山崎氏の自己紹介

山崎聡氏(以下、山崎):みなさんこんにちは、こんばんは。エムスリーの山崎です。今日は、「拡販フェーズを生き残るチームに必要な2つの理論 八百屋理論とF1理論」ということでやっていきたいと思います。20分の発表ですが、勢い余って資料を60枚ちょっと作ってしまったので、ハイペースでいきたいと思います。よろしくお願いします。

あらためて、エムスリー株式会社で執行役員、CTO兼VPoPをやっている山崎と申します。よろしくお願いします。

8歳の頃からプログラミングを始めて、バリバリのエンジニアですが、紆余曲折あって、ここ15年ぐらいはプロダクトマネジメントを主にやっています。よろしくお願いします。

(スライドを示して)2021年もpmconf2021に登壇して、「PdMが習得するべき7つのシコウ」、通称「プロダクトマネジメントのドラゴンボール」を発表いたしました。YouTubeなどもあるので、よかったら見てください。

(スライドを示して)直近で「ログミーTech」にてインタビューを掲載いただきました。サムネイルが同じようなものですが記事が2本あって、1日で収録したものを2つに分けて、前後半で公開しているのでこんな感じになっています。それぞれプロダクトマネージャーに関する話をしています。よかったら見てください。

あと、14時30分から、クライスさんのセッションにも登壇します。「ホウレンソウで分かる、デキるPMの働き方」ということで、どちらかというとジュニア向けのセッションになっていて、ジュニアからミドルぐらいの方には非常に参考になるんじゃないかなと思うので、こちらもよろしくお願いします。

エムスリーの事業紹介

(スライドを示して)まず、エムスリーはあまり知られていない会社だと思うので、あらためて説明させてください。我々エムスリーは、インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすことを目指している、東証プライムの会社です。2000年創業で、22年間がんばってやっています。

事業が非常に伸びている会社ですが、本体の従業員は574名と、かなりコンパクトにやっている会社でもあります。絶賛、従業員を募集しています。

エムスリーでは、日本に三十数万人いる医師のうちの90パーセント以上である、30万人以上の医師を会員としてサービスを展開している会社です。

グローバルでもいろいろやっていて、世界15ヶ国でやっています。世界の医師の数が1,200万人いると言われているのですが、そのうちの600万人以上がエムスリーグループのなんらかのサービスを使っています。なので、世界でも50パーセント以上の医師が使っているサービスです。

プロダクトもいろいろやっていて、もともとは医師向け、製薬企業向けのサービスが多かったのですが、最近はどんどん拡大していて、患者向けのサービスや、生活者向けのサービスもやっています。どんどん医療の世界を良くしていきたいと思っているので、よろしくお願いします。

(スライドを示して)エムスリーの主なプロダクトはいろいろありますが、これは日本最大級の医療従事者専用サイト、30万人の医師が集まる「m3.com」というサイトです。日夜、ニュースや論文を公開しています。

ほかにも製薬企業のいわゆるプロモーションで「MR君」や、あとは医療業界のインスタライブ、YouTubeライブみたいなサービス「Web講演会」や、医師の転職サイトの日本一の「m3.com CAREER」をやっていたり、患者が医師に質問できるサイトの「AskDoctors」や、日本一のクラウド電子カルテの「エムスリーデジカル」をやっていたり。そして今日も出てくる、クリニック向けキャッシュレス決済アプリの「デジスマ診療」もやっています。

医療業界の人がITにチャレンジしているわけではなくて、IT業界の人が医療にチャレンジしている会社です。

あまり言語化されていない「PMF」と「拡販フェーズ」の間のこと

本題です。(スライドを示して)本当にたくさんのすばらしい書籍が出ていると思っています。プロダクトマネジメント業界は盛り上がっています。『INSPIRED』と『EMPOWERED』です。

そして、先ほど曽根原さんのセッションを聞いて、すごくおもしろかったのですが、及川さん、曽根原さん、小城さんが書いている『プロダクトマネジメントのすべて』や、宮田さんが書いている『ALL for SaaS』というすばらしい書籍もあります。

