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SaaSの利用体験を拡張せよ〜APIですべてが繋がる世界へ〜 (全1記事)

デジタル化が進んだと思いきや、新たな手作業が生まれている今 ここから5年間、SaaSにおいて外部APIは重要なパーツになる

株式会社LayerX・プロダクトマネージャーの梶原氏は、APIを活用することでSaaSにどんな価値が増えていくのか、そしてSaaSにおける外部APIの重要性について話しました。

LayerXの事業紹介

梶原将翔氏:株式会社LayerXの梶原と申します。だいたい“かじさん”と呼ばれていて、Twitter(現X)も“かじ(@kajicrypto)”でやっていますので、フォローしてもらえるとうれしいです。

今日は「SaaSの利用体験を拡張せよ〜APIですべてが繋がる世界へ〜」というLTをしたいと思います。最初に事業の紹介をします。

LayerXという「すべての経済活動を、デジタル化する。」ということをミッションに掲げた会社でいくつか事業をやっているのですが、一番大きい事業が「バクラク」シリーズというBtoB SaaSになります。

バックオフィス向けの業務効率化を推進するSaaSで、2021年の1月に1つ目のプロダクトを出したのですが、その後、半年に1つサービスを出し続けていて、今は5つのサービスがあります。

バックオフィスの一連の業務を、サービスのカバレッジを広げたり、プロダクトを増やしてカバレッジを広げることで、業務を滑らかに一本化することを目指しています。

思想としては電子化をするとか、入力する画面がデジタルになるというものではなくて、業務そのものをAIなども活用しながらなくしていくという方向性で、プロダクトを成長させていっています。

各プロダクトに1人ずつプロダクトマネージャーがいるのですが、私は全プロダクト横断で、プロダクトの機能をAPIとして外部に開放するという点についてのプロダクトマネジメントを担っています。

ありがたいことに(良い)評価をいただいていて、リリースから2年と10ヶ月(2023年11月現在)で、シリーズ累計の導入社数が7,000社を超えている状況です。

そんなBtoB SaaSのプロダクトマネジメントにおいて、「SaaSがAPIを公開するとはどういうことか」と「ここから5年間SaaSが向かっていく方向性をどんなふうに考えているか」という2点の話をします。

「Qiita」のイベントなので、APIというものになじみが深い方もたくさんいると思います。サービスとしてお客さまに提供することを考えると、「APIとは何か?」というよりも、「APIを提供することでどんな価値を提供できるのか?」ということを、案内していくビジネス側のメンバーやお客さまに理解してもらう必要があるかなと思っているので、社内でAPIを展開していくにあたって、啓蒙活動している話を少し紹介します。

APIとは何か

まず「APIとは何ぞや?」という話なのですが、ググっていると、こんな画像が見つかりました。(スライドを示して)はい、かわいいミツバチちゃんですね。APIをラテン語で読むとミツバチの意味になるらしいですが、さすがにこれではなにも伝わらないので、少し中身に入っていきたいと思います。

APIとは、システム同士がデータの受け渡しをしたり、プログラム処理を共有するための機能だと説明しています。わかりやすく図で表すと、システムが2つあった時に、片方が「情報くれ」と言ったら「はい、どうぞ」と返したり、「この情報保管しといて」と言ったら、B側が保管して「OK、保管したよ」という情報を返してあげるとか。そんなシステム同士のデータとか処理のやり取りをできる機能というか、通信だったりを総称してAPIと言っています。

SaaSがAPIを開くというのは、これまでSaaSに実装してきた機能を画面からポチポチして使うのではなくて、システムから直接呼び出して、裏側で処理をできるようになるということです。

APIを活用することでSaaSにどんな価値が増えていくのか

それを行うとSaaSにどんな価値が増えていくのかという話になるのですが、プロダクトの価値とか利用体験を、ブラウザの画面を通さずして提供できるというのが1つ。それから、外部のサービスに埋め込むことができるというのが2つ目です。

APIがないサービスの場合にどういう価値提供の仕方になるかというと、あえてすごく嫌な言い方をするのですが、プロダクトの価値とか体験は、お客さまが能動的にパソコンとかスマホを開いて、ブラウザを開いてサービスにアクセスしてログインした後に、画面をポチポチしている時しか提供できないということになっています。

もちろん、使ってもらっている間は、便利な機能を提供することですごく満足してもらっていると(いうことになると)思うのですが、自社の視点では「いいサービスを画面を通して提供しているよ」と思っても、お客さまの業務プロセス全体から見ると、あくまで提供しているサービスというのは、one of them、1つになっていて。

いろいろなサービスを使っている中で、データの取り回しをしながら業務フローというものは成り立っています。そして、ほかのサービスと連携するにあたっては、CSVを出してゴニョゴニョして入れ直すとか、画面を見ながら手打ちをするとかの業務がどうしても残ってしまいます。

これを解決するのがAPIだと思っていて。外部公開すると、画面を通さずにお客さまがいつでも操作をすることができる。それから、外部のサービスとも手作業なくつなげていくことができるということです。

整理をすると、すでにある機能の即時性を上げる、時間における柔軟性を上げることができます。それから、外部のシステムとの相互運用性を上げることができるのがAPIだと思っています。

プロダクトを出してからしばらくの間は基本的な機能をつけることでいっぱいいっぱいだったのですが、ある程度機能がついてきて、より深い利用方法を求めるお客さまが増えてきたタイミングで、つい最近APIを公開し始めました。

