コロナ対策下におけるテクノロジーの3つの役割

慎ジュンホ氏(以下、慎):本日はテクノロジーをもってさまざまな課題を解決し、国民を救った台湾デジタル担当大臣のオードリー・タンさんをお招きして、New Normalの中で私たちがテクノロジーとどう向き合い、どう活かしていくかについてお話できればと思います。

井上理氏(以下、井上):では、まずオードリーさんに台湾におけるコロナ禍(COVID-19)の施策について、簡単にお話をしていただければと思います。

すでに日本でも、マスクマップ(Mask Map)の話やチャットボットの話については、「台湾が先進的だった」というのはかなり伝わってきています。改めてオードリーさんから、その辺りのサマリーを教えていただければと思います。

オードリー・タン氏(以下、オードリー):はい。まず、コロナウィルス対策の中で、テクノロジーは「速い、公平、楽しい」という3つの役割を担っています。

初めに昨年12月、リー・ウェンリアン医師が武漢から投稿したコロナウィルスを警告する動画が、台湾のSNSであるPTTで再投稿されました。その後すぐ、1月1日から台湾の医療機関が武漢からのフライト搭乗者の健康調査を開始しました。これは、他の国々よりも少なくとも10日早く開始することができました。

国民が不安を抱き始める前にテクノロジーが活用されるべきだとみんなが思っていたので、私たちは毎日、放送・配信のある主要メディアやインターネットで記者会見を配信しました。また、1922のフリーダイアルを設置し、相談や質問を受けられるようにしました。私たちは、まだ台湾人の感染者がいなかった1月という初期にこれらの対応を行ったのです。

私たちは、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の時から毎年訓練を行っていたので、今回のSARS 2.0が起こった時、コミュニケーション技術もマスクの生産も体制が整っていました。1日約200万枚だった医療用マスクの生産は、ほんの数ヶ月で2,000万枚以上に成長しました。

私たちの主な仕事は、マスクの生産を強化しつつ平等に行き渡らせることです。そして、ホワード・ウー氏とフィ・ウェンチァン氏が医療用マスクマップを開発したので、国民はどの薬局にマスクがあるのか情報共有ができます。

このマップを官僚のマスク会議に持ち込みました。市民から信頼されている薬剤師の仕事の予定表と対応可能時間をリアルタイムで発信し、30秒ごとに更新するようにしました。

マスクを求めて並んでいる人は、台湾に住んでいる人の99.9パーセントが保有している国民健康保険証をかざすだけで、1回で2週間分のマスク9枚、子どもであれば10枚を入手できるようになりました。

自分より前に並んでいる人がマスクをもらったあと、自分のスマホでマスクマップを再読み込みすれば、マスクの数が9または10減ります。政府が国民を信頼しているからデータを公表し、国民は政府を信頼しているから、このマスクマップに協力しました。このような信頼関係が極めて大切です。

数百万人のフォロワーを獲得した、台湾疾病管制署のチャットボット

オードリー:そのおかげで、国民はチャットボットも使用できるようになりました。台湾で一番人気のチャットボットは、台湾疾病管制署のLINE公式アカウントです。2月の最初の週で、すでに数百万人のフォロワーが増えました。

高齢の方はマスクマップを使うのは難しいかもしれませんが、このチャットボットなら、LINEに入っているGPS機能を使えば、どこの薬局にマスクがあるかを教えてくれるのです。マップやチャットボットの技術のおかけで、95パーセント以上の台湾市民に、このICカードを利用したマスクの供給を行うことが可能になったのです。

井上:台湾の民間企業の協力や貢献について、どのくらい寄与されたのか、どういう連携があったのか、簡単に教えていただけますでしょうか。

オードリー:今回、私たちはロックダウンではなく、国境での隔離を実施することにし、それが主要なコロナ対策となりました。台湾は今回ロックダウンはしていません。というのも、SARSが流行った時にロックダウンをしたのですが、それが台湾人のトラウマとなり、もう二度としたくなかったからです。

その代わり、海外から台湾に戻ってくる人たちには、必ず14日間の隔離生活をしてもらうようにしました。そのため、安全に自主隔離できる場所がない人には場所を確保する必要がありました。

そこで民間のホテル、特にふだん外国人観光客が宿泊するような高級ホテルが「隔離ホテルプログラム」に無償で参加してくれることになりました。隔離対象者は整った環境で質の良い滞在ができるので、休暇気分で14日間外出することなくホテルに滞在してくれますし、高額ではありませんが、1日約33米ドル(3,500円)の支給もありました。

