テクノロジー系ベンチャーがライフサイエンス分野に参入するには?

本荘修二氏(以下、本荘):今回初めての企てになります。

曽山明彦氏(以下、曽山):カジュアルにやるのは初めてです。今回は「ライフサイエンス×テクノロジー」がテーマなのですが、事業がつながる前に人がつながらないと話にならないということで、ライフサイエンスのおじさん軍団と、秋葉原のとんがった若者集団が知り合うきっかけ、接点を作りたいと思ったわけです。

まずはこちらの3名に、自己紹介を兼ねてプレゼンテーションをお願いしたいと思います。

司会:まずは、株式会社FOVE 代表取締役社長の小島由香さん、お願いいたします。

小島由香氏(以下、小島):私たちの会社は視線追跡機能がついているVRヘッドセットを、当時、世界で初めて作った会社です。特徴的なのは、アイトラッキングによって見た方向にユーザーインタフェースを操作することができるところです。

現在はインターネットカフェ様に約5,000台を展開させていただいており、360度の動画をみたり、ゲームをしたりすることができます。また、ビジネスホテルでも360度動画プラットフォームを入れており、レンタルすることも可能です。

アイトラッキングを使った医療への応用事例

小島:医療の取り組みとして、筋ジストロフィーの男の子がピアノを弾くというプロジェクトや、寝たきりのおばあさんが、目の動きでロボットを遠隔操作して、お孫さんの結婚式に参加するといったことをしております。では、実際に動画で見ていただきましょう。

これは、「Eye play the Piano」というもので、ピアノを弾く筋力のない男の子が、瞬きの動きだけでピアノを弾くといったプロジェクトです。これは一般販売に向けて、アプリのブラッシュアップをしているところです。

次に、Hug Projectと呼んでいるものがこちらです。

愛知県に住んでいる90歳の寝たきりのおばあさんが、東京で行われたお孫さんの結婚式に参加しているところです。ペッパー君を視線で操作して、遠隔参加を行いました。この日、おばあさんは初めてVRヘッドセットを被ったわけなのですが、このように使うことができています。バーチャルリアリティは非常に直感的ですので、老若男女を問わず使っていただくことができると考えています。

もう一つ、「Gaze Heatmap」というものです。

これはアイトラッキングを使って、ユーザーがどこを見ているかを分析するためのソフトウェアです。例えばバーチャルリアリティ空間でモノを販売するといった場合、ユーザーがどこを見ているのかをこれで分析することができます。ユーザーが見ているところがヒートマップで表示されます。これは企業様の新プロダクトの研究開発や、広告代理店様の広告の効果測定などに使われています。

物理的な障害を乗り越えるVRは、医療にどう役立てるか

小島:最近の医療活用事例の一つは、緑内障の視野検査です。FOVEを使って、緑内障の視野が欠けているところをVR空間で測定するといった、FOVE0ヘッドセット用アプリケーションを国内医療企業様が開発し、すでに発売いただいています。

米国で実施させていただいている例になりますが、飲酒運転や薬物使用をしているかどうかを調べる上で、VRヘッドセットをかぶって、眼球の動きを見てチェックするといったケースでも使っていただいております。

医療・ライフサイエンス分野との融合ということで、ご興味ある方がおりましたらお声がけしたい内容なのですが、NeU様(日立ハイテクノロジーズ、東北大学)との共同研究として、脳血流を図るデバイスと、FOVEのアイトラッキングをする技術を組み合わせた研究開発をしています。

例えば、うつ病の方の脳血流を調べたり、ヒートマップの技術と組み合わせてドライビングシートのレイアウトを作ったり、分析ができるデバイスを開発しています。現在はテストモニターを募集しています。

私たちはずっとVRでやってきた会社ですので、技術に強みはあっても、医療機器認証のプロセスや知見は浅いです。このあたりを教えていただければと思っております。

違和感なくしっかり深部体温を測れるウェアラブルデバイス

司会:次のプレゼンターは、株式会社HERBIO(ハービオ)の代表取締役社長・田中彩諭理さんです。

田中:ハービオの田中と申します。私たちは、深部体温ウェアラブルデバイスを開発しています。私たちのミッションは、研究とテクノロジーで人の社会課題を解決したいという想いから成っています。

私たちのソリューションは、これまで舌や耳で測定していた体温を、ウェアラブルできちんと測りましょうというコンセプトとなっています。

既存のウェアラブル製品では、就寝中に測るには大きすぎたり、違和感があったりして測りづらい、モニタリングがしづらいといったユーザー体験の課題がありました。そこで、私たちは研究者と一緒になって、新しい箇所での体温測定デバイスの開発を進めております。

