電力業界ではタイムマシン経営が実現できる

妹尾賢俊氏(以下、妹尾):電気小売事業の収益性がなぜ低下していくのかというと、例えば家の太陽光パネルで発電して自分の所で使えば電気料金はタダです。蓄電池に電気を溜めて、それを朝とか夜に使えばそれもタダです。そうなってくると、電気の小売りで稼げる領域はどんどん減っていくので、当然ながら利益は減っていきます。

そうなっていくと、収益性が低下するということで言えば、低金利による収益性低下に苦しんだ金融業界のようなかたちに、これからなっていくだろうと思っています。

AI・ブロックチェーン・Iotといった技術については、もう既に世の中に出てきています。当局も、金融庁が金融業界をコントロールしているとすると、電力業界は、経済産業省がコントロールをしています。

ご存知のとおり、経済産業省は金融庁と並んでテクノロジーを重視して産業シフトを行おうとしています。なので、新電力の参入も含め技術的にバックアップしてくれている部分もございます。

これから電力業界は金融業界のようになっていくのではないかな、という直感を得まして僕は電力業界にシフトした。孫さん(孫正義氏)の言う、いわゆるタイムマシン経営みたいなことが電力業界でできるのではないかと思っています。

取引デバイスとしての電力メーターと、ブロックチェーン技術との親和性

瀧俊雄氏(以下、瀧):ありがとうございます。ちょっとだけ深掘り質問をします。ブロックチェーンがここに向いているというところを、もうちょっと聞きたいのですがどうでしょうか。

妹尾:電気の世界では、みなさんのご家庭には電気のメーターがありますよね。これはどこにでもあるものです。先ほど「我々がPeer to Peerの電力取引をやります」というお話をさせていただきましたが、この時に、発電をする側のご家庭でも、それを買う側のご家庭でも、電気のメーターが必ず1個あって、例えば東京電力管内だと2,900万のメーターがあります。

日本全国だと、大体5,500万くらいのメーターが必要になってきます。今、そのメーターを順次入れているのですが、電力のPeer to Peer取引をやる時に、取引をコントロールするデバイスの1つとして有力なのがメーターになります。

メーターから指令を出すにあたって、セキュアなデバイスが必要になりますし、かつ、それを分散で処理していく必要もあります。そういう部分で、ブロックチェーンは親和性があるのではないかということで、私はPeer to Peerの電力取引には、ブロックチェーンが技術的にヒットするのではないかと考えております。

パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーン

:ありがとうございます。神田さんのご意見も聞きながらお話ししたいと思います。たぶん、金融庁で法律をつくられていた頃は、パブリックブロックチェーンというか、仮想通貨は開かれたコインの世界だと思います。

ですが、今回妹尾さんが言うのは、どちらかと言うとプライベートの中で、信頼できるネットワークを使って生活を豊かにしていこう、というものだと思うんです。この2つは優劣ではないと思いますが、どういうふうに住み分けていくのでしょうか。

「いやいや、けっこう混ざるものですよ」みたいな話もあると思いますが、ざっくりで恐縮なのですが、ご意見をいただけますか?

神田潤一氏(以下、神田):はい。パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンという2つの区分がありますが、私はそこはあまり意識しなくてもいいのかなと考えています。例えば、ドルや円といった通貨がありますよね。その他にも金などの資産があります。

そういった世界中で取引されている通貨があって、それをベースにしてマイナーな取引をされたり、通貨や商品が取引されたりするわけです。パブリックブロックチェーンというものは、世界中で誰でも取引できる、誰でもアクセスできるブロックチェーンかなというイメージですね。

一方、プライベートブロックチェーンは、例えば地域通貨、あるいは電子マネーですね。「ponta(ポンタ)」とか「Edy(エディ)」とか、それを持っている人が使えるお金です。でも、どっちを使うかは決められない。

「ponta」あるいは、「Edy」が使えるお店へ行くと、こっちの方が便利ということになりますが、その他の所に行くと円やドルを使った方が便利な場合もあります。それらは広くきちんと結び付き合って、お互いにいろんな所で便利に使われている。

ですから、ビットコインという大きなプライムなパブリックブロックチェーン、あるいはイーサリアムという大きな仮想通貨のパブリックブロックチェーンがありますよね。それと結び付いているプライベートブロックチェーンが、あちこちでその地域やそのコミュニティで使いやすいかたちで拡がっていく。その両方が混然一体となって結び付いていくのが、たぶん、これから出てくる世界なのかなと思っています。

仮想通貨の次は「ゲーム×ブロックチェーン」

:神田さんは豚を育てていると聞きました。「なんだ、それ?」と思うかもしれませんが、イーサリアムで豚を育てる「くりぷ豚(Crypt-oink)」というゲームにとても時間をかけられていると聞いたのですが(笑)……なにか特別な理由がありますか?

