元役者という経歴を活かし、現在はファイナンシャルプランナーとして講演や投資相談を行っている井上ヨウスケ氏。YouTubeチャンネル『井上ヨウスケ/井上FP事務所』では、投資などのお金の知識に加えて、読書や価値観に基づく型にはまらないお金の使い方などを発信しています。本記事では、資産形成における目標金額の重要性について解説します。
資産形成は目標金額の設定が重要
井上ヨウスケ氏:はい、どうも、ファイナンシャルプランナーの井上ヨウスケです。この動画を見ている方の多くはすでに積立投資などをされていると思います。そういった方が次に考えなければいけないのは、「どういう人生を送りたいのか」だというお話をしたいと思います。
先になぜなのかを言ってしまうとですね、それが自分に必要な目標金額を決めるからです。ここをちゃんと考えていないと、目標を達成できそうになると「さらに金額を増やしたい」という欲に駆られてしまうので、ここの設定がすごく大事だよというお話をしたいと思います。

では、時間がない方もおられると思うので、まずは動画のポイントを解説していきます。まず1つ目ですが、冒頭でもお話ししたとおり、投資をスタートさせたこと自体はとてもすばらしいことなので、あらためて自分はどういう人生を送りたいのかを考えていく必要があると思います。
なぜならば、ポイント2にも書いてあるとおり、それが投資の目標額とか、人生に必要なお金の量の目安になるからですね。ここをちゃんと考えていなければ、ついつい周りに引っ張られて、もっともっとお金を増やしたくなる欲望に駆られますし、もっと言うと、悪いモデルを採用してしまう可能性があるからですね。
ポイントの3番目「欲望の模倣モデル」。僕たちは誰かを真似して、「あの人みたいになろう」と欲望が決まっていったりするんですね。このあたり、ちょっとルネ・ジラールという人の理論なんですけれども、そこはちょっと小難しいので話はしませんが。
僕らは常に誰かを模倣しているんですね。その対象は慎重に選ばないと、どこまで行っても「もう十分」って思えないので、このあたりをお話しして(いきます)。
最後に、心理学などではですね、幸せな人生を望むのであれば、近い存在をモデルにするんじゃなくて、より遠い存在を模倣するほうが望ましいという結論が出ています。このあたり、1個ずつ解説をしたいと思います。
“資産はあればあるだけいい”思考の危険性
今日のお話は投資のノウハウとか数字がどうこうというお話ではありません。みなさんがどういう思いで投資をされているかは、いろんな方が見てくださっているのでわからないんですけれども。
僕自身はやはり、自分の老後に年金だけでは足りない分を準備していないと生活できない。それは不安だなと思うからこそ、そこを補うために投資をしているわけですね。あくまでもお金持ちになりたいわけではないので、ある程度、穏やかに暮らすために必要なお金を準備したいと思っているわけなんですけれども。
それでも投資をしていくと、例えば500万円貯まったら、次、1,000万円だな。で、1,000万円貯まったら、もう1,000万円あるのが普通だと思って、もっと増やしたいというふうに、やはりお金はあればあるだけいいものなので、増やしたくなるんですね。
でも、あればあるだけいいものは、どれだけあっても足りることがないという側面もあるので、だからこそ自分はどういう人生を送りたいのかを決めて、そこから必要なお金の量を考えるのが一番現実的じゃないかなと思っています。
この時に大切なことは、どういう人の真似をするのかですね。これについてちょっとお話をしていきたいと思います。
外部を模倣するのか、内面を模倣するのか
ここ(スライド)に、「欲望の模倣モデルを選択する」と書いていますが、欲望はおおよそ僕らの内側から湧いてくるものというより、「誰々さんが欲しがっているから自分も欲しい」「誰々みたいになりたいから、その要素であるあれが欲しい」というふうに、何かモデルを介して物やステータスを欲しがっているところがあるんですね。