(スライドを示して)これらのすばらしい書籍はあるのですが、今日話したいのは、拡販フェーズを生き残るチームに必要な心構えです。

まずコア仮説の検証があって、MVP開発があって、プロダクトマーケットフィットを目指す。こういったところは、最近けっこうさまざまな書籍で取り上げられているかなと思っています。拡販フェーズの後のグロースプロダクトマネジメントについても、最近はいろいろな書籍が出始めているかなと思っています。

問題なのは、PMF(Product Market Fit)がいったん完了したところから、どうやって拡販していくのか。ここがあまり言語化されていない問題に、今日は取り組もうと思っています。

つまり「どうすればいいのか」ということです。そこで登場するのが、結論として八百屋理論とF1理論です。これでKPIの成長を最大化する話をしていきます。

デジスマ診療の開発フロー

まず、背景になるプロダクトのデジスマ診療について説明していきます。

(スライドを示して)クリニックの予約から受付、問診、電子カルテ連携、決済、次回予約促進といった、患者体験を圧倒的に良くするプロダクトを目指して開発しています。話していくと長くなりそうなので、動画を用意したので、動画を再生します。

(動画再生開始)

女性ナレーター(動画上の音声):仕事の合間に、デジスマ診察券で簡単予約。問診は、来院前に空き時間で、いつでもどこでも。受付も、スマホで待たずにチェックイン。予約がなくてもアプリで呼び出し。時間を有効に使えます。お戻りの際、受付にお声掛けいただければすぐにご案内いたします。

受診後は、処方箋を受け取るだけ。お支払いはアプリで自動。お会計でもお待たせしません。そのままお帰りいただけます。次回予約やクリニックからのお知らせも、デジスマ診察券に届きます。お出掛け前に、仕事の合間に、空き時間で効率的に。デジスマ診療。

(動画再生終わり)

山崎:ありがとうございます。デジスマ診療、非常に便利っぽいですよね。Twitterとかで検索してもらうと、使っていただいたユーザーの声や医療機関の声があって。非常に好評いただいています。そのあたりを見ながら話を聞いてもらえるといいのかなと思っています。

(スライドを示して)こういった便利なサービスがありますが、今日は詳細は割愛して次に進もうと思います。予約をしたり、あとは診察券要らずで医療機関にチェックイン、受付ができたり、問診やキャッシュレス決済ができたり、次回の予約を簡単に取れたり、そういった感じです。

(スライドを示して)この開発のタイムラインは、ちょうど2年ぐらいやっていて、コア仮説の検証が始まったのが2020年10月からです。これを3ヶ月ぐらいやりました。これは私が立ち上げたので、私がメインで検証していった感じです。ビジネスメンバー何人かと検証していきました。

「よし、作っても大丈夫そうだ」「バーニングニーズがありそうだ」ということで、MVP開発を始めたのが2021年1月から3月ぐらいまでで、3ヶ月で作りました。

2021年4月からPMF開始で、5月から実際に医療機関で使ってもらっていたのですが、1年かけて磨き上げて、2022年の4月に6ヶ月間の拡販フェーズに入っていきました。

(スライドを示して)体制はこんな感じで、プロダクトマネージャーが私を含めて2名。デザイナーが3名。あとはエンジニア、QAで7名。ビジネスとカスタマーサクセスは「デジカル」というクラウド電子カルテのチームと共有しながらうまくやりました。

(スライドを示して)主要KPIです。これがPMFが完了した段階でのKPIで、新規登録の数です。こんな感じでPMF期間にいろいろやってきて、「おお、これはもう使ってもらえるぞ」と。大丈夫だと確信できたのがこの頃です。

すぐにできるアクションに集中していく「八百屋理論」

この後、どうすればいいのかという話を残り時間でやっていきます。もう1回結論ですが、八百屋理論とF1理論というものを使っていきます。

まず八百屋理論から説明させてください。

(スライドを示して)PMFが終わって、いざ「じゃあ、やるぞ!」となってもやはりPMF気分が抜けないというか。KPIの成長から遠いことをやりがちなんですね。

つまりどういうことかということを八百屋にたとえると、「店の見た目をもっと豪華にしてみたらいいんじゃないか?」みたいな。「3ヶ月はかかるけど先行投資だ」みたいな感じですね。「PMFも終わったし、テレビCMを作って流してみるのがいいんじゃないか?」と。「企画も含めて3ヶ月かかるけど」みたいな話ですね。

