売れるかどうかはわからないから、とにかく「作りたいもの」を作る

宮田大介氏(以下、宮田):(視聴者から)質問もガンガン入っているんですよ。「最初の企画会議がどういうふうに進むのかをうかがってみたいです」とか。

亀岡慎一氏(以下、亀岡):難しいです。タイトルによって違うんですよね。『MOTHER3』の場合は、(開発中止の64版)『MOTHER3』の元があったんですが、アドバンスではできないことがいっぱいあったので、それをまず再構築しようと。システム的な企画書を作った後にプレゼンしました。

宮田:『マジバケ(マジカルバケーション)』はどういうふうに(企画会議を通したんですか)? 

『マジバケ』はもう、好きなものを作れるんだから好きなものを作ろうぜって。「誰か作りたいものある?」と聞いたら、「バトルで魔法が倍増するシステムのRPGを作りてぇと思ってんだ」と、1人がぽろっと言って。

「それ、おもしれーじゃん。それぐらい他のRPGと差別化したのをやろうぜ」と言って、世界観をどんどん足していって。「じゃあ精霊はどうする?」という話になった時に、その頃のポケモンが8種類だから、その倍で16種類ぐらいやっちゃおうぜって。

宮田:なるほど(笑)。

亀岡:これもさっき言ってたように、(企画の時点では)作ることを考えてないので「いいね、それ!」って(笑)。最初に「16属性っていいじゃん」ということだけを決めちゃって、あとから「この属性の絡みはどうすんの?」みたいなね。

宮田:みんなで意見を出し合いながら、「いいね、いいね」とやっていく感じですね。

亀岡:『マジバケ』はそうですね。『マジバケ』の時は、システム寄りのプランナーと世界観的なプランナー、絵描きの僕が入ってやってたので、いろんなところから意見を出してもらって、それをだんだんまとめていって。「なんで16種類にしちゃったんだろう……」と、だんだん後悔してましたけどね。

宮田:基本的には「売れる」ことよりも、「これ作りたいんだよね」という思いで進んでいくんですか。

亀岡:僕は、売れるものを考えて作ったことがあんまりないですね。作りたいものを作ろう。だって、売れるものなんてわかんないじゃん。

宮田:わかんないです(笑)。

亀岡:社長さんとかは「売れないものを作ってもしょうがねえだろ」と言うけど、じゃあ売れるものって何だよ? ってねぇ。そんなのがわかってるんだったら、全部当たってるはずでしょ。だったらうちは、当たるかどうかは後からついてくるものだから、とりあえず社内の顔の知れた連中が「おもしろい」と思えるものを作ろうぜ、という感じでやってきましたね。

宮田:なるほどですね。

作りたいゲームを作るため、自由を求めて設立したブラウニーズ

亀岡:時間、大丈夫ですか。

宮田:(笑)。たくさん聞きたい話もあるとは思うんですが、最後のヒステリーポイント6にいきましょうか。12年間続けたブラウニーブラウンを辞められて、ブラウニーズを設立されました。さらに現在に至るまでの話なんですが、ブラウニーブラウンを辞めた話はさっくりとしておいたほうがいいですかね? 

亀岡:なんか知ってるんですか?(笑)。

宮田:(笑)。ちょっとよくわかんないですが、いろいろあったという話を聞いています。

亀岡:いろいろあったと言えばあったんですが、基本的にはずっと、好きなもんを作りたい。スクウェアの時に「『FF』を作れ」と言われたのがちょっと嫌で。

ドット(絵のゲーム)を作りたいということで(スクエニを)出て、ブラウニーブラウンを作って。ブラウニーブラウンを作っている時も、だんだんとチームの開発スタッフがすごく大規模になってきたんですよね。任天堂社内でも人数が足りなくなってきて、「ブラウニーブラウンは任天堂のサポート会社に専念してほしい」と言われて。

スタッフ全員と面談をしたら、中にはマリオを作ってみたいという人もけっこういたので、じゃあマリオとかを作りたい人はそのまま話を進めるから向こうでサポート会社としてがんばってくれ、と言いました。

僕は作りたいものを作りたくて飛び出てきたので、さらに自由を求めて新たに作った会社がブラウニーズですね。

宮田:なるほどですね。

亀岡:だからといって、そんなに好きには作れませんけどね。

宮田:結局(笑)。

亀岡:なんだかんだ言っても新しい会社なので、信用を得たりして、好きなものを作らさせてもらえるような地盤作りからやらないといけないんですね。

満を持して作った『EGGLIA』が、Switch版で再登場

宮田:なるほどですね。自分たちのタイトルを作ろうとなったタイミングは、(ブラウニーブラウンを)初めてどれくらい経ってからですか? 

