2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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工藤雄大氏(以下、工藤):では、次のテーマへ行かせていただきたいと思います。もちろん作業量がぜんぜん違ったりすると思うんですが、お二人のざっくりとした1週間の制作スケジュールをおうかがいしたいのですが。では、村田先生から。
村田雄介氏(以下、村田):金曜から金曜ですね。翌金。あとは描き直しです。
工藤:(笑)。
森川ジョージ氏(以下、森川):休みはないの?
村田:一応土日を休みに設定はしているんですけど、スタッフが休みで、その間僕がちょっと描き進めていたり。
森川:そうなの。
村田:ええ。描き直しの処理を後でスタッフに回さないといけないので。家に帰る時間をもうちょっと延ばしたいなというのは(笑)。
工藤:逆にそっちを延ばすか、みたいな話なんですね。
村田:はい。でも、さすがにもう少し子どもの相手をしたいなっていう(笑)。
工藤:いやあ、すごいお話。
森川:素晴らしいな。
工藤:ちなみに、『ワンパンマン』はコマ割りも村田先生がやられているということなので。
村田:はい。ONE先生のWeb版は1ページ8コマぐらいで、その量感でネーム(コマ割)が送られてくるんですが、僕の画だと携帯で見る時にそのコマ割りに絶対収まらないんですよ。ONE先生の画だとすっきりしているし、文字の号数も大きいので読みやすいんですけど、僕の間隔に合ったかたちに変えさせていただいています。
工藤:じゃあ、コマ割りをやって、作画をやってみたいにけっこう分けている感じですか?
村田:わりと順番は描きたいところから描いている感じではあるんですけど(笑)。
工藤:そうなんですね。コマ割りと作画時間は、週どれぐらいの割合ですか?
村田:回によってぜんぜん違いますね。込み入った画が入る回だとかは、割り振りがぜんぜん変わるので。
工藤:なるほどなるほど。で、金曜日から翌金曜日というかたちで。
村田:そうですね。ぐるっとやってます。
工藤:ありがとうございます。
工藤:森川先生は、いかがですか。
森川:基本的にはスタッフが月曜日に入って水曜日に終わる感じだから、作画時間が2日半ぐらいで。僕が前の土日ぐらい……。
村田:おかしいですよ、これ(笑)。
森川:前の土日ぐらいにちょっとやってるから、週4日ぐらい。
工藤:(笑)。
村田:(笑)。どういうことですか?
森川:さっきから聞いてんだけど、村田君ばっかり好感度が上がって嫌なんだよ。
工藤:違います、違います。
村田:いやいや、すごいんですよ。
工藤:超人ですよ。
村田:まさに、まさに。
森川:だってさっきさ、「減ページ」って挙げて「日が足んねえんだよ」って言ったのに、これだと「おまえ、4日しか働いてねえじゃねえか」って話になるじゃない。
工藤:そんなことないです、そんなことないです。本当に。
村田:いや、あの密度で4日ですか。
森川:だからページが足りなくなっちゃうんですよ。
村田:いやいや。
工藤:すごいですね。
村田:だって情報を仕入れる時間って絶対必要じゃないですか。僕は取材とかも必要ないですし。
森川:そんなことないでしょ。
村田:写真を撮ったりはするんですけど。だいたい取材って編集さんと行ったりするものだと思うんですけど。
工藤:そうですよね。そんなイメージがあります。
村田:がっつり誰かに会いに行くとか、そういうこともないので。絶対キープしなきゃいけない時間は、森川先生は長いでしょうから。
森川:どうだろうな。
村田:4日にせざるを得ないところもありますよね。
森川:いや、そんなことはないんですけど。連載が始まった頃は、1週間に8日あってもぜんぜん足りなかったの。でもそれを5、6年続けると、体が持たないんだよね。本当に倒れちゃったりとかしてたから。
連載がこんなに長く続くと思っていなかったから、「やれるところまでやってみよう」と思ってたんだけど、「長くなってきたぞ」と思った時に「これ、無理」と思って。少し作業時間のことを考えたの。
村田:なるほど。
工藤:だからこそ長く安定して連載ができているんですよね。
森川:僕はちばてつや先生を尊敬しているんだけど、あの人の座右の銘が「漫画は我慢」ってやつで。だから僕、若い時から「漫画は我慢、漫画は我慢」と思って、ずっと我慢して描いてたの。でも「無理だよ、ちば先生」と思って。
工藤:(笑)。
森川:その時から僕の座右の銘は「原稿より健康」なの。
工藤:おお。
村田:いい言葉をいただきました。
工藤:いただきましたね。
森川:だから、みんなに迷惑を掛けちゃうけど、減ページになってもいいから長く仕事をやるほうを選ぼうと思って。
工藤:なるほど。それはおっしゃるとおりだと思います。
森川:健康を害しちゃったら本末転倒でしょ?
