レオス・キャピタルワークス株式会社のYouTubeチャンネル『お金のまなびば!』は、ふだんは語りにくいお金や投資、経済の話について、同社代表取締役社長の藤野英人氏や、ひふみシリーズのメンバーと一緒に学んでいくチャンネルです。今回はiDeCoの法改正で注目したい3つのポイントをお伝えします。
iDeCoのお得な受け取り方
赤池実咲氏(以下、赤池):iDeCoで気になるのは、受け取る時ですよね。60歳までがんばって働いて、ここから受け取りたいという時の受け取り方が、気になっている方も多いと思います。
中澤雄宇氏(以下、中澤):このあたりはあまり知らない方も多いかもしれませんけれども、前提としては、勤続38年で公的年金の受給開始は65歳以降という方の例でお示ししております。
一時金か年金か、受け取り方によってかかり方も変わってくるんですけれども、一時金のほうは、勤続38年の場合は2,060万円まで非課税になります。ただ、お勤め先に退職金がある場合は、後ほどちょっと説明しますけど、タイミングによっては合算されるかたちになりますので、iDeCoで丸々使えない部分も出るかもしれないというところですね。

年金受取も、年齢によって非課税の枠が変わってくるわけですけども、これも公的年金と合わせた非課税枠になりますので、合わせて超えてくる部分については税金がかかってくる。なのでちょっと繰り延べをしたりしながら、うまく調整をする必要があるかもしれません。
赤池:金額次第だと思うんですけど、税金がまったくかからずにiDeCoを受け取ることは難しいのかなと。うまい受け取り方はないんですかね?
中澤:そうですね。今回の税制大綱の中にも少し書かれていたんですけれども、やはりこういう私的年金の制度において、拠出時で税制優遇があるものについては出口でしっかり(税金を)かけるというのが、基本的な思想であると。
ところが、これまではちょっと裏技といったらあれなんですけれども、今、赤池さんがおっしゃったように(課税を)回避できるような取り方もありました。これは現時点なので、これから変わってくることも考えられるんですけれども。
iDeCoの一時金と、お勤め先から出る退職一時金を同時期に受け取ると合算されてしまいます。さっき申し上げたように控除は1回しか使えないんですけども、受け取る順番とか間隔をどれぐらい空けるかによって、退職所得控除がフルで2回使えるケースがあるんですね。

下に例を載せていますけれども、例えばiDeCoを先に受け取ります。それから4年以内に会社からの退職一時金を受け取ってしまうと合算されますので、逆に言うと5年以降に受け取るように間を空けるとかからないと。
これがまたiDeCoの気難しいところが出ちゃっているんですけども、先に会社の退職金を受け取ると、今度は19年以内にiDeCoの一時金を受け取ると合算されてしまうということで、こっちだけ期間が長いんですね。
改正後のiDeCoと退職金の受け取り方の事例
赤池:例えば、このiDeCoの一時金が1,000万円だったとすると、38年勤続された方の場合、2,060万円までは非課税なので、非課税で受け取れるじゃないですか?
