世界人口の7割が「Armプロセッサ」が入ったデバイスを使っている

内海弦氏:アームの内海でございます。今日はどうもありがとうございます。

「A New Era of Compute」と題しまして、新世代の、半導体が最も多く利用されるコンピューティングの分野で、これから何が起きていくかという話をします。私どもはマイクロプロセッサを設計開発している会社でございます。今後を見たときにどう見えているかというお話をしていきたいと思っております。

前半で私どもの取り組みの概略をお話しして、後半はうちの菅波という者に引き継いで詳細をお伝えします。前半は私から新世代のコンピューティング技術の話を差し上げたいと思います。

世界人口の70パーセントの方たちが使っているデバイスの中に、私どものマイクロプロセッサが入っています。デバイスとは何かと言うと、実際には“PC以外の、電子的なものが入っているものすべて”と考えていいと思います。

実際、年間出荷数としては、200億のデバイスに「Armプロセッサ」というものが入っておりまして、人口比で言うと1人3個くらいのプロセッサが行き渡っているのが実際でございます。これは主にスマホで使われています。

ただ世界的には貧富の差もございますから、電子デバイスを使えて電気で充電して使えるデバイスと考えますと、人口で言うと7割の方が私どものプロセッサを毎日使われている。

私どもの場合、総累計の出荷数で言うと1,500億個なんですね。年間で言うと200億以上の出荷が行われていると。PCなどは多い多いと言われてますけれども、年間10億未満だと思います。

デバイス単体に1つ以上のArmが入っているのを1と数えていますから、1デバイスに2個以上入っていても1と数えたうえで、あくまでも半導体のデバイス、パッケージの数で、年間200億個以上が私どもArmのプロセッサを使って出荷されているのが現状でございます。

シェアとしては33パーセント。これは驚くほど多くないんですけれども、これは4ビット、8ビット、16ビットの旧来のマイコンもまだまだたくさん使われておりますので。それは数としては7割くらいあるんですね。残りの最先端の32ビットで、しかも組み込み分野の中には、ほとんど私どものプロセッサが入っているのが現状でございます。

1990年、Appleらアメリカ企業が“イギリスの新興会社”に投資した理由

今後の伸びですが、向こう4年間でさらに1,000億個ほど出荷しそうというのが、私どもの予想でございます。このまま伸びていきますと、2030年代中頃には累計1兆個になる可能性が高いと。

1兆個のデバイスが何に使われるか。使われた用途によって、今後世界がどう変わっていくかが、今後の争点になると思うんですね。

旧来型の半導体デバイスの数ではなくて、そのうえで何が起きるか。そのうえで行われているプロセスそのもの、実際には「データ」というキーワードになるんですけれども。データが何を作っていくかということが、より多くの影響を与えていく可能性が高いと思っております。

私どものプロセッサの用途としては末端のデバイス、センサーなどからデータセンター、サーバーなどが多用途に使われています。ただ歴史的に見ますと、私どもの会社は1990年に創業いたしまして、Appleさん、VLSI Technologyさん、BBC Microを製造したAcorn Computersさん。そういった3社が株主になっていました。

当時1990年です。私どもはもともとイギリスの会社でございます。どうしてイギリスでマイクロプロセッサを作るのに、株主が(アメリカの企業である)AppleさんとVLSIさんだったかと言うと、当時アメリカ主体でマイクロプロセッサの開発が行われていたので、重厚長大型のビジネス、つまりハイパフォーマンスであれば電気はいくら食べてもいい。

「電力なんて気にしないで物量作戦で性能を上げればいい」というのがアメリカ主導型のマイクロプロセッサのトレンドだったんです。一方、イギリスは島国でございますから、比較的軽薄短小(機械製品・電気製品などが、軽量化・薄型化・小型化したことを表す)の日本に近い文化がございまして。より小さくて電力効率がいいという。

当時のAppleさんは、「Apple Newton」という今のPDA(携帯情報端末)の先祖になるものを開発していたんですが、それに向いたプロセッサがなかったんですね。ないならば、Armという新興のイギリスの会社に投資して設計させようというのが、もともとの起源でございました。

