「うわー、売り上げどうしよう。どうしよう。ピョートル、ピョートル! ××社は最悪!」と成っていたら、まず「何が起きたの? 大変だねぇ。よくがんばった。ありがとう。こんなにがんばってくれたんだよね。じゃあ何が大変か聞かせてください」と感情を引き出します。

「大変だよね。窓口の部長はどんな人?」「いや、もういっぱい説教してくるんだよね。もう大変大変。」「なんでそんなに説教するの? 不満があるの? 何が起きて、どこが悪いの?」と。要は感情から論理的思考に持っていくというやり方です。

大切なのはまず「受け入れる」こと

ピョートル:英語で僕の1つの大切にしているキーワードは「Meets them where they are」です。要は、この人のいる場所に立ってあげよう。感情的になっていてぶれているのであれば、まずは感情を受け入れて、承認して、いかにそれを和らげるか。その次に、論理思考に持っていく。あるいは相手が論理思考しかできないのであれば、論理思考で、いかに人間の気持ちの話を出していくか。

まず受け入れるんです。話したいことがあるから、表現したいことがあるから、それを受け入れるだけです。だから性格というより、相手が今どういう状態なのかというのに集中と好奇心を持って話せばいいと思います。

ただ性格はあれこれもあるので……。例えば僕は今日、松原さんはどんな性格なのかまだ見極められていない。けれども顔を見て、何に反応しているか、どんな状態であるかを見ることによって、たぶん適切な接し方ができるはずです。

この人が性格がいい悪いというのではなく、今この人はどんな表現をして、どうなっているのか、丁寧に好奇心を持って集中して接してあげれば、人間関係が良くなると思うんです。

今の自分を見るんだよね。「ピョートルはアグレッシブな人だ」と思うのではなく、ピョートルは人で、今感情が湧いている。苦しんでいるとか悔しがっているとか、いろいろある。まずは人として受け入れてくれているというのが一番大事だと思う。

松原:なるほど。先ほどおっしゃっていたように、論理的に見えるんだったら感情も出してみたり、感情的だったら論理的なところも見るという、立体的に見ることがすごく大事ですよね。

ピョートル:そうですよね。

「仕事の問題」と「個人的な問題」の境界線の引き方

松原:ありがとうございます。お時間も少なくなってしまったので最後の質問ですね。「深層心理が複雑な人について書かれていますが、境界線が難しいと感じます。ピョートルさんの考えている『境界線』を、もう少し詳しく知りたい」ということです。質問者さん、ちょっと補足いただけますか。これ、入り込んじゃうかどうかみたいな話でしたっけ? 

質問者3:そうですね。「深層心理が複雑すぎて、仕事の問題ではなく個人の心理の問題であれば、そこには触れないほうがいい」というのはもっともだとは思うんです。でも今日のお話を聞いたら、ピョートルさんは私が思っている以上に、突っ込んでいる範囲がかなり広いんじゃないかなぁとか思ったんです。

仕事の問題と個人的な問題に、どんな境界線をご自分の中で引いていらっしゃるのか。言ってることはわかるけれど、もうちょっと具体的に聞きたいなという質問です。

ピョートル:なるほど。僕は20年間以上心理学を学び続けていることもあるのですが、まず1つ、仕事上であれば、入り込みすぎないようにしたほうがいいというのが答えです。

なぜなら仕事の関係は「成果を一緒に生み出す関係」ですよね。その深層心理に入りすぎてしまうことによって、仕事の成果に損害を作ってしまう可能性もなくはない。例えば頼りすぎてしまうとか、あるいは相手のことを知って、相手が「あなたは何でも許してくれるんだ、自分の心を開いて話したんだ。でもなんで厳しい評価をつけるんだ?」とか。そういう問題が湧いてくるんですよね。

要は「認知的不協和」という言葉があって、パラドックスをいかに受け入れるかというのは、マネジメントのとっても大切な側面です。日本語でいうと、器が大きい人がパラドックスを受け入れられると思うんですよね。

どこまで深入りするかの指標は「自分が受けるストレス」

ピョートル:例えば相手が自殺未遂があったということがわかった時に、「もうこの人と働けないんだ」となる。「自殺しようとしてたんだ」とわかると、多くの人の反応があるかもしれないですけどね。

その相手に心理的安全性の場を提供して、その相手が落ち着いて復帰できたら、すごいパフォーマンスを出せるかもしれないですね。これが本当にリーダーシップのポイントなんです。