新箇所で測った実験データがこちらになります。舌下で測ったものと、新箇所で測ったものの比較です。新箇所ってどこだよ、と思うかもしれないですが、特許上、この場でいうのは控えさせていただきます。どちらも同じ形での弧を描いていて、婦人科の方に聞いたところ、排卵のタイミングが同じであると予測され、データへのお墨付きをいただいております。

日々の健康管理から、命を救うところまでを実現する

私たちが開発しているものは2つあります。

一つはウェアラブル体温計の「picot」というものです。最低8時間の連続計測で、10分ごとの体温を0.05℃の差異で測定できます。シリコンを作っているベンチャー様と一緒に開発を進めており、肌荒れしない装着方法を実現しております。

もう一つは、アプリの「HERBIO(ハービオ)」です。HERBIOの意味は、「女性のバイオリズム」です。就寝中に身に着けたpicotのデータをアプリで管理することで、女性の生理周期やホルモンバランスを手軽に確認できるようにしたものです。

寝ている間だけでなく、起きている間の体温測定に関する実証実験も行っておりまして、熱中症対策への応用も考えています。体温データがクラウドへ蓄積されていきますので、データを分析することによって、第三者やご自身に知らせることができます。

体調管理における現場の声のヒアリング結果では、赤ちゃんの体温が急に上がった場合にお母さんが気付くことができるようなものや、うまく体温が測定できないといったケースもありますので、乳幼児の体温を正確に測定できるようにしていきたいと考えております。

市場規模として、基礎体温だけだと少なく感じると思いますが、体温管理が必要な方は国内に2,200万人くらいいるといわれております。

最終目標としては、健康管理から命を救うところまでを実現したいと考えています。メディアでも「深部体温を測れるものは今までなかったよね」と注目いただいており、実証実験先や提携先も探しております。

曽山:女性向けの製品からはじまって、赤ちゃんや男性にまで広がってきているというのはいいですね。

ドライバーのパートナーとしての人を守る

司会:最後のプレゼンターは、株式会社Pyrenee(ピレニー)CEOの三野龍太さんです。

三野:ピレニーの三野と申します。本日の登壇者の中で、一番ライフサイエンスから遠い自信があります(笑)。

ピレニー犬という、ゴールデンレトリバーを白くして大きくしたような犬がいます。ピレニー山脈というところで、羊飼いの家族や羊たちを、オオカミや熊から襲われないように人を守ってくれています。

僕たちは、人のパートナーとなって、危険から守るような製品やサービスをつくっていきたいと思い、この会社を立ち上げました。ピレニー犬はそのイメージとぴったりだったため、社名とロゴにしたという経緯があります。

製品としては、AIドライブコンピューター「Pyrenee Drive」を開発しています。これはドライバーの真正面に設置して使うことで、ドライバーに危険を知らせたり、ナビゲーションを行ったりするものです。製品について1分にまとめた動画がありますので、ご覧ください。

機能で分けると、「事故を回避する」「交通事故を防ぐ」ということと、置くことでその車がコネクテッドカーになり車外との情報のやり取りができるようになる、さらに交通のビッグデータを収集して開発中の自動運転に役立てるというのが主な役割になっています。

車の制御をするわけではなく、ドライバーのパートナーになることがポイントです。

事故原因の多くを占めるヒューマンエラーを防ぎたい

三野:今、世界では年間135万人の人が交通事故で命を落としています。これは、災害、テロ、戦争よりもはるかに大きな数となっており、人間が命を落とす大きな原因の一つになっています。日本でも10人に4人、つまり約2人に1人が人生の中で交通事故で怪我をしています。この数字は、病院にかかるほどの怪我として算出しています。

交通事故の犠牲者はどんどん増えています。主な原因は自動車の増加です。その原因のほとんどがヒューマンエラーで、車そのものが原因なのではなく、ドライバーや歩行者が要因となっています。

ドライバーが原因の事故の場合、大半のドライバーは「歩行者に気がつかなかった」と事故後にコメントしています。ヒューマンエラーが事故原因の大半であり、これをなくすためにドライバーのパートナーとしてつくられたのが「Pyrenee Drive」です。

ドライバーは人間ですから、例えば1000回に1回は歩行者を見逃したり気づくのが遅れたりしてしまうことはあります。Pyrenee Driveは、それを防ぐもう一つの目になります。運転に対する集中力は上がったり下がったりしますが、機械はそういうことがないのがいいところです。