そこからできたのが、ポータルデバイスの走りであるPDAだったんですけれども。ただ不幸にしてほとんど売れませんでした。

「性能よりも、電力効率がよくて省エネ」であることが求められるようになった

そのあと、2Gのデータ通信が載ったGSMやGPRS、日本ですと3GのFOMAとiモードのあたりから、データ通信デバイスとして携帯電話が大きく様変わりしました。この潮流において、Armが一番使われました。

なぜ使われたかという理由は、当時のアメリカ主導型のプロセッサは重厚長大型で、携帯機器、とくに小さい携帯電話にあまり向いていなかったんですね。それに対してArmのプロセッサは電力消費効率がいいものですから、携帯電話にぴったりだった。

携帯時代に私どもの製品が一番使われたのはNokiaさん。2G・3G時代ではトレンドセッター、世界ナンバー1の携帯電話です。そのスウェーデンの会社に私ども(の製品)を全面的に採用いただいたおかげで、携帯電話の中では主流の立場になりました。

当初はベースバンドと言って、2G・3Gの変復調の部分を司るベースバンドの部分にだけ使われていたんですけれども、2G以降データ通信が始まり、Webブラウジングが始まったことでコンピューティングの部分も担うことになった。

携帯電話の中で、ベースバンドのプロセッサにはArmが入っていたんですが、データのハンドルする部分にもArmが入ると。つまり、携帯電話のような小さいデバイスに2つ以上のプロセッサがどんどん入るようになったんですね。

そのときもArmが使われたのは、電力効率がよくて性能がちゃんとしているということが一番の大きな理由でした。

このトレンドのままスマホの時代になりまして。スマホも当初は電池が持ちませんという部分もありましたけれども、あの小さいデバイスがほとんどのコンピューティングを行える、すべての機能を長時間使えるというのは、電力効率がよいプロセッサでなければいけないんです。

その潮流が、テレビや家電機器、デジカメ、プリンターなどでも、だんだん「性能よりも省エネ」であること、「電力を効率よく使うプロセッサ」であることが求められる基準として変わってまいりました。

EV車、カメラのイメージセンサー、サーバー あらゆるものに入っているArmプロセッサ

私どもはそのトレンドにちょうどハマりまして、90年代から現在に至って、あらゆるものに使われるようになってきました。

車も当時はガソリンエンジンですので、電力は別にいくら使ってもいい時代があったんですけど、今やEVは当たり前ですから。

例えば、EVのバッテリーマネジメントをするマイコンがほとんどArmなんですが、電力を食ってしまうと意味がないわけですね。そういったところにArmは引き続きより多く使われるようになってきて、今やバッテリーのセルごとに使われるようになっている。

あと、カメラの一番大事なところのイメージセンサーの部分にもArmが入る。デジカメもスマホもそうです。これも電力効率がいいからその処理の電力効率をよくできる、というところでメリットがあります。

一番最近ですと、サーバーやクラウドでも利用が始まっています。サーバーやクラウドは、ほかのプロセッサで言う“パフォーマンス重視”の場合の一番の牙城だったわけです。そこでも、だんだん電力消費が問題になってきたんですね。

なぜかと言うと、サーバーのデータセンターを運営する場合にエアコンの電気代もほぼ同じくらい電気を食っていることが、みなさんもうおわかりになってきたんです。

そうするとどうやって下げるかと言うと、一番電気を食っているプロセッサとストレージの部分の電力を下げないといけない。電力の先鋒となるプロセッサに、電力効率がいいものが求められてきているというのが現状でございます。

みなさん、今スマホをお持ちだと思いますけれども。最先端のスマホですと15個くらい、多いものだと20個くらいArmプロセッサが入っています。何に入っているかと言いますと、ベースバンドは当たり前で、今はベースバンドだけでも2個から3個のArmプロセッサが入っています。