バクラクの中ではこれらを一言で「埋込み型バクラク」と呼んでいます。Fintech領域で“埋込み型金融”という言葉がここ数年間で台頭して、いろいろな金融サービスをアンバンドル(分解)した一部の機能がいろいろなところで使われるようになっていると思っていますが、それと同じように、バクラクの中の一部の機能を前後のプロセスや周辺のシステムにまでどんどん埋め込んでいくことができると思っています。

ここから5年間、外部APIはSaaSにおいて重要なパーツになる

さて、SaaSの外部APIですが、ただただお客さんの要望が増えてきたから実装したというよりは、ここから先の5年間がSaaSにおいてめちゃくちゃ重要なパーツになると思っているので、その話を少しします。

「未来を見るためには、過去をしっかり勉強しないとな」と思って、基本的なシステムのこれまでの歴史を並べてみました。

2000年代の企業の中のシステム構造は、「基幹システム」と、基幹システムができないものは「大量の手作業」で業務を支えていたと思います。この時の課題は、やはりグレーの「大量の手作業」による業務の非効率さで、それに対して2000年代をかけて、個別システムがどんどん開発されて導入されていったかなと思います。

そして2010年代です。(スライドを示して)青い「基幹システム」と水色の「個別システム」とグレーの「残る手作業」という構造になっているのですが、日本企業はだいたいこのままゆるゆる来ていたと思います。

そんな中、新型コロナウイルスという契機が発生して、手作業についてもしっかりデジタル化しないと、企業活動がそもそも成り立たないということになってきました。

ということで、直近3年、4年にあたる2020年代前半には、企業の中のシステムは大きな基幹システムと、あとは周辺に大量の個別のシステムが入っている。スクラッチ開発したシステムもまだもちろんあると思うのですが、特にSaaSのビジネスモデルの確立とか、クラウドの技術がどんどん進歩してきたことが重なって、大量のSaaSを入れている会社もたくさん発生していると思っています。

この中では、個別の領域にとってすごく便利に業務を効率化できるSaaSがたくさん出てきていると思うので、基幹システムとSaaSを大量に入れることで、無事に企業はデジタル化が完了して「めでたしめでたし」という流れになったかと思いきや、技術というものは、どんどん新しい課題を見つけて、世の中を便利にしていくものだなと思っています。

お客さまとヒアリングをしたり話をしたりしていると、デジタル化が進んだと思いきや、新たな手作業が生まれているということを最近感じています。基幹システムと導入した個別システムとか、あとは導入したSaaS同士がデータが連携されていないことによって生まれている、細かい手作業がたくさんあるなと思っています。

システムの分断によって生まれたCSVの入出力とか、あとはもったいないケースだと、ブラウザを開いて、左半分で1個目のSaaSの表示画面を映す。右半分で別のSaaSの入力画面を開いて表示されている文字を人が手で打って転記していく。

そんなことが起きていることはヒアリングでわかっているので、デジタル化されたからこそ、次の課題として認識されてきたものではあるのですが、システム間がつながっていないことによる手作業をなくしていく方向に、世の中は進んでいくんじゃないかなと思っています。

なので、「お客さまの要望で便利だからAPIを開きました」というのももちろんタイミングとしてはあるのですが、ここから向こう5年とか10年間を、すべてのシステムがどんどんつながることによって、お客さまの立場で見た業務フロー、業務プロセス全体が滑らかに動いていく。そんなシステム構造に変わっていくんじゃないかなと思っています。

業務プロセス全体の滑らかさを実現するための2つのHow

それを実現するためのHowは2つあると思っています。1つがマルチプロダクト構想です。2023年から、特にBtoB SaaSの中では「Go Multi-Product」という標語が出されていたり、「コンパウンドスタートアップ」という言葉が出ています。

いろいろな業務プロセスとか領域を、自社でとにかくプロダクトを増やしてカバーしていく。データが連携されるように自社で設計してプロダクトを増やしていくと、システムの分断が起こらないことになるので、これが1つの解決策になります。

一方、自社がどうしても出ていかない範囲もあると思います。「あの領域はレッドオーシャンで今からは入らない」とか、「スタンダードのサービスがもう確立されているので、手を組んだほうが早い」という世界もあると思います。

そういう領域については、今回のテーマとなっているAPI連携を積極的にやっていくことで、ある種、自社とほかの領域の他社のSaaSというのがくっついて、1つのSaaS連合みたいなかたちになって、お客さまの業務プロセスを一気に解決する。そんな世界になるかなと思っています。

お客さまのSaaSの導入時の比較表みたいなもので、外部連携性みたいなものとか、自社が入れているSaaSと相性がいいSaaSはどれなのか、そんな視点でサービスが選ばれるようになるんじゃないかなと思っています。

そんなところで、APIは今後非常に重要なものになるかなと思って取り組んでいます。

APIは“ミツバチ”である

これまでの話を踏まえて、あらためて「APIって何ぞや?」と考えてみると、最初に戻りますが、やはりミツバチだったかなと思っています。

何を言っているかというと、花から花に、システムからシステムに、データという大事な蜜を運ぶ役割がミツバチさんで、APIかなと思っています。

そんなところで終わりにします。なじみが薄い方もいると思うので、(この発表が)APIについて(理解を深めるための)参考に少しでもなれば幸いです。

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