亀岡:5年ぐらいですかね。やっと信用も得たし、内部留保というお金も会社に溜まってきたので、その初めてのタイトルが『EGGLIA』です。もともとは持ち出しで作るが目的の会社だったので、お金も貯まってきたから作ろうぜと言って、土日に集まってスタッフがあーだこーだやっていたのが、今回Nintendo Switchで出た『EGGLIA Rebirth』なんです。

本当にありがたい話なんですが、これを作ってる時にスクウェア時代の知り合いのプロデューサーが、「新しい作品を一緒に作りましょうよ。好きにやっていいですから」と、すごく言ってくれて。「本当に? そんなおいしい話ないでしょ?」と言ったんだけど、「本当にぜんぜんいいっす」って。

「実は今、社内の持ち出しでこういうのを作ってるんだよね」と、『EGGLIA』の最初のモックアップを見せたら、津田(幸治)テイストと僕のキャラだったので、「ブラウニーズらしい作品でいいじゃないですか! これ、うちでやらせてくださいよ」と。「本当に好きにやっていいの? 絶対になんか言ってくるだろ?」って言ったけど(笑)。

「このテイストで亀岡さんがキャラを描いてくれるんだったら、もうそれだけでいいです」ということで作ったのが『EGGLIA』ですね。5年目にして、自分たちの作りたいものを作れました。

宮田:最初はアプリですよね? 

亀岡:そうです。アプリが初めてだったので、こちらが満足できない(仕上がりになった)というか。ユーザーさんにもいろいろ不満点を残した結果になっちゃったので、申し訳なかったという気持ちも含めて今回Switch版を。

宮田:満を持して、Switchで。

スマホ版リリース時の後悔を、Switch版で晴らす

亀岡:そうですね。それとお値段も、儲けがないぐらいなお値段に設定しました。スマホで不満が残っている人たちに満足していただけるような作品にしようと思って。

宮田:一応、PVも用意してるので(流しますか)。

亀岡:流してもらえるんですか? いいんですか? 

宮田:はい。こんなタイトルですよ、ということを知っていると、見てる方もわかりやすいと思うので。

亀岡:真っ先にカットされちゃうかと思ったんですけどね。

宮田:ちょっと流していきましょうか。私も買わせていただきました。

亀岡:ありがとうございます。

宮田:Twitterでも(拡散)させていただきました。

亀岡:広めておいてください。

宮田:『EGGLIA』では、今までのやりたいことを詰め込んだということですか?

亀岡:コンシューマー向けで最初から動いていたプロジェクトじゃないので、スマホ版では最初から抑え気味なところがありました。「もっとああしておけば……」という気持ちは残ってますけれどね。

宮田:コンシューマーからのスタートで、100パーセント全力を注いだタイトルをまた作っていきたいという感じですかね。

亀岡:それはありますが、なかなか体力が大変なんですよね。本当に宮崎駿先生の気持ちがわかるんですよ。毎回つらくて「引退しよう、引退しよう」と言ってるけど、でも結局やることがないから。「次はちっちゃめなタイトルだけやろう」と思うんだけど、大きいのに慣れちゃってるから、どんどん話がでかくなって大変なことになって、また苦労して。

宮田:話が膨らんでいっちゃうんですね。

亀岡:たぶんあれ、死ぬまで続きますね。

『EGGLIA』完成後、社内の最前線から退きつつある亀岡氏

宮田:『EGGLIA』が完成した時、やりきったのでもう引退かな、という感じでしたか?

亀岡:現場もワンマンでやってきちゃったので、そろそろ時代にも遅れてるし、引退というか引き継いでいかないと、ブラウニーズがなくなっちゃうかな。なくなっちゃったらなくなっちゃったで、それがいいんだけれども。もしやりたい人がいるんだったら、せっかく好きにできるように土台は作ったので、今は下の連中に徐々に徐々に譲りつつやってますね。

宮田:アプリなどの最先端を進みつつ、亀岡さん自身としては、最前線からは遅れている印象を受けられていますか?