工藤:そうですね。体を壊されてしまうと、逆に止まっちゃいますものね。
森川:そういうこと。
村田:だいたいみんな、腰、首をいわしちゃいますから。
森川:やっぱり、だましだましやるじゃない。
村田:そうですね。
工藤:だから、要するにかなり作業時間を圧縮できたというか、作業効率を改善できたというお話だと思うんですけど、どういったことを意識されて……。
森川:圧縮してないの。
工藤:え?
森川:前は、時間があればあるだけ使っちゃってたわけ。休載が入って締め切りまで2週間ありますとなったら、1週分の原稿を2週間使って描いてたの。「もっと描きたい、もっと描きたい」となっちゃうから、いつまで経ってもデンプシーロールを描いたりとかするわけ。
工藤:デンプシーロール(笑)。なるほどなるほど。
森川:結局締め切り間際になっちゃうのよ。だから、「わかった。締め切り3日前から始めよう」と思って。それで、「もう上がったとこまで」ってことにしてるの。本当すいません。
工藤:いえいえ、だからこそずっと続けられているというお話だと思うので。
工藤:そのあたりのお話をもうちょっとうかがいたいと思うんですが。お二人は、アシスタントさんに任せる作業は「ここまでお願いしようか」とかあったりされますか?
村田:僕は……。
森川:ムカデだろ?
村田:ムカデ。
工藤:ムカデ(笑)。なるほど。
村田:『ワンパンマン』で、何年か前にムカデ長老という怪人が登場したんですけど。
工藤:めちゃめちゃすごいムカデが出てましたね。
村田:その時は1回の更新のページ数が、100何ページとか半端じゃなくて。
工藤:(笑)。だって、ずっとつながってますものね。
森川:ずっとムカデが出てきていたよね。
村田:そうなんですよ。半分ぐらいのページで出ずっぱりだったんで。ムカデって1つのパーツがつながった作りで、立体がちゃんと描けるスタッフさんだったらある程度お願いすれば描けるものだったので、そこはけっこうお願いしました。でも、そういう分業をしないと本当に死んでしまうような。
工藤:いや、そうですよね。
村田:スタッフさんが、慣れてくると作業も速くなりますし、うまくなってくるんで、こっちが追い立てられる感じになっちゃうんですよね。なので、日曜も帰れなくなるんですけど(笑)。
森川:村田君のところはリモートでやってないの? バックとか。
村田:最近はリモートにしました。
森川:リモートだと、スタッフが離れたところでバックとかを描くわけじゃない。追い立てられるの? 寝ちゃったりとかしてないの?
工藤:(笑)。
村田:そうですね。
森川:目が届かないから、「ちょっと休もう」とか言って休んでたり。
村田:勤怠管理はちょっと難しいですね。半日ぐらい経ってから「すみません、僕手空きです」と言われたりして。それって効率が落ちているわけで、そのぶん入稿の時に編集さんを待たせたりご迷惑をお掛けするんで。そういう手空きの状態が生まれないように効率良く回さないと僕の責任になっちゃいますね。
森川:大変だなリモートも。
工藤:リモートだと、作業内容とかがわかりづらいってことですよね。
村田:そうですね。
工藤:ちなみに森川先生もネームの時間と作画の時間があると思いますが、作画の時間は先ほどお聞きしましたが、ネームはどれぐらいでしょうか?
森川:ネームってこれでしょう?
工藤:はい。あ!
