スポーツを中心にジェンダーの平等を考える

司会者:本日はアイリス講座『渋谷からガラスの壁を壊そう! スポーツとジェンダーの平等』にご参加いただきありがとうございます。アイリス講座は男女平等および多様性社会推進のための課題をテーマとし、広くみなさまに知っていただき、共に学ぶ授業となっております。

あわせて区の取り組みや施策を区民の方に知ってもらう機会でもあります。今回の講座は2日間で午前・午後と4つのパートに分け、スポーツを中心にさまざまな切り口からジェンダーの平等を考える構成になっております。

これから午後の部はパート2として『国内外のアスリートのカミングアウト事情』と題して、最初にLGBTのオリンピアンなどを例に野口亜弥さんからご説明をいただき、そのあと下山田志帆さんにご登壇いただき、お2人でトークという流れになります。

それではさっそく野口さんにマイクをお渡ししてお話しいただきます。よろしくお願いいたします。

元プロサッカー選手の研究員が語る、スポーツとセクシュアルマイノリティ

野口亜弥氏:こんにちは。野口亜弥と申します。今は順天堂大学のスポーツ健康科学部スポーツマネジメント学科というところで助手をしています。

順天堂大学は女性スポーツ研究センターという、日本では唯一、世界でも幣センターを合わせて2つしかない、女性やジェンダーとスポーツについて研究をしているセンターを持っています。私はそこで研究員もさせていただいております。

今日は女性がメインの話ではありませんが、LGBT等のセクシュアルマイノリティの当事者のみなさまの状況について(お話ししたいと思います)。LGBTと言いましても、スポーツの中でレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、それぞれ一括りではなく、いろいろな課題を持っています。それも含めて30分ちょっとお話させていただいて、下山田さんとのトークに移りたいと思います。

私と下山田さんは高校の先輩後輩で、だいぶ歳が離れているんですけど、中学校のチームも一緒でいろいろと接点があります。気さくな感じでいろいろおしゃべりできるかなと思っています。

簡単に私の紹介をさせていただきますと、大学を卒業してアメリカに4年間留学をしていました。ずっとサッカーをしていました。アメリカ留学の後、スウェーデンで少しだけプロサッカー選手をしました。これは自分でシュートを決めたときの写真で、唯一決めた写真がこれしかないので、よく使っています。自分はみんなに埋もれて見えないのですが(笑)。

スウェーデンでサッカー選手を引退した後はアフリカのザンビアに行き、開発途上国の女性や女の子が抱えている課題を、スポーツを手段として取り組んでいこうと活動しているNGOがあったので、そこで6ヶ月間インターンをしていました。そして、日本に帰ってきて、ちょうどスポーツ庁ができたタイミングの2015年10月から2年半国際課に勤めて、もう少しスポーツと国際開発の分野の研究と実践をやっていきたいなと思い、今順天堂大学に勤めています。

これはアフリカの子どもたちにサッカーを教えているときに撮ったんですけど、よくみんなに「どこにいるのかわからない」と言われるくらい私は色が黒かったです。そんな写真です。

指導者の3割近くが「LGBTの子どもがいる」と回答

今日はスポーツとセクシュアルマイノリティということで、なぜスポーツ界においてセクシュアルマイノリティの方々が自由にアクセスできる状況が限られているのかという背景を少しご説明したあとに、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー当事者がそれぞれがスポーツ界で抱える問題についてお話しします。

日本ではあまり多くの研究がなされていない状況ですが、海外では日本よりもスポーツとLGBTのテーマの研究が進んでいます。アスリートがカミングアウトする状況や、現在のスポーツ界の取り組みについても話していきたいと思います。

最初に日本のスポーツ界におけるLGBTの現状ですが、日本スポーツ協会という日本全国のスポーツ指導者の育成やスポーツ少年団を統括している団体があります。とても大きい団体です。そこの専門委員会が、スポーツ指導に必要なLGBTの人々への配慮に関する研究調査を1万492名の指導者に対して実施しました。