「いやいや、もうデータ分析だ」「POSを導入してデータ分析してみたらどうだ?」「こちらも3ヶ月かかるけど」みたいな話です。

こういった長期的な施策を並行して走らせていくのはもちろん重要です。ただ、これは目の前に集中するという意味からいうと、KPIの成長から遠すぎるんですね。「八百屋でこれをやっていたら、その日の売上、どうなるの?」みたいな。「ゼロじゃん」みたいな。「結局きゅうりも売れませんでした」みたいなことになりかねません。

なので、やはり「八百屋だったらどうするんだ?」とチームにビシッと言って、「『へい、らっしゃい! 奥さん、いい野菜が入っているよ!』って声掛けるところからじゃないの」という話です。まずは目の前の人に使ってもらうことが重要だと。クリニックで(いえば)、「本当にこれは使われているの?」みたいな話ですね。

PMFした数施設でよく使われているだけじゃなくて、実際に導入してくれた医療機関で我々のサービスが本当に勢い良く使われているか。それがメチャクチャ重要です。

「KPIの成長にダイレクトなことをやっていきましょう」という、“すぐにできるアクションに集中していく”のがポイントになってきます。

つまりどういうことをやっていったかという具体例はカジュアル面談やDiscordのようなところで話したいと思っていますが、おおまかなイメージでいうと、例えばKPIの成長に遠くてやりがちなのが、より多くのリードを獲得するための大型キャンペーンの準備などです。

これに対して「いやいや」「直近取れたリードの傾向を分析して、すぐできるアクションを実行していきましょうよ」と。「今取れているリードはもっと取れる可能性がありますよね」という話(に変える必要があるということ)ですね。

次の例は、「受注率の高そうな機能を新たに時間をかけて開発しよう」みたいなことで。それもわかるし、やっていかなければいけないのですが、直近の商談で受注・失注の分析はできるので、「ウケている機能は何なの?」「ウケてない機能は何なの?」と。それをすぐに見つけて、すぐにアクションするという話です。

それからこれもありがちだと思うのですが、「営業・顧客からの要望を列挙して、網羅的に対応していきます」みたいなことです。これも必要なケースはあるし、必要になってくるとは思いますが、直近の利用率の高い顧客がなにを使っているかとか、どこがウケているのか。そういったところを分析して、すぐにアクションするというような感じで、KPIを毎日八百屋の売上のように上げていくということは、すごく重要だと思っています。

つまり、成功事例に目を向けて、なにが成功しているのかを確認していくことがメチャクチャ重要です。成功しているところを希望の光として、どんどん拡大していく。もしくは成功していない理由をちゃんと分析すること。それがメチャクチャ重要です。

これが八百屋理論です。つまり、「今やることを明確にして、チームをKPIの成長に集中させていきましょう」という話です。

KPIを分解して分解した要素に対して取り組む「F1理論」

もう1つ重要なのが、F1理論です。(スライドを示して)F1理論はどういうことかというと、KPIの合成の話です。シンプルに掛け算で合成されていく考え方ですね。

例えばF1で優勝しようと思ったら、ドライバーの腕とマシンの性能(が必要)ですよね。本当は(ほかにも)チームとかいろいろあるのですが、ここはかなり簡略化しているので、こうやってシンプルに考えるということが重要です。

なので、F1優勝はもう「ドライバーの腕×マシンの性能」という感じで考えていきましょう。

さらに「マシンの性能ってどうなっているの?」というと、「エンジン出力×マシンの重量×グリップ性能ですよね」みたいな話で、わかりやすく「これ×これ×これ」と分解して、そこのKPIに注力していきます。

グリップ性能だったら、軸荷重(が重要)なので、そこにダウンフォースやグラウンドエフェクトやタイヤのコンパウンドなど、そういう掛け算になっていくと思います。

あっ、車がわからない人もいるかもしれません。わかりやすいかなと思って持ってきたんですが、わかりにくかったらすみません。イメージでわかってもらえばいいのかなと思って。KPIがシンプルに分解できるみたいな話です。

