「自己卑下」を前向きに変える方法

中田有香氏(以下、中田):それでは先生、最初のテーマをお願いいたします。

ひきたよしあき氏(以下、ひきた):はい。最初のテーマは、20代の苦しさは「自己卑下、万能感、完璧主義」ということです。自己卑下というのは、自分に自信がないということです。自己肯定感が極めて低い。

これは勉強ができるできない、容姿云々に関係がない話です。とある進学校の先生から聞いたのですが、生徒たちのいちばんの悩みは、周りと比較してしまうことによる自己肯定感の低下だそうです。

しかし、よく考えてみると「自信のある人が本当にいるのか」と思うんですよね。僕ははっきりいって自信がないです。自信がなくてここまでやってきました。僕個人の感想ですが、自分のことを疑わない人の話ってつまらないんですよね。

自己肯定感が低いくらいの人のほうが、物事を深く考えられていると思います。また、自己肯定感が低いことや自己卑下することは、悩むことではなくてスタンダードなことだと思います。

みんな自己肯定が低くて、何か新しいことが起こった際に「僕は何もできない」と思うところまでは一緒ですが、その次に「どうすればできるようになるか」と考えられるか否か、この違いは大きいです。

もちろん「どうすればいいだろう」と考えても、必ずしも思い通りにはいかないのですが、「どうすれば、どうすれば」と考えているうちに、自己卑下が少しずつ前向きになっていきます。

これを続けると、30歳〜40歳になると経験によって「どうすれば」の回答ができるようになっていきます。なので「自信がないことはスタンダードなので、どうすればという答えを作っていくこと」が自己卑下への薬だと思います。

「俺さまはできる」という万能感を治すクスリ

ひきた:2番目の万能感についてですが、「俺さまはできる」と思い込んでいる人って一定数いるんですよ。とても楽観的に「俺が一番だ」と思い込んでいる。どうしてこんなことが思えるのかというと、その人は自分に反対する人を馬鹿だというんです。

「あいつは馬鹿だから俺の話がわからない」「あいつの考えは古いから俺の話がわからない」など、敵を作ることによって自分を持ち上げようとするんです。これもよくよく考えてみると、自信がないことの裏返しなんですよね。

自信がないから敵を作って、敵を倒して上に上がろうとする。これも20代の頃は許されるかもしれないですが、こういう人に限って、ある程度の歳になってくると「全部俺が正しいんだから、お前らは俺のいう通りにやれ」というようになってしまう。

だからこの万能感というのは気をつけないといけないものです。この万能感を治すための「クスリ」は「おかげさまで」という言葉です。「おかげさま」という言葉を使うことによって、「万能感は誰かのおかげでできたんだ」ということをわかってくると、この万能感は少しずつなくなっていきます。

最後は完璧主義です。このタイプは仕事を一生懸命やって、完璧なものを作ろうとするのですが、その際に人の意見を聞かないんです。誰かの意見や行動で、自分が完璧に仕上げたものが変わることを極度に嫌がるんです。

これもある程度の歳まではいいのですが、時間が経つと「自分サイズの完璧しかできない」という壁に当たり、人の意見を巻き込んで骨太のものを作ることができなくなってしまいます。さらに、このまま歳をとっていくと「私がやったほうが早い」「こんなの私がやればすぐできるのに」という気持ちだけになって、部下を育てられないような人になってしまうんです。

この完璧主義を直すためのキーワードは「進みながら強くなる」ということです。叩かれて壊れても、それによって「進みながら強くなる」ことで完璧主義を超えていくことができると思います。

中田:なるほど、自分に自信があっても感謝を忘れないことが大切ですね。

「馴染みのサードプレイス」を持ち、「見知らぬ場所」を旅する

中田:続いてはこちらのテーマについて、先生お願いいたします。

ひきた:はい、未知の旅と既知の旅というテーマですね。これは休みの過ごし方なのですが、「20代は旅をしろ」とよく言われます。僕が言われたのは「知らない場所にいく旅と、いつも同じところにいく旅を1年間必ずしろ」ということです。

毎回同じ場所に同じ時期に行くとそこで友達ができて、いつも同じ喫茶店で飲んだりするとまるで第二の故郷ができたような感覚になってくるんです。この第二の故郷を自分で作るということは、とても自分を楽にするんです。

サードプレイスとしての故郷を持つことによって、リアルな世界からの逃げ口ができる。いつも同じ場所に旅をすることによって生きるのが楽になるんです。

もう1つはいつも違うところを旅するということです。全然知らない国や場所に行くことで、緊張もするし失敗もする。見たことのない世界や知らない出会いがたくさんある。こういう経験をすることによって、リアルの世界での自信につながります。

この「知らない場所にいく旅」と「いつも同じところにいく旅」を作っておく。20代の時に見た空や花の美しさは、30代、40代になると感じることはできない。だからこそ20代のうちにやって欲しいんです。

中田:同じ旅でも目的と楽しみ方が違うんですね。

ひきた:ここからは本に書いていないことなのですが、今はGoToキャンペーンですらこんな状態で、旅に行くことすらできないですよね。なので、今の20代の人はとても苦しんでいるかと思います。

そういう人のために僕が思うのは、このコロナの時期は「観察眼」を養う時期なのではないかということです。正岡子規は『病牀六尺』という本を書きました。病に伏せている中でそこから見える世界を旅するというものです。

僕はこのコロナの中で街の風景を良くみるようになって、そこに住む人やどんな花が咲いているかということに気付くようになりました。こういった観察眼を養うという時間をこの時期に作ってみることが、この先の人生において良い経験につながると思います。

中田:なるほど、コロナ禍だからこそできることをするべきということですね。

耐える力を養う、「21日間集中法」

中田:では最後のテーマ「21日間集中法」についてお願いいたします。

ひきた:これはぜひ20代から始めて欲しいことなのですが、1つのことをできるようになるためには21日間かかるという法則があるんですね。3週間集中することで苦手なことでもできるようになると一般的には言われています。

しかし、やってみるとぜんぜんできないんですね。21日間集中して続けることはものすごく難しいんです。予定が入ったり、やる気が続かなかったりして途中でやめてしまうこともザラです。

ただ、ある時カレンダーを振り返ってみると、「途切れ途切れではあるけど、意外と続けられているな」ということに気づきました。大事なのは「21日集中するつもりでやる」ということです。僕が本当に21日でできるようになったのは50代になってからです。これは20代の頃から21日間集中することを失敗しながらも続けてこれたからだと思います。

本当にやりたいことができた時に、それに耐える力を養えることが、この集中法の一番重要な点です。できなくていいんです。2日で終わろうが3日で終わろうが、何回もチャレンジするということがいちばん大切なんです。

中田:なるほど、途中で休んでも続けることがいつか自分の財産になるということですね。先生本日はありがとうございました。ひきたよしあき先生の著書 『20代だから許されること、しておきたいこと』の内容をもっと知りたいという方は、こちらから購入してみてください。