例えば会社の退職金が2,000万円だった場合に、それを4年以内に受け取ってしまうと、合算して3,000万円になってしまうので、2,060万円を超えた分は課税されるのが現在の制度ですよね。
中澤:そうですね。それでも退職所得控除のメリットは大きいんですけれども、今おっしゃられたように超えた分はかかってくるというところですね。
赤池:逆に、先に会社の退職金を受け取ってしまうと、19年ですから、難しいですよね。
中澤:はい、ちょっと難しいですね。どういうパターンだとこれをうまく使えるのかが、こちらのページなんですけれども。例えばiDeCoは60歳になったら受け取れますので、先に一時金を受け取って、5年空けて65歳で会社の退職金を受け取ることができる場合。
お勤め先に企業型DCがない場合については、退職所得控除が2回使えますので、iDeCoで2,060万円。退職金はものすごく期間も延びているので、その分増えて2,000万円以上が非課税で受け取れます。5年ルールとか言われているんですけども、こういうちょっと裏技的なものがありました。
おっしゃるようにこの逆の場合ですと、先に会社の退職金を50歳で受け取って、iDeCoの一時金を20年以上空けて70歳で受け取る。当てはまる方もいるかもしれませんけども、現実的にはちょっとなかなか難しいのかなというところで、この上のほうで、活用をもくろんでいらっしゃった方も多いんじゃないかなと思います。
赤池:そうですよね。下のパターンだと、iDeCoを75歳までには受け取らなきゃいけないので。これを使おうと思ったら55歳には退職しないといけないということですよね。この5年というところが短かったのが、今回これが10年になったと。
中澤:そうなんです、はい。これがまさに2024年の12月に出た税制改正大綱の中で触れられていた部分になります。5年以上だったのが10年以上になりましたので、60歳でiDeCoを受け取った場合は、会社からの退職金は70歳以降でないと、重複というか同一のものとしてカウントされてしまうというかたちですね。
労働力不足が進む中、改正の狙いは
赤池:中澤さん的には、この改正をどう見ていますか?
中澤:やはり改悪とかいろいろ言われていますけれども、こういうのが使える方はけっこう限られてはいますので、平等性という点で、いずれ手は入るんじゃないかなと個人的な想像はしていたんですが、「このタイミングでするかな」というところと。
あとはこの10年ですよね。70歳で受け取るということで、個人的な見解ではありますけれども、やはり国として高齢化も進んで労働力不足が叫ばれる中では、少しでも長く働いてほしいというか。「70歳まで働けば使える」ということであえて残している部分もあるのかなと思いますね。
働きながら厚生年金を受け取る方も、いっぱい働くと年金が減らされてしまうという在職老齢年金について、少し手を入れようとしていますので。そことも併せて考えると、やはり少しでも長く働いてほしいという思いがいろんなところから見え隠れするなと、個人的には感じますね。
赤池:ただ、「10年か」って思ってしまいますね(笑)。
中澤:そうですね。というのと、これもやはり、これありきだと思って(iDeCoに)入った方もいらっしゃると思うので。せめて、「今後入る方は」とかができればよかったのかもしれないんですけれども。
赤池:現状ではこういう改正が予定されているというところですね。
iDeCoとNISAの上手な使い分け
赤池:今回、この改正が予定されているiDeCoですけれども、やはり比べられるのはNISAだと思います。「iDeCoとNISA、私はどっちをやったらいいの?」というのは、本当に多くの方からご質問いただくことなので、ここでもお答えしたいなと思います。
中澤:私もつい最近、出張先で1人で晩御飯を食べに入ったお店で、ちょうど20代ぐらいの男女6人ぐらいの方々が後ろでお話ししていたので、聞いてしまったんですけれども。
「NISAを始めたんだけど、もう1個iDeCoもあるよね。これ、何が違うの?」みたいな話をしていて、「説明しようか?」と思ったんですけども(笑)。
けっこうその場に詳しい方も同席されていて、「iDeCoは掛金を出すとだいたい20パーセントぐらいが税金からキャッシュバックされるお得な制度だよ」と言っていて、「じゃあ、iDeCoのほうがいいじゃん。全部iDeCoにしようかな?」と言っていて。
「でも、その代わり60歳まで引き出せないんだ」と。「ただ、お前みたいにお金があればすぐ使っちゃうようなやつは、月に5,000円とか1万円だけないものと思って、将来の自分へのプレゼントだと思ってやったほうがいいんだ」と言っていて、本当に的を射ているなと思いました。
赤池:そうですね。ご自身の性格であったり、今後のライフプランによって、このiDeCo、NISAって使い分けていけばいいのかなと思いますが、まずは2024年1月に制度改正した新NISAが、こんな感じになっています。
中澤:そうですね。「つみたて投資枠」と「成長投資枠」で、それぞれ年間の投資枠も変わってきますけれども、基本的にNISAは、ご存じのとおり掛金を出しても所得控除はない。代わりに、受け取る時の税金が、利益も含めてかからないというものです。また、途中での引き出しも解約もできるのがNISAですね。
赤池:そうですね。基本、iDeCoに比べると自由に使えるのがNISAでしたけれども。このiDeCoとNISAを2つ使うとして、うまい使い分けってあるんですか?