このプログラムにたくさんのホテルチェーンが参加してくれました。もちろんIT企業も参加し、例えばHTCとAIチームDeepQがLINEと連携して自宅隔離している人用のチャットボットを開発してくれたように、自宅で隔離生活を送る人は、体温や体調はもちろん、彼らが家で1人で寂しくて外出してしまわないよう、精神面のチェックをすることが大切です。

当初、これには当局の担当者と、時には警察までもが対応していましたが、HTCやLINEと連携して、自宅で隔離生活をしている人をケアするチャットボットを1ヶ月程度で開発して、2020年4月に導入することができました。

5月に行ったアンケートでは95〜96パーセントの利用者が、このAIのようにケアをしてくれるアシスト機能を好意的に受け止めていることがわかりました。これは非常に高い数字です。

担当者の作業時間を削減でき、彼らの寝る時間を確保できただけでなく、自宅で過ごす人たちに安心を与えることができました。夜チャットボットに話しかければ、いろいろな疑問に答えてくれ、安全な生活を送ることができ、その結果、隔離生活を守ってくれるのです。チャットボット技術の上手な使用例だと言えるでしょう。

台湾政府とオードリー・タン氏の迅速な対応

井上:なるほど。IT面だけでなくメンタルケアも含めて、台湾に「官民の一体感」というものがあったことが、非常によく伝わってきました。ここまでの全体を通じて、慎さんはどのような感想や課題を持ちましたか。

:この一連の台湾の動きについては、私たちも非常に興味深く見ています。特に今オードリーさんがおっしゃったことを聞くと、まさに、この政府機関ではなく民間の会社が、何か課題やプロジェクトを進める際に、どのように問題意識を持ち、どのようにリソースを調達して、どのように解決案を出すかという、企業での流れと同じような動きを、台湾政府とオードリーさんが迅速にやられていたと感じております。

特にLINEがこのコロナ禍で行った施策は、先ほど井上さんがおっしゃったように、全国的に「国民がどんな健康状態にあるか」を調査する必要があり、LINEが参加してその全国調査を行ったり、自治体と連携して、先ほどオードリーさんがおっしゃった「パーソナルなケア」も、官民一体となって取り組んでおりました。

特に「LINE」はコミュニケーション・ツールなので、コミュニケーションを強化するためには、病院に行かない状況である今、オンライン健康相談を行ったり、ビデオ通話を強化する施策も行ってきました。

LINEの場合は、サービス誕生の背景となったのは、東日本大震災がきっかけでした。「会社が何とか社会に貢献したい」という思いで作ったので、このコロナ禍で「LINEがどのように社会貢献できるか」を、社内で自主的にいろいろと協議を行っている中で、民間企業が何か社会貢献するためには、民間企業だけではなく、日頃から政府機関や自治体・団体とリレーションを構築し、どんな信頼関係でどんな活動をしたかによって、スピード感を持って実行できることも多かったと思います。

人々にストレスや不安を与える「インフォデミック」への対応策

井上:「民間企業はこのコロナ禍で、今後どう貢献していくべきか」。オードリーさんから見て、「今後、民間企業に何を期待しているのか」。LINEも含めて、オードリーさんの所感をお伺いしたいと思います。

オードリー:台湾ではパンデミックの可能性はほぼありませんが、どちらかというと、我々はインフォデミック(フェイクニュースや虚偽情報がSNSやネットで拡散されること)への活用に期待しています。人々は陰謀説やデマなどに対して、ストレスと不安を感じるからです。

LINEでは、情報を真実かどうかを確認をしないまま、知り合いにシェアすることが可能です。TwitterのようなSNSに公開されれば多くの人が見るので、誰かがスパムとして簡単に通報できますが、LINEは完全に暗号化されているので、そのデマが世間で広まっているのかわかりません。

例えば「カップ麺が売り切れる」というデマが広まれば買い占めが起こります。その後、「カップ麺は消化に32日かかるので、体に悪い」というデマが流れました。こうした背景から、私は「LINEでファクトチェックができたら」と思っていましたが、それが実現したのです。

もしまたカップ麺に関する噂が流れても、私はデマかどうか判断できます。なぜなら、LINE台湾がCSRの一環で、噂になっている話が本当かどうかをファクトチェックができるようにしたからです。

