
2025.03.19
急成長するドバイ不動産市場の今 投資のチャンスと注意点を専門家が解説
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小倉一葉氏(以下、小倉):いよいよ残り10分ぐらいになりましたので、会場のみなさん、オンラインでご参加のみなさんからチャットなどでもご質問いただければなと思います。
すでにもう来ているものがあれば、運営のみなさんの中でご確認いただきたいですし、会場の中で阿部さんに感想でも何でもお伝えしたいことがある方がいらっしゃいましたら、マイクをお渡ししますのでぜひぜひ。ありがとうございます。
森脇匡紀氏(以下、森脇):じゃあ、そちらの女性の方から。
質問者1:貴重なお話をありがとうございました。私は今、仕事をしながら大学院の博士課程でマーケティング領域で研究をしています。アーギュメントを作るという今の話を聞きながら考えていたんですが、仮説とアーギュメントの関係をどう考えればいいかなということを考えていてですね。
阿部幸大氏(以下、阿部):はい。
質問者1:というのは、マーケ領域だと基本的に事象研究が多くて、リサーチクエスチョンがあって、それに対して仮説を設定してそれを検証する。「その仮説とアーギュメントとの違いは何だろう? アーギュメントとあえて言った時に、そこで見える世界は何であろうか?」ということをいろいろ考えながら聞いていまして、どう思いますか?
私の考えだと、たぶん仮説はすごく小さい。いろんな仮説があるものを束ねた上で、最終的に自分が言いたいことというか、持っていきたい方向性(に持っていく)ということなのかなと思ったんですが、どう思われるかを聞きたいです。
阿部:そういう研究をされている方、例えば言語学とかはかなり近い分野でありながらもぜんぜん手法が違うんですが、そのことについて思うことは2つあって。
1つは、仮説というものにも論証することが簡単な仮説、つまり実証することが簡単な仮説と、みんなが驚くような仮説で「それが示されました」と言って、新しい立派な学説として確立していくことがあると思うんですよ。まずは仮説そのものに、アカデミックな価値の優劣はあると思うんですよね。
もう1個は、仮説を立てて、それが何らかのかたちで示された。あるいは何らかの結果が得られたとして、そもそもなんでその結果を導き出したのか。そういう論文って、最後に「含意」みたいなタイトルがついているものがあると思います。
それが実証されたのはわかったが、その実証されたことにどういう価値があるのかを考える。つまり、「そもそもなんでそれを実証したんだっけ?」というところです。実証できるから実証したのではなくて、実証したことによってどのようなことがわかるのか。
つまり実験結果の解釈みたいなことですね。その次元にもアーギュメントの考え方が出てくるのかなというふうに、今は2つのことを考えています。
質問者1:ありがとうございます。一番最後にだいたいインプリケーションとして、アカデミックなインプリケーション、あとはビジネス・インプリケーションという、だいたい2つセットで書くケースが多いんですが、確かに本当に言いたいのはそこだったりします。
阿部:なるほど。
質問者1:いきなりそこを1行書いて終わりだと誰にも信じてもらえないので、信じてもらうために文を費やすというのは確かにそこに当たるのかなと、今うかがって思いました。
阿部:そのようなことを思っています。
質問者1:ありがとうございます。
阿部:ありがとうございます。
森脇:じゃあ、(次の質問者の方)よろしくお願いします。
質問者2:どうもありがとうございました。基本的に、アカデミックのアーギュメントとビジネスのアーギュメントって、同じアーギュメントでもたぶん違うと思うんですね。
阿部:はい。それ、お聞きしたいです。
質問者2:アカデミックのところでは先生がご自分のお考えを明確にして、それに対して反論させながら、さらにブラッシュアップしながら主張していくところが1つのポイントかなと思うんです。ただ、ビジネスの上では単に議論するのが目的じゃないので、議論をして最終的に効果や結果を出す。その途中としてアーギュメントが必要だと思っているんです。
阿部:はい。
質問者2:その意味で言うと、どういうかたちで他動詞化をしていったらそこがうまくいくのかなと。いろんな議論をする中で、あやふやなものを明確にするのに他動詞化という行為が役に立つのであれば、どうやったらうまくいくのかをポイントとして聞けたらうれしいなと思います。
阿部:なるほど。他動詞モデルというのは主張する時のモデルで、そもそもアーギュメントも必ずしも他動詞で書かなきゃいけないわけではないです。他動詞モデルを使うと、「主語、動詞、目的語は何なのか?」を考えないといけないので、さらにシンプルになるという利点があるんですが……というだけの話で、別に他動詞で書く必要はないんですよね。
この方法論を今おっしゃったようなことに応用すると考えると、他動詞モデルにこだわるわけじゃなくて、他動詞で書いても別にいいんですが、「何が何をするのか」という主体とその行為内容をバラバラにする。
ビジョンとか、「こういうことがやりたい」みたいなものは脳内に何らかの考えはあるわけですが、それをどの言葉で表現した時に最もアイデアが明確になって、自分が考えていることが言語化されるのかっていう、これ自体がそういう作業なんです。
なので、ビジネスに限らずあらゆる言語活動において使える考え方ではあると思うんですが、とりあえずそのようなことを考えています。
質問者2:そういう意味ですと、趣旨の要約をする。それをいくつかのパターンで要約をしておいて、絞り上げてとか、そんなかたちも1つのやり方ですか?
