“突然管が抜かれた問題”の裏側

中山祐次郎氏(以下、中山):矢方さんがお話してくださったのは、“スタッフが入れ替わりすぎて、誰が誰だかわからない問題”と、もう1つは“突然管が抜かれた問題”だと思うんです。もしかしたら最初の方に、主治医の先生が「こういう手術をして管が入って、何日目ぐらいで良くなったら抜けて退院だよ」「1週間~10日ぐらいで退院ですよ」という話はざーっとしたかもしれないんですけど。

最近は、矢方さんと同じ乳がんの人が入院したら、ここで手術をして翌日から歩いて、こう○○して××してとか、全部スケジュールがある程度決まっていて、それが書かれた大きな紙があるんです。

矢方美紀氏(以下、矢方):へー。

中山:もしかしたら、矢方さんのときはなかったかもしれないですけれど、クリニカルパス(注:治療や検査がどういうふうに行われていくかという経過を説明するために、入院中の予定をスケジュール表にまとめたもの)というんですけど。こういうふうに辿っていって、最後にゴール、退院ですよというのがだいたい決まっていて。

そういうところに、手術後5日目か6日目ぐらいに管を抜きますと書いてあったりして、看護師さんが説明したりはしていますので。ただ、正直それもけっこう説明が十分ではないなとは、今突っ込まれて思いました。

その言い訳なんですけれども。医療は、患者さんの熱があるとか元気がどうだとか、傷が膿んでいないかとか、管から出てくる汁の量や性質といった10個ぐらいの要素を見て、最終的にそれを自分の経験や研究の結果と合わせて、管を抜く・抜かないという判断をするんですよ。

「全員4日目に管を抜くことができますよ」と一律にはできないので、これぐらい量が減ってきて、熱もなくて痛くなければ抜けますよと。今のコロナも、外出自粛のラインが引けないのと似たようなもので、「こうなったら抜きます」というものがあまりはっきりしていないことが多くて。そういうこともあって、突然人がたくさん来て、強盗のように管を抜いていったかもしれませんね(笑)。まぁでも、ちょっとよくないですね。

医師と患者の間の温度差

矢方:先生からは「明日か明後日頃に、たぶん管を抜けますね」というのは聞いていたんですよ。

中山:そうなんですか。

矢方:こんな朝早くに、5~6人の先生がいきなり来て、ピョッと抜いてもう終わりという。私からしたら、けっこう「えっ、何が起こるんだ?」という。

中山:怖かったですか? 

矢方:手術以上にすごくどきどきしちゃったんですけど。先生たちは日頃からたぶん何度も行っていることというのもあったと思うので、差がすごかったなと思って。「あぁ、終わったんだぁ……」っていう。

中山:なるほど。そういうときに一言、お声がけぐらいあったら違いました? 

矢方:そうですね。先生たちに声をかける間もないぐらい、慌ただしさが感じられたので「もう従うしかない」と思って。

中山:(笑)。そうだったんですね。しかも、やっぱり大人数で体をばっと見られるというのは、なかなか嫌ですよね。

矢方:(笑)。そうですね。なんか見られて恥ずかしいということも、もうなくなったんですけど……。もう2年前に手術をして、(ドレーンを抜いたのは手術から)1週間後のできごとだったんですけど、めちゃくちゃ鮮明に覚えています。

治療がつらいときに声をかけてくれた看護師さん

中山:ああ、そうですか。初っ端からけっこう強烈なパンチを食らって、僕はもう倒れる寸前まで来ています。他に何かあります? 

矢方:これはすごくよかったなと思うこともあって。抗がん剤治療が始まって、だんだん脱毛してきて、病院に2週間に1回のペースで通って治療をしたときに、同じウィッグだと飽きちゃうなということもあったので、ロングとショートのウィッグを使っていて、お洋服もその日の気分にあわせて着ていたんですけど。

通院は2週間に1回なのに、毎回行くたびに看護師さんが「あ、今日はショートなんですね」とか、「お洋服のテイストが違いますね」とさりげなく、治療が始まって「いやだな」と思っているときに声をかけてくださって。それは「あ、ちゃんと見てくれているんだ」というふうに、すごくうれしかったです。

中山:なるほど。いや、それは僕はぜんぜんやっていないですね(笑)。

矢方:(笑)。逆に……。

中山:ぜんぜん…。食欲とか体重を見るので「太りましたね」とか嫌なことは言うんですけれども、「ちょっと太ってきました?」ぐらいしか言わないなぁ。でも、そういうのってうれしいですよね。

放射線治療が楽しくなったひと言

矢方:はい。ちょうどそのとき女性の看護師さんに言われたので、それもすごくうれしくて。あと、その声をかけてくれたエピソードですごくおもしろかったエピソードがあって。

放射線治療って、服を全部脱いで治療を、(手を頭の後ろに回して)こういうかたちで固定して仰向けに寝てやるじゃないですか。毎回放射線の技師さんというんですかね。微調整して「よーし、今から始めます」みたいな雰囲気になったときに、男性の先生だったんですけど、私のことを見てるなと思って、先生をぱっと見たら「乳がんダイアリー見てます」と言って、「調べまーす」って(退室)(笑)。

中山:(笑)。

矢方:「治療始めます」と言って先生が出ていかれて、「あ、先生ブログ見てくれてるんだ!」って思って、でも「ここで言う!?」という。すごくおもしろかったエピソードですよね。

中山:確かに。もうちょっと他のタイミングがあったかもしれないですけれどもね。何も治療寸前の、これ(ポーズ中)のときに言わなくてもっていう。

矢方:動いちゃだめだし、ちょっとしゃべってもだめかなと思ったので。それで治療が始まって。

中山:あ、そうですか(笑)。その先生はきっと、どうしても言いたかったんですね。

矢方:その先生に一言でも「ありがとうございます」って言おうと思ったんですけど、タイミング的にそれができずに治療が終わってしまったので。それだけちょっと心残りですね。

中山:でもたぶん、その先生はこれを見ているんじゃないですか? 