20万人以上のユーザーが通報し、4.1万件もの話がデマだと判断されました。発言の自由と通信の機密を守りながらこうしたことができるので、LINEは頼もしいですね。

台湾やタイで取り組みが進む、ファクトチェックシステム

オードリー:LINEは楽しく簡単に会話する手段です。もし怪しいURLが送られてきても、簡単に「LINE Fact Checker」という公式アカウントに送ることができます。これからも私たちは、LINEと台湾のアンチウィルス企業のトレンドマイクロと協力できることを光栄に思っています。

同社は可愛い犬のキャラクターがAIを使い、受信メッセージの広告や動画が詐欺なのかを判断する「ドクターメッセージ」を開発しました。転送するだけで、不正な画像かどうかコンピューターが解析してくれます。LINEがファクトチェックやアンチウィルス業界と連携することは、インフォデミックを抑制する上でとても大切です。

もう一点お話しします。このように、インフォデミックに対処するために私が台湾で導入したようなLINEのファクトチェックシステムですが、これは実は台湾で始まった 「CoFact」という社会的改革です。

最近開かれたオンライン討論会に参加しました。タイでも同じ取り組みが始まっています。LINEタイには台湾のモデルを導入し、パンデミックだけでなくインフォデミックと闘っています。台湾のCSRチームが政府と協力したように、タイでもCSRチームが支援してくれたことを感謝しています。

このような官民の協力は、タイのソーシャルセクターに力を与えます。この3ヶ国、3部門の連携は、今後の良いモデルケースになるでしょう。LINEのご協力に感謝します。

民主主義を維持しながらデマを防ぐ

:僕も台湾チームと周期的にいろいろ議論するのですが、LINEの台湾チームから「フェイクニュースの課題」「ファクトチェックの課題」が、今の台湾社会において非常に重要な課題だと聞いています。台湾のLINEチームから、社会貢献という意味も含めて、「プロジェクトをぜひ進めたい」という意思を持って、LINE社としても全面的にサポートし、社内プロジェクトとしてローンチされました。

先ほどオードリーさんがおっしゃったような「民主主義=誰でも発言できる」と同時に、お互いに「フェイクニュースか真実かどうかをチェックする」という体制は、「民主主義を維持しながらデマを防ぐことができる、非常に良いシステムだ」という評判を受けて、「良いプロジェクトになった」という達成感と、プロジェクトを推進する民間企業としてのプライドを持っています。

それだけでなく、他の社会的な課題の中でLINEが貢献できていない部分があったら、ぜひ、台湾でもLINE社としてCSR活動をして、もっと進めていきたいと思います。

それと、コミュニケーションインフラや社会インフラとして、特に今の時期だからこそ、デマに振り回されないように正しい情報をどのように伝達するかは1つの大事な課題だと思いますが、LINEも「LINE NEWS」や台湾だったら「LINE TODAY」というサービスを通じて、どのように迅速に、かつ正しい情報をユーザーに伝達できるか、という課題が重要だと認識しております。

もう1つの機能として、コミュニケーションがあると思いますが、特にこのコロナ禍においては、「会社に行けない」「学校に行けない」「病気になっても病院に行くのが怖い」という課題があることを理解し、コミュニケーション自体が分断される可能性を持っていますので、それをどのように乗り越えるかが、LINE社としても1つの課題だと思っております。

AIが人間のアシストをするうえで必要な2つの点

井上:やはり今後の課題として、「情報の信憑性」をいかに担保していくのか、ファクトをどのようにチェックしていくのか、というところにおいて、オードリーさんが「AIの活躍について」どのように思われているのか。ファクト・チェックだけでなく、「AIと社会全体がどう融合していくべきなのか」。お考えがあれば一言いただきたいと思います。

オードリー:私の中でAIは「Assistive Intelligence(アシストする知能)」の略で、人間のアシストをするものだと思っています。アシスタントと同じように、AIにも大切なことが2つあります。

1つ目は、価値観の一致です。アシスタントは人間の利益を最優先に考えなくてはいけません。もしあなたが個人情報を気にするなら、AIもそれを第一に考えて行動し、2人の考えは同じであるべきです。

2つ目は相互の説明責任で、AIがなぜあなたに代わってそのような決定をしたのか、あなたに説明する義務があるということです。責任感の強いアシスタントなら、自分の行動の理由を説明するでしょう。

別の5人のアシスタントにそれぞれ決断を下すよう促すことはしませんし、それでは一貫性のある報告としてまとめることはできません。そして、あなたのアシスタントがなぜそのような決定を下したのかを説明するレポートを5個や25個、または125個も読む時間のある人はいないでしょう。

