再犯率はほぼゼロ、刑務所で行っているあるワークショップ

福嶋聡氏(以下、福嶋):竹中さんのお仕事はかなり広く、向こうにおらない限りわからない……刑務所でのお仕事もですね。これもうちょっと詳しく(聞きたい)。つまり刑期を終える直前の方に、竹中さんが授業をしてるんですよね。

竹中功(以下、竹中):釈放前の社会復帰プログラムですね。

福嶋:現時点で(竹中さんの授業を受けた受刑者の)再犯率はほぼゼロ?

竹中:ほぼゼロと聞いています。

福嶋:たしかにこれは謝罪力とか謝罪(が関係しているかもしれない)。

竹中:ぼくの生徒さんは、初犯で10年とか15年ぐらい刑務所に入ってらっしゃるんで、少なくとも1人は殺してるんですね。1人殺さずにいる人は連続放火魔とか強姦魔、10億円を詐欺したオッサンくらいで。それ以外はだいたい殺人なんです。だから謝罪マスターの出番のわりには、謝罪しても許されない人向けの講習なんです。実は僕、彼らには謝罪を教えても仕方ないと思っているんですよ。

ただ、反省をしていろいろ気付くことがあるんで、人によったら「謝罪できたらしたらいいよね」と話をするんです。僕は謝罪のすすめのためには行ってないですね。今言ったみたいに、10年、15年懲役の人物で、僕の生徒は全員満期なんですね。満期ということは、仮釈放よりも長い間いるから、あの人らその分みなさんの税金を食うんです。本来は仮釈放で12年なら10年とか、10年なら8年くらいで出られたりするんですけど、その間は社会で暮らしてくれるんで、僕らの税金はいらないんですね。

残念ながら満期まで刑務所にいた人のみが僕の生徒なんです。仮釈放をもらえない理由は、引受人が居ない、あるいは仕事が見つからない、所内での行儀が悪い、みたいなことですね。その人が僕の生徒で、だいたい月に3人~8人くらいですね。

目的はコミュニケーション能力を身に付けてもらうこと

竹中:謝っても謝りきれない人だけを集めてやっている授業と言えば「コミュニケーション能力を身に付けよう」なんですよね。人間はやり直しがきくってことで、人を殺してても罪の重さによって死刑にならんでええわけですよ。よっぽどでないと。刑法だとか死刑反対論者については、ちょっと別の話になるんで置いときますけど。釈放されるってことは、社会に戻って働いて税金も納めるってことで僕はいいと思ってますね。

万引き50回やってる人と人を1人殺した人やったら、人1人殺したほうが刑期が長いですけども、ほんまに悪いのは万引き50回やった奴かもしれませんよね。こいつはまだやり続けるかもしれませんから。

人をどうするかの意味でいうと、謝罪の目的ではなく、罪の重さより、社会人としてのゴールに向かって4時間ぐらい喋るんですね。おもしろいですよ。

最初の授業では、自分が自分にインタビューをしてみる

竹中:一番最初(の講義)が、刑務官から「コミュニケーションは人が人を救ったり人に救われたりするのに必要なことやから学びましょう」と(説明がある)。それで、「元吉本興業の竹中先生に来てもらいました」と。

「はじめまして。僕はコミュニケーションの先生ですけど、皆さんはコミュニケーション取るのが下手やからここ来たんですよね⁉」って言ったらみんなシーン。「ここは大阪やったら笑うんですけどね」とか言いながらね。

(会場笑)

別に笑かしにいってるんじゃないですけど、コミュニケーションとは何ぞやという話をしに行く。ちょっと長いですけどいいですかね。一番最初の授業は、自分が自分にインタビューをするんですね。

やっぱり自分を知ることが相手を知る一番近道だと思うんで、自分がわかれへんまま相手のことわかろうとか、相手のことに何か望もうっていうのはおかしいんです。まず自分が何ができるのかできないのか、したいことがあるのかないのか、できることはなんなのか。自分を知ろうってことで、僕の授業の一番目は自分が自分にインタビューする方法を教えます。

記憶を辿るということ

竹中:興味のあることを遠慮せず徹底的に聞いて下さい。聞かれる人が「嫌やな」「めんどくさいな」「恥ずかしいな」なんて思わせずに、すべて心を開いちゃうぐらい上手に興味あることを聞きこんでください、突っ込んでください、というのがインタビューですよと話します。