中澤:そうですね。ちょっと先ほどの居酒屋さんの男性の話にもつながるかもしれませんけれども、やはり使うお金と、何かあった時に備えるお金と、老後とかに取っておいて寝かせておきながら増やすという3つに分けられると思います。

やはりギリギリに生活を切り詰めてなんとかiDeCoを増やそうというものではないと思います。60歳まで引き出せないという制約もありますので。そういう意味ではやはり、日常的に使うお金は預金とかである程度置いておいたほうがいいと思います。
あるいは、例えばお子さんがいらっしゃるとか、結婚していずれ住宅が、とお考えの方は、そこを目標に向けて備えるものが必要になりますので。そういう意味では60歳まで引き出せないiDeCoよりも、NISAとかのほうが使い勝手はいいんじゃないかなと思いますね。
赤池:確実に老後に備えたいっていうお金はiDeCoで。今は使い道はないけど、今後ライフプランが変わった時にちょっと備えておきたいなっていう時に使えるのがNISAですかね?
中澤:はい、そうですね。
NISAが向いている人・iDeCoが向いている人
赤池:iDeCoもNISAも「どのぐらいからやったらいいんだろう?」っていうのがみなさんに聞かれることですよね。
中澤:そうですね。やはり無理して出すというよりは、さっきの赤池さんのお話じゃないですけど、1万円だったら、1回、2回飲みにいったと思えばいいということで、ないもんだと思えるような金額ですね。
やはり税金のメリットを長く取るというのと、運用期間を長くすることで時間の分散を使ってリスクを減らすこともできますので、やはり長い期間コツコツと続けることがとても大事じゃないかなと思います。なので迷っている方でなかなか金額の設定が難しいという方は、最低月5,000円からになりますので、それでもいいんじゃないかなと思います。
赤池:このNISAは、いつでも金額変更ができるじゃないですか。iDeCoもできるんですか?
中澤:はい、できますね。積立金額を変えるっていうことで、ゼロにすることもできるんですけども、変えるのは年に1回までです。これがまたちょっとくすぐられるというか。それぐらい「あなたの老後だよ。そんな簡単に変えちゃいけないよ」っていうメッセージが込められていると私は思っています。
赤池:iDeCoの場合は月5,000円が現状では最低金額なので、そこから始めていただいて。引き出せないけど積立を止めることもできるので、そのまま運用は続いていく。じゃあ、そんな中澤さんがiDeCoをやったほうがいいと思う人はどんな人ですか?
中澤:そうですね。一概には言えないのでなかなか難しい。例えば収入がかなり不安定で、毎月1万円出すのが難しいという方はちょっと難しいかもしれないので、そんなに収入がたくさんなくても、ある程度安定して毎月1万円なり5,000円なりが出せるというところは大事かなと思います。

例えば専業主婦の方とか収入がない方は、先ほどの大きなメリットの1つの所得控除のところが使えませんので、そういう意味ではNISAのほうがいいのではないかなと思います。
赤池:税制メリットを享受するのであれば、そういう方はNISAがいいと。そして、さっきも出てきましたけど、若い方ですね。
中澤:そうですね。やはり投資に充てる時間を長く取ることで、価格変動のリスクを分散しながら運用できますので、そういうメリットもありますし。あとは、長く続けることで税制の控除の分も多く取れます。
これも居酒屋のお兄さんのお話になっちゃいますけど、貯金が苦手な方ですね。やはりあると使っちゃうという気持ちもすごくわかるんですけども。もう強制的に引き落として、60歳まで出させないっていうところがメリットになる方もいらっしゃるんじゃないかなと思いますね。
50代から始めても遅くない
赤池:20代、30代の若い方が始めたほうがいいというのは聞くんですが、「50代の私、どうしたらいいですか?」っていうのもけっこう聞かれるんですよね。