阿部:それはけっこういい質問で、この本では「要約するんじゃなくてパラフレーズするんだ」って説明しているんですよ。パラフレーズというのは、こっちの主体的な解釈がそこに介入するものなので、「この人が言っていることはだいたいこういうことなので、それを強い文にするとこういうことだな」というのが、こっちのパラフレーズなんですよね。
要約というのはまとめなので、こっちの介入があまりないものです。パラフレーズ、あるいはそれを何と呼んでもいいんですが、「それってつまりこういうことですよね?」という言語化をする操作がとても重要かなと思います。
質問者2:ありがとうございます。
阿部:ありがとうございます。
小倉:ありがとうございます。事前にいただいている質問もさせてもらいながら、もし追加でご質問されている方がいたら手を挙げていただければと思うんですが、大丈夫ですか?
事前の質問で、東京大学の大学院生の方からのご質問です。「文学を研究しているというだけで、税金の無駄遣いだの何だのと批判されることがけっこうあって苦しいです。『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』で、人文学系研究の意義について書いておられましたが、私の出会った人文系アタッカーは……」。
阿部:(人文系アタッカーとは)人文学を攻撃する人たちですね。
小倉:「(人文系アタッカーは)それにも納得してくれそうにありません。どうしたら文学研究の意義を理解してもらえると思いますか?」という質問をいただいています。
阿部:これは(質問者が)東大の大学院生か。
小倉:と、書いていますね。
阿部:東大の大学院生なのであれば、ちょい厳しめの回答で……(笑)。この趣旨とちょっとずれてきていますが、ちょっと厳しめの回答をすると、人文系の研究者の本分は自己批判なんですよね。なのでまずは、「文学研究に価値がないのではないか?」ということを、アホな人文系アタッカーよりも強く思っていなきゃいけないんですよ。
人文学的な思考回路によってこれを批判するとすれば、文学研究をしていて世間の風当たりが強いと。「税金の無駄遣い」とか言って、攻撃されるという状況がまずはある。
ここで人文っぽい思考回路で考えると、自分を直接的に攻撃してくるアンチ人文どもが消えたとしても、たぶんこの人の悩みは消えないんですよ。なぜなら、この程度の攻撃でなびいてしまうような強度でしか自分の研究を信じられていないからですね。
つまり、そいつらがいなくなってもこの問題は解決しないので、自分で「なんで自分は文学研究を東大でやっているのか? やっていていいのか?」と、自分でその答えを見つけないといけない。
ちなみにこの本では「暴力の否定だ」と書いているんですが、それは俺の解答なので。別に同じ答えにたどり着いてもいいんですが、「自分はこういう信念を持っているので、これをやっていていいんだ。適当なことを言ってくるようなやつらに別に何を言われても関係ない」ということを考えられるような解答を、たぶんこの人は持っていないんだと思うんですよ。
森脇:なるほどね。
阿部:なので、それを自分で見つけなければ、つまり彼らの批判をむしろ超えて自己批判をしていくことが大事かなと思います。
小倉:ありがとうございます。
小倉:続きまして、「瞬間的な論破がちな風潮に対して、漸進的なアカデミックな主張で対抗していくための心掛けとは、どんなものでしょうか? 阿部先生の本に大変刺激を受けました」。
阿部:瞬間的な論破がちな……そんな人いますかね(笑)? あんまり周りにいないですが、瞬間的な論破をしてくる人ってそんなにいますか?