神田:ああ、あの……(笑)。いきなり「くりぷ豚」ですか。

:(笑)。

神田:「くりぷ豚」というのは、「くりぷ」がひらがなで、「とん」が「豚」という字です。ブロックチェーンの上で豚を育てるのですね。自分の持っている豚と誰かが持っている豚を結婚させて、新しい特徴を持った新しい豚が生まれる。

それを、イーサリアムという仮想通貨を払って、買ったり売ったりできるわけですね。ですから、すごく珍しい豚が生まれると、高いイーサリアム仮想通貨がもらえるというゲームです。ブロックチェーンは、今仮想通貨が一番おもしろいユースケースになっていますが、次にくるのはゲームだと思うんですよ。

ディーアップス(DApps)、ダップスという言い方をしますけれど、分散型のアプリケーションですね。そこに最初に乗ってくるおもしろいコンテンツは、僕はゲームじゃないかなと思っています。まさに「くりぷ豚」とかですね。あとは、「Etheremon(イーサエモン)」という、モンスターというかポケモンみたいなものを、イーサリアム上で育てるゲームもあります。

:(笑)。それは仕事として?

神田:それは、仕事と……。

:両立を?

神田:ええ、両立をしています。そういうものが今後トレンドになるのではないかなと思いながら、プライベートの時間も仕事のことを考えながらやっています。

:(笑)。たぶん「くりぷ豚」もそうだと思うのですが、中央で豚の価値を決めている主体があまりいないんですよね。仕組みとして回っているので、真ん中でゲーム会社が胴元みたいになって、いきなり石をまくとか、そういうことをしないから安心して遊べるところがあるのかなと思います。

神田:そうですね。ゲーム内で一人ひとりが自分の豚を育てて、誰か知らない人にその豚をあげたり、売ったり、買ったりする。アプリを提供する人はいますけれども、真ん中に胴元がいるわけではありません。まさにPeer to Peer、個人同士が豚やモンスターをやり取りするゲームです。そんなまとめでいいのでしょうか(笑)。

:すいません(笑)。

金融庁や経産省の後押しと、インシデント克服の効果

:そろそろ時間が来てしまいました。妹尾さんにお話を戻しますね。最初に経産省さんのスライドをお見せしましたが、ここ数年間、仮想通貨とは別にブロックチェーンに関する政府の推進もあったと思いますし、考え方の整理もあったと思っています。

その風景をずっと見られてきた方として、それは改革して進んできている感じなのか、もう民間の出番だと思っているのか、そういうことを聞かせていただけますか?

妹尾:はい。神田さんの豚の話、ものすごくおもしろかったです。その話を続けていてもいいなと思っていたのですが(笑)。まず、先ほどのパブリックとプライベートの話に一旦戻ります。元々ビットコインが出てきた時に、パブリックなブロックチェーンというものが出てきました。

ところが、パブリックなブロックチェーンは、トランザクションとかパフォーマンスとか、いろんな問題があるとなった時に、一度、世の中的にプライベートブロックチェーンをつくろうという話にいったんですよ。

やっぱりセキュリティ等々に単一障害系がないという特徴なども含めて、パブリックもすばらしいよねということで、今、それが平行して進んでいる状態です。

そのプロセスでなにがあったかというと、民間企業による実証実験が非常にいろんなところで行われました。これは金融の世界でいうと日本証券取引所さん、JPXさんが積極的に取り組まれ、それを既存のSRIやベンチャー企業がバックアップをしていった。

ただ、それをずっと温かく見守っていたのが金融庁であり、経産省であったのかなと思っています。金融庁や経産省は、むしろそこを後押しするような動きをずっとやってこられました。

そこに関していうと、いろんな委員会を立ち上げてレポートを作られて、それを世界にパブリッシュしていく作業をやってきたのは、やっぱり当局の方々です。そういう意味では、民間と当局が一緒になって盛り上げていった技術なのではないかなと思っています。

:ありがとうございます。仮想通貨周りも、奇しくも日本は何度かインシデントが起きてきた国でもあるので、今、交換所の自主規制のあり方に対して新しい報告書も出ましたよね。なので、実は意外と先端を走っているのではないかなと感じる次第です。

ブロックチェーン技術で未来を実現しているユースケース

:あと、次のトピックになりますが、未来を見据えた時になにがどう変わるのか、という話ができればと思っています。

妹尾さん、神田さん、それぞれにお聞きしたいのが、未来をこの世界で実現しているなと感じるプレーヤーさんや注目している会社など、自社以外の会社でもしあればお伝えいただきたいです。今後の世界の中で、どういうユースケースが活きてくるのかといったお話をできればと思います。妹尾さん、お願いしていいでしょうか?