なので、相互の説明責任を果たすためには、それぞれのアクションについて 一貫した価値観で動いていることを証明する必要があります。例えば、プライバシーは重要なことです。だから、一貫性と説明責任の2点が重要だと考えます。

ユーザーにとって、新しい価値や利便性をどのように提供するか

井上:慎さんは、これからAIを使ってどのように社会と接していこうという、お考えをお持ちでしょうか。

:まずはオードリーさんがおっしゃったように、AIについては「人間のため・ユーザーのために、どんな新しい価値を提供するか」という観点ではなくて、「この技術・テクノロジーが」という観点から入ると、社会問題を起こしたり、良いところより弊害を起こりやすい部分があったりします。

LINE社で考えるAIは、まず「ユーザーにとって、新しい価値や利便性をどのように提供するか」からスタートしないといけないと考えます。

特に技術面としては、「どのような観点で、どのようにAIを通じて、我々が新しい価値を提供していくのか」に集中しているのですが、たとえばコロナ禍によって、行政や医療機関で人手が足りない、という課題があると思っています。

我々が音声認識や自動応対技術を通じて、人手を増やさなくても自動で応対する。いろいろなことに不安になっている人用のチャットボットと同じ形式ですが、リテラシーが高くない方や高齢の方、PCやスマホを操作できない方も、いろいろな情報を知りたい場合は、音声で操作する自動応答のチャットボットを利用したり、画像分析によって診断につながるとか、顔認識によって対面しなくても本人確認できたり。どんなふうに新しい価値を提供するか、研究開発を進めています。

もう1つのAIを通じたLINEの取り組みは、福岡市と一緒に取り組んでいる「スマートシティ」というプロジェクトです。これは行政と民間の会社が一緒になって、キャッシュレスやAIによる行政手続きの効率化に取り組み、いろいろな場面でもっと住みやすい環境にすることを協議・推進しています。

特に今回のCOVID-19などの危機的状況が起きた際に、どのくらいのスピード感で協力していくか、もっとスマートなシティを作り、住みやすい環境にするかについても、プロジェクトを進めているところです。

LINEはベンダーではなくプラットフォームになる

オードリー:スマートシティは、市民がスマートに生きられる場所です。スマホは持ち主の方が賢くなければいけません。スマホの方が賢かったら、スマホ中毒になってしまう危険性があり、人間とスマホの立場が逆になってしまいます。

スマートシティがあまりに賢すぎて市民に代わって意思決定をしてしまうと、市民は市政に参加しなくなるでしょう。スマホやスマートシティは素晴らしいことですが、私たちはデザイナーのように謙虚にあるべきです。

そして、特定の問題に対処するにはこの解決策、というように固定化してしまうのではなく、常に市民自身が異なる方法を選択することができ、望むような革新ができるようにするべきです。

LINEがベンダーでなく、プラットフォームになるという考え方を貫けば、それが市民のより高い創造性を引き出すことができると思います。

人々のチャレンジ精神が「New Normal」を作る背景

井上:次の話題に移りたいと思うのですが、「アジアのインターネット企業やテクノロジー企業は、今後『New Normal』と言われている新しい時代において、どうあるべきなのか」という、漠然とした質問なのですが、どんなビジョンを持つべきなのかをお聞かせください。

:先ほどおっしゃったような、「ヒューマン・ファースト」や人間目線で、単なるテクノロジーの進化ではなく、実際に「人間のため・ユーザーのため、国民のため、どんなふうに貢献するか」という観点で物事を判断しないといけないと思います。

でも「AI」は単なる技術ではなくて、弊社から見ると、最近よく言われている「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という概念・観点で、物事をオフラインからオンライン化したり、もっと効率化していく中で、最終的には効率化の頂点にあるのが「AI」技術の基盤だと思います。

特にこのCOVID-19による危機を見ても、今までの常識で対応できないところをスピーディーに対応するためには、技術の一番重要なところで「AI技術」が用いられていくと思います。

この中でもう1つ強調したいところは、今のAIの動きをみると大手の一部企業が主導権を握り、主なテクノロジーを自分で持っていて、特許で独占している状況だと思います。特にCOVID-19のような世界的な危機になって、この技術が公平に使われているか、例えばアジア各国でこの技術が必要な場面で必要な企業が持っているかという課題もあると思います。

LINE社としては、先端技術を大手の一部企業だけでなく、自社で開発したり、アジアという観点で欧米の目線でなく、正しい人と世界があるべきだと思います。LINE社もこの技術で、多様な場面で社会貢献ができればと考えています。