「僕がもし矢沢永吉さんにインタビューできるときがあったら、『はじめましてお名前は?』って聞いたらしばかれますよね。『お仕事はなんですか?』、しばかれるよね。そのときはきっと僕は、矢沢永吉さんのファンでこの歌が一番好きなんですよ、いつも車で歌ってるんですよ、とかから話すと思うよね。インタビューってそういうことなんやで」と言って、一番最初のペーパーを…ペーパーって言ったってiPadですけど、めくったら「10歳の自分にインタビューしよう」と書いてあるんですよね。

刑務所って60や50の、80のオッサンもおるけど、自分の目の前に10歳の自分がいるとしましょう。思い出すんじゃないですよ。自分が10歳の自分に聞いて下さい。一問目。10歳ですから、小学校4~5年生ぐらい。「学校終わりに最近、誰と何して遊んでますか?」とインタビューしてください。作業としては記憶を辿るんですよ。

でも聞いたことを答えるってことでやってくださいと言うと、例えば長谷川くんと近くの山本川っていう川で魚釣りに行ってます。ここは時々うなぎも釣れて、釣れたらものすごくうれしいんです。長谷川くんやら山本川やらうなぎやらが出てくる。それを書く。

出来の悪いときは、最初のうちは「友達と遊んでました」みたいに中身に具体性のないことを書いてくる。実際には「誰と・どこで・何しててん、そういうことをインタビューするのが楽しいやろ」と話す。それで、だんだん乗ってきよるんです。

夢を叶えた人が一人だけいた でも「ここにおったらあかんけどな」

竹中:次に、その10歳の少年に「大人になったらなにになりたいですか?」と聞く。なぜかも聞いてね、ある人が「野球選手になりたいです」って書きよったら、「何でですか?」って聞いたら、「兄貴と観に行った巨人・阪神戦の巨人のプレーが最高にしびれたんで、巨人軍に入ってピッチャーになりたいです」。

「そんなんそんなん。そういうのが名インタビューって言うねん」と。ほんで、みんなに聞いてもらって、書き終わってから最後に聞くんですね。さっき「大人になったらなりたい仕事にホントに就いた人いますか?」って言ったら、1人だけおったんです。

子どものときになりたい仕事が「大工さん」って書いててね、実際に「家具職人」になってるんですよ。「すごいやんあなた。10歳のとき、みんなサッカー選手やF1レーサー、国会議員、学校の先生と書いて、誰も書いた仕事に就いてへんのに君だけなって偉いやん。でも今日ここにおったらあかんけどな」って。

(会場笑)

またそこでちょっとガクっとくるんですね。でもまあ、そんな感じなんですね。それが自分への10歳のインタビューでしょ。次はペッとめくったら100歳の自分にインタビューするんです。

だから今50歳の人やったら50年先まで知ってるんですよね。70の人やったら30年先まで知ってる。その人になんでもいいから聞いてごらんってインタビューさせるんです。

コミュニケーションとは、心のキャッチボールである

竹中:この前50歳くらいのやつがいろんな人にインタビューして、「何聞いたん?」って言ったら、100歳の自分に「70歳の自分は元気かどうか聞いてみました」って。「どう答えたん?」「70歳までは元気やった。病気もせんかったって言ってましたわ」「でも70歳以降のことは何で聞けへんかってん?」「ああそうですね」言うて。

(会場笑)

「なんで、70歳までだけが気になんねん」とかね。そうやって100歳の自分に聞きますから、未来の自分を知ってるわけでしょ。結局、自分自身でしょ。「嫁さんと子どもにごめんってもっぺん言うといてね」「あの世でちゃんとおばあちゃんにごめんって言うとくから、それをお前に伝えとくわ」みたいなことを100歳の自分に聞く。

で、最後に一枚めくると「今の自分に聞いてください。今どこに行って何をしたいですか?」と。「大きなお風呂入りたい」「アイスキャンディーを食べたい」とか。この前いてたのは「スターバックスコーヒー行きたい」とか。

「しばらく行ってへんもんな」と言ったら、「一回もないんですよ」と。スターバックスに行ってないぐらいやから、だいぶ入ってますよね。

(会場笑)

「長いな、あんた」とか言いながらね。そんなんやって一番最後に、そこらへんから自分にインタビューをする。これはボールでいうと、壁当てなんですね。丸書いて、その目的に当てるまで今日は帰れへんぞというね。

コミュニケーションって実は、心のキャッチボール。誰かにその人の力量に合わせて投げたり、受けたりするのが楽しいからってことでやれている。

100万円を24時間以内に使うとしたら?