この映像は、Pyrenee Driveからみた道路上の認識で、ディープラーニングを使って車両や歩行者などの存在の認識と移動の追跡しています。加えてステレオカメラで距離も測定しており、物体認識のデータをを合わせることで道路上の人や車3次元的に認識できるようになっています。ドライバー自身も、眠気やわき見していないかなどを認識してアドバイスしていきます。

この映像では右の方から子どもの自転車が来て、進路が交差する可能性があることを音でドライバーに知らせます。ドライバーは横からきたものへの認識が遅くなりますが、Pyrenee Driveは全ての対象物の動きをずっと予測しているので、見逃しがないようにサポートします。

これは軌道予測といって、このままだとぶつかるという計算ですが、危険だった事象を学習していくことで、事故の予兆を予測していくこともできます。ユーザーが購入した後に経験したことを、クラウド上にデータをアップロードして集合知として学習していきます。

将来的にはサイドからバックまでカバーしたい

三野:他にも便利な機能として、AIアシスタントがあります。これは会話しながらアシストをしてくれたり、ナビゲーションやドライブレコーダー、音楽や電話ができたりします。楽しい機能も入れていきたいと考えています。発売は来年の前半を予定しています。

本荘:おいくらでしょうか?

三野:将来的には3万円代にしたいのですが、初期型は10数万円くらいになりそうです。最初は一部の方に使ってもらい、データを収集してから展開していこうと考えています。また、今後はサイドとバックにも範囲を広げていく予定です。取付工事が必要ないということが大事だと思っていて、追加工事が必要となるとハードルが上がります。

自分で簡単に取り付けられるようにした場合、サイドとバックは結構ハードルが高くて、映像やセンサーは電波で製品に送れるのですが、電源を取るのが難しいところです。数メートルのところに微弱な電力を送る技術ができるようになってきているので、バックカメラも後ろにペタッとはるだけで設置できるようになると思います。

本荘:ベネフィットとしては、居眠り運転による事故とかですよね?

三野:はい、そうですね。

「運転」と「健康」は密接に関わっている

本荘:クラウドでデータを取ってモニタリングしているとしたら、顔を見て「この人はうつの症状っぽいね」とか「ひょっとして緑内障じゃないの?」とか、そういった判断などもできそうでしょうか。

三野:ありえると思います。データとして前を向いているとか横を向いているとか、視線の方向、瞼の開き具合などのデータをアップロードできるので、その方向性は会社単位の導入などではあると思いますね。

本荘:トラックの運送会社とかですかね。

曽山:この中でライフサイエンスから最も遠いという話をされてましたけど、三野さんの方で、医療・ライフサイエンス分野に対して、これが使えるんじゃないかといったアイディアはありますか?

三野:「運転」と「健康」は密接に関わっていると思います。僕らの会社は運転デバイスをつくるためではなく、人を危険から守るためのものをつくろうと思っています。最初に取り組んだのが車載デバイスですが、今後は車載デバイスに限らず、危険から守るものを作っていきます。

人にとっての脅威には病気もあると思います。予防したり治療したりといったところですね。ヘルスケアや予防に関係するものには興味があって、つなげていけたらと思っています。

本荘:バスの運転手をモニタリングして、休ませた方がいいとかね。

三野:眠気に関してはデータを取っていまして、目の開き具合などを常にモニタリングしているため、ドライバー本人が眠気を自覚する前から、瞼が数%だけ閉じてきて、黒目の動きが少なくなってくると眠気のサインというのがわかってきています。人の状態を把握していくというのは、大事なことなので、今後も進めていきたいです。

どこまでがヘルスケアで、どこからが医療なのかよくわからない

曽山:三野さんから見てヘルスケア領域はどう映っていますか? ここがわからないんだよねとか、心配なこととかありますか?

三野:認可に関する部分は、ハードルが高そうというイメージですね。どこまでがヘルスケアで、どこからが医療なのかなど。認可が必要なのはどこからなのか、どうやって調べるのか、誰に聞けばいいのかなどです。

本荘:認可についてどこに相談すればいいですかね? MEDISO?

曽山:MEDISOもあるでしょうし、厚生労働省でしょうか?

桑原宏哉氏(以下、桑原):そうですね、それでいいと思います。みなさん、こんにちは。厚生労働省の桑原と申します。本イベントの協力機関として関わらせて頂いております。

私は厚生労働省の研究開発振興課と経済課に所属しておりまして、医療技術の実用化部分ですとか、MEDISO(医療系ベンチャー・トータルサポートオフィス)で医療系ベンチャーをどう振興していくかといったことに取り組んでおります。

厚生労働省は規制の色が強いという印象かもしれませんが、ベンチャーとかイノベーションといった方にも舵を切っております。私自信も元々は研究者であり医師でもあり、プレイヤー側でイノベーションを起こそうという人間でしたので、本イベントの意義をとても感じております。

開発スピードの違いと承認というハードル

本荘:小島さんにお聞きしたいのですが、FOVEさんはメディカルの分野もされていますが、どのように見つけられたんでしょうか?

