書くのが「苦手」「大嫌い」から、5日で本を1冊書き上げる爆速ライターへ

田原彩香氏(以下、田原):先生はこれまで、どういったキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

上阪徹氏(以下、上阪):私は1966年に生まれまして、フリーランスになって24年になります。この間に、雑誌やウェブサイトのインタビューなど、いろいろな書く仕事をしてきました。今の主な主戦場は本になっていまして、著書は30冊になります。自分の本を書く他に、他の方の代わりに本を書くという仕事もしています。たとえば経営者の方、スポーツ選手や政治家の方などです。

そういった方はお忙しいですから、私が代わりにインタビューをして書きます。この仕事を「ブックライター」と命名しまして、そのブックライティングの本が70冊くらいあり、合わせて100冊くらいの本に関わってきました。書く仕事をする前、実はキャリアのスタートはアパレルメーカーの営業マンをしていました。当時は書くことは大嫌いで、文章を書くのが苦手だったんです。

田原:今ブックライターという肩書きですが、先生も書くことが苦手だったんですね。苦手な人でも書けるようになるということでしょうか?

上阪:ぜんぜん問題ないですね。

田原:実は先生はむかし1日300字しか書けなかったそうです。それが今では1時間で3,000字、さらに5日間で本を1冊というペースで文章を書ける爆速ライターへと変貌を遂げられた上阪先生に、超スピード文章術について学んでいきます。

ホワイトカラーの業務の多くを占める、PCで文章を書く仕事

上阪:今日書いていた原稿が、某コンピュータ系の会社の原稿だったんですが、今や全仕事のうちの3割がメールだったりするそうです。

田原:仕事のうちの3割がメールを打つことに当たってしまうんですね…。

上阪:要は書いている仕事、メールだけで全体の3割ということです。

田原:1日メールの返信だけで終わっちゃったりとかありますよね。

上阪:そういった方もけっこう多いと聞きますし、午前中はメール対応に当てているとか、メールを書くのにとても時間がかかって、残業をせざるを得なくなった、なんて声も聞きます。でも実はメールだけじゃなくて、レポートや、企画書、プレゼン資料、あとPRの記事とか社内報やら営業日報やら議事録やら、とにかくパソコンに向かって書く仕事が、今は仕事の大部分を占めてきつつあると思うんです。

ですから、書くことを速くすることができれば、当然仕事の生産性が上がって仕事が早くなりますよね。つい最近ですけど、「1本のメールを書くのに15分」という記事を書きましたらバズりまして、やっぱり悩んでいる人が多いみたいですね。

田原:15分ってけっこう長いですね。

上阪:長いですけど、でもやっぱりかかってしまう人はかかってしまうみたいですよね。

田原:それだけビジネスにおいては書くことが求められていると言いますか、そこから逃げることはできない。ということですね……。

上阪:僕の場合、月に1冊書いていて、かつその他にもインタビューの仕事がありますので、月間で15万文字くらい書いているんです。15万文字をこなさないと月の仕事が終わらないので、要は速く書かないと仕事が回っていかないんです。

田原:つまり、速く書かざるを得ない状況になっていると。

文章は書けなくて「当たり前」

田原:では、なぜそんなに文章を書くのに時間がかかってしまうのでしょうか?

上阪:これはぜひ知っておいてほしいのですが、当たり前なんです。

田原:当たり前。誰もがかかってしまって仕方がないということですか?

上阪:時間がかかるというか、書けなくて当たり前なんです。書けると思っていること自体間違っていて。というのは、なぜかというと、誰も教わっていないんです、書き方を。

田原:ビジネス文書の書き方は習ったことがないということでしょうか?

上阪:田原さんは習ったことありますか?

田原:会社で簡単に教えてもらうことはあっても、文章の書き方までコミットした教え方はないと思います。

上阪:ないですよね。習っていないので書きようがないんですけど、一生懸命みんな何かをまねして書こうとする。だから困ってしまうことになっていて。そして、書く時に邪魔をしているものがあるんです。それを僕は「呪縛」と呼んでいるんですけど、これを取り払うマインドセットが必要なんです。

フリーを24年やっていますけど、途中で気付くんです。「あ、なんだ、こうなの。これでいいの」と。

田原:呪縛というのはなんでしょうか?

上阪:これは小学校の頃から植え付けられているものなんです。作文って小学校の頃以来教わっていないんです、ほとんどの人は。小学校の頃に書いた作文ってどんなふうに教わったかというと、うまく書かなくちゃいけないとか、文法どおりに書かなくちゃいけないとか、起承転結とかセオリーどおりに書かなきゃいけないとか、点やら丸やらというルールでがんじがらめだったんじゃないでしょうか。

なおかつ、当時うまい文章といわれていたのって、優等生が書いた立派な文章だったり、評論家の書いた難しい文章だったり、文豪先生が書いた格調高い文章だった。なんですけど、そんなの今求められていますか?