(スライドを差して)この27.7パーセント、76.8パーセントという数字は何の数字だかわかりますか? まず上の27.7%は「あなたの身の回りにLGBTの当事者はいますか?」と指導者に聞いたときに、「現在います」「以前いました」と回答した指導者のパーセンテージです。そうすると1万人以上の指導者のうち、27.7パーセントの指導者が、自分たちの周りにLGBTの当事者の子どもたち、選手がいます、と答えています。

76.8パーセントは「あなたは指導者として今後LGBTについて知る必要性はどれくらいあると感じていますか?」という質問に、「とても感じる」「多少感じる」と回答した指導者の比率です。76パーセント以上の指導者がLGBTについて知る必要があると回答しています。

現状日本のスポーツ界において、このようなLGBTに関する研修や、中でもスポーツの特徴を考慮した研修はあまり行われていません。当事者が存在しているのはわかっているし、知識も得る必要があると思っているが、学ぶ場がないのが日本の今の現状ではないでしょうか。

LGBTをカミングアウトしている3選手

こちらは日本国内でカミングアウトしているアスリート、元アスリートの方々です。3人しかいないんです。全員女性……(右の写真のほうを指して)彼はFtM、Female to Maleなので男性ですけど、生まれたときの性別は女性ですね。

滝沢ななえさんは、元女子バレーボール選手です。滝沢ななえさんは、まったくカミングアウトする予定ではなかったテレビ番組の出演時に、女性とお付き合いしていることに触れたら、それがフォーカスされ、テレビを通じてオープンにカミングアウトするかたちになったそうです。

2人目は女子サッカーの下山田さん。あとでゆっくり話を聞きたいと思います。

3人目の真道ゴーさんは、女子のボクシングの世界チャンピオンやフライ級王者になられました。真道選手は、引退記者会見の際に、次は男子プロボクサーとして再びリングに立ちたいということをお話になられたそうで、話題となりました。

このように、まだまだ日本でオープンにカミングアウトしているアスリートは少ないですし、男性がカミングアウトすることのハードルの高さも感じています。

少し時代は遡りますが、サッカーやバレーボール、バスケットボールなどのオリンピックでみなさんが見るようなスポーツは、近代スポーツと呼ばれています。

スポーツは“男らしさ”の獲得を目的として始まった

では近代スポーツのような組織的なスポーツはどのようにして始まったのか話していきます。19世紀イギリスにおいて国家の次のリーダーを育てましょうとなりました。そのためには体をしっかり鍛えていて、自立していて、戦える。そういうリーダーを次のリーダーとして育てなきゃいけない。

サッカーやラグビーといったスポーツが、次のリーダーを育てるために向いているんじゃないかということで、イギリスのエリート層が通うようなパブリックスクールで、スポーツが導入されたのが最初だと言われています。

そのときのイギリスは男性社会だったため、リーダーになれるのは男性なんですね。そのため、男性の中でスポーツがどんどん導入されていきました。

スポーツで剛健さ、逞しさ、統率力を養い、いわゆる「男らしさ」を獲得していきます。そして異性愛は男性らしさを表現するうえで、とても重要なことです。このような要素を持ったスポーツが男性の中に広がっていきました。

オリンピックの父と呼ばれているクーベルタンは、女性のスポーツ参画には反対でした。そのため、第1回近代オリンピックでは女性の参加はありませんでした。イギリスでは50年間も女性はサッカーをすることを禁止されていたという歴史もあります。このようにそもそも女性がスポーツすることに対して、社会的に大きな障壁がある時代がありました。

そのため男性と女性に分けたうち、女性たちは「私たちもやりたい」「入れてくれ」と男性がもともと占拠している中に参画していくように歴史が動いていきます。男性がやっているところに女性が入っていくんだということで、女性のスポーツ参画のムーブメントともに、「男」か「女」のカテゴリーの強調も強くなっていきました。

またスポーツ競技大会では、男子100メートル、女子100メートルのように明確に男女で分けているので、見た目にも性別二元論が大変強調されてしまいます。そんな中で、セクシュアルマイノリティの存在や、性別二元論の中でははまらない、収まらない個性を持った人たちがどんどんとスポーツの中で隠されていってしまいました。

女性がスポーツに参画することも大変でしたが、それによって、セクシュアルマイノリティの当事者はもっともっと隠されてきてしまったということです。