「自分もプレイヤーとして結果を出しつつ、部下もマネジメントしなければならない…」。そんな悩みを持つプレイングマネジャーがテーマの書籍、『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』を、経営者やリーダー育成を手掛ける中尾マネジメント研究所・代表の中尾隆一郎氏が執筆しました。世の中のプレイングマネジャーは何に苦しんでいるのか。前編では、本を書くことになったきっかけや支援プロジェクトについて、詳細に明かしました。
「自律自転」できるビジネスパーソンを増やすために
中尾隆一郎氏(以下、中尾):あらためまして中尾です。よろしくお願いいたします。ここに僕の本を読んだことがある方がいらっしゃって、すっかりテンションが上がっています。
(会場笑)
吉田(洋介)さんが人事図書館を作る時に、人事の集まる場所という話で、僕は人事ではないのですが、クラウドファンディングには協力しました。
吉田洋介氏(以下、吉田):ありがとうございました。
中尾:僕の過去の本は全部お送りしたんですが、「来てもいいよ」と一度も言ってもらえませんでした(笑)。こういうふうにお話をする場があれば来てもいいのかなと思って、今日の場があります。中尾といいます。
ここに小さい字で書いてあるんですが、いわゆる「第3の場所」があると思うんですね。第3の場所ですごくリーダーシップを発揮する方に会社の話をすると、「会社はリーダーシップを発揮する場じゃなくていいんです」という。嫌な先輩がいたり、嫌な雰囲気だからできない。でも、すごい能力がある方がいらっしゃるんですよね。もともと「すごくもったいないなぁ」と思ってまして。

僕はリクルートという会社に29年間いました。入社して最後の10年間ぐらいは、リクルートは簡単に人が辞めていたんですが、この組織は異様に離職率が低くて、従業員満足度が高くて、業績が良くてという、絵に描いたような成功だったんですね。

最後の2年間、どうして人が辞めないのかを、リクルートワークス研究所で「考えてよ」と言われました。
その結論が、メンバーが自律自転していたという話なんですね。自律自転は、「律する」の律と書いています。厳密に違いはないんですが、言われたことができるというのは自立。律するは、自分で考えて自分でできるという話です。
そういう職場を増やすと……休み明けに会社に行くのが嫌な人が減ると思ったんですね。僕は経営者の塾をやっているんですが、経営者がそういう職場を作りたいと思ってくれると、そんなふうに自律した人が増えるじゃないですか。
「プレイングマネジャー」のことを知ったきっかけ
中尾:今回、簡単な自己紹介をさせていただいた後に、こうやって本を作りましたというお話をさせていただければと思っています。今、僕は中尾マネジメント研究所という会社を経営していて、LIFULLやLiNKXなどの会社の社外取締役をやってます。
過去には、リクルートを辞めた後にいろんな方から声をかけていただいて、博報堂や旅工房、ZUU、東京電力でいろんなことをやらせていただきました。
リクルート時代の29年間も、1つの部署にいたんじゃなくて、いろんな部署にいました。事業部もいましたし本社もいました。職種も15個やっていて、大きな異動が13回ありました。
みなさんの会社だったら、もしかしたら異動の自己申告制度があるかもしれませんが、僕は一度も自己申告したことがないんです。僕が骨を埋めようと思うと、誰かがきゅっと別の部署に持っていくような感じで、これまでいろいろな仕事をやりました、という話です。
僕の本の中で言うと、『最高の結果を出すKPIマネジメント』が一番売れました。リクルートの中での11年間のお話をさせてもらったというところでございます。(参加者を指して)彼女は、この『「数字で考える」は武器になる』を読んでくださったという話で。
参加者1:はい、2冊読みました。
中尾:数字を扱った本なんですけど、あまり数字が書いてなくて、「数字の前に考え方があるよ」という本です。大好きな本なので、読んでくださっててうれしいなぁと思っています。
ふだんは「自律自転する」がテーマなので、Business Insider Japanで「『自律思考』を鍛える」をテーマに毎月書いてます。たぶん100本ぐらい書いたので、100ヶ月ぐらい書いてます。
『成果を上げるプレイングマネジャーは「これ」をやらない』という本なんですが、僕はタイムマネジメントがとても得意なので、実は最初は出版社から「プレイングマネジャーが困ってるから、タイムマネジメントのことを教えてよ」と言われたんですね。
僕はプレイングマネジャーのことを理解できていなかったんです。複線型人事でプレイングだけやってて、マネジャーぐらいのお給料をもらってる方がいらっしゃると思うんですけど。そういう専門職みたいな方かと思ってたら「いやいや、そうじゃないんです。管理職をしながらプレイングもしている方です」という話でした。
そんな特殊な人がそんなにたくさんいるのかと思ったんですけど、調べてみたら、今はほとんどの人がそうなっているという話でした。大変だと思って、知り合いのみんなに相談したのが一番最初のきっかけなんです。
プレイングマネジャーを支援する方法をSNSで公募
中尾:スライドはMiroですね。セールスの大会の「S1グランプリ」ってご存知ですかね。そこで去年1位になった元Salesforceの呉縞慶一さんは、ナレッジの社内評価がグローバルで1位なんですよ。2位に2倍の差をつけています。呉縞さんがSalesforceのグローバルの中でナレッジをあげると、みんなが「いいね!」を押すらしいんですけど。

