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「聴く」から始まる組織変革 〜篠田真貴子さんと考える対話型マネジメント〜(全3記事)

部下に「そうかなぁ?」と思われない1on1の問いかけ エンゲージメントを高めるマネジメントに欠かせない「聴く」技術

組織の推進力を加速させる「対話型マネジメント」について、『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』の監訳者であるエール株式会社 取締役の篠田真貴子氏が解説します。 本記事では管理職が「聴く力」をつけることによって、部下の成長や組織全体に与える効果について紹介します。

「聴く」ことで部下自身に気づかせる

篠田真貴子氏:ここまで、みなさんはコミュニケーションあるいはエンゲージメントに組織課題を感じていらっしゃることを出発点にして、それがなぜ今の時代には必要か。ブロック塀に例えた統制型の組織と事業から、石垣に例えた、より創発的な知識生産型に移行しようとしているからじゃないだろうかと。

そこにおいて、石垣型の組織におけるコミュニケーションは「without Judgement」の「聴く」が欠かせないということをお話ししました。

じゃあ実際、エンゲージメントを例に取って、「これと『聴く』ことって、どうつながるんですか?」ということを見ていこうと思います。主にみなさんが注目されるのは管理職かなと思うので、管理職の「聴く力」が上がると、組織改革にどう影響するかですね。

まず、例でお話ししていきたいなと思います。通常、「with Judgement」で上司の方が部下のお話を聞いている例と、「without Judgement」で聴いているものを例として挙げました。

大きく言うと、上に書いたように、「without Judgement」で聴いてもらうと、聴いてもらった側が、自分でも気づいていない大切なことに意識が向きやすくなる効果があります。左の「with Judgement」では、こういう感じじゃないでしょうか?

答えを与えるのではなく、深掘りさせる

部下の方が「前期は目標がバッチリ達成できて、とてもうれしかったんです」。上司の方が「そうなんだ。それは良かったね。目標を達成すると、成長した実感が湧くでしょう?」。そうすると、部下の方が内心、「成長? うーん、そうかなぁ?」と思って、「まあ、そうですね。○○さんのアドバイスのおかげです」と。こういう会話。

これに対して、右側を見ていきましょうか。「without Judgement」でいくと、「前期は目標がバッチリ達成できて、とてもうれしかったんです」と部下が言った時に、上司が「そうなんだ。うれしかったんだね。目標を達成できた時、何があなたをそんなにうれしい気持ちにさせたんだろうね?」と。

そうすると部下の方が内心、「確かになー。なんでうれしいと思ったんだろうな」とちょっと考えて、「目標を達成した時、まず最初に、一緒にがんばってきた仲間の姿が思い浮かんだんですよね」。これが「without Judgement」で聴いてもらうことで起きることなんですね。

左の「with Judgement」も決して否定するものではないんですが、もしかすると上司の方が「目標達成=成長」という実感を持ってここまで来られたので、それを投影しているのかもしれませんし、部下の方に成長実感を持ってほしいと願っているがゆえに出てきた(のかもしれません)。でも、それだとご本人の大切なことには意識が向きにくいんですよね。

“話を聴いてもらえる時間”がある安心感

今のようなかたちでじっくり聴いてもらうと、エンゲージメントスコアが上がるんです。これはエールのあるクライアントさんが、「Wevox」というパルスサーベイのツールを使っていらして、それを活用して分析をさせてもらいました。同じ部署の中で、エールを利用した47名と、利用しなかった183名の分析です。 

エールを利用したというのは、上司ではなく社外の方にじっくり話を聴いてもらうことを数ヶ月間やった方々です。エンゲージメントスコアのビフォー・アフターの差分を取っているんですが、一見してわかるように、黄色のエール利用群のスコアが上がっています。

中でも変化量が多かった細目を下に4つ書き出しています。例えば「仕事量が適切である」、2つ目の「使命や目標の明示がある」、このあたりが上がりました。客観的に仕事量が変わっていないし、あらためてこの人たちだけ集められて目標を伝えてもらったわけではないんですね。

先ほどの「without Judgement」で聴いてもらったことで、右下にある「なんで自分はそう思ったのかな?」「自分はこういうことを大事にしているんだな」ということを意識する、言葉にしてみる機会を豊富に持ったことで、目の前の仕事とか、目標に対する意味づけがより自分ごと化された。それがエンゲージメントスコアの向上につながったのではないかと考えています。

次にご紹介したいのは、これもエールが関わったあるメーカーさんのご状況で、管理職のみなさんに、エールの「聴くトレ」というサービスを使っていただきました。「聴くトレ」を通して、「聴く」ことに関心を持っていただき、練習も少ししていただいています。

結果、その管理職の方が所属している部署のメンバーが答えた4つの設問についてのエンゲージメントサーベイのスコアが、全社平均に比べて顕著にアップしたんですね。例えば、「優れた仕事をした時に認めてもらえる」という1つ目の設問の回答が+9ポイント。あるいは、「私は一個人として尊重されている」が+8ポイント。