デジスマ診療における「八百屋理論」「F1理論」活用事例

これもちょっと具体例を挙げていくと、今回のデジスマ診療では、利用者数の最大化をまずしたいわけです。これがKPI的な、ノーススターメトリックみたいなものです。

ここに利いてくるドライバーは主に2つで、利用施設数と、施設内での利用者数です。これはデジスマ診療が入っていないクリニックでは残念ながらまだ使えないシステムなので、施設数を増やして、その中での利用者数を上げる感じです。

「じゃあ施設数はどうやって増やせるの?」ということを分解するとリードの獲得効率と、受注の効率になります。さらに施設内利用者数は、アダプションの効率で決まります。こういうふうに分解していくわけですね。ここにさらに、逆コンウェイの法則で、このKPIを上げるチーム編成を組んでいきます。

先ほど曽根原さんの話でもノーススターメトリックをどう考えるかみたいな、先行指標なのか結果指標なのかみたいな話がありましたが、KPIの考え方で、KPIを上げるためのチーム作りをするんですね。

さらに、ここに対して八百屋理論で目の前の結果に集中していくようなマネジメントをしていきます。

(スライドを示して)そうすると、全体の構成がこういうふうになるんです。この一番上のところはF1理論でKPIを分解してわかりやすくして、そのKPIに向かって逆コンウェイの法則を使って組織化して、その組織一つひとつに八百屋理論で、目の前のことに集中させていきます。こういうふうにやっていくと、すごくうまくいきました。

それから6ヶ月後どうなったかというと、こうなりました。いやぁ、よかったです。6ヶ月で新規登録数が約10倍に成長して、PMFしたところから、いわゆる拡販の入り口には半年で到達できたかなというところです。

プロダクトマネージャーはキャッチーな言葉で人を動かす

まとめます。今日の課題は、PMF後の拡販フェーズで最初になにをするべきなのかという話でした。こういったコア仮説の検証やMVP開発やPMFについては、いろいろな書籍で取り上げられています。拡販フェーズについても、最近はグロースプロダクトマネジメントの文脈でいくつか書籍があります。

どうやってここを接続するのか。あまり言語化されていないところに注目してきました。

ここに対してどうすればいいのかという話があって、そこで出てきたのが、八百屋理論とF1理論です。これでKPIの成長を最大化します。

八百屋理論は今やることを明確にし、チームをKPIの成長に集中する、させるような話です。F1理論は、このKPIを構造化して、チームを編成してKPIの成長を最大化するような話です。

(スライドを示して)エンジニアの方も何人かいるかもしれないですが、実はエンジニアリングの世界では似たような話があって。八百屋理論はYAGNIに似ています。

今必要なこととそうでないことを、明確に分けていきましょう。並行して長期的なことをやることはもちろん必要ですが、どちらかというと相対的な問題として、今やることに集中します。

F1理論はまさにOKR的な考え方です。OKRもかなり奥が深いのでかなり肥大化していますが、その中でもシンプルに、KPIが何のKPIで合成されているのかを考えるみたいな話です。

さらにここから学ぶとなにがあるかというと、プロダクトマネージャーたるものは、キャッチーな言葉でチームを動かすということです。今の「八百屋理論だ」とか「F1理論だ」ということは、私はチームの中でも何回も言っているんですね。

そうすると、キャッチーな言葉なので、「おぉ、ここは八百屋理論だ」とか「いや、F1理論ですね」とか、そういうふうに(チーム内で)流行ったりします。チームの文化にしていくことも重要かなと思っています。

ということで、最後にちょっとだけ宣伝させてください。エムスリーでは、プロダクトチームが日本・世界の医療と格闘する日々を、「M3 Tech Blog」とエンジニアリングのTwitterで絶賛配信しています。Twitterをフォローしていない方がいれば、フォローをよろしくお願いします。

最近はTech Blogにプロダクトマネジメントネタも書いています。プロダクト関連ページの採用ページもあります。この「The Power of Medical Innovation」を一緒にやっていきましょう。

この後、14時30分からもクライスさんのセッションに出るので、そこでもよろしくお願いします。

ということで、ありがとうございました。