彼は「これからプレゼンテーションはMiroだ」と言っていて。僕はそこまで使えないんですけど。要は30年前にできたPowerPointでプレゼンしてるというのはおかしくないかという話があったので、見よう見まねでやってます。
去年の1月頃だったと思うんですが、私はタイムマネジメントが得意なので、ポイントを教えてほしいという話を出版社としていて、そのプレイングマネジャーのタイムマネジメントに関する本を作るタイミングだったので、ラッキーと思っていたんです。
ところが、タイムマネジメントだけだと本にはなりませんでした。タイムマネジメントの本は世の中にたくさんあるんですよ。売れている本もあります。こんなに売れてるのに、みんなタイムマネジメントに困ってるということは、問題はタイムマネジメントだけじゃないということですよね。
そこで、Facebookで「助けてくれ」「僕は今困ってるので、プレイングマネジャーを支援する方法をみんなで考えませんか?」と知り合いに相談しました。

プレイングマネジャーがいて、プレイングマネジャーの上司がいて、みなさんのような人事がいて、さらに経営者がいると思うんですけど。たぶんこのプレイングマネジャーだけだと解決できないんじゃないか。これがもともとの僕の仮説だったんです。それでいろいろと相談して、調べました。
労働時間のうち、プレイング3割が適切な状態
中尾:調べてみたら、9割ぐらいの人はプレイングマネジャーだったんですね。リクルートワークス研究所の調査では、プレイングの時間があるほうがいいと書いてあったりして、マネジメントとプレイヤーの仕事の比率には適切な数値があるとわかったわけですね。
ざっくり言うと、労働時間のうち3割ぐらいがプレイングだと、チームとしての業績がいいみたいです。マネジャーのプレイングの割合は0よりも、3割ぐらいまで上がっていくと、チームとしての業績が良くなっていって、プレイングの割合がそれよりも増えてくると下がっていく感じなんですね。
どんなプレイングでもいいのかというと、メンバーができる仕事を代わりにやっていたらダメなんですね。要は、その方じゃないとできないような、何かを変えるようなことですね。
業績をアップさせることって、普通のメンバーの方だとできないと思うんですけれども、本来マネジャーはそういう変革を起こしたり変化させることにプレイングの2~3割の時間を使っています。難しいお客さんを担当することも、たぶんそうかもしれません。
そうしないとダメなんだけど、世の中のプレイングマネジャーが困っている状態だとわかったので、去年の3月10日にFacebookで「助けてよ」と投稿したら、12日に私の知り合いの40人が手伝ってくれると言ってくれました。
本当はなんとなく5人ぐらい手伝ってくれたら、わちゃわちゃカジュアルに相談しようかなと思ったんですけど。40人なので、ちゃんとしないといけないですよね。
(会場笑)
利害関係も何もないし、いわゆるボランティアでやってくれるので「楽しくないとやってくれないよね」と思いまして。僕はこの2日後に、こういう資料を作りました。僕はやっぱりこの40人の人たちの知恵が欲しいですから、やる気になってほしいなと思いました。
「えいや」と決めて、プロジェクトを進めていった
中尾:一番最初の資料は謙虚ですよね。