小島:そうですね、私たちがみつけたというよりかは、お声がけいただくことの方が多くて。今まではバーチャルリアリティというエンターテイメントでの仕事が多かったのですが、弊社のニュースを見て「医療に使えるのではないか」とお声がけいただいたのが大きかったですね。

榛葉:MedVRの榛葉と申します。テクノロジーが、医療分野で使えるんじゃないかというアイディアが出て、実際やることになったときに、わかる人間がいなかったり、いても要望と違ったりすることがあると思うのですが、そこをどうやって乗り越えたのか教えてください。

小島:まず、医療業界とはスピード感が違いました。治験とか臨床試験に関しては、弊社にないリソースを医療業界の人に補っていただいたりし、1〜2年まずは一緒にやってみるという感じでした。

テクノロジー業界ですと2か月後にはプロダクトができていて、半年でローンチしちゃうみたいなスピード感だったので、医療業界のスピードには驚きました。ただ、きっちり臨床試験をするという部分に関しては必要不可欠で、弊社にはできないと思っています。社内にそういうリソースはありませんでした。

質問者1:スピード感のところで質問なんですが、臨床のところのスピード感の違いという認識でよろしいですか? 薬理臨床の部分でのスピードということで、カルチャーの部分ではないと。

小島:私が想像していた以上にみなさまフレキシブルで、秋葉原にいる私たちのようなよくわからない若手ベンチャーにも門戸を開いていただいていると思います。

本荘:医療・ライフサイエンス分野との違いがあるということですが、田中さんにも同じ質問となりますが、どうですか?

田中:私たちが扱っているのは人の命に関わっている部分なので、それを取り扱う責任だったり重さだったりを認識していますが、命の関わり方があまりない企業であれば、薬事などについてわかる方がどこにいるのかなとは思います。

1社ですべてをまかなうのではなく、強みの組み合わせで顧客への価値を生む

加藤:加藤浩晃と申します。私はデジタルハリウッド大学でテクノロジーの教室の教授をしております。MEDISOのアドバイザーを通じて、このイベントの応援という形で関わらせていただいております。

僕は眼科医でもありまして、FOVEさんは存じ上げておりました。緑内障の実証実験はどこまで進まれているのか。製販をされていているということでしたが、視野系の技術を研究開発されてということでしょうか。

小島:はい。臨床実験の方もFOVEが提携会社に協力させていただいていており、1年ほど関わらせていただいています。

曽山:1社が全てをやるのは大変で、お互いの強みを組み合わせていかに患者に届けるかが大事なことですね。三野さんもレギュレトリーがわからなければ、わかる人と組めるといいですね。

小島:弊社は車載アイトラッキングができないかという問い合わせをもらっていて、一旦できませんとお断りしているんですね。三野さんがやられている分野などはめちゃめちゃ需要があると思います。

本荘:Pyrenee Driveに体温計をつけるとかどうでしょう?

田中:そうですね、事業会社さんからも眠気の話が挙がっております。運転中にウェアラブルで体温計つけたいという話も聞いておりまして、人の眠気の部分には需要があるのだろうなと思います。

三野:拡張できるようにUSBポートをつける予定ですので、例えば体温計を接続して体温測ったり、アルコール検出器と接続したり、アルコールが検出されて走り出したらアラームを鳴らすとかはできると思います。

田中:例えばですが、赤ちゃんのベビーベッドの上にカメラを置いて、動き観察し、学習させることで、胎動と体温の関係から子どもの動きや安全性を保つことは可能だと思いますか?

三野:ディープラーニングで認識して動きを把握するとかですね。ポーズなど動きもわかるので、タクシーを止めたい人を検出するといったところもやっております。ポーズの検出技術に取り組んでいるので、何分以上動かなかったら反応するなど、データをたくさん集めると状況がわかりますね。面白い組み合わせだと思います。

本荘:赤ちゃんの安全性のアイディアについては、乳幼児突然症候群がわかるというのですが、開発しているスタートアップが思い当たりますね。

曽山:医者が患者を診察する際に、目の瞳孔など、人間じゃわからないくらいの動きだとか、人を超えたもの、例えば24時間診断なんかもそうですが、ウェアラブルを使って今までわからなかったものがわかり、診断やアラートを出すなど、そういうポテンシャルに可能性があると思います。