「ティール組織」を憧れのユートピアとして祭り上げるのは誤り

司会者:(質問が)続々と来ているのでお任せいたします。

篠田真貴子氏(以下、篠田):どれかおもしろい話になる質問あるかな?

佐宗邦威氏(以下、佐宗):ティール風の組織で個人風になって満足してしまう懸念的な話は、個人的には気になりますね。

篠田:どうぞ、いってください。

佐宗:というか、中竹さんがおっしゃっていた。

篠田:あ、始めの方の。

佐宗:(画面に表示されている)下から4番目のノダさん。

中竹竜二氏(以下、中竹):端的に言うと、ティールってホールネス(全体性)があって、パーパス(存在目的)があって、人それぞれが考えるわけですね。ここにいらっしゃる方は違うかもしれませんけど、ブーム的な感じでいうと、ティールがすごく高貴なもので、これがすべてで、これに従うのが(よいという)……要するにティールを上に見えるような感じがするんですね。憧れのユートピアみたいな感じです。

その時点で僕は違うと思っています。そもそも、ラルーさん(『ティール組織』の著者)はそれを望んでません。ティールをここに置くんじゃなくて、ティールはもっと目の前にある。

それなのに、「ティールってやっぱすごいよね」「ティール組織はいいよね」「うちの組織ってぜんぜんダメだよね。あの上司ダメだし」「ティールという組織があるのに、なんであの上司はそういうことに気付かないんだろう」「気付いてる私ってすごいよね」みたいな。

これって相当危険だなと思っています。ティールをユートピアに置かなくて、ここにあるんだという中でのアクションだったらいいんです。ずっと(手を近くに上げながら)ここに掲げながら、「自分の組織はダメだよね」と言っているのはちょっと個人風というか。僕の懸念する“ティールファン”なのかなという気がしますね。

それはラルーさんも絶対に望んではいない。要するにティールを使って現状批判であったり、他者攻撃を始めるというのは、そもそもそれ自体が違うところにあるかなという気がします。

ティール組織は、目指すのではなく結果的にできるもの

佐宗:それに関しては僕も、結局群れをどう作るかということは、そこにいる人によって最適なかたちは変わるはずだと思っています。今日の午前中の青野さんのお話もそうで、ティールって、ある群れ方のかたちに限界を感じた結果として起こってくるものだと思うんですね。なので、誰がやっているという要素なくしては、答えは絶対に出せないはずだと思ってます。

今確実に起こっているのは、例えばとくにインターネット系の会社とか、より自由度の高い会社が、ある程度いろんな人が仕事を持っている中で自然にパフォーマンスを発揮させようとしたら、ああいうタイプが1つのアーキタイプかもね、という現象が見えています。

逆に言うと、その裏には個人の自立だったり、経営者自体の自立でもそうですし、それは経営者自体が自分が本当にやりたいことを追求しているから、周囲の人にも追求してほしいと思うわけです。その結果としてそういう(ティール)組織ができるという。目指すものではなくて、僕は結果的にできるものだと思っています。

そこって、逆に言うと無理やり合わせるというよりは、自分たちにとってのスタイルって何がいいんだろうねという、鏡みたいなものとして捉えるのがいいのかなと思っていました。

中竹:同感です。

「日本人特有」というカテゴライズ

篠田:質問を見ていたら、今のことにちょっと絡んで「日本人特有というのはどうなの?」というご指摘があります。あとタケウチさんのご質問で「日本人の特徴として」とあるのに、一言だけ言いたいんです。

日本人としてという概念を持ち出す時点で、ちょっとアウトな感じがします。それは誰が決めているんですかねと。文化人類学とかある種の学問とか、ある文脈ではそのアプローチが大事なのはわかるし、私もそれはそれで好きです。

カジュアルな場でご飯を食べながらそういう話もしますが、ここの文脈、つまり「個としてどうやってやっていくんだ。個人と自分の関わる組織や集団がどうやっていくんだ」というときに、「日本人としてどうなのか」という議論はわりとどうでもよいんです。よりその人がどうであるかと、チームが今どうであるか。あるいはその関係性をどうするかのほうがよっぽど大事です。

(質問をされた)お二人がそうだと言ってるわけではないんです。ただ、メディアを見てるとすぐ「日本人は」と言ってる。あれはもう、なんて言うの。引っ掛けというか、ちゃんと考えないときに「日本人は」と言っているくらいに思っています。

ちょっと懸念するのは、まだ社会人経験が浅い若い方だと、それを読んで自分が知識を持ったと思っちゃう。「自分は日本人だから、働くのは日本の組織だから、だからこうなんだ、しょうがない」となるのがすごく……そうじゃないんですよと言いたくて。すみません、この質問を取り上げさせていただきました。