竹中:で、その後「僕も一回インタビュアーになるから、みんな聞かせてね」ってことで最近やってるのが、「100万円をあげます。24時間以内に使ってください。貯金はあきませんよ」って言って、何に使うかを順番に聞くんですよ。

「バイクで日本一周したいです」言うたら、「どこのバイクですか?」と聞くんですね。「KAWASAKIのなんとか900が、この前発売されたんですよ」「いくらですか?」「60万円」って言ってました。「買えるね。どこ行きたいんですか?」「日本海側を回ってこんなん食べてグルメの旅したいんです」と答えてくれる。「よかったよかった。じゃあ100万円で足りるんであげましょう」みたいな流れでした。

次の人に「何したいの?」「ぼくサッカーが好きなんで、大きいテレビでサッカーの試合を観たいんですよ」「テレビはなんぼすんの?」「80万円ぐらいかな?」って言うから、「ヤマダ電機に行ったらこの前大きいの5万円やったで」「えー、そんなに安くなったんですか」「君のおらへんうちにな、安くなってんねん」と。実はその人、相当長い懲役なんですけどね。

(会場笑)

だからもう軽く20年くらいおるんですね。「そんな安くなったんですか?」「5万円で買ったら95万円残るけど、どうしよう?」と言ったら、「ああすいません、洗濯機と冷蔵庫と……なんや買いたいんですよ」「誰があんたの家の家財道具を買うてええ言うたんや。ここは夢に使こうてもらわんと困るなあ」「でもテレビがそんな安いと思ってませんでした」。

(会場笑)

「半分風俗に寄付します。もう半分は風俗に使っていいですか?」

そうやって全員聞くんですね。この前はどっかの地震があったすぐ後にやったんですけど、人間って偉いもんですよ、「全部寄附します」と。「あんたすごいなー」言うて。それで次の月もたまたまその人が偶然おったんです。

だいたい一ヵ月に一回授業に行くんですけど、僕は3週間くらいしか空けずに行くときもあるんで、人がかぶるときがあるんですね。「あんた、前もおったな」「先生、はよ来るからですやん」みたいな。ほんで同じ質問して、「前は全部寄附する言うたやん」「すいません。半分風俗に使っていいですか?」

(会場笑)

「半分は寄付します。半分風俗に使っていいですか?」「先月と変わってんで」「一ヵ月経ったんで、意見が変わりました」「それもよしとしよ」みたいなことで、具体的に感じたことを伝える。

コミュニケーションという名のキャッチボールやから。「簡単にできるから、世の中に行ったらしっかり生きていきや」ってなことでだいたい4時間ぐらいやります。

出所後5年以内の再犯率が一桁台

竹中:さっき店長がおっしゃってくださったみたいに、今のところデータでいうと、だいたい初犯者は6割くらいが戻ってるんですね、半分以上なんらかの犯罪を犯すんですね。僕ははまだ通うようになって5年ですからね。

一番最近の子も出たての人もいるんで、まだ5年経ってませんけど。「出所して5年間経ってからどうしてますか?」って言ったら、6割はもう一回罪を犯してんですけど、僕の場合はひとケタですよね。10人いかないです。これまで300人ぐらいの受刑者は見てると思うんですよ。

そういう意味でいうと、コミュニケーションって実は難しくないし、誰もが普段やってることなんです。10年ぶりに(シャバに)戻るって、ちょっと緊張してしまうんで「緊張せんでええから」って話しをして。僕の中ではやり直しがきくっていう前提ですから。

殺されるかなと思うと初めは怖かった

竹中:でも、最初は怖かったですね。一番最初は人殺し3人いると思ったら、俺も殺されるんかな思ったけど、冷静に考えたらそこの僕を殺しても仕方ないですよね。僕を捕まえてボールペンかなんかで、「こいつを殺すぞ。俺を脱出させろ」言うたって、すぐやっつけられるでしょ、他の囚人もそいつやっつけるでしょ。

で、やっつけてお前よう手伝うてくれたな言ったら、アイスキャンディーとか買うてもらえるかもしれませんから(笑)。

そういう意味でいうと、怖がることもなかった。最初は怖かったですけどね、なかなか会わへんですそういう重い罪の人。親戚にいてんねんという人には申し訳ないですけど。

(会場笑)

「罪を憎んで人を憎まず」ですから。そういう意味で怖かったけど、このごろはもう同じ野郎だから、「なんとかなるから頑張りや」しかないですよね。