亀岡:僕たちの作りたいものはそっちではないので、あんまり比べてはいないんですけれども。今って、ゲームじゃない部分ですごく頭を使わなきゃいけないじゃないですか。3Dの勉強もしながら、新しい技術でこういう魅せ方ができるとか、そこらへんが面倒くさくなってくるんですね。なんか、スーパーファミコンをもう1回出してほしいですよねぇ。

宮田:(笑)。

亀岡:著名なクリエイターや若手とかが、あの限られたスペックの中で競い合って(ゲームを開発したりとか)。任天堂以外でも、どっかの会社さんからやってほしいですけどね。

宮田:それ、めちゃくちゃおもしろそうですね。

亀岡:おもしろいと思いますよ。スクウェア社員も、『伝説のオウガバトル』が一番影響を受けたタイトルですけどね。

宮田:やっぱりすごかったですか? 

亀岡:あれはすごかったですよ。衝撃でした。

度肝を抜かれた『伝説のオウガバトル』のグラフィック技術

宮田:どこらへんが一番衝撃でしたか? 

亀岡:今はドットを打ってる人がけっこういるじゃないですか。ちょっと『MOTHER』テイストというか、ジャギジャギの。今の人たちとあの時の僕らは、ドット絵に対する価値観が違うんですよね。

今の人はドットをアピールするようなドット絵なんですが、あの頃の僕らはなるべくドットを消す。もう今の若い人はわかんないと思うんですが、ブラウン管という、横にハレーションを起こしちゃうモニターだったんです。

そのハレーションも計算して、色を溶かして、本当は2色なんだけど3色とかグラデーションがかかっているように見せたり。そういう技術もモニターを見ながらなんとかやったりして、本当におもしろかったんですが、『オウガ』は本当にすごかったんですよね。あの時のグラフィッカーたちには本当に度肝を抜かれた。

宮田:なるほど。本当に衝撃だったんですね。

亀岡:そうしたら、いつのまにか同じ会社に入ってきちゃって。あれはちょっとうれしくもあり、ショックでもありましたね。

宮田:ライバルが……。

亀岡:そうそう。「うわー、同じ社内に入ってきちゃった」って。

宮田:当時は社内ですごくライバル争いが続いてましたか。

亀岡:さらにライバル心は強くなったかな、という感じですね。

宮田:(『伝説のオウガバトル』は)デザイン面でもすごいですし、ストーリー面でもすごく影響を受けた方がたくさんいらっしゃると思います。

亀岡:そうですね。

宮田:システムもそうですよね。ここらへんの話をもっと聞きたいんですが、数分ぐらい前に「次のテーマへ行ってください」という話がされてたので、次にいきますかね。

「人生は1回で、リセットが効かないからおもしろい」

宮田:「ゲームクリエイターヒストリア」ということで、ヒストリーをずっと聞いてきました。もしタイムマシンがあるとして、自分の歴史の「ある地点」からやり直せるとしたら、亀岡さん的にはどこからやり直したいですか? 

亀岡:これはどういう条件ですか? 記憶は残ってるんですか、残ってないんですか? 

宮田:記憶は基本的にはリセットですね。

亀岡:じゃあ、同じ道を歩んじゃいますよね。

宮田:そうですね(笑)。

亀岡:また元に戻って、その時に今の記憶がないんだったら、たぶん同じ道を……。

宮田:経験値・スキルはリセットだけど、記憶は改変できるとしたらどうですかね。

亀岡:今の記憶で戻るってことですか? 

宮田:今の記憶で戻ったら、なんかチートな気がしますよね……。

亀岡:でしょ? だからこれ、ちょっと難しいですよね。

宮田:(笑)。確かに。

亀岡:単純に、ちょっと面倒くさい男で申し訳ないです。

宮田:逆に(過去の自分に)アドバイスできるとしたら、どうですか。

亀岡:人生は1回で、リセットが効かないからおもしろいんじゃないですか。

宮田:そうですね。この話は、今までに出ていただいたゲストの方も「過去があって今があるから、まぁ戻らなくても別に……」とおっしゃいます。

亀岡:記憶が昔に戻るんだったら、また同じ道をぐるぐる回っちゃうだろうし、今の記憶で戻ったら、それこそ切ないことはないんじゃないかなと思うんですよね。

宮田:切ないこと? 

