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まつもとゆきひろ氏によるスペシャルコンテンツ(Rubyを通して見たこの30年間の変化)(全3記事)

「ポジション的には上がりでもまだ引退する気はない」 まつもとゆきひろ氏が描く今後の夢

「Qiita Engineer Festa 2022 Online Meetup」に登壇したのは、プログラミング言語Rubyの生みの親であるまつもとゆきひろ氏。「Rubyを通して見たこの30年間の変化」をテーマに、テクノロジーの変化と未来について語りました。全3回。3回目は、まつもと氏のこれからの夢と、プログラマーの適性について。前回はこちら。

二十数年の間に5倍ぐらい伸びたRubyのコード量

司会者:まつもとさん、貴重な講演をありがとうございました。お話を聞いていて、チームの解散がRuby開発のきっかけというのは、とても印象的でした。

まつもとゆきひろ氏(以下、まつもと):そうなのです。

司会者:現在もまさにそうだと思うのですが、不況だからといって環境を悲観するのではなく、できることにチャレンジしていくことがすごく大事だなと思いました。技術の変遷や当時からの変化など、とても勉強になりました。貴重な講演をありがとうございました。

ここから少しだけ質疑応答に入りたいと思います。まつもとさんに質問がある方は、ぜひQAやチャット欄でコメントください。では、すでに頂いているものから回答をお願いできればなと思います。

今回のセッションに関する内容でいくと、「30年前のソフトウェアは何行ぐらいのコードで作られていたのでしょうか?」という質問をいただいていますが、こちらはいかがでしょうか。

まつもと:ソフトによって違うとしか言いようがないのですが、30年前というか、1995年に発表した最初のバージョンのRubyは、たぶん数万行です。

司会者:数万行。

まつもと:それでも数万行はあったという感じだね。今のRubyは、一切合切入れると60万行ぐらいあるので(笑)。ここ二十数年の間に5倍ぐらい伸びました。

司会者:いやぁ、すごいですね。

まつもと:データファイルとかがいっぱいあるので、そういうのも含めての話ですけどね。

司会者:なるほど、ありがとうございます。

ポジション的には上がりでもまだ引退する気はない

司会者:では事前にいただいていた質問からもいくつかうかがえればなと思っています。

1つ目に、「コロナ禍で技術コミュニティ関連で変化を感じられたことはありますか?」という質問をいただいています。何か感じるところはありますでしょうか?

まつもと:私自身に関して言うとそんなに大きくないですね。というのも、私のメインの仕事はやはりオープンソース開発で世界中の人が開発するから、これはもともと1箇所に集まって開発することがあまりなかったんです。

そういう意味でいうと元からオンラインで、元から自宅で作業していて、今でいうリモートワークなので、あまり変わらなかったですね。

唯一違うのはイベントです。これまではイベントが終わったあとの懇親会とかで直接話して親しくなったり、情報交換したり、インスパイアされたりしていました。このQiitaのイベントもそうですが、イベントがオンラインで開かれるようになって、それがなくなったり減ったりしたのは、インプットが減ったという意味ではけっこう変化がありました。逆にいうとそれぐらいで、あまり変化はない感じです。

司会者:そうなのですね。私たちとしては、こうしてライブ配信になったことによって、たくさんの参加者に参加してもらえたところもあるのですが、善し悪しというところですね。

まつもと:パネリストはいいですけど、視聴者同士のつながりみたいなものはなかなかね。隣の席に座っている人に「君、君」とかいうのができないので(笑)。

司会者:確かにオフラインの時はそこからつながりが広がったり、そういうものがあったかなと思いますが、オンラインだとそういうものがなかなか生まれにくいですよね。

まつもと:それはちょっと残念だなという気がします。補完するようなツールやWebサービスもいくつか使ってみましたけど、やっぱりねぇ、ちょっと違うんだよねー。

司会者:確かにそうですね。なかなか難しいところがありますね。

まつもと:はい。

司会者:では続いて、「まつもとゆきひろさんに今後はどのような夢を描いているのか聞いてみたいです。」という質問をいただいていますが、まつもとさんの夢を教えていただけますか。

まつもと:一応ね、自分のプログラミング言語を作るというのが子どもの時からの夢で、それは達成しました。

あとは、なんだろう。例えばポジション的には、上がりだと思っているんです。つまり自分のデザインしたソフトウェアが世界中で使われていて、かつ、経済的にも困らないということです。そういう意味でいうと、人生ゲームでいう上がりっぽいところにいると思います。

だけど、ゲームと違って私の人生はここで終わりではないんですよね。なので、この上がった状態を、よい状態を継続するのが私の今の夢ですね。まだ引退する気はないので、これを継続していくことが、今の夢ですね。