妹尾:私は金融と電気の世界にしかいませんが、おそらく金融の世界はだいぶいろんな企業さんがあると思います。実は、電気の世界ではブロックチェーンを使っている会社が世界中でけっこうあります。そもそも私、電気の世界に飛び込む決意をしたのは、去年の2月ですね。

2017年の2月にウィーンで開かれた、ベンチャー企業と世界中の大規模なユーティリティー、エネルギー関係の企業が集まるイベントがあったんです。そこでおもちゃみたいなPeer to Peer電力取引のソフトウェアがブロックチェーン上で動いているのを見て、ものすごい衝撃を受けました。それで最終的にこの業界に入ることを決めたんですよ。

電気の世界でいうと、例えば、Grid+(グリッドプラス)と呼ばれる、ConsenSys(コンセンシスという世界的なブロックチェーン開発企業があるのですが、そこからスピンアウトして電力に特化したような会社などもあります。電力という括りでいうと、そういう会社がいくつかあるので、そこには非常に注目をしています。

そういうところは大企業と組んでいくんですね。特に最近は、自動車メーカーさんもEVを開発しているかたちになっていますが、特にヨーロッパではそのEVを活用した電力の融通の仕組みを、そういう電力ベンチャーと自動車メーカーさんが組んでやっています。

その動向は注目していますね。あと、ブロックチェーン単体でいうと、パブリックブロックチェーンの上で動くセカンドレイヤー(2nd Layer)や、イーサリアムの上で動くセカンドレイヤーみたいなものがあったりします。

パプリックなブロックチェーンを上手く使っていくには、セカンドレイヤーと言われる、決済の取引を高速化するような仕組みを提供する会社があるんですよ。

日本の企業では、福岡にあるナユタ(Nayuta)さんという会社があります。この会社は、日本の中でも世界に対してプレゼンスを持つ企業です。私が非常に注目をさせていただいている会社さんです。

自治体の地域通貨として使う独自の仮想通貨

神田:私は日銀におりましたので、もちろん日本では日銀が発行する円という通貨が使われているわけですが、仮想通貨には発行体がいないんです。

真ん中に発行体がいない通貨がみんなに受け入れられて、しかもそれがグローバルで、インターネットの世界を通じて、いろんな決済に使われていく世界を知った時に、すごい衝撃を受けました。そういう衝撃を受けた延長上に、今私が仮想通貨の事業立ち上げをしているというのはありますね。

仮想通貨の未来と考えていく時に、そのベースにはもちろんブロックチェーンがあるわけです。資金調達、あるいは仮想通貨によって、いろんなコミュニティや取り組みに、いろんな人が参加していける仕組みがおもしろいなと思っています。

例えば、岡山県の西粟倉村というところが、自治体として仮想通貨を発行しますという構想を今発表しています。まだ発行するところまではいっていませんが、自治体として地域通貨を仮想通貨として発行するんですね。

そうすると、西粟倉村を応援したい人はその通貨を買って、それが資金調達になって西粟倉村をベースにしたいろんなベンチャーが育っていく。あるいは、その地域のインフラが整備されていく。

そうすると、その地域の魅力が高まっていって、その西粟倉村コインを買った人のコインが値上がりするので買った人にも便利です。その自治体とかスポーツ団体とか、もしかしたらアイドルかもしれないですが、そういう「誰かを応援したい」というところに、仮想通貨を買うことで参加をしていく。それによってコミュニティや取り組みが強まっていくのは、すごくおもしろい世界ですよね。

個人にきっちり価値が還元されていく世界

神田:もう1つは、先ほどの瀧さんの説明にもありましたが、例えばミュージシャンが音楽を出した時に、そこをプロダクションが取りまとめて、レコード会社によってレコードが発行されています。間にいろんな人が入ることで、いろんな利益が間に入る人のところに落ちる。そしてミュージシャンには1割、2割しか入らない、みたいな世界があります。

