「自然体」な自分を保つためのコツ

桜井雅人氏(以下、桜井):それではさっそく、視聴者からの相談タイムに入りたいと思います。哲夫さんに相談したいと応募いただいた方の中から、今回は2名ご参加いただいております。

まず最初の相談は、20代男性のMさんからです。相談者の方とおつなぎいたします。Mさん、こんにちは。

質問者1:こんにちは。

桜井:この度はご応募いただきありがとうございます。簡単に自己紹介お願いできますでしょうか。

質問者1:ありがとうございます。京都の大学に通っている4回生で、京都の企業の内定が決まっています。それにまつわる質問を2つさせていただきたいです。

1つ目はストレス社会において、いかに自然体な自分を保てるかということ。2つ目は数字や勝負事に対する自分のメンタルの持っていき方をご相談させていただきたく。

詳しく話をさせていただくと、1点目については、私けっこう緊張しいで、人前でしゃべったり、自分の思いを伝えることが苦手でして。なるべく自分の中で「自然体でいよう」って思っていても、どこか気合いが空回りしてしまったり、チームの中でバランスを取ろうとしてもうまくいかなかったりすることがあるんです。

哲夫さんを見てると、どんな場面でもすごい自然体でいらっしゃる。さっきのオープニングトークとか聞いていても、「この方はストレスとか感じるのかな」って思いました。自然体でいるために、何か気をつけてらっしゃることはあるのかなと思いました。

ストレスに対する「諸行無常」の考え方

質問者1:2つ目に関して、私は学生の頃からあまり欲がなくて。部活動に所属していても、「勝ちたい」よりかは「チームが幸せだったらいいなぁ」とか思うほうでした。ただ、スポーツとか会社とかだと、どうしても結果にこだわらないといけない、数字を残さないといけない。その中で哲夫さんは仏教思想を大事にしながらも、結果とか数字が完全に出てしまうM-1グランプリに出続けて、優勝までされた。

慈悲と知恵のお話がありましたけど、その背景を持ちつつ、結果や数字に対してどのように自分自身の意識を持っていくのかなって、気になっておりました。

すみません、長くなってしまったんですけど、この2つについてお答えいただけるとうれしいです。お願いいたします。

笑い飯・哲夫氏(以下、哲夫):お願いします。僕のことを「ストレスがないように見える」と言っていただいてて、ありがたいなと思いました。確かにそんなに抱え込むタイプではないと思います。

なんでかと言ったら、それは「諸行無常」という考えを体感してるからだと思います。仏教では根幹をなすような考え方なんですが、すべてのものは一定の状態を保つわけがない。すべてのものが移ろいゆく。

人間やったら歳をとってやがて死ぬ。ボールペンにしたって、いつかは潰れる。そういうことなんですね。そう考えると、一時の何かに「こだわる」ということがなくなる。

例えばストレスは誰しもが抱えます。抱えるんやけど、それがずっと持続するだろうなと思うからしんどいんです。

ストレスを抱えた時に、「これも諸行無常やしな」って。1年後の自分も同じストレスを抱えているのか、1年後はまた環境が変わってるから違うやろと。なんやったら、もう明日のこの時間、1日経ったらそこまで悩んでへんかなと思うことによって、現時点のストレスをある程度諦められるんです。

「自分」へのとらわれを潰すと、苦しみがなくなる

哲夫:それから「自分1人だけのことを考えていない」というのもあります。要は仏教から考えると、いいヒントがいっぱい隠されてまして。

仏教で一番何をせなあかんかと言ったら、「世の中生きてたら苦しいことばっかりやから、その苦しいことをどう克服するか」。これが仏教の大事なところなんですね。お釈迦さんが発見したのは、すべてのものは因縁によって成り立ってるんだということ。

因縁といったら、原因みたいなことですね。直接的原因が「因」、間接的原因が「縁」とです。だから「ご縁です」というのは、偶然をもって、たぶん間接的にそういう原因があったということですね。