村田:おお、すごい。貴重な(笑)。
工藤:いや、これマジで「本当に大丈夫かな」と思うんですけど。
森川:暗号みたいなもんだから、わかんないですよ。
工藤:森川先生のネームです! え? それ今週のやつのコピーじゃないですか?
森川:そうそう。もったいないから、A4を4分割してコピー紙の裏に描いてんだけど。これは、今日出掛けに描いたもので。1時間で11ページできてるんだ。
工藤:(笑)。
森川:だから、2時間あれば上がると思うんだけど、今、週刊少年マガジンの編集部のやつらが「なんで最後まで描かない。ナンバーナイン、なんてことをしてくれたんだ」と……。
工藤:ああ、やばいやばい。それを言われるとたぶんクレームが来ますので、ちょっとすみません。
村田:うかがっていると、しゃべるのと同じぐらいのスピードで会話が出てこられるんですね。
森川:パズルのピースみたいなのが常にあって。ネームの作業ってそのパズルのピースを当てはめる作業なわけ。初めはぜんぜんそうじゃなく、「来週何書こう」みたいな感じだったんだけど、キャラができあがってくると生活圏とかも全部わかってきて、未来も見えてくるわけじゃない?
工藤:そうなんですね。
森川:そうすると、ここらへんにずっと浮かんでいるパズルのピースをぱっと集めるだけなんで。これが必要、これが必要と集めるだけ。この暗号みたいなネーム自体は2時間、長くて3時間しかかからないと思う。
工藤:いや、異常なスピードだと思います。
村田:「森川先生の頭の中はどうなっているんだろう?」って、すごく覗きたいです(笑)。
森川:だけど原稿に写す時は、僕はコマ割りが漫画で一番大事だと思っているから。たぶん村田君も同じ感じだと思うけど、漫画において一番難しいのはコマ割りだと僕は思うの。すべての演出がそこにかかっているから。だからこのネームは、原稿ではぜんぜん同じにならない。
工藤:話の流れとかはそこで作られるけど、同じにはならないんですね。
森川:そうそう。確認のためで。
工藤:長くて3時間。みなさん、これが超創作論でございます。すごい(笑)。
村田:森川先生、完成原稿で、ワンツーパンチからの畳み込みみたいな、アクションシーンの動きの連続などは、頭の中にカメラ同ポジで動画で浮かんでらっしゃるんですか?
森川:連載当初はいろんな角度から描こうと思ってたの。俯瞰のアングルとか、アオリのアングルとか、下から見たとかいろいろね。でも「一般読者の人が見て、一番見やすい画面は何だろう?」と思った時に、テレビで映される画面が一番見やすいと思って。テレビ画面って、いつも斜めちょっと上からの俯瞰構図で、引いたり寄ったりでしょ?
村田:そうですね。
森川:それだけにしたの。だから僕は、アングルはほとんど気にしないというか、カメラを同じところに置いて、アップにしたり引いたりとかそれだけの作業に徹してる感じかな。
村田:なるほど。それだと体の入れ替えだとか位置関係も混乱しないですし、絶対にわかりやすいですよね。
森川:そうそう、わかりやすくなると思うから。『ワンパンマン』みたく、空を飛ぶ人とか出てこないので(笑)。いろんな角度は要らないんだよね。
工藤:(笑)。
村田:カメラを動かすと、わかりにくくなりがちなんですよ。『ワンパンマン』は背景とかもがれきだったりするんで、密度が高すぎると「スマホで見るとよくわかんない」っていう。背景に埋没しちゃうような状態になりがちなので、カメラの位置って非常に大事です。
『はじめの一歩』の同ポジで動きの連続を追うかたちは、すごくわかりやすいなって。『アイシールド21』の準備段階でも拝見して、ちょっと採り入れさせていただいたところがあると思います。たぶん稲垣先生もネームの段階でそのイメージはされていたんじゃないかなって僕はちょっと予想します。
工藤:予想します(笑)。
村田:直接うかがったわけではないんですけど。
工藤:そうですよね。
森川:ごめんなさい。隣で褒めちぎるのって拷問に近いんだ。
工藤:なんでですか。そうなんですか?
森川:だって、村田先生だよ?