それ以外にアプリケーションプロセッサ。iOSやAndroidなどの動くアプリケーションプロセッサの場合、4個から8個、Armが入っていますね。それだけではなくてイメージセンサー、センサーハブと言いますけど、そこの部分に入っている。

あとバッテリーマネジメントの電池を充放電する部分。Wi-Fi、Bluetoothなどにも1個以上入っていて。全部合わせますと、今みなさんのポケットに入っているスマホの中にArmが15個から20個入って、日々使っていただいているんですね。

電力消費の問題を抱えていたPCメーカーが、こぞってArmを採用しはじめた

これほど毎日みなさんの手元にあって使われているマイクロプロセッサは、今やArm以外にない。したがって人口の、世界的にも70パーセントの方がArmプロセッサに毎日接してデータをやり取りをしている。

ここまではこれでよかったんですけれども、今後どうなるかをもう少しお話していきたいと思います。最近のニュースでちょっと目立ったもの……実はパソコンも、(スライドを指して)これはLenovoさんとかが出してきたもので、WindowsがArmに載りました。

当然パソコンの中でも電量消費が一番問題で、パソコンで使われて一番嫌だなと思うのはAC-DCのケーブル、けっこう大きいアダプターを持ち歩かざるを得ないんですね。

それはなぜかと言うと、パソコン自体に電気を食うプロセッサが多かったんです。じゃあArmを使ったらどうかなということで、メジャーなパソコンメーカーさんがArmプロセッサを徐々に採用するようになってきました。

近々ですと「Surface Pro X」というMicrosoftのPCにもArmが使われています。試しに使っていただくと、電池の保ちが明らかに違う。例えば普通のPCは1日で充電切れになりますけれども、Armが使われているPCは、実働数日くらいはそのまま使えるようになります。

サーバーの部分はハイパフォーマンス重視ですので、当然、他社製プロセッサが非常に強かった部分なんです。先ほど申しましたように、エコ、電力効率という観点で、「エアコンの電力消費を下げたい」という要望が強いものですから、クラウドでメジャーなAWSさんなどでもArmが使われています。実際にサービスインも始めて、最近ですと2世代目のプロセッサに切り替えられています。さらに電力効率が良くて、しかも安いんです。

モバイル機器での半導体消費は飽和 今後利用が増えていくのはIoT分野

実は安いところもポイントで、私どもArmといってもプロセッサを作っているわけではなくて、100社以上の半導体ベンダーさんにライセンスを差し上げて、その100社以上のベンダーさんがArmプロセッサが入った半導体製品を作るわけですね。

そうすると当然、自然に競争が起きます。競争が起きることで価格競争が起きますから、価格的にはリーズナブルに。決して利益度外視とは言いませんけれども、リーズナブルな価格の半導体が、比較的多数のメーカーさんの手に入るようになると。よって、サーバーの分野でもそれが今起きつつあるとお考えていただければと思います。

用途としては、今まで強かったモバイル機器は当たり前に使っていただいていますけれども、対人口比で見てもだんだんマーケットが飽和しつつある。

半導体の消費の先としても、だんだんこれは飽和していく。ネットワークサーバー、基地局の部分はまだまだエッジサーバー化しますから、私どもの利用も含めて増えると思います。ただ一番増えるのは、組み込み、IoTの部分だと思います。

IoTの部分で「簡単なセンサーでいいよ、Armなんかいらないよ」と言われていたのが5年10年前なんですけれども、今やあらゆるセンサーがインテリジェント化する。データを運ぶだけではなくて保全する、セキュリティも非常に重要です。

単純なセンサーであっても、セキュリティがないといけません。例えば温度センサーなどをとっても、温度プロファイリングを盗み取られてサーバーでプロファイリングされますと、「どんな人が住んでいて、どんな家族構成で、今家に人がいるかいないか」ということが、全部わかってしまうわけです。

そういったところにも、インテリジェントなプロセッサがセキュアに実装されていないと、IoTの部分で大変な問題が起きます。こういったIoTの部分でセキュリティが強いことも、私どもの強みであると思っております。