研究というのは、X(旧Twitter)がどうとか、脊髄反射的なリアクションに対抗するものです。研究とは、例えば論文を1本書いたからといって世の中が変わるものじゃないんですよ。俺の本では「世の中の暴力を減らすことが論文の究極の目的なんだ」と言っているわけですが、論文を1本書いたからといって、別に世界が変わるわけではないわけですよね。
例えばそのへんの人が考えそうな、もっとダイレクトに暴力にアプローチできるような何か。あるいはデモとか何でもいいんですが、デモだって別に何かをすぐ変えるわけではないわけですよね。
論文というのは最も遅効性の、ゆっくり効いていくタイプの言説、活動なんですよね。……というか、そもそも質問は何だっけ? 「瞬間的な論破」「漸進的なアカデミックの主張で対抗していくための心掛け」ね。
まずは、この人が「漸進的な」って書いているように、漸進的なものなんです。100年ぐらいかかると考えていいですね。自分の論文がいきなり世界を変えるわけはないし、そんなのは不可能なので、自分はそのような活動の一部なんだと。
それを信じるだけじゃダメで、どのような機序、メカニズムによってそのことが達成され得るのかについて自分で答えを持っておくと、活動そのものを信じることができるのではないかと思っていますね。なので、瞬間的な論破は別に無視すればいいんですよ。これはさっきと同じ話です。
森脇:そういうことですね。
阿部:さっきと同じ話ですよ。
森脇:なるほどね。一発屋みたいなもんだよね。
阿部:アンチ人文とかも無視すればいいんです。重要なのは、「じゃあ、そいつらがいなくなった時にお前は答えを持っているのか?」ということなんですよ。
阿部:漸進的なアカデミックな主張で対抗していくための心掛けというのは、たぶん「漸進的なアカデミックな主張で対抗していけるんだろうか?」って思っているんだと思うんです。「数十年、数百年かかるような活動でいいのか?」「なんで自分はそれにコミットするのか?」ということについて、自分なりに答えを出しておかないといけないと思います。
それはなぜかといったら、実はわりと俺は答えを持っていて。人は暴力を肯定すると、「人を殴ってもいいんだ」みたいに納得するわけじゃないんですよ。
我々はこの社会に埋め込まれていて、俺の考えでは、何らかの暴力を何らかのかたちで肯定してしまっているわけです。それはゆっくり時間をかけてしか変わっていかないし、それ自体がゆっくり時間をかけて形成されてきたものなんですよ。
我々はそのような回路を通じて、そこに埋め込まれながら暴力を肯定して生きているので、そもそもそれを変えるのには必ず時間がかかる。なので長い目で、まさに漸進的な、遅効的な戦略を立てるしかないと俺は思っています。ちょっと長くなりました、すみません。次にいきましょう。
小倉:ありがとうございます。
小倉:たくさん質問が来ているんですが、どうしようかしら? けっこう実務的な話になるかもしれないんですが、「銀行で行員の海外留学制度の担当をしていますが、海外大学出願の応募書類作成に際して最も気にすべき点は何でしょうか?」。
阿部:どういうところに行くのかにもめっちゃよるのでかなり難しいんですが、「海外大学出願の応募書類作成に際して最も気にすべき点」か。その答えを出すとすると、最も気にすべき点は……ちょっと難しいな。
森脇:(笑)。
阿部:じゃあ、ちょっと変な答えを出してもいいですか? 「締め切り」ですね。
(一同笑)
阿部:すげぇ重要なんですが、だいたい申請書ってみんなギリギリに作るんです。それは絶対にダメで、1ヶ月前には完成していないといけないんですよ。1ヶ月前に完成させて、いろんな人に見てもらうのが大事です。学振の書類でも科研費の書類とかでも一緒で、必ず1ヶ月前には完成していないと敗北だと思ってください。
森脇:聞いていない(笑)。
小倉:すいません(笑)。
森脇:今、司会者が2人とも聞いていなかった。
小倉:次の質問について(考えていました)。すいません(笑)。
阿部:どうぞどうぞ。
小倉:最後の質問で大丈夫ですかね? 「学部生です。特に海外と比較して、日本のアーギュメントの特徴や改善できる方法があれば教えていただきたいです」ということです。
阿部:なるほど。俺が意味する海外というのは英語圏なので偏りがあるわけですが、日本の、そして俺が知っている・コミットしている分野に限って言うと、そもそも日本の論文はアーギュメントがないんですよ。
さっき言ったように、「これがおもしろいと思います。これについて論じる」「pay attention to 何とか」「この論文では何とかに着目する」とか、これしか言わないんですよ。これは論文になっていないよね。つまり、実は日本の人文学では論文を書いていないよねっていうのがこの本に書いていることなんですよ。なので(海外とは)ぜんぜん違います。
アーギュメント重視ではない、何かに着目するという動機だけで書かれている論文が、アメリカとかに比べて何かしらの独自の価値を生み出す可能性はあると思うんです。ただ同時に、特に文学部とかだと、「私はカントの研究をしています」とか対象は何でもいいんだけど、対象を選ぶ、つまり指さすっていうさっきのやつですね。
それに興味を持つのはいいんですが、それを選ぶことによってその専門家になってしまうんですよ。「それを研究している限り、自分は何らかの専門家である」っていう錯覚を生んじゃうんですが、これはめちゃくちゃ危険なんです。
作家、あるいは研究対象が、シェイクスピアとかジャック・デリダとか偉いと思われている人だと、それを研究している自分も偉いと勘違いし始めるわけです。それは当然錯覚で、自分が何かしらの偉いことを言わないと偉くなれないので。
日本の論文と海外の論文を比較すると、自分がきちんとした主張を展開して、それを論証できないといけないということがよくわかるかと思います。
小倉:ありがとうございます。この後の懇親会にも阿部さんに来ていただけるということですので、もしお時間の許される方がいらっしゃいましたら、会場の方々も交流できればと思います。本日は、本当に濃密な1時間だったかなと思います。阿部先生、あらためましてありがとうございました。
森脇:ありがとうございました。
小倉:拍手でお願いします。ありがとうございます。
(会場拍手)
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