工藤:(笑)。
村田:いや、素直な気持ちを。
森川:すべてにおいて僕より勝ってる人が……。
村田:いやいや。
工藤:いやいや、お二人ともすごいです。
森川:隣で褒めちぎるって、僕、拷問だから。しかも何人も見てるんでしょ、今?
工藤:ええと、今何人ぐらいですかね。430人ぐらいが見ています。
森川:でしょう? それで褒めてる村田君の好感度だけ上がって、僕の好感度は下がって。
工藤:森川先生の好感度ももちろん上がってると思いますし、お二人とも「単純にすごい」と本当に感じます。
工藤:Twitterでもけっこうみなさま投稿されていて、「貴重なネームだ」と言われていたりとか、「コピーの裏に描かれているんですね」みたいな話も出ています。
森川:ちば先生が「紙は大事にしろ」って言ったんだよね。
工藤:(笑)。なるほど。じゃあもうずっとなんですか?
森川:ちば先生は、40年ぐらい前から環境問題を気にしていて、「漫画家は紙を使うから」って森林伐採をすごく気にしたり。だから、こういうペン先を拭くのもティッシュペーパーじゃなくてキッチンペーパーにすると、毛羽立たなくてピュッてやれたりするんで。
工藤:何回もできますしみたいな。
森川:それは僕がちばさんに教えたんだ。
工藤:え!? すごい。
森川:「ちばさん、ティッシュを使っていたら紙がもったいないよ」って。
工藤:(笑)。
村田:アナログで描かれてる時は、コピー用紙も含めてものすごい量の紙が出ますものね。デジタル環境にしたら、確かに半分ぐらいの量になったんで。
森川:そうなんだよ。今では消しゴムを持ってないって人がいるんだよ? びっくりしちゃってさ。
村田:でもそうなりますよね。
森川:そうなるよね。
村田:液タブ(液晶ペンタブレット)とかで描き始めるとそうなりますよね。
森川:そうなるよね。だってネームだって、そこで描くわけでしょう? 「すげえな」とか思ってさ。
村田:消しゴムかけが必要ないというのは確かに魅力的ですよね。
森川:若い作家たちがやってるTwitterのスペースを、夜中にひっそり聞いてたりとかするの。デジタルはこうしたほうがいいとか、ああしたほうがいいって情報交換をしてて、すっごい勉強になって。「なるほどね」って思いながら聞いててさ(笑)。
村田:でも、スペースに森川先生のアイコンが出てたら。
森川:そうなんだよ。
工藤:すぐに気付かれません?
森川:「森川先生、聞いてる?」とか言われちゃうんだけど。
工藤:いや、それはそうですよ(笑)。
森川:そこはもう「シーン」だ。ただただ聞いてます。時々質問させてもらうんだけど。「それ何?」とか。
村田:なるほど。
森川:そしたら、みなさんすごく丁寧に教えてくれてね。
工藤:森川先生も今後デジタルをやられたりとか、あり得るんですか?
森川:それはあるでしょう。あるけど恐らくね。尊敬しているちばさんが、「デジタルがすごく好き」と言ってたんだけど、今やってる連載は紙なの。
工藤:え?
森川:「デジタルがいいって言ってたじゃん」と言ったら、「これがたぶん最後の連載になるから紙にこだわりたいんだよ」って言われちゃって。「じゃあ紙にこだわろう」って。
工藤:(笑)。なるほど。
森川:でも、デジタルを触ったこともない癖に「紙だよ」とか言うのは、また違うじゃない。
村田:なるほど。
森川:だから、僕は良さもよく知ってるのよ。けっこういじってたりとかして。
工藤:そうなんですね。
森川:だから、こういうことができる、ああいうことができると知った上で、紙にこだわっていきたいなと思うし。
村田:『一歩』の中でデジタル作画、オールデジタルにされた回とかはあるんですか。
森川:ないよ。
村田:全部ではなくて。
森川:その質問の意味がわからない(笑)。
村田:デジタルを触られてるってことだったので、作業をされて……。
森川:いや、違う違う、練習とかね。
工藤:練習で触って、本番では使わずってことですよね。
村田:ああ、なるほど。
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