亀岡:「20歳ぐらいに戻りたいな」と思っても、20歳ぐらいの時に戻ったら、うちの会社の連中はまだ生まれてもいないわけです。あいつとか、この世に存在してないわけです。切ないでしょうね。

宮田:確かに。

亀岡:「えー、あいつはまだ生まれてねえのか」って、懐かしさは味わえると思うんですが。

漫画家からゲームの道へ進んだことが、運命の分かれ道だった

宮田:エピソード的なところで言うと、任天堂さんの子会社になられたじゃないですか。そうならずにスクウェアさんに残ってたり、また別の会社さんとやってた可能性はありますか?

亀岡:ないでしょうね。自分の性格からしたら、たぶん今と同じような道を歩んでいたと思う。あそこで『FF』シフトじゃなくて、『レジェマナ2』をそのまま作らせてもらえていたらどうなってたかな、という感じはしますよね。

宮田:漫画家をやり続けていた道はないですか? 

亀岡:あぁ~、難しいですね。今までは(かつての職種に)戻ったことがないので。「ちょっとつまんでみよう」って、そっちにはまり込んじゃう性格なので。なんだかんだ言って、あそこで違うほうに行ったのが、もう運命の分かれ道でした。

宮田:あらためて今、漫画を描きたい思いはあったりするんですか? 

亀岡:今はあんまり絵を描いてないので、絵を描くのがけっこう大変。時々仕事で使う絵を描くのが大変なんですよ。デッサン力を元に戻したりするにはリハビリがすごく必要になるので、イラストで食うのはもう無理でしょうね。

宮田:なるほど。漫画で表現したいことが、ちゃんとゲームで表現されているってことですよね。

亀岡:そうですね。ゲームのほうで、新たな喜びや楽しみを見つけたので。

宮田:ありがとうございます。めちゃくちゃ力強く(カンペに)「次へ!」って書かれてます(笑)。

亀岡:あぁ、そうですか! すみませんね。

宮田:じゃあ次へいきますか(笑)。

「やりたいこと」を持っている若者は少ない

宮田:最後に大まとめになるんですが、亀岡さんから見ていただいている方にメッセージを。ゲームクリエイターヒストリアのテーマでもあるんですが、「振り返った時に後悔しないクリエイターの人生を歩むためにはどうしたらいいか」というところで、何か1つ秘訣をいただければなと思います。

亀岡:難しいですけどね。でも俺は、あんまり我慢はしていなかったかな。人生でムダなことってないと思うんですよ。何をやってもなにかしらのプラスになっていると思うんです。何かをやって後悔しているのも、それがまた自分の身になっているので。

どんな道にいっても後悔はしないと思うんですが、やりたいことがあるんだったら、やっぱりそっちの道へ行ったほうがいいですね。

宮田:どんどんチャレンジしていくというか。

亀岡:申し訳ないですが、今の若い人たちと話すと、やりたいことを持っている人が少ないんですよね。本当にやりたいことを持っている人に対する、投資家の気持ちがちょっとわかるようになってきましたよね。

宮田:なるほど。

亀岡:『¥マネーの虎』みたいに、「そういうことがやりたいのか、よし」ってお金を出す人がいるじゃないですか。ああいう人の気持ちがちょっとわかるような年頃になってきてしまいました。

宮田:なるほど。じゃあ逆に、「どうしても俺はこういうゲーム作りたいんだ」という人がいたら、ぜひ亀岡さんに。

亀岡:そうそう。そんな人がいたら本当に来てほしいですね。来てください。

宮田:亀岡さんにプレゼンしたら、もしかしたら2億ポンッてくるかも……(笑)。

亀岡:ちょっと0が足りないかもしれないですが、いい方向にいくようにお話には乗るので。

宮田:もしくは、ブラウニーズさんの子会社になるかもしれないですよね。

亀岡:うん。うちで作ってくれてもいいし。「本当にやりたいことがある人」は、今は貴重なのでね。

宮田:野心を持った方はどんどん集まって、ぜひ直接メッセージをしていただければと思います。スーパーファミコンを作ってほしいですね(笑)。

亀岡:スーパーファミコン、やりたいですね。コンペをやりたいです。たぶんあの頃のスーファミを作ってた連中は、みんな参戦すると思いますよ。

宮田:うずうずしちゃうでしょうね(笑)。

亀岡:時間もそんなにかからずに作れるんじゃないかなぁ。

宮田:スーパーファミコン、いいですね。というところで、今回の亀岡さんのクリエイターヒストリアの本編はここまでです。まだまだ聞き足りないところや、もっとたくさん話したいことが僕もたくさんあるので、またいろんなかたちでお話を聞かせていただければと思います。