佐宗:それに関して、僕はちょっと興味も……中竹さんに聞きたいことも含めてです。今の点はその通りのうえで、スポーツなどを見ていると、例えばエディ・ジョーンズ(注:ラグビー日本代表のヘッドコーチとして、ワールドカップで3勝をあげる歴史的快挙を成し遂げた)とか原監督……エディ・ジョーンズの本を読んでいると、原さんと佐々木監督とか何人か日本人のマネジメントで、成功するパターンをエディさんがけっこう勉強されたということも出てくるんですね。

すみません、僕はサッカーが好きなので、サッカーのケースで言います。いくつかの戦術のスタイルみたいなものもいろいろと考えられている中で、スポーツの世界では、機動性と忍耐力と集団性を、群れ方としてある程度の強みとしているんじゃないか、という議論も一方ではあるような気がしています。

中竹さんはそういう意味だと、ビジネスの世界も見ていらっしゃるので、今の文脈って、そういう文脈がそもそもスポーツ的な世界から言えるものがあると思われているのか。それは本質的にぜんぜん関係ないものだと思われているのか。どちらですか?

部活動というシステムや縦構造が特徴的な日本のスポーツ界

中竹:くくるとすると、日本のスポーツ界となると、日本特有のスポーツ界はほかと違うというのはあります。なぜかというと、部活動というのが中心にあるからですね。ほかの国にはない文化があるので、当然それはあります。

篠田:どっちかというと、システムの話ですかね。

中竹:そうですね。今の世の中で、日本にしかないものってあるかないかわからないレベルですけれども、スポーツに限定すると絶対(日本特有のものが)出てくるので。

佐宗:部活動というシステムがあるから、そこにはユニークなカルチャーが生まれている?

中竹:もっと言うと、部活動の流れの中にはやっぱり戦後教育の中で部活動が使われたり、あとは教育の中でスポーツが語られてきたりしたので、スポーツ庁じゃなくずっと文科省がやっていたというのも考えると、基本的に武道も含め、偉い人が上にいて、そうじゃない人がいるという縦構造がスポーツの中には根底的にあるんです。

エディ・ジョーンズなんかはその本質的なところを見抜いて、「上の人が言うと必ずやるんだな。これはチャンスだ」と思い、命令口調で言う。

佐宗:なるほどね(笑)。

中竹:基本的には勝つためよりも一生懸命やることが大事。無駄な練習を長くするんだったらいい練習に変えて、練習時間を圧倒的に増やしても文句言わない。ここをうまく利用したのが彼のすばらしいところ。

ビジネスとスポーツの世界はほぼ一緒

佐宗:ビジネスの文脈だと、どうお考えですか?

中竹:ビジネスでいうと、日本っぽいというのはさらさら考えていないです。基本的に僕自身がビジネスをやっているのは、スポーツのエッセンスそのものです。スポーツとビジネスってよく違うと言われますけど、僕はほぼ一緒だと思ってます。

圧倒的に違うのは、練習と試合が分かれているのがスポーツで、僕からすると成功している会社は試合と練習を分けていますよ。ちゃんと人材育成してトレーニングして、ちゃんと成果を出しています。

僕からすると、「いやいや、ビジネスは本番も練習も区分けなく常に勝負だから」と言ってる会社は、勝負をしていません。自分が働いている時間のどこが勝負かと考えたときに、勝負していない感じです。

(佐宗氏を指して)P&Gとかにいて、やっぱりいい企業はここがちゃんと自分の修行の場で、ここが勝負だと分けて考えています。それはそのままスポーツの考え方なので、それを今ビジネスに導入している。はっきり言って、人を育てるメンバーを作らないと、これからはどの企業も勝てないと思いますので、それを導入しているということですね。

中竹氏の「匠の技」は、実は誰にでもできるもの

篠田:袖から視線を感じました。大丈夫ですか? もう1個くらいいきます? 

中竹:この中でぜひ自分のを、という人がいれば。

(会場挙手)

あ、出ました!

質問者1:どうも、こんばんは。長年のご経験の中から積み上げた経験値と分析した結果による、匠の技的なものを育てるためのトレーニングというか。そういうものが身につくのでしょうか?