2016年夏、世界を駆け巡った「ソフトバンクによるArm買収」ニュース

改めてですけれども、本社はイギリスのケンブリッジ。どこかと言うと、けっこう都心から離れた、日本で言うと東京から茨城県つくば市みたいな位置関係にあります。ちょっとした学園都市でございます。

ケンブリッジ大学には多数のカレッジがあり、白洲次郎さんが留学されたところでもあります。トリニティ・カレッジという物理学の権威の学校もございまして。あのニュートンさんを輩出したところです。そういった学術都市の中で生まれた、あまり商売っ気のない会社でございます(笑)。

創立は1990年で、来年ちょうど30周年を迎えます。そのあと世界展開しまして、もちろんシリコンバレーにも、あとテキサスのオースティンやフランスのソフィア、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーなどにも拠点がございます。台湾、中国も当たり前に、40ヶ国以上に展開しています。

私どもの名前が世の中に一番出たのは、3年前の2016年夏です。突然ニュースが出まして、「ソフトバンクがアームを買収」と。当時イギリスとナスダック両方に上場していたんですけれども、ソフトバンクグループによって100パーセント買収されまして、上場を廃止しております。

ですから、今は100パーセント日本の資本、日本の企業であるソフトバンクグループが持っているプライベートカンパニーでございます。

ここも比較的忘れ去られがちですけども、実は世界市場を席巻しているプロセッサアーキテクチャArmであり、オーナーシップは100パーセント日本企業でございますので、メイドインジャパンなんですね。

そういった意味では、日本国の経済に対しても、セミコンダクターの業界に対しても、より貢献できる機会をもっと増やしていくべきだというふうに考えております。

長期利用ユーザーには、20数年間保守サービスを提供してきた

従業員が6,000人。設計部隊と、あとは多少のセールス&マーケティングしかおりません。売上は非常に小さいんです。たかだか2,000億円の会社でございます。IPという、知財ですね。設計だけをやっている会社ですので、在庫、製造装置など一切持っていない会社なんです。

アメリカ大手の半導体メーカーですと、売上何兆円というのが当たり前なので、それの数パーセントしかありません。プロセッサとしてのソフトやハードを含めたトータル規模のマーケットサイズは、100兆円くらいです。その、プロセッサのもとになるテクノロジーを提供している会社でございます。

ビジネスのスパンは非常に長くて、開発するのにだいたい企画から設計開始まで数年。そこから設計を開始して3、4年かかります。半導体のメーカーさんに採用されて(設計開始するのは)、だいたいはじめのプロジェクトが始まってから、最短で18ヶ月。普通は24ヶ月かかって、そこから製造が始まります。

一番長くて、20数年使い続けていただいているお客様がいます。「Arm7」というはじめのころのプロセッサは、日本のお客様に20数年使い続けられているケースが多数ございます。

その期間中、開発投資だけではなくて保守、あと不具合が起きた場合の改善をする。リファクタ(リング)という、バグをフィックスしたり、そのバグを回避する策を保証するという保守の部分も継続して、まったく滞りなくやってきたんですね。

これが私どもの成功した部分でもあり強みでもあると考えています。

比較的、米国企業はすぐに……タッチアンドゴーと言いますか、儲けて逃げていく場合が多いんですけれども。私どもはもともと創立がイギリスでございますので。イギリスのケンブリッジにはそんなにたくさん仕事の場もございませんので、社員がずっと残っているんですね。

したがって長い期間保守を維持して、長い期間使われる日本のお客様のような用途にも見合った保守のサービスを、継続していると。それが、信用を失わずにここまで来た一番の理由かと思います。

約30年、一貫して続けてきたライセンシングのビジネスモデル

ビジネスモデルは、案外公的には「謎に包まれている」と言われますけれども、それほど不思議なモデルではございません。ライセンシングというのを行います。相手は、(スライドの)真ん中にあります半導体ベンダーさん、半導体企業さんですね。これが今までのお客さん。