New Normalは新しいスタンダードが生まれるという意味も含まれていると思います。その中で例えば、COVID-19によって強制的な変化もあると思いますが、それを克服するために人々のチャレンジ精神がNew Normalを作る1つの背景になると思います。

例えば今、オードリーさんがおっしゃったようないろいろな取り組みの中で、僕はNew Normalの新しい時代は、新しい世代が主役になっているかなと思います。

社会的な課題や目標を見ると、それを素直に認めて克服したくならないタイプと、今の若い世代のように何か不満や課題意識があったら自分で解決したい(と考える人もいます)。今のインターネットユーザーは、直接参加して新しい問題を解決したいというところも、New Normalという形式の新しい現象の1つです。企業ではなくて社会全体的に、新しい問題を自分の手で解決したい・解決に参加したい・貢献したいという精神的な面も大事になると思います。

大手IT企業は、社会規範の強化に取り組む姿勢を伝える責任がある

井上:ありがとうございます。今度はオードリーさんにも同じ質問をしたいと思います。そのGAFAとの対比の中でアジアがなすべき役割について、お考えがあればぜひお聞かせください。

オードリー:私はデジタル大臣になる前に、AppleでAIやSiriテクノロジーを6年間担当していました。私はAppleがGoogle、Amazon、Facebookと同列に語られることにいつも違和感を感じています。Appleはプライバシーや説明責任を重視しており、それで製品を売っているのですが、顧客の情報を売ることはしません。

GAFAの中でも価値観の違いは存在します。現在、私はAppleでは働いていません。Appleをひいきするわけでなく、私が言いたいのは、大手IT企業は「社会規範の強化に取り組んでいる」と 社会に伝える責任があるということです。

例えば、日本も台湾も自然災害やパンデミックが起こった場合、職業に関係なく災害救援活動に取り組めると、私たちは信じています。また、台湾と日本では高齢化社会を迎えている中で、高齢者を社会から除外してはいけません。

テクノロジーが、定年退職した方を社会に戻す手伝いをするべきだと思います。実際、定年後の方は時間があるので、アシストする技術を開発すれば、彼らは現役で働いていた時よりも、社会に貢献できるかもしれません。

このことからもわかるように、IT企業は自らを「社会的価値に即したアシスタント」と見なせば、社会からもっと重宝されるでしょう。

GAFAも、国の規範を守るために各国で運営方法を変えるべきです。台湾では政府の「Radical Transparency(徹底的な透明性)」が重要です。人々はそれを政権に求めたのであり、すべての議員は政治活動のための寄付や出費について透明性を確保すべきで、それが規範です。

Facebookも社会的制裁を受けることを恐れて運用を認めましたが、今年初めの大統領選挙から、SNSを介したすべての活動への寄付と活動費のデータは、リアルタイムで公表されるようになりました。

そのおかげでデマを流したりなどの迷惑行為がなくなりますし、この情報を広めることで、海外からの資金が広告を通じて我々に影響を及ぼすことはもはやなくなりました。

これは台湾のSNSであるPTTが最初に自主規制を提示し、人々の賛同を得たからです。なのでFacebookは、台湾の規範を守るか、社会的制裁を受けるかのどちらかを選ばなければなりません。政府は法律を制定する必要はなく、事業活動のためには大手のIT企業は規範を遵守するかどうかは見ています。それぞれの国でIT業界のリーダーとして社会規範やアジェンダを作る義務があります。

井上:もっともっといろいろなことをお伺いしたかったのですが、そろそろお時間になりました。たくさんの日本のLINEのユーザーもオードリーさんのメッセージを見ていますので、最後にオードリーさんから、日本のユーザーに向けて何かメッセージがあれば一言お願いします。

オードリー:みなさまの健康とますますの繁栄を心よりお祈り申し上げます。

井上:慎さん、最後に、オードリーさんの印象や、このセッションの締めの言葉をお願いします。

:今日はオードリーさんにお越しいただき、貴重な教えが多かったと思います。特に国はそれぞれ違うけど、もっと精神的な社会を迎えたいという志は同じかなと思いますので、今日尊敬するオードリーさんと一緒にお話しできてうれしいです。

LINEという会社は、日本だけでなく、台湾やタイなどで支持を受けて社会インフラとして活躍しているので、LINEを通じて、いろいろな国で交流が促進できる1つの材料になればと思います。今日はありがとうございました。