世の中のすべてのものは、その因縁によって成り立っている。ということは、苦しみというのも、何か原因があって成り立っている。そこからお釈迦さまがはっきりとその原因を発見したんです。苦しみの原因は何かといったら、煩悩やったんです。

煩悩を抱えているから、苦しみが起こる。煩悩は何かといったら例えば「あぁ、ケーキ食べたいな~」と思うこと。でもお金がないからケーキが食べられなくて、苦しいわけです。その煩悩を打ち砕いたらええじゃないか。

でも煩悩を打ち砕くってなかなか難しい。なんならその煩悩にも原因があるんじゃないかと考える。煩悩に原因がある、その原因はいったい何かと言ったら、「我執」ってやつです。

要はケーキ食べたいなと思ってるのは誰かといったら、隣のトモコちゃんが「食べれたらええのにな~」じゃないんです。自分自身が食べたいって思っている。要は「自分」にとらわれてるわけなんです。

だから自分にとらわれるところを潰していくんですよ。潰したら、結果として煩悩が潰れるんですね。煩悩が潰れたら、結果として苦しみが潰れるんです。要は苦しくなくなるんです。

「自分」と「他人」の垣根を外す

哲夫:だから最たることで言うと、自分にとらわれることを潰していけばいいんです。これはどういうことかと言ったら、「自分の幸せは人の幸せやし、人の幸せは自分の幸せやし、人の苦しみは自分の苦しみやし」という、垣根を外したらいいんですよね。

そういうふうに生きていると、ストレスも「自分1人で抱えているんじゃない、みんなで抱えているんだ」と思えるんです。

だから僕はお笑いの舞台でも前に出られるんです。なんでかといったら、1人でスベってるんじゃない、みんなでスベってるんだと思えるから。

桜井:(笑)。

哲夫:ものすごく都合のいい考えですけど、でもこれはいい考え方ですよ。要はウケた時も、1人でウケてるんじゃない、みんなでウケたんだと思えるんです。

「お陰さん」という感謝の言葉を生む「想像力」

哲夫:ほんならやっぱり進行さんがいて、設営しながらこうやってフリップ作ってくださってたりする小道具さんがいて、衣装さんがいて、舞台装置を作ってくれる大道具さんや照明さんも音響さんもみんないる。表には立ってはらへんけれども、その陰で支えてくれてる人がおるんやと思いながら、自分が笑っていただけるので、そこに「感謝」が生まれるんです。

「お陰さん」という言葉はそういうことなんですよね。その裏でどんだけみなさんに支えてもらっていたかが感じられる。それでお陰さまという言葉があるんです。

お陰さんのような考え方が生まれてくるのは、結局「想像力」なんです。要は「あの人がこうしてくれたからやろなぁ」とか、「こんだけ寝ずにやってくれたんやろな、後でお礼言いたいな」とか。これって想像力なんです。

想像力の強化って、僕はすごく大事だって思っています。子どもたちにも想像力を強化するための教育を整えたいと思っています。

M-1は「嗜好品」

哲夫:あと(2つ目の質問は)勝負事ですよね。さっきの考え方で言うたら、勝負事ってほんまはまったくいらないんですよ。だからM-1も、別におもしろい10組ぐらいがばーっと、年末のゴールデンでネタやって、普通に笑かしたらええやんと、僕はほんまは思ってます。

せやけどこれは嗜好品なんですよ。みんなジャンルと順番が好きなんです。

最近なくなりましたけども、抱かれたいランキングとかありました。あれがなんでなくなったんかなって、めっちゃ考えているんです。よう考えたら、下世話なこと言ってましたよね。「抱かれたい」ランキング。女の子に言わせてましたからね。

桜井:本当に。

哲夫:でもそれだけ今モラルが発達してしまったということなんです。そのモラルがあったとして、モラルを勘違いする人も出てきている。特にSNSとかやったら、好きなこと言うて議論の場になるのはええんかもしれないですけど、モラルを勘違いしているのもあるんちゃうかと思いますね。

