地球が逆回転することで起きる事象

ステファン・チン氏:あまり意識する人は少ないと思いますが、実は、私たちは超高速で回転しています。地球は、私たちを乗せて西から東へと、時速1,600キロメートルで回転しているのです。ところで、仮に地球が逆回転するとしたら、いったい何が起こるのでしょうか。

もし、これが突然起こったとしたら、私たちは時速何百キロメートルもの速度で最寄りの壁に叩きつけられて死にます。いやな死に方ですね。

しかし、地球が恒常的に東から西へと回転したとすれば、答えは俄然おもしろくなってきます。もちろん、研究者たちは、この研究をくまなく行っています。

地軸の傾きに起因する季節には変化はありません。しかし、気候に関しては、歴史を塗り替えるような大きな違いが見られるようです。

日の出と日没の方角は逆転し、同様に、気流や海流の循環系、つまり環流など、地球上の物の動きにも、逆転が見られることでしょう。これは、進行しながら回転する物質が、カーブを描くように運動する、「コリオリの力」(注:回転座標に位置する物体に働く見かけの力)の影響です。

現在、赤道から北へ進む気流や海流は、地球の自転の影響を受け、大きく時計回りのカーブを描くように運動しています。少なくとも、地球上の私たちからの視点からは、そのように見えますね。

一例を挙げれば、今私たちが生きている世界では、メキシコ湾流はあたたかな海水を北大西洋へと運び、ジェット気流がカナダからイギリスやアイルランドへと雲を運んでいます。この雲は海水が姿を変えたものですね。

これが逆転すると、西ヨーロッパは急激に極寒冷化します。2008年の研究によりますと、イギリスとスカンディナビアの気温は約10℃低下し、北アフリカの降水量が激増して、地中海がほぼ淡水化するそうです。

欧州地球科学連合(EGU)の2018年総会では、地球が7,000年間逆回転した場合に起きる可能性の高い変化について、コンピュータシミュレーションが披露されました。

このシミュレーションによりますと、かつてサハラ砂漠と中東の砂漠だった地帯は草原と森林に覆われ、オーストラリアのアウトバックも、乾燥地帯ではなくなります。地球上の広大な砂漠地帯は、アマゾンのような広大な熱帯雨林や中国北部の一部、アメリカ南東部のような密林と化します。

砂漠地帯が縮小し、緑地が拡大して二酸化炭素吸収源が拡大するため、シミュレーションは、地球全体の平均気温が0.2℃低下する結果を示しました。微細な変化に見えますが、実は気候に大規模な変動を起こすのは、小さな気温の変化なのです。

さらに、海流が逆流すると深海の酸素濃度は激減します。インド洋の藍藻、つまり藻類が爆発的に繁殖します。

現在の西から東へと回転する地球自転では決して見られないほどの、大量の藻類が繁茂するのです。

このような気候変動が7,000年間継続した末に起きる変化は語りつくせません。このような研究は、地球が西から東へと自転する、といったようなシンプルな事実が、どれほど歴史に影響を与えているかを考察するきっかけを与えてくれますね。