ただ、相手の自殺未遂の話を聞いて自分がぶれてしまう可能性もあるんですよね。可哀想とか大変とか、どうしようとか。明日もしかしたら(他のところから)似たような話が出るかもしれないし、仕事も忙しいし、どうしよう。そういう関係性になると、要は「自分はもうそれ以上のストレスを受け入れられない」とわかれば、まずは自分のストレスを指標にしたほうがいいと思うんですよね。

松原:なるほど。

ピョートル:自分が「これはもう無理だ」「この会話は無理」と感じることが、長期的な関係である友だちや家族のことを考えるときっとみなさんあると思うんですよね。

家族あるいは親戚の深層心理に触れたことがあると思います。お母さんお父さんとか、兄弟とか。家族なので受け入れるしかないんですけれども、家族によっては、離れることもあるんですよね。

ただ、仕事でそういう関係になってしまうと、結局みなさんのマネージャーとしての契約、管理監督者の契約、会社との契約では「チームを通じて成果を出す」というものが求められるから、相手との関係によって自分のパフォーマンスが下がってしまうと本末転倒なんです。だから相手の深層心理に振らないほうがいい。

松原:なるほど。

ピョートル:もしちょっと怪しいと感じたら、やり方は会社はそれぞれあるんですけれども、人事とかカウンセリングのEAPプログラムとか、要は心理的なサポートを受けてもらうことがポイントなんじゃないかなぁと思います。

松原:ありがとうございます。質問者さん、どうでした? 

質問者3:納得しました。

ピョートル:ありがとうございます。

松原:自分の感覚を判断軸にするのは非常に明確だなと、聞いていて思いました。ありがとうございます。

本を読むことは、著者との対話でもある

松原:実はまだ質問がけっこうあるんですけれども、もう時間になったので、泣く泣くここまでにしたいと思います。最後にクロージングに行きたいなと思います。

『世界最高のコーチ 「個人の成長」を「チームの成果」に変えるたった2つのマネジメントスキル』(朝日新聞出版社)

今日この本(『世界最高のコーチ 「個人の成長」を「チームの成果」に変えるたった2つのマネジメントスキル』)でピョートルさんは「人間はやっぱり変わりたくないけど変わりたいという矛盾を抱えている」と書かれていてハッとしました。だからこそコーチが必要だというのは、なるほどなぁと思ったというところでした。

僕はこの本を読んでいて、このペアドクも実際はお互いコーチングしているような状況だなって思ったんです。みなさんは自分の何かを変えようと思って本を買うのだと思うんですが、黙々と本を読んで「なるほどね」と思うだけだと変われないことがけっこうあるなと思っていまして。

自分で読むだけじゃなくて、人に「こう思った」ってしゃべってみて反応を受けとると、少し違う自分になるきっかけになるんじゃないかなと思っております。

最後にピョートルさん、今日の簡単な感想をいただけるとうれしいなと思ったんですけど、どうですか。

ピョートル:まず(今の松原さんの話への)コメントなんですが、本を読んでディスカッションをしていくことは、僕はすごくすてきだと思っています。要は情報を1人で振り返ることも大事なんですけれども、その情報をいかにすぐ生かしていくかはポイントですよね。

僕は本を読む時に「著者と対話している」と思っているんですよね。

松原:なるほど。

ピョートル:例えば「ここは違うんだ」とか「ここは疑問があるんだ」とか、本を読む時に自分のメモ帳に質問を書いたりコメントを書いたりというアクションをするんです。それで本を読んだ部分を通じて、どんな1歩をとったほうがいいか、自分の中で仮説をたててすぐ検証していく実証実験をします。学んだことをすぐ生かしていくというわけです。

信頼関係は「対話」を通じて作られるもの

ピョートル:みなさんに簡単なお願いです。コーチングは別にマネージャーの立場に立っているから必要だということではないんですね。コーチングは対話です。いかに周りの方々と、よりよい人間関係と関係性を作っていくかというのは、対話を通じてしかできないんですね。

信頼関係を作っていくので、家族でも恋愛関係でも友情関係でも使えるはずなんです。何に使えるか1個だけ選んでいただいて、ひたすら実行してみていただきたいなぁと思いました。以上です。おつかれさまでした。

松原:ありがとうございます。みなさんもぜひ(活用先を)決めていただいて、「#世界最高のコーチ」や「#ペアドク」とかでつぶやいていただけるとうれしいなと思っております。

ピョートル:すみません、簡単なお願いなんですけれども、まだAmazonレビューがあまり多くないので、一言だけ「OKな本」って書いていただければうれしいです(笑)。ありがとうございました。