2度取りをしております。2度取りというのは、ライセンスのお金と、あと半導体ベンダーさんがチップを作って商業的に有料の商品を売り始めた場合に、ロイヤリティという印税をいただきます。これが創業時の90年代では、日本の半導体ベンダーさんに大いに嫌われまくったビジネスモデルなんですね。

なぜ嫌われたかと言うと、まず1回高いお金でライセンスを取ったあと、さらにもう1回お金を取るのかと。「2度取りモデルにするくらいだったら自分で作るわ」と言われたのがはじめでございました。それから、「その儲けたお金をどうやって使うかわからないじゃないか」「儲けすぎているんじゃないか」というようなことも言われてました。

ただ、これをやってこなかった半導体知財の会社は、ほとんど潰れているんですね。なぜ潰れるかというのは2つ理由があります。まずはこれまでのお客様とちゃんと信頼関係を築いているのにもかかわらず、新興のお客様に「ロイヤリティはいりませんよ」と言ってビジネスモデルを崩しますと、大変信頼関係が崩れるんですね。

一貫性を持ったビジネスモデルを30年近く続けていますと、このモデルできちんと成功を共有できる。これは今となっては非常にわかりやすいモデルで、リカーシブビジネスモデルとか言われてますけれども。30年前は異端中の異端だったことは間違いないと思います。

最近では半導体メーカーさんだけじゃなくて、セットメーカーさんにも直接ライセンスする形態もございます。日本ですと最近は理研さん、富士通さんに使われました。スパコン「富岳」と言います。ポスト京のスパコンですね。これなどにはセットメーカーさんというかたちで、富士通さんと理研さんに対してライセンスを行っております。

こういった先端のことをやられる企業さんの場合は、直接ライセンスを持って設計に手を加えたいというケースがございます。そういった場合は、ビジネスモデルとしては同じなんですけれども、セットメーカーさんからもまずライセンスフィーをいただいて、そのあとロイヤリティもいただくことを一貫して行っております。

部品・知財に限らず、エコシステムパートナーとの協働で新規開発を目指す

私どもは2,000億円の企業ですよと申し上げましたように、半導体の市場規模、ご存知のとおり40兆円くらいございます。その上に乗っかるソフトウェアの市場規模は、さらにもっと大きくて60兆円なんですね。

ハードウェアというセットの場合は175兆円くらいの規模があると思います。ただトータルでIT、つまりデータが機器の上でハンドルされるトータルのマーケットだと350兆円でございます。

私どもは、根底の(テクノロジーを提供している)2,000億円企業として、30年間ずっとプロセッサを作ってまいりましたが、そろそろこの仕組みにもう少し目を向け直して、(スライドを指して)こっち側の、右側の、「何でいったい設けているのか」。

そこからお金をもう少しフェアにいただくことで、より新しい展開、新しいビジネスモデルを作れるのではないか、というのが最近の根底にあるトレンドでございます。

これをやらないで部品レベル、もっと言うと知財、IPレベルに固執して小さくやってまいりますと、はじめはいいんですけれども伸び代が短いのであっという間に……この40兆円市場規模の中の知財・IPの規模は1兆円弱なんですね。そこの頭打ちに遭ってしまう。

1兆円の頭打ちに遭いますと、新規の投資ができなくなるわけです。その新規の投資ができなくなると新しい商品、魅力的なマイクロプロセッサが作れなくなりますから、そのジレンマに陥らないための今後の展開を考えております。それをこれから少しお話したいと思います。

ちなみに“エコシステム”、これも聞き飽きた言葉ではございますけれども。パートナーさんがいないと、私どもは作れないです。エコシステムに頼らない半導体ベンダーさんは、昔はけっこう栄えていたんですね。ところが最近は大手の半導体メーカーさん、ベンダーさんであっても、エコシステムに頼ってますよね。

例えばEDA(半導体や電子機器の設計作業を自動化で行うこと、またはそのツールやソフトウェア)ツールを設計開発するときは、たいがい、どこかほかのベンダーさんの設計ツールを使う。ファブ(製造工場)も、昔は製造装置を自分で作っていた会社が多かったんですけれども、最近は海外の台湾や中国のファブに製造を委託して。