矢方:あー、うれしい! 先生、見てますかー! 

中山:ありがとうございましたということで。

矢方:最初はちょっと怖そうな先生だなと思ったんですけど、その一言を言っていただいたのがきっかけで、放射線治療、毎日楽しいなと思いましたもんね。

中山:ありがとうございました。いや、それは素敵なお話ですね。

矢方:はい。やっぱり人との関わりって、治療にもすごく大きく関わることだなというのは、そのとき思いましたね。

不測の事態がほぼ必ず起きてしまう“待ち時間問題”

矢方:大きな病院になってくると、多くの患者さんに対応する場所だから仕方ないと思うんですけど、やっぱり診察って予定通りの時間に行われるというのが難しくて、時には前後がすごくずれてしまうことがあるじゃないですか。

中山:ええ、ええ。

矢方:私の場合も、すごく困っているなと思うこともあるんですけど、そこは自分の時間を潰すものなどを最低限用意して、時間が押してしまっても後ろがきゅうきゅうにならないように余裕を持って設定したりしていたんですけど。

人によっては、この後仕事に行かなくちゃいけない人であったり、予定がある人だったり、それぞれの生活リズムがあるので。私が治療を受けて待っているときに、向かい側の男性が「この後仕事なんですけど、まだ終わらないんですか? まだ治療が始まらないんですか?」というふうに、ちょっと大きな声でしゃべっていたり、「あの人は後から来て僕はもっと最初に来たのに、なんでこんなに待たされているんですか?」という……。

中山:うーん……。なるほど。

矢方:なんだか自分と他人を比べてしまうことって、病院ですごく多く見ちゃうと思うんですよ。それで、やっぱりその日、先生も看護師さんも患者さんも、怒ったり、何か嫌な気分になったときって、その後ずっと引きずってしまったり、絶対嫌な思いしか残らないと思うんですよね。

なんだかなるべく、私は自分にも相手にもそういう影響を与えないような発言であったり、接し方をしなきゃなということはすごく思っています。仕方ないことだとは思うんですけど。

中山:いや、そうですよね。“待ち時間問題”ですよね。これって、もう本当に超絶難しい問題で、僕も毎週月曜に外来に行っているんですけれど。だいたい15分刻みくらいで患者さんが入っているんですよね。その時間内に終わらないと、まぁずれ込むわけです。

ずれ込んだり、あとは途中で飛び入りの患者さんが来たり、すごく調子が悪い人が来たり、どこかから病院に電話が来たりという不測の事態が、ほぼ必ず起きるんですよ。

結局、僕も長いと1時間ぐらいお待たせしちゃっていることが、もう毎週のできごとで「これはなんとかならないかな」と毎回思うんですよね。パソコンで入力できることはもう前の日までにやっておくとか、やれることはいろいろ先にやって、少しずつましにはなってきたんですけど。

患者さんにはまず最初にお詫びの言葉をかける

矢方:やっぱり先生の診察のときって「先生、今日押してましたね」というのは、けっこう言われたりするんですか? 

中山:僕のいる福島県の人たちはすごく優しい人が多くてですね。言われたことがないんですよ。

矢方:おーっ! そうなんですね。

中山:本当に1回もないんですけど。もちろん思っているとは思いますけどね。1回も言われたことがなくて。外来で、「○○さん」と呼んで、入ってきてもらうじゃないですか。部屋に入ってきたらもう100パーセント最初に、「すみません、お待たせしちゃいまして」と全員に言うようにしているんですけど。

矢方:そう、私の先生もすごく言ってくださっています。「すみません、お待たせしてしまいまして申し訳ありません」って。なんだか謝ってくださっていることがすごく申し訳なくて、もうぜんぜん診ていただけているだけ、私も「ありがとうございます」なので。

中山:そんなことはないと思いますけど。でもこれ、謝ることで先手を打って、向こうの怒る気を削いでいる作戦だという話もあるんですよ。でも、お待たせしているのも事実だし、たまに僕も家族の付き添いなどで病院に行くと、いきなり2時間待ちとかもあったりするので。

「いや、でも俺も外来のときそうだもんな」と、「次に予定があっても言えないな」とか思いながら待っていてですね。部屋に行くと、疲れ切って顔がテカテカのお医者さんがいたりすると、なんだか申し訳ねぇなと思いながら。なかなか解決が難しいですね。

矢方:病院によってはいろいろ対策というか、工夫をされたり新しく何かのシステムを導入したりされているから、それがどんどん改善していけばいいなということはすごく思うんです。