中竹:あ、もちろんあります。誰でもぜんぜん身につけられますよ。なぜかというと、可視化できるからです。明らかに篠田さんがワクワクした瞬間があったわけですね。

(一同笑)

篠田:隠しきれない(笑)。

中竹:これは音声データを取っても、脈拍を取っても上がっているわけですよ。

質問者1:「マネージャーは部下を育てないといけない」と悩んでいることもいっぱいあると思います。

中竹:そうですね。まさにそういう意味では、ボーッとしてたら(相手が本当にワクワクするポイントが)見つかるはずないですよね。トレーニングをやるとしたら、別にスキルじゃなくて、ボーッとせず、例えば面談をします。対話しました。そのときにスイッチを入れてくださいとトレーニングするわけ。

どうやるかというと、僕自身は今それを指導する人と指導する側ですので、どうやって相手のマネージャーのスイッチを入れますかという話ですね。頭ごなしに「人としゃべるときはスイッチを入れなさい」と言っても人って聞かない。どうやってやらせるかというと、失敗させて学ばせて、振り返らせるしかないんです。失敗をどうデザインするかというのを、ひたすらやるという感じですね。

やり方はシンプルです。人ってやっぱり失敗からしか学べない。いかに失敗してもらい、ボーッとした時間で何も気づきませんでしたと。この失敗に気づくには、明らかに同じものを使って、これだけの気づきが読める人であったり、1つの見本を見せると明らかな差が出て、あなたの使っていた時間ってこんなに無駄でしたねという、無駄なラベルを貼ってあげる。

「じゃあそうならないように、どういうトレーニングをしますか」というプロセスなので、絶対に誰でもできます。別に匠の技ではなく、いわゆるジェネラルスキルだと思います。

どんなに頑固な人でも、半年間向き合えば変われる

質問者1:マネージャー自身が、先ほどの(自分が本当に好きなことを)「見つけていただいた」というような、ハッとする態度を持たないと……それは今おっしゃったようなデザインで気づかせるプロセスを積んでいけば、誰でもなれるのでしょうか?

中竹:なれますね。ボーッとマネジメントをしているマネージャーが多いので、もっと上の階層が、そういうことが大事だと、なんとかしなきゃとかね。そこにちゃんと時間を使ってトレーニングしなきゃと思う最初のスタートがないと、そこは変わらないですね。自然発生は無理です。

佐宗:ちなみに鏡の法則的なものがある気がしています。結局人はやられたようにしかやらない。そういう会社って、上がそういうことをやってない場合が多い気がします。そういうときはどうしますか?

中竹:上を変えるしかないですね。

(会場笑)

例えば上が変わらないとしても、種をまいていたら強い種は芽が出ます。1回で変えようと思うんじゃなくて、戦略的に種をまいたほうがいいですね。ずっと言っていて、社長も気づかなくても、なにかの瞬間につながるときがある。

だいたい多くの人は「いや、あの人って変わらないよね」「あの社長は言っても変わらないよね」と思うと言わないんですけど、1年間言い続ければ、しかも毎週1回言い続ければ変わると思ってスタートするしかないと思います。

佐宗:実際、経験上難しそうな方で、どのくらいの期間で変わる感じですか?

中竹:まあ、半年あったら変わります。

佐宗:半年あったら変わる! それは希望が持てますね。

篠田:ね~、希望が持てる。

中竹:人に半年向き合ってもらうと(変わります)。みんな普段、自分だけに向き合ってもらえないじゃないですか。これは本当に、いわゆるすっごく変わらないだろうなと思う人も、ある空間の中でちゃんとやれば変わります。

篠田:かっこいい~。

自己認識について知ることができる本『insight(インサイト)』

司会者:ありがとうございました。オンラインの方向けに先ほどの質問を繰り返させていただくと。「中竹さんの匠の技がどう吸収されるものですか?」という質問に対しての回答でした。オンラインの方、すみません。質問が聞こえなくて失礼いたしました。ありがとうございます。

では時間になってしまったので、ずっとお話を聞きたいところなんですけれども、クロージングというか。先ほどと同じところに今日の感想もぜひ、終わったあと記入していただければと思います。本日の様子などはハッシュタグを付けていただいてシェアしていただければすごくうれしく思います。

中竹:僕、最後に1つだけいいですか? 今日は個ですけど、人って自分のことは自分じゃわからないんですよ。自己認識って絶対1人だけじゃわからないので、ぜひ他者とつながって他者のフィードバックをもらってください。そういうことがよく書かれた本で『insight(インサイト)』という本があって。

insight(インサイト)――いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力

(会場笑)

僕の本の宣伝で、英治出版さんがね。同じく、ティールの後に出した本なのでぜひ参考にしてください。

篠田:私もちょっとだけ書評を書かせていただきました。恥ずかしいやつです。よかったら読んでください。

中竹:ありがとうございます。すみません、宣伝でした。

司会者:ありがとうございます。では長い時間のようで短い時間だったんですけれども、最後に登壇者の3名様にぜひ拍手をお送りいただいて終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)