中澤:決して40代とか50代だと遅いということはないと思っています。今回、また、加入年齢を70歳まで引き上げようという議論もされていますので、50歳で入っても20年間できますし、受け取りは75歳でもう少し長くありますので、その期間は税制の所得控除も受けられます。
それから50歳になってくると退職金や受け取りのところもにらみながら金額の設定をお考えになってもいいんじゃないかなと思いますので、決して始めるのが遅いということはないと思います。
退職金がない人や個人事業主にiDeCoがおすすめな理由
赤池:あと、「NISAとiDeCo、自分がどっちをやるべきか、まだ迷っているよ」っていう方もいらっしゃるかもしれません。iDeCoが変わるのを待ったほうがいいですか? それともすぐ始めたほうがいいのか。
中澤:これは、すぐですね。今回税制大綱が出ましたけれども、これがいつからこうなるのかはまだわからないですし、今からでも5,000円とか1万円だったら入れますので、少しでも長い期間加入するのが大事かと思います。
先ほどの受取の時の退職所得控除の考え方も、退職金の場合は勤続年数になりますけれども、iDeCoの場合は加入年数でその分取りますので、そういう意味では金額が少なくても長いほうがメリットは多く受けられるんじゃないかなと思います。
赤池:あと、もう1つiDeCoをお勧めする方の例。会社員とか公務員であれば厚生年金の2階部分があるんですが、そういった2階部分がない方にもiDeCoはお勧めですね。
中澤:そうですね。このiDeCoが始まったのもこういった方々が主なターゲットになっていたのもあるんですけども、お勤めの会社に退職金制度がなかったり、個人事業主の方は、税制優遇を受けながら老後資金を準備できると。
先ほどの5年ルールとかいったことも関係ないといいますか、自分で積み立てた分ですべて退職所得控除をiDeCoだけで使えるので、これは本当にメリットが大きいので、ぜひご活用していただきたいなと思いますね。
赤池:そうですよね。5年ルールは会社からの退職金がある場合ですもんね。
中澤:そうです。もともと退職金がない方はこの改正があっても影響がないところですので、そこはぜひフルにメリットを使っていただきたいなと思いますね。
あともう1つ、個人事業主の方のメリットとしては、DCは会社のお金とは別で完全に積み立てされますので、もし会社が破綻してしまったとしても、退職金という意味で積み立てた分は守られますので、非常にメリットは大きいんじゃないかなと思います。
赤池:その部分だけは自分のお金として守られるということですね。今回、私たちは2回、この改正の動画を撮っていますけれども、これがずっと続くということでもないんですよね。
中澤:そうですね。2001年にできてから加入範囲や拠出限度額とか、多様な働き方とか、会社の定年なんかも踏まえながら、ずっといろんな制度改正を繰り返してきていますので、これで終わりということはないと思います。
雇用の流動性にうまく対応できていない現状
中澤:もう1つ気になるところと言えば、退職所得控除、そもそものところですね。これはiDeCo関係ないので、これが悪くなったからiDeCoが悪いっていう、iDeCoのせいにはあんまりしてほしくはないんですけれども。そこが変わると影響を受けてしまうところはありますので。
今、20年を超えると所得控除の金額が大きくなるという制度になっていますけれども、1つの企業に勤めることを前提に作られてきたものが、雇用の流動性にうまく対応できていないので、そこをそもそも変える……。
これはいろんな反発の声もあるので、なかなか一筋縄にはいかないのかもしれませんが、ちょっとそこに引きずられて変わる部分も、足元では見えるんじゃないかなと思いますね。
ただ、やはりみなさんのいろんな声を上げていくことが大事だと思います。今回、「改悪だ」という声もありましたけど、ぜひいろんな声を上げながらいい制度にしていきたいなと思っております。
赤池:中澤さんの愛が伝わったんじゃないかなと。
中澤:ちょっと重かったですかね。
赤池:iDeCoちゃんは大丈夫じゃないですか?
中澤:懐深いですからね。
赤池:ということで今回はiDeCoの改正、そして仕組みについてお伝えしてまいりました。