あとは自分のブランディングをして、セールス&マーケティングとアプリケーションで売ると。こういった方向に変わっています。

私どもは、もともとエコシステムなしにはマイクロプロセッサができない会社でしたから。20年、30年前からエコシステムパートナーさんと協働して、利益もそこで一緒に儲けていくというモデルに徹底してやってまいりました。

長期的な戦略として、IoT分野でのサービス型新規事業をスタート

今後の戦略ですけれども、長期的な成長を維持する必要性がありますので、スマホ携帯機器だけではなくて、よりスマートデバイス1個あたりのArmの利用モデルを増やす必要があると。それもありまして、グラフィックスはもうすでにけっこう使われていますけれども、AI、マシンラーニングのプロセッサも展開していこうと思っています。

もっと伸びるためには、IoT分野でのアプリケーション、適用領域で新たな事業を作らないと、おそらくより高度化するマイクロプロセッサを設計するための費用が捻出できなくなる可能性が高いんですね。それをどうするかということで今模索しております。

その一端なんですけれども、私どもの事業部、もともとのIP製品を作っている事業部、IPGと社内では呼んでいるんですけれども。この事業部は、より収益性を高めて、より低消費電力のプロセッサをこれからもどんどん作っていくと。その努力は弛みなく行っていきます。

ただし(スライド)右側にございます ISG、これはIoTのサービス事業部なんですけれども。この新しい事業を3年4年ほど前に作りました。

その事業部がこれからやることは、半導体プロセッサの上で扱われているデータが実際のIT企業さんなどで扱われて、その中で一部私どももバリューチェーンに関わっていくようなエッセンスを取り込んでいく。

一番はじめにやるのがSaaS型、Software as a Service。つまり、あるソフトウェアモジュールは、うちの場合、例えばOSですね。OSなどはもちろん提供しておりますけれども、よりデータドリブンのハンドリングするモジュールなどもSoftware as a Serviceとしてご提供していこうということで、新規事業を作りました。

これも私どもが全部取りする気はまったくございません。そんな大それたことができるわけもございませんから、あらゆるセットメーカーさんや、その上で実際その製品を使われているサービス事業者さんなどとパートナーシップを組んで、そのパートナーシップのうえで利益を共有してくかたちを取りたいと思っております。

その事業部としてのハードウェアプラットフォームは、例えばIoTに最適なプラットフォーム、ハードウェア、IP、ソフトウェアスタッフも含めて作っていく。これを展開しようとしています。なんと言いましても、セキュリティの部分は私どもがハードウェア的に担保するというところをより特化して集中して出していこうと思っております。

このグループは、まだできて3年4年ですけれども、顧客数は着々と増えています。それは私ども、もともとインストールベースがございましたので、そこに則って使われているお客様は多いわけですね。そのうえで多大なエコシステムパートナーさんを抱えて一緒にやらせていただいて、コミュニティも100万人近くなっています。

もともと「Mbed」というオープン開発環境を作りまして、これは日本の比率が高いんです。日本の場合、同じく組み込みの事業が非常に強いものですから、Armの組み込みコミュニティのユーザーさんの数の2割くらいは日本の方がいらっしゃいます。

こういった強いところを、日本の産業界と一緒にビジネスを始めていきたいと思っております。

IoTサービス事業部が取り組む3つのビジネス

SaaS型のIoTサービス事業部がやっている中核のビジネスは、3レイヤーございます。3つなんですね。3つのビジネス。1つ目は「デバイスマネジメント」と言います。例えば、ファームウェアをセキュアにバージョンアップする。

あと、例えば乗っ取られてしまったりウイルスが付いた機器などのデバイスを、殺してしまう。そういったディスエイブル(無効に)するテクノロジー。これも私どものソフトウェアスタッフとしてご提供しています。これはデバイスマネジメントという根幹の技術ですね。

さらに、その上に「コネクティビティ」。これは、世界各国に機器を持って行ってもどこでも使えるように、コネクティビティサービス(を展開するというもの)。実際にはSIMの事業をこれから展開していきつつあります。SIMも、抜き差しするSIMからだんだんeSIMやiSIMと言いまして、組み込み型のSIMに変わってまいります。

