JAXAでも今年度から、兼業が推奨に
黒田有彩氏(以下、黒田):今、内山さんは「こうのとり」9号機までフライトディレクタを担当されて、というJAXAのお仕事もある中で、出版の準備もされてこられたんですよね。
そこで3つお聞きしたいことがあって。副業的な動きがJAXAでもできるのかなというところと、両立の大変さ。あとは守秘義務が切れるタイミングがあるのかなと思いました(笑)。
内山崇氏(以下、内山):3つ目はなかなかアレですね(笑)。
黒田:(笑)。
内山:まず、今年度から兼業が推奨になったんですよね。
黒田:推奨。
内山:それは日本の中でもやはり「兼業推奨」という流れがあって、それでJAXAもやりましょうということで。本業は本業で、その本業に支障がない。かつ本業の……私の場合だと所属しているJAXA自体に何か不利益を被るようなことをしない、というところさえ押さえておけば、自由にいろいろ活動できますよということで。これは完全にこの活動(イベントの登壇)もそうなんですけれども、申請をして兼業というかたちでやっています。
ただ、JAXAの中でも結局、広報活動などで自分たちが行っている宇宙活動をお伝えするというのは、実は仕事の1つでもあるので。今回、書籍を書く。それにまつわるいろんな情報発信していく。そういうことに関しては、完全に兼業で申請を出してやっています。
黒田:じゃあ、印税とかも入ってくるんですか?(笑)
内山:そこ?(笑)。
黒田:そこも気になっている方、いらっしゃるんじゃないかなと思っちゃって。反感買うかもしれないですけど、ちょっと勇気を出して聞いてみます。
内山:完全にそうです。兼業なので、JAXAとはくっきりラインを引いてやっています。
黒田:なるほどですね(笑)。
「もうたぶん最後だな」と思うくらい大変だった、執筆作業
内山:そうすると、本業とはくっきり分けてやらないといけないので、執筆は本業以外の時間を使わなければならないということで、これがけっこう大変でしたね。
(自身の著書が)だいたい10万字から12万字ぐらいの本なんですけど、たぶんその数倍は書いては消し、書いては消しということを繰り返していましたので、2年間かかったんですよね。2年間ずっと大変だったわけじゃないんですけど、まあ足掛け2年かかって、Web連載を経て本を出したんですけども、もう書きたくない(笑)。
黒田:(笑)。
内山:もうたぶん最後だな、というくらい大変でした。
黒田:そうでしたか。Wordで普通に書いていくんですか?
内山:最初はそうですね。基本、ずっとWordで書いていましたね。まず最初は平たく書いていたんですけど、最後、本にする時にやはり(文字数が)オーバーしちゃって、どれかを削らないといけないという中で。でも1個のストーリーを丸々削るのは嫌だったので、贅肉を削ぎ落とすように、各章で削れるところはないか? 削っても質が落ちないところはないか? みたいな、あの辺がけっこうしんどかったですね。
黒田:そうだったんですね。2年かかったということに驚きました。コロナで自粛生活・ステイホームが叫ばれている時ぐらいに、連載が始まったじゃないですか。
内山:はい。そうですね。
黒田:そういうこともきっかけで、時間ができて書かれたのかな? なんて思っていたので。でも実際は、もっともっと時間がかかった。
内山:連載を始めた頃は、だいたい半分くらいは書けていたくらいですかね。
黒田:そうでしたか。
JAXAが「見せちゃおう」と判断した、第5期の宇宙飛行士選抜
内山:守秘義務もありましたね。
黒田:そうですね。3つ目の質問に答えていただき、ありがとうございます。
内山:守秘義務ってアレですよね? この、宇宙飛行士選抜試験の話。
黒田:そうです。何かやはり「すぐには言えないのかな?」とか「守秘義務の書類にサインしなきゃいけないのかな?」みたいなのが、イメージとしてあって。
内山:ありました。ありましたし、けっこうサインはした記憶があるんですけど、結局、グレーなところがありますよね。どこまでは公表してよくて、どこからがダメって、けっこう線引きが難しいじゃないですか。
その中で第5期の宇宙飛行士選抜試験って、NHKさんが密着されて、番組『NHKスペシャル』にもしたし、本も出されていますよね。けっこう出ているんですよ。さらに、当時JAXAで担当されていた方も本を出しているんですよね。2014~2015年ぐらいに出されていて。「出してんじゃん」と思って。
黒田:(笑)。
内山:(笑)。「けっこう出してんじゃん」と思って。僕、受験者として知っている範囲、当然、個人情報とかそういう書けないことももちろんあるんですけど、あそこまで出しているし。そもそもNHKさんという、メディアの密着を許した。あれは僕、英断だと思うんですけど、許した。
「とにかく見せちゃおう」という判断をJAXAとしてしたわけなので、そういう意味では下手に隠すよりもしっかりと出して「これだけ客観性を持った厳密な試験、プロセスをやっているんです」という。あれぐらい出したって、選抜に影響するなんてことは、まずありえなくて。「あれぐらいの内容で攻略できるもんなら、してみてください」ぐらいの、ドンと構えられるしっかりした選抜プロセスだと思うんですね。
なので、守秘義務と言われちゃうとアレなんです。グレーなところ、もしかしたらあるのかもしれないんですけど、これぐらいの内容であれば問題ないという判断をした上で、(本を)出しています。
黒田:よかったです。よかったですというか(笑)。
内山:けっこう僕、この話をするとドキドキしちゃいますけどね。
黒田:JAXAの上の方に読んでいただいて「これ、大丈夫ですかね?」みたいなことも別になかったんですか?