司会者:ありがとうございます。

自分が使いやすいようなものを作りたいと思っていた

司会者:QAにもたくさん質問が来ているので、上から順にご回答をお願いできればと思います。

「30年前、Rubyはどのようなターゲットを想定して開発されていましたか?」という質問をいただいていますが、こちらはいかがでしょうか。

まつもと:ターゲットというといろいろなものを指すのですが、ハードウェアとしてのターゲットは、先ほど言ったUNIXワークステーションを考えていました。

その時は、大学の時からUNIXを使ってきたし、UNIXのほうがプログラミング関係としてはずっといいと思っていたので選びました。まさか、Linuxやその他の、例えばMacのOSがUNIXになるとか、WindowsがWSLでそのままLinuxソフトが使えるようになるとか、そこまでは予想しなかったです。

自分の選んだプラットフォームが世界的にポピュラーになるというのは予想外だったし、すごくありがたかったと思います。

人としてのターゲットは、自分ですね。プログラマーの人が使うものだと思っていたので、自分が使いやすいようなものを作りたいと思いました。

あとドメインとしてのターゲットは、先ほどの講演の中でも説明したとおり、もともとはテキスト寄りみたいなスクリプティングを思っていました。ただ、意外とスクリプティングに便利な機能がWebアプリケーションの便利な機能と近く、非常に相性が良くて伸びていったので、そこに向かってちょっと方向転換して、がんばってきたところがあります。

最も大事なスキルは「好きであること」

司会者:続いて、「未来に適応するには普遍的なスキルが大事になるかと思いますが、それはなんだとお考えでしょうか。私は長く続けるには、やっぱり好きであることだと思っています。」という質問ですが、いかがでしょうか。

まつもと:そうですね。好きであるのは確かに重要です。プログラミングに適性が必要だと話すのですが、一番の適性は何かというと、たぶんプログラミングすることが楽しいと思えるかどうか。これが、全員が全員思えないんですよね。なので、楽しいと思える人はそれだけで適性があるんじゃないかなと思います。

特に30年も経つと、プログラミングしていても、求められる知識やスキルはどんどん変化していきます。

だけど、結局学べばいいわけですね。学ぶためにはモチベーションが必要だし、モチベーションのためには、プログラミングに対して楽しいとか、ポジティブな気持ちが必要なんじゃないかなという気がします。

なので、この質問をしてくださった方の好きであることがスキルとカウントして最も大事というのは、心から同意します。

新しい=良いではなく今抱えている課題を解決してくれるものを選ぶ

司会者:続いて、「流行っている言語には乗らないほうがいいとか、変わらない核となるものに取り組んだおかげで自分は生き残れているように思いますが、ご意見はありますか?」という質問をいただいていますが、こちらはいかがでしょうか。

まつもと:Y Combinatorというベンチャーキャピタルを始めたポール・グレアムという人が、自分のエッセイの中で、「最近の若い者は、10万人に1人しか罹らないような珍しい病気にばかり興味を持つ」とお医者さんが若手のお医者さんに文句を言っていると書いているんですね。

誰でも罹るような病気こそが、研究のしがいもあるんだと言う人がいるんですね。

エンジニアもけっこう同じ傾向があって、新しい言語が出たとか、新しいテクノロジーが出たというと、「ああ、じゃあ勉強しなきゃ」とフラフラする感じがあります。

正直に言うと、何が生き残って何が生き残らないかは事前にはわからないんですよね。それを考えてみると、もうちょっと違う視点で、つまりこれは私の問題を解決するからやる、という視点を持ったほうがいいんじゃないかな? という気がします。

だから、新しいから良いに違いないみたいなノリではなくて、私が今抱えている問題を一番よく解決してくれそうなテクノロジーはこれだという基準で選ぶのがいいんじゃないかなという気はしますね。

司会者:ありがとうございます。

今起こっている変化でまつもと氏が注目していること

司会者:では続いて「まつもとさんが注目する、今起こっている変化はどのようなものがありますか。ご参考までに教えていただきたいです。」という質問ですが、いかがでしょうか。

まつもと:Rubyで書いてもPythonで書いてもなんでもいいのですが、コードにそう書いてあるから、なぜそうなったかがわかるんですね。

だけど、最近のプログラミングの世界において、機械学習の結果だと、なぜそうなっているかよくわからないんですよ。それはけっこう重要なことなのではないかなと思います。

つまり、過去に食わしたデータの結果であるんだが、どのデータがどのぐらい影響を持っているのかはデータを与えた人にもわからないし、コンピューターに聞いても答えてはくれないというものが出ているのは、気をつけなくちゃいけないことではないかと思っています。

司会者:なるほど、ありがとうございます。時間の兼ね合いで、ここで終了させてもらえればと思います。みなさま、たくさんのご質問ありがとうございました。

まつもとさんも貴重なご講演ありがとうございました。

まつもと:ありがとうございました。

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