「エールのサービスを通して、本当に全員、聴く力が上がりましたか?」というと、当然ばらつきがあると思います。ただ、「聴く」ことに、より意識が向いたとは言える。それだけでも、これだけスコアが改善するとわかりました。

さらには、私たちはすべてのプロジェクトでウェルビーイングのスコアをビフォー・アフターで取っていて、エールのサービスで聴いてもらう時間を通して、自分の話ができていると、幸福度のスコアが上がるということもわかっています。

このように、やはり「聴いてもらう時間がしっかりある」ことが、エンゲージメントやウェルビーイングに直結するということは、すでに言い切ってよろしいかなと考えています。

「聴く」文化が組織に浸透するメリット

そこからもう1個進んで、例えば管理職の方お一人がこれをできるようになったら、部署のエンゲージメントスコアは上がりますよねという話なんですけども、組織全体に「聴く」ことが浸透していくと何が起きるか?

まず、お互いに意図を取るコミュニケーションが可能になっていきます。初めに「聴く」ということの定義で申し上げたように、表面的な言葉とか行動の奥にある意図に意識を向けるのが、「without Judgement」の聴き方ですから。

これが社内で浸透すると、管理職の方だけではなくて、その上の経営者もできるようになれば、社内においては、管理職や社員の声を聴くことが、よりできるようになります。

下のメンバーの方も、上司の意図を聴くことが、より良くできるようになる。これによって社内のコミュニケーションが改善することは容易に想像ができますよね。

さらには社外に対しても、経営、管理職、メンバーそれぞれの持ち場において、関わる社外の意図・声をしっかり聴く。これができるようになれば、より社会やお得意先、パートナーと噛み合って、より良く仕事ができることにつながることは自明かなと思います。

管理職の「聴く力」が組織変革のトリガーに

私には「聴く」ことと同一に読めたんですけど、経営学者の宇田川元一さんが、この2冊の本(『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』『組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2 on 2』)を通して「対話」という言葉を使っています。

「対話」とは一言で言うと、関係性を構築することなんだと。組織とはそもそも関係性であって、部署や人によって物事を捉える枠が隔たっていて、そこに橋を架けるような対話的取り組みが必要になりますよね。

対話を通じて橋を架けることから始まって、課題を同じように捉える枠組みを共に作る。そうやって新しい関係性を作るんです、ということを解説されています。「聴く」ことが組織の改革につながるというのは、ここで言い表せているかなと、私はこの本を読んで感じました。

ここまで少し抽象的な話をしてきましたけれども、実際みなさんが直面されている課題に引き寄せると、やはり最初の打ち手って、上司の「聴く力」が必須になってくるのかなと考えます。

「聴く力」を活用したい4つの例

ここで4つのパターンを出しています。例えば、1つ目のパターンからいくと、やはり上司・部下のコミュニケーションの課題は、みなさんも設問でたくさん出してくださいました。

上司・部下の関係改善において、何が本当に解きたいイシューなのかというと、従業員が本音で対話できる職場環境を整えることです。そうすると当然、最初の打ち手は、上司の部下への関わり方を見直すことになります。

次、2つ目のパターンが若手の育成と定着。これもみなさんから「育成につながるコミュニケーションに課題があります」という声をいただきました。

ここのイシューは、若手の育成って、かつてのブロック型の組織であれば、トップダウンで教え込むのが育成なんですけれども、今の石垣型の組織においては、やはりボトムアップでの発信を若手から増やしてもらうことがすなわち育成ですよね。そうなると最初の打ち手としては、さまざまな部下との対話を促進することが必要になってきます。

3つ目のパターン。「健全な事業基盤づくり」と書きましたけど、ありていに申し上げれば、コンプライアンスあるいはハラスメントで、「ちょっと心配だな」という状況に直面されている方々もいらっしゃるんじゃないでしょうか?

そういった心配の種やニュースほど、社内に早く上がって対応できるような、情報連携のスピードを早めたいわけですよね。その場合は、「話しても大丈夫なんだ」という体験を増やしていく必要があります。

対話の機会がアイデアを生む

最後に4つ目のパターン、イノベーションの促進。それこそ事業につながるようなことをやっていきたいんだけど、「それに『対話』とか『聴く』というのを使うことが、本当に効率的なんですか?」とか、「経営陣の理解がなかなか得られないんです」という声をいただきました。

そこで本当に解きたいのは、イノベーションやアイデアの種って、別に偉い人や研究所だけから出てくるわけではなくて、立場に依らない発信と連携を全社的に増やしたいわけですよね。

そうなると、やはり多様な従業員によるスピークアップを促したい。「誰かが聴いてくれる」と思わなかったら人はしゃべらないですから、まずは上司層の「聴く力」をつけることが必要になるんじゃないかと思います。

どうでしょうか? みなさんの直面されている組織課題と、特に管理職の「聴く力」を高めていくということが、つながりそうなイメージが湧いてきましたでしょうか? ここまで、組織改革と「聴く力」についてお話しをしました。

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