そこにブロックチェーンで音楽の権利を管理することになると、ミュージシャンの誰がベースを弾いて、誰がドラムを叩いてというところまで含めて管理ができます。CDを買ってくれた人やスマホで聞いてくれた人の、そのわずかな100円みたいなところが、そのミュージシャンにチャリン、チャリンと入っていく。

そういったブロックチェーンのスマートコントラクトの中で、自動的に実現されるような世界がきっとくるのだろうなと思っています。ですから、個人が情報を発信していく、その個人の情報を良いなと思う人がお金を出していく。そして直接、そのお金がその個人に回っていく。

さっきの電力もそうですが、余っている電力を持っている人と、電力が欲しい人が、直接ブロックチェーン上でつながっていく。そういう世界がもうすぐ実現してくると思っています。

:ありがとうございます。

分散型社会では、人間が本来の姿に戻る

:マネーフォワードは名前のとおり、お金に関して非常に強い思いを持っている会社です。お金を払う時に、「レジで人がいなくなって無人レジになると温もりが消える」みたいなことを言う裏側には、支払い行為と同時に温もりというか、コミュニケーションが存在するということがあるのかなと考えています。それを新しい次元で実現する部分もあるのかなと思いました。

中央集権から分権型という表現がよくされるようになりましたが、分散型の社会、分権型の社会とは、どういったものを目指しているのか、という話になってくるのかなと思っています。

例えば、FacebookとかUberとかは中央集権ですね。彼らの中で決められた価格とか、ニュースのフィードの仕方とかがあるので、そこに不信が生まれると全部が不信になってしまうみたいなところがあると思うんです。いきなり高尚な話になって恐縮なのですが、分散型社会というのは、人間の元の姿に戻るところがあるのかなと思っています。

電力のお話でもいいですし、それ以外の例えでもいいのですが、そういう中で「ブロックチェーンって、インターネット以来の発明なのでしょうか?」というところに答えていただければと思います。

妹尾:はい。せっかく電気業界から来ましたので、電気に例えていきたいと思います。今の電気の送配電の仕組みは、大規模な発電所で発電した電気を、送配電ネットワークを通じてご家庭や企業に届けるという、ワンウェイなんですよね。これは中央集権型の仕組みです。

先ほど申し上げた太陽光パネルや蓄電池は、ご家庭などのユーザー側で発電をするかたちなので、業界の中では分散型電源、DER(Distributed Energy Resources)と言われています。電気の世界では、間違いなくこれから分散化に向かう流れになるでしょう。これはもう不可避です。

そうなっていく中で、ブロックチェーンを使って効率良くやっていきましょう、ということがやっぱり大事になってきます。もう1つは、先ほど瀧さんが言われましたけれども、Peer to Peer、個人間で電力の売買をするときに大事なのは、その値段をどうやってつけるかです。

それは売り手さんが付けても構いません。とはいえ、それがフェアバリューかどうかわからないので、個人間で電力を売買するためのマーケットをどんなふうにつくっていくのか、例えば小規模のマーケットをいくつも重ねていくようなやり方などを考えることはできると思っています。我々としては、そうした方向でやりたいですね。

分散型とは、個人が主体となれる仕組み

:ありがとうございます。では、神田さん。

神田:はい。分散型という言い方についてですが、「中央集権型に対しての分散型」という言い方をするのは、真ん中の人からの見方なのかなと思っています。私は分散型というよりは、一人ひとりの個人からの見方で見ています。

つまり、誰かのところに集まっていた自分たちの権利や思いが自分たちに戻ってくることなんですね。ですから、個人からすると自分たちが主体になれる。そういう仕組みなのかなと思っているんです。

分散型というよりは、一人ひとりの活動や思いが、それを必要としているところにきちんと届いていく。1人対1人のつながりが強まっていくような世界なのかな。私はそういうふうに分散型を理解しています。

:ありがとうございます。いろんな無理難題にお答えいただいてありがとうございました。以上をもって終了となります。

おそらくみなさん、今までお仕事の中で権限や情報に対して、かなりストレスを抱えながら調整されてきたところがあると思うんです。これから5年後、10年後の世界であれば、そこをスムーズな調整にして、もっと得意なところに集中できるような仕事のあり方が可能になるのではないかなと思っております。そうするために、みなさまの事業にとって(ブロックチェーンが)役に立っていくのだと思います。

お話を聞いて、私はそういうふうに理解をいたしました。改めまして、今日はありがとうございました。本日は、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

(会場拍手)