謙虚でかわいいやつだと思ってもらった後に、「こんなことでみんなで始めましたよね」「僕がまとめた資料も読めますよ」と伝えました。「あなたたちはやるって言いましたよね?」という意味で参加者の方々の名前を資料に載せて、逃げられないようにしました(笑)。


だらだらとやるとうまく進まないので、「こうやります」と最初に言いました。
現状把握して、それがどういうふうになっているかを解釈して、試行錯誤しながら展開したらいいよねという話で。下にポンチ絵があるんですが、図のように広げて閉じて「えいや」で決める。図の3つめの「えいや」で決めるのが大事です。

この手のことをやると、コンセンサスを得る話になるんですけど、間違いなくコンセンサスなんて得られないんですよ。僕が勝手に決めることを「えいや」と言っているんですが、「どこかのステップでやりたい人がいたら参加してくださいね」とお願いをしました。
マネジメントに関しての知見が次々に集まった
中尾:この段階で現状把握をしようと思ったら、参加者のみなさんが僕に「こんな本がいいよ」と、この1~2日でいろいろ教えてくれました。
スライドの一番上にあるんですが、トヨタのDXアドバイザーの方が「マネジメントの見える化ゲームがあるよ」とかですね。パナソニックの人事の方が「これに対してビジネスをやっている友人がすでにいるよ」だったり、NTTデータの人が「このコンディションの調査をしてるよ」と教えてくれたりもしました。

みなさん、PMBOKってご存知ですかね。「Project Management Body Of Knowledge」といって、プロジェクトマネジメントの体系なんですね。このプロジェクトマネジメントの体系の7では、仕事の進め方にも関わらず、人について触れているんですよ。「プロジェクトマネジメントをやるには人が大事だ」と。
人事のみなさんにとったら当たり前なわけですけど、プロジェクトマネジメントのプロは、「そんなものは大事じゃない」と言ってた人でさえ、今は「人が大事だ」と言ってるんですね。こういった知見が1日で集まりました。
なんだかワクワクしないですか? ワクワクと同時に責任も感じますね。この後、みんながくれたコメントを整理することから、プロジェクトが始まったんです。2日目でいろんな人が集まる感じになりましたので、その後、怒涛のようにメッセンジャーでグループを作りました。
僕がまとめるのにパワーがかかりすぎるので、3日後、6日後、2週間後に、グループがバージョンアップしていって、「おもしろそうだ」という人たちが増えていって75名ぐらいまでいきました。
「この本がいいよ」という話だったり、EVeM(イーブン)の方に勉強会をしてもらったり、最先端のPMBOK7を海外に行って学んできてくれた人に勉強会をしてもらったりしました
プレイングマネジャーは「何に困ってるかわからない」
中尾:ワークログを分析して、「この人から業務などのフォローをするといいです」という仮説や方法を提供するコードタクトという会社があることも教えてもらいました。いわゆる週報や月報などからテキストを抜いてきて、平等にやるのではなくて、困っている人から対応したほうが効率がいいという方法を考えていることもわかりました。
Uniposという上場企業がプレイングマネジャーの定義を決めている話だったり、いろんなノウハウがどんどん集まってきました。1ヶ月ぐらいでこれぐらいのところまで来ました。
対話会をする話になって、75人の中から15人が集まってくれました。みんなアウトプットはするのは好きなんですけど、人からいろいろインストールするのが嫌みたいなので、こんな感じの話をさせてもらいました。
あとはアウトプットして、勉強会を開くようにもなりました。僕はBusiness Insider Japanで毎月記事を書いていて、これは会員にならないと読めないんですけど、5万人ぐらいが読んでくれています。
その後、このプレイングマネジャーの人たちにアンケートを採ってみて、すごくおもしろいと思ったのが「何に困ってるかわからない」という人が半分いたんですよ。そもそも課題化できていなくて、毎日毎日忙しくて、次々に来たものを打ち返してる状態でした。結果、資料は最終的にバージョン8まで作りました。