近い将来、ゆくゆくは半導体デバイス、普通のマイコンの中にiSIMというSIM自身が取り込まれるわけですね。そこのIPとそれを運用するコネクティビティサービスを、私どもが提供しようとしています。

その上にあります「データマネジメント」。これは今はカスタマーデータプラットフォームと言いまして、データ事業そのものなんです。いわゆるマーケティングデータなどのいろんなかたちのデータをみなさん持て余してらっしゃるんですね。それを統合するプラットフォームをご提供して、そのデータをマネージする。

データの整理統合、扱いやすいかたちにする事業を展開していく。これがデータ管理サービスでございます。この3事業によって、私どものArmプロセッサがさまざまに使われているものを、よりよく使っていただける事業のお助けをしていくんです。決して全部取るというかたちではございません。

言いにくい話ですけれども、問題点はここにございます(笑)。あえて(スライドを)読み上げませんけれども、こういったハイパースケーラー(ハイパースケールデータセンターを運営するクラウド企業)さんたちが利益を全部取りしている事実に、みなさまかなり問題意識や歯がゆい思いをされていると思うんですね。

実際には、半導体ベンダーさんが作ったデバイスがたくさん使われているにもかかわらず、そこには利益が落ちなくて、その上に乗っかったハイパースケーラーさんに全部取りされる。これが今問題だと思うんですね。

ここに対して、私どもの新しいISGのデータマネジメントのサービスなどを使っていただいて。みなさんお持ちのサービスや事業と組むことで、ハイパースケーラーさんに頼らなくても独自の利益チェーン、バリューチェーンが作れるような事業展開をこれからしていく最中でございます。

IoT領域の「デバイスデータ」に、手付かずのフロンティアがある

これは先ほどの江田さんの講演でもございましたが、企業の寿命はどんどん短くなっているんですね。デジタライズしなければ潰れますよと。簡単なお話で、企業の寿命が今15年に縮まりましたけども、もっと短くなる可能性も十分あります。

どうやれば企業がちゃんと長く生きるかと言うと、ちゃんとデジタライズしていくことなんですね。デジタル化して、それをうまく回すことが必要です。

デジタライズするデータは何かと言いますと、みなさん今まで思われていたのは、IT型のいわゆる「デジタルデータ」なんです。つまりパソコンとスマホまでが作り出すデータ。これがデータだと思われています。

ところがこれから何が起きるかと言うと、IoT、AIをはじめ新しいテクノロジー、モノから来るデータ。温度センサーやちょっとしたセンサーデバイスの集まり、たぶん1兆個くらいのインテリジェントを持った、いろんなセンサーなどから来るデータがあるわけです。

こちらは今、手付かずなんです。これをマネージすることは、まだハイパースケーラーさんもできていないんです。これはご存知のとおりですよね。ハイパースケーラーさんは比較的まだIT型データにもっぱら則っていて、人から来るデジタルデータのみで勝者として謳歌されていますけれども、違うんですよと。

まだまだ残りの手付かずのフロンティアが、デバイスデータにたくさんございます。ここをマージする部分にイノベーションするエリアがございます。

ここの勝者となるのは今のハイパースケーラーたちじゃなくて、ここにいらっしゃるようなみなさま、日本の企業様。センサーやモジュールなど、日本の企業さんは非常に強いですから、そういったデバイスメーカーさんやシステムメーカーさんが、実はここのエリアだとデータを牛耳れるわけです。

今ハイパースケーラーさんに牛耳られているのは、デジタルデータですから。フィジカルデータ、デバイスデータのほうは、私どもとここにいらっしゃるみなさんと一緒にやることで、もっともっと大きいビジネスが作れると思うんです。このエリアを取っていくための方策を私どもはこれからどんどん進めていきたいと思っております。

ここからは技術詳細になりますので、菅波と申します事業部の者が、引き続きご説明差し上げます。