内山:それを、もし本業が一部でも入っている……例えば半々でもいいんですけど、そういう割合で本業も入っちゃうと、それ(JAXAのチェック)が必要になるんですよね。
黒田:本業が入るというのは?
内山:例えば「半分JAXAの職員として、もう半分は兼業としてやります」みたいな割合でやることもあるんですよね。そうすると、例えばJAXAの方がレビューしないといけないし。これがいいのか悪いのか、許可取っているのかいないのかみたいなことも見ないといけない、ということになるわけです。余計な仕事が増えるというか。
だけど、そこは自己判断で。「(JAXAが)不利益を被ることはやっちゃダメよ」という、僕の自己責任の範疇でやっているという意味で、そこは信用していただいて。もちろん何か問題があったら私の責任、ということで活動して。
黒田:そうだったんですね(笑)。
内山:ちょっとドキドキしながらしゃべりました。
写真とともに振り返る、13年前の宇宙飛行士選抜試験
黒田:(笑)。さぁ、やはりイベントの様子を見てくださっている方には「試験の内容をもっともっと聞きたい」という方もいらっしゃると思います。私もそのうちの1人なので、ぜひ聞いていきたいなと思います。
内山:じゃあ、あれですね。第1部で13年前の宇宙飛行士選抜試験の話について、僕も写真とか用意したので、それを振り返りながらお話して。第2部のほうでは、今年の秋に宇宙飛行士選抜試験第6期が13年ぶりに行われるということで、それに向けてのお話をしていきたいと思います。
黒田:はい。よろしくお願いします。
内山:これは、ヒューストンでファイナリスト10名で撮った写真ですね。みんな、すごくいい顔しているし。
黒田:いい写真ですね。
内山:若いですよね(笑)。
黒田:(笑)。
内山:油井(亀美也)さんだけ、年取っていない気がするんだよな。
黒田:(笑)。
内山:むしろ、若返ったんじゃないかという。
黒田:すごい。これは、試験が始まる前なんですか? それとも全部が終わったあとですか?
内山:これは閉鎖環境試験が終わって、ヒューストンに飛んだ初日だったと思いますね。
黒田:じゃあ、大きいハンバーガーを食べた後ぐらい。
内山:食べた後かな。
黒田:(笑)。
内山:ぐらいだと思いますが。ちょっとお腹いっぱいですね。たぶんね。
黒田:(笑)。
内山:2008年の2月の終わりに「(宇宙飛行士を)募集をします」という発表があって、4月1日から「募集を始めます」ということで。このポスターも確か、3月中だったと思うんですよね。
僕、すごい大好きなポスターなんですけど「宇宙に行こう。未来を拓こう。10年ぶり宇宙飛行士の候補者募集」ということで。これは宇宙ステーションの奥に、月が描かれているんですよね。
これは13年前のもので、まだ公に「ISSの次は月です」というのはまだない状況だったんですけど。それでもやはり募集をする方、あとはJAXAの思いが入っているんですよね。月が描かれてて、すごい大好きなポスターですね。
「会場間違えたかな?」くらいガラガラだった、英語試験
内山:そして試験のプロセスですけれども、最初に書類選抜があって。応募期間は4月から6月20日までだったと思います。
黒田:はい。
内山:20日まで応募期間があって「その期間いつでも出していいです」と。それと並行して、もうすでに書類審査と英語試験というのが並行して走っていて。第1回の英語試験が6月8日なんですね。
だから「まだ募集されている段階で、第1回の英語試験が始まる」というスケジュールでしたね。英語試験は第1回か第2回かどちらかしか受けられないので、どちらか1回で都合を付けて受けないといけないと。
7月に出張がありそうだったというのもあって、早々に書類を書き上げて応募して。それで第1回の英語の試験を受けましたね。会場で僕、びっくりしたんですけど、めちゃめちゃ人がいなくて。
黒田:(笑)。
内山:ほとんどガラガラだったんですよ。
黒田:感覚的にはどれくらいですか? どれくらい入るお部屋に、どれくらいの人数がいたんですか?
内山:たぶん50人くらい入るスペースに、数名じゃないですかね。
黒田:10名いかないくらい?
内山:だったと思います。
黒田:そうですか。
内山:「会場間違えたかな?」みたいな感じ(笑)。
黒田:あはは(笑)。
内山:僕は東京で受けましたけど、ぜんぜんゾロゾロと人が来る感じじゃなくて。第2回がすごい混雑していたんじゃないかなと思いました。
黒田:内山さんは書類も、後々見直せるためにということで、全部コピーを取られているじゃないですか。それは普段からの内山さんの性質なんですか? それとも、この選抜試験は特別なものだったから取っておかれたんですか?。
内山:僕、そんなに几帳面じゃないほうだと思います。
黒田:そうなんですね。
内山:この時は、書類を出す時に「これ、出しちゃうと手元になくなるな」と思って。試験の後のプロセスで、自分が何を書いていたかって知っておくべきだというのと、あとは(今後、試験を)もう1回受けるかもしれない。その時に持っておいたほうがいいよなと思って、コピーを取ったんですよね。それが、ここ(本の執筆)につながっているんで、取っておいてよかったなと思うんですけど(笑)。
黒田:(笑)。