東大にあって、他の大学に相対的になかったもの

今野:なるほど。技術からビジネスの初期設定をしっかりしようということと、ものによってはしっかりグローバルを最初から見ようという話ですね。そこでいうと、これは例えば東大しかできないことなんでしょうか。リーダーとしてあえてうかがいますが、他の大学では無理ですか? 

各務:もちろんできないことはありませんが、条件があるとすると、これは私が言うことなので少しディスカウントして聞いていただければいいと思うんですが。東大にあって、他の大学に相対的になかったものを見ると、1つは東大エッジキャピタルという存在。国立大学の法人化が2004年から実現したということが、間違いなく(1つの要素)。他の大学は十数年間そういうものがありませんでした。

それから東大TLOというものがあります。一対一の関係で、技術移転の機関があって、毎年500~600の発明を評価する。しかも2週間で1件ずつの評価をするということをずっとやり続けているということがあります。

この技術の側面(東大TLO)と、お金の側面(東大エッジキャピタル)ということをずっとやってきたことに加えて、もしかすると、これを言うと自分の自慢になりそうなんですが、私も十何年ずっと続けていて、この一種のコンティニュイティ(継続性)があるということです。

これが普通の大学ですと、私のような役割の者というのは、だいたい3年か5年で任期がきて、辞めてしまう人が多いのです。途中でパッとなくなっちゃうことがあるんですよ。したがって、継続性がやっぱりすごく重要なことなんです。

それをやるんであれば、時間はかかるかもしれませんが、どこでもできる。重要なポイントは、雇用も含めて継続性を持てるかどうか。そこだと思っています。

今野:大学関連でいえば、よくビジネス側の人材がつかないことによって、商売が商売にならないような。その辺は今、どうなんですか。

各務:おっしゃるとおりです。私の今一番大きな課題でもあります。東大は、研究者の研究成果の事業化を考えたときに、研究者が社長になることは基本的に禁止しています。これは利益相反というよりも、責務相反、大学の研究者は研究と教育をやるというのが主務であると考えられています。したがって、基本的に、なかば半身、半々身で会社のトップをやるということを禁止しています。

これはMITでもスタンフォードでもまったく同じルールなんです。誤解が一部であるんですが、それこそサイバーダインにいる山海先生や(ピクシーダストテクノロジーズ株式会社代表取締役)落合先生のような、優れたビジネスマインドを持った先生方が、教授職でありながら一部企業へベンチャーに関わっている例があるんです。

ですが、極めてまれな例なのです。研究者がしゃしゃり出てしまった例というのは、ことごとく失敗する。要するに、研究室の延長線上は作るんですが、またラボがもう一つできましたという話です。ビジネスのにおいがまったくしないままになってしまう。

本来、今野さんが来ていただければさばけるんですが、日本の多くのベンチャーキャピタリストは、そうしたさばきが必ずしも十分ではないんですね。

今野:なるほど。

各務:先生が偉そうなままずっとやってしまうということが、かなりある。これはもう、失敗する最大の要因になると言いましょうか。

今野:なるほど。そこへ逆にオポチュニティーもあるということですか?

各務:そうです。おっしゃるとおりです。

成功者は「自分が持っているもの」を理解している

今野:なるほど、わかりました。あと5分、6分ぐらいで、Q&Aに入ると思いますが、最後にとりあえず、ご自身の今後のコミットメント、もしくは生態系においてこうしたことをしてほしい、するといいんじゃないかという提案を、高原さんからいきましょうか。高原、鈴木、堤、各務(の順)といきます。

高原:コミットメントとしては、これはみなさんにも言いたいんですが「自分自身をきちんと知る」ということですね。自分は何を持っていて、何を持っていないのか、無いものに目を向けるのではなく、あるものに目を向けるということですね。

いろんな話を聞くと、(自分に)ないものにばかり目を向けてしまうんですが、成功している起業家も、成功している地方創生も、必ず自分の持っているものに目を向けるんです。それをどう活かすかということですね。それを活かすときに1人でやるのではなく、はざまに立つ。これ、はざまに立つというのが実はしんどいんですよ。

私の場合も、かなり副業をやりました。プロボノをやりました。(NPO法人)GRAなどをやったんですが、はざまに立っているときは「お前、どっちの味方なんだ」という目を若干両方から感じたりするんですよ。それは私が真面目だからなんですが(笑)。

引き続き私は、そのはざまに立つ苦しさ、不安定の中に居続けるということをやっていくのだろうかと思っています。グロービスの立場、起業家の立場、他のアクセラレーションや大企業の方のはざまに立って、苦しみながらやるということを、私はやっていこうと思っています。

「片隅でどれだけ熱狂できるか」がイノベーションの起点となる

今野:はい。ありがとうございます。では、鈴木さん。

鈴木:はい。ありがとうございました。もう何回も言っているとおり、私は8年前から事業創造を志す人をとにかく増やすということを、ミッションとして掲げて活動していますので、それを引き続きコミットしていきたいと思ってます。