これは、ルネ・ジラールという方が考えているアイデアです。この人の本は難しいので、興味がある方は、ルーク・バージスという方の本(『欲望の見つけ方: お金・恋愛・キャリア』)を読んでいただければと思うんですけれども。僕自身は、人間というのは常に外部に受動する、要はたくさんのものを受け取っている生き物だと思うんですね。
文化とか、ツール、欲望、不安とか。みんなが不安に思っていたら自分も不安に思っちゃうというふうに、かなり影響されやすい生き物。だからこそですね、何に影響されるかは僕たち自身で決めていくべきだと思っています。
2つの対象を例に挙げてお話をしたいんですけれども、どっちを模倣するかによって、あなたの人生はかなり変わってくるよねというところをお話しします。
まず現代的な人生、いわゆる物質主義的な人生を送る人を模倣する(パターン)。例えば「インフルエンサーがこういうのを持っているからこういうのを欲しいな」とか、「あの人が薦めたから、これを買う」。そういった方を真似する人生というのは、一般的には表面的な欲望を模倣することになります。
持っているものだったり住んでいる場所、聴いている音楽、食べているものですね。要は内面ではなくて外部を真似することになりがちです。
そして、これらの要素はいわゆる地位財と呼ばれるものでして、これまたちょっと説明しますが、地位財を追求することは、心理学などでは幸福度に寄与しにくいと言われているんですね。
非地位財を求める人生の方が幸福度が高い
地位財と非地位財という説明をしたいと思いますが、単純な話、周囲と比較することで得られる満足と、比較なしに幸福を感じられるものの違いですね。要は相対的にしか価値を生み出せないのが地位財です。所得、富ですね。
1億円持っていたら幸せだと思っていたとしても、自分の周りの人間が2億円持っていたら、その1億円の人はおそらく相対的に不幸を感じると思います。社会的地位も一緒ですね。あと、大きい家に住んでいるかどうかも、周りの人の家が小さいから大きい家に価値が見いだせるわけです。

つまり、相対的にしか価値を見いだせない地位財と呼ばれるものと、そうではないもの、比較が難しいもの(が非地位財)ですね。心理学の研究などでは非地位財を求める人のほうが幸福度が高いと言われています。一方で、この地位財が人生において一番大切だと言っている人ほど、幸福度が低い傾向が見られるとわかっています。
そして、全員が全員ではないんですけど、一般的にインフルエンサーの方々は、企業案件として地位財と呼ばれるものを売ることで企業からお金をもらうことが多いわけですね。これがいいとか悪いとかではなくて、そういう傾向があるよねという分析です。
「ロールモデルは誰ですか?」
もう一方、遠い存在や過去の人を模倣する道もあって、例えば仏陀とかイエス・キリストとかエピクロス(古代ギリシャの哲学者)などでもいいんですけれども、こういった方々を模倣する道もあって。
この人たちを模倣する時は、ふだんから何を食べている、着ているとかってあんまり知らないんですよね。仏陀が乳がゆを食べていたとかは知っていますけど。だから真似しようがないところがあって、じゃあ結局、何を真似するかといったら、彼らがどういうことを考えていたのかということですね。
つまり、遠い存在のモデルは表面を模倣することが難しい傾向がある。当然ハリウッドスターとかセレブは真似しやすいんですけれども。
となってくると、この人たちがどういう考え方を取っていたのかみたいなところになってきて。僕が代表的に挙げたこの3人なんかは、特に非地位財の重要性などを言っていたりするので、これらを追求することになれば幸福度に寄与しやすい傾向があります。どちらがいいかではなくて、どういう人生を望んでいるかということですね。
穏やかに幸せな人生を生きたいなと思っている人であれば、例えば隣人とか同僚のように物質主義的な人を模倣する道ではなくて、遠い存在を選ばなければそれが得られないということですね。
ちょっと小難しい話になってしまったかもしれないんですけれども、めちゃくちゃ簡単に言ったら、「ロールモデルは誰ですか?」というお話ですね。「誰を尊敬していますか? 誰のようになりたいですか?」と聞かれた時に出てくる人物とか、(あるいは)誰に嫉妬するのか。僕たちが嫉妬するからこそ、人を嫌いながら真似しているところがあったりするわけで。
憧れの存在を基準に、必要なお金について考える
嫉妬すらできないような、もっと遠い存在を模倣していくことによって、何を着ているとかじゃなくて、例えば「仏陀やったらこの時、こうするよな。私利私欲を満たすことよりかはこっちを選ぶよな」と、その考え方に近づいていく。
すると、「じゃあ、これぐらいの生活で十分に足りているな」って思ったら、「そんなにお金は要らないな」と、必要な量が見えてくるんですね。
だからこそ、やはりここを決めておかないと(必要なお金の量が見えてこない)。特に最近だと、周りの人が投資している空気だから自分も始めた方も多いと思うんです。これ自体は別にまったく悪いことではなくて、1つのきっかけなんですよね。
そのままずっと続けていくと、みんながさらに積立しているからもっと増やさないといけないってなってくると、どこまで行っても、周りの人たちが(ロール)モデルになってしまうわけです。
そうなると終わりがないゲームに参加してしまうことになるので、自分で軸を持って誰を(模倣の)対象とするのかを決めていくと、「それじゃあ、これだけあったら余裕でお金足りるな」みたいなところが出てくると思います。ふだんはあんまり考えないことだと思うんですけれども、ぜひ一度考えてみていただければと思って、この動画を撮影しました。