だから「順番をつける」というのは、僕がM-1で出た時には「これは嗜好品なんだな」と思いながらやっていました。みんなが好きなことなんだから、これが番組として視聴率上がるっていうのもわかります。それによって見てくださるんやから、自分も見てもらいたいし、自分のネタで笑ってもらいたい(から出ていました)。

「前年度の自分らのネタ」との戦いだった

哲夫:結局勝負やと言ってるけど、「人を負かせてる」ことになってしまうのが、すごく嫌なんです。僕は勝ちたいなと思います。でも負けるのも嫌いです。でも勝ち続けるのも嫌いなんです。勝った時にどういう顔をしてええかようわからへん。

だから最後は優勝しましたけども、スリムクラブのほうがウケてんのに俺らが勝つかたちになったので、僕にとっては都合が良かったんです。

「勝つ」とは、要は「負け」を生んでることです。それこそ自分だけの幸せを考えられないですよね。その人を負かしてしまうということだから、そんなん別に勝利者とか敗退者とか決めなくてええのにと思うんですけども、やっぱり嗜好品で、そこを見せたほうがおもしろくなるんでね。

M-1の漫才なんて、結局は1組1組ネタするだけですからね。要は勝負ではないんです。別に「勝負したろ、あいつらに勝ちたいから、あいつらのネタにちょっとかぶして……」とか、「あいつらと同じ下りを入れて、先にやったろ」みたいな、そんな小細工の勝負じゃないんです。

ただ自分の作ったものを上手に演じるだけなんですよ。だから誰と戦ってるか言うたら、僕らは9年連続M-1の決勝行きましたけど、結局前年度の自分らのネタと戦ってた。

だから自分の敵が自分の中にあるというのは、よう先生が言われはるような言葉ですね。前年度の自分らのネタを上回らない限り、決勝に行けないと思ってました。だから前年度に考えたやつよりも、もっとウケるやつ、笑えるやつをって毎年考えて、ネタを作る感じでしたね。

弥勒菩薩の前で、果てしない時間軸を想像する

桜井:いかがでしょう、Mさん。

質問者1:ありがとうございます。ありがたい言葉をいただいてうれしいです。ちょっと最後に、京都に住んでるのもあって、おすすめのお寺を教えていただけますか。有名どころじゃない、哲夫さんならではのところを教えていただけると。

哲夫:いやぁ、ほんまね、全部おすすめなんですよね。どこかな。うーん、全部ええねんな〜。やっぱりあそこかなぁ……。京都五山の別格の南禅寺。広隆寺も見に行ってください。半跏思惟の弥勒菩薩さん。それからThis is 弥勒菩薩さんがいる光林寺ですね。

七大寺(法隆寺、広隆寺、法起寺、四天王寺、中宮寺、橘寺、葛木寺)は聖徳太子さんが作ったお寺です。京都にある広隆寺。そこの弥勒菩薩さんはこんな(思索のポーズの)やつ。56億7000万年後の未来に降り立って救ってくれると言われている方です。

そういう果てしない時間軸を想像してたら、たまのちょっとしたストレスとか、ほんまどうでもええと感じられるんです。想像力強化のために、弥勒菩薩さんはぜひおすすめです。

質問者1:ありがとうございます。行かせていただきます。

桜井:というわけでMさん、哲夫さんの言葉を胸にこれからも、来年からは働かれるということなので、残りの学生生活楽しみつつがんばってもらえればと思います。

哲夫:がんばってください。

質問者1:ありがとうございます。

桜井:すごいですね。メモをとったんですけど、紙が足りなくて……。

哲夫:いやいやごめんなさいね。ばーっ、ひけらかして。

桜井:いやいや、こういう機会ですので、ぜひたっぷり話していただければと思います。

哲夫:ほんまはスケベなことしか考えてないです。

桜井:今のところスケベな要素は出てないんで、大丈夫です。

哲夫:想像力想像力言うてるでしょ。そういうことなんです。

桜井:(笑)。そこにも直結するんですね。

哲夫:すんません(笑)。