今日はユニコーンという話なので、政府が「2023年までに20社のユニコーンを出す」と言っていますが、私の0→1らしい話をすると、やっぱりイノベーションや事業の最初の走り出しというのは、絶対に中心では起きない。ですから、政府が旗を振っているうちは(日本でユニコーンを出すのは)大変だなと思っています。

イノベーションは、片隅でしか起きない。私は片隅でどれだけ熱狂し発狂できるかという活動が、拠点・起点になっているはずだと考えているんですね。グロービスは大きくなりすぎているというようにも思っているので、僕らのようなしょうもない片隅のプレーヤーががんばった方がこの領域はいいと思っていますので、引き続きがんばります。

「いまの延長」では次の10年は生き残れない

今野:はい。ありがとうございます。では、堤さん。お願いします。

:これ、私自身がいつも気にしていることであり、たぶんみなさんにも一番伝えたいと思うのは、やっぱり「今の延長というものに未来はない」と僕は思っているんですね。

やっぱりみなさんも、ザッと見た感じは10年近く、または10年以上のビジネスキャリアを積まれた方が多いと思うんですが、その延長で次の10年をサバイブできるということはまずないと思っていただきたい。

そうした意味では、僕もキャピタリストとしてずっとやってきているんですが、常に変化し続ける。得意じゃないとそのときは思ったことでも新しいことにチャレンジをする。そういうことが、サバイブしていくためにはもっとも重要なことじゃないかというように思っているんですね。

「今の延長があるから、このまま先もきっとそうなる」。逆に過去を振り返ってみれば、そんなわけがないんですよね。ですから、やっぱりそこに関して恐れずにチャレンジをする。変化を恐れないということを常に意識していただきたい。

何よりもここから先、起業される方も出てくるかもしれないし、そのまま勤めて大企業の中でいろいろと新しいイノベーションを起こす人もいるかもしれませんが、とにかく変化を恐れないでいただきたいと思っております。

グローバルに物を見る人材をどう作るか

今野:自らも変化していくということですね。はい。では、各務さん、お願いします。

各務:はい。私は昨年6月に、東大に来たDropboxの創業者アンドリュー・ヒューストンという方と対談したことがあります。彼は昨年3月に上場して、上場時は1兆3,000億円なんですね。だからユニコーンというのは確かに1ビリオンということなんですが、最近大風呂敷を敷いておりまして。時価総額1兆円企業を目指すぐらいのモードで歩まないと。

今野:デカコーンですね。

各務:デカコーンですね。ユニコーン20社だとちょっとかわいすぎるという。

今野:(笑)。

各務:まぁ、私なんかが言うと偉そうになっちゃうんですが、そんなにもっと……。

今野:でもペプチドリームで、8,000億?

各務:今7,000億という話です。

今野:7,000億。

各務:要は、ペプチドリームを見るとわかるように、最初にお客さんというのは全部メガファーマーなんですね。しかも日本の企業ではありません。しかも契約そのものも、かなりしたたかな戦略をとっていると私は見ています。やっぱり海外のビジネスをどうやるかということが、要のようで。

したがってメルカリであればそういうことだし、(メルカリの)山田さんがおっしゃっていたことはそういうこと。それから昨日の(株式会社メルカリ取締役社長兼COO)小泉さんの話、200名から300名ぐらいの社員がいらっしゃるんですか。

最初からグローバルに見るということになると、私が大学人としてグローバルに物を見る人材をどう作るかということなんで、具体的なことをご紹介すると、今年の8月からはインドのスタートアップ企業に東大の学生を送るというプログラムを始めます。

今、東大エッジキャピタルがインドの会社に投資をしているということもありますが、そうした形で少なくとも北京大学との交流では深センに行き、シリコンバレーのプログラムではスタンフォードと一緒にやっています。インドでの取り組みは、今年、最初のパイロットですので5、6名ぐらいしか行きませんが、そこでやるということを通して、少し海外を見るということを常にやります。

それから学部1年生向けのプログラムとして、サマーブートキャンプと言っているんですが、屋外の非日常的な空間でスタートアップに関わった教員、あるいはベンチャー企業、それから松尾豊先生をはじめとした、ああいった方々に来ていただく。

今回(あすか会議に)出ている方でいうと、アクセルスペースの中村さん(株式会社ユーグレナ)や出雲さんなどに来てもらって、学部1年生向けのプログラムとして最初の初期設定からベンチャーマインドを持ってもらうことをやります。

こうしたことにチャレンジして、だんだんとそのようなものを通してグローバルにものを考える起業家作りをしたいと思っています。

今野:なるほど。私自身もあれですね。今一番の仕事上の関心事は、やっぱり海外支援。日本企業の海外支援です。ネットのところですら、ユニコーンをそれ以上成長させようとするときに海外を見なければ、市場が限定的になる。

それで結果としてやられてしまうような形になるときに、すごく難しいのは、日本ではすぐ上場できるようなPLを持っている。しかしアメリカでいうと、まだそれはシード、アーリーステージにある。この局面に僕の立場でいうと、誰が資金を提供するかというようなところが一番ギャップになっているんですよね。

ですから我々が支えきるか、もしくは海外のVCに早期で入ってもらうようなIRも含め、ネットワークも含めて持つかというようなところが、僕の領域でいえばあると思っています。