田原:そういうことなんですね。

日々読む文章に、誰も「うまさ」を求めていない

田原:でも確かに、文章を書いたら「すごいね」って言われたいなって。

上阪:え? 言われたいですか(笑)? でも、実は自分が文章を読む立場になって、Webサイトを読みます、あるいはメールを読みます、人が書いたレポートを読みますといった時に、文章の上手さを求めますか? 「すごいな、これうまいな、この人の文章」、なんて絶対思わないですよ。

田原:そうですね。わかりやすかったらいいなとか思うんですけど。

上阪:誰もそんなこと期待してないと思います。だから、みんな勝手にイメージを膨らませて、うまく書かなくちゃいけないという呪縛にさいなまれているんですけど、まったくいらないです、そんなこと。僕はうまい文章を書こうなんて思ったことは一度もありません。まったくないと言い切れますね。

そういったプライドは捨てたほうがいいですね。「うまい文章を書かなくちゃいけない」というのは完全に呪縛で、そんなのはいらないんです。わかりやすい文章があればいいんです。わかりやすい文章。まずそこの呪縛を徹底的に捨てなきゃいけないですね。

田原:この呪縛はけっこうみなさん持ち合わせていますよね。

上阪:そうですね。それは小学校の時の作文を習って以来、ずっと書くことを習っていないからです。だから「実用的文章」と僕は呼んでいますけど、大人の書く文章を学習してきていないんですよ。なのに、小学校の呪縛が邪魔をしてきてしまっていて、というのが非常に大きいと思っています。なので、うまい文章を書こうとしなくなった瞬間に楽になるんです。

かっこいい言い回しとか、小難しい形容詞とか、格調高いなんとか、みたいなことを探したり考えたりするのに時間がかかるんです。そんなのいらないんです。まずそんなのいらないということを頭に入れるマインドセットをしてほしいんです。

文章ってコミュニケーションの単なるツールで、ぜんぜん大したものじゃないんです。なのにみんな、「文章」という瞬間に固くなっちゃって、立派なものを書かなきゃいけないって。これを捨ててほしいんです。文章なんてたかが文章。ぜんぜん大したことない。「なんだよ、それ」ぐらいな感じで思っていればいい。LINEを書く時に肩肘張らないでしょう?

田原:肩肘張らないですね、思ったとおりに書いています。

上阪:で、速いでしょう? すぐ書けるでしょう? それでいいんです。LINEの文章でいいんです。LINEの文章はすぐに書けるのに、どうして普通の文章になるとみんな肩に力が入ってあんなに時間がかかってしまうのか。LINEの文章でいいんですよ。

田原:ハードルはもうちょっと下げていく感じでいいということですね。

上阪:もちろんそのままじゃないですけど、その感覚でいてほしいんです。LINEでいいんだと。そうすると一気に文章を書くのが、楽になると思います。

文章が書けるかどうかは、「素材」次第

田原:今回のテーマは「10倍速く書ける素材文章術」ですが、どうすれば、10倍も速く書けるんでしょうか?

上阪:僕は今では、けっこう書くのが速くなりました。本を1ヶ月で1冊書いていて、大体5日ぐらいで1冊書いています。どうして速く書けているかということについて、実はずっと言語化できなかったんです。その理由がわからなかったんですね。なんで自分がこんなに速く書けているのか、どうして他の人よりも速く書けるのか。でも、おととしの冬にわかったんです。

田原:わりと最近わかったんですね。

上阪:つい最近です、言語化できたのは。それは何かと言うと、キーワードは「素材」だったんです。この本の「素材文章術」の素材なんですけど。端的に言うと、「どう書くか」ではなくて、「何を書くか」が重要になるということです。

田原:何を書くか、「内容」ということでしょうか?

上阪:HowではなくWhatなんです。どうやって書くかということではなくて、何を書くか。つまり、その何を書くかの「何を」が素材なんです。最初に申し上げたように、文章はツールなので、道具が大事じゃないんです。肝心なことは何が書かれているかなんです。その何がというのが素材。その素材自体が実は文章の中身の9割を構築しているんです。

田原:じゃあ素材が良ければもうほぼ文章は完成ですね(笑)。

上阪:そういうことなんです。素材さえいいものが集まってくれば、いくらでも量が書けるし、いくらでもドキッとする内容を伝えられるし、おもしろい話が書けるんです。素材がないと、なんとかして言葉をひねり出したり、考え込んじゃって書かなくちゃいけなくなっちゃうんです。

なので、素材さえあれば書くことには困りませんし、書くことがないということにもならないですし、言葉をひねり出さなくてもいいし、構成もつくらなくていいんです。つまり、僕はそれをやっていたんですね。結局素材を意識しているから速く書けていた。じゃあ素材ってなんですかと。

素材とは「独自の事実」、「数字」、「エピソード」

田原:素材ってなんですか?

上阪:僕は3つあると思います。それは「独自の事実」、「数字」、「エピソード」です。

田原:すごくわかりやすいですね。

上阪:この3つを意識して、文章の「何か」を考えればいいんです。1個サンプルを見ていきましょう。「なぜ成城石井のワインは1,500円の安さでもおいしいのか。ヨーロッパから船積みされたワインは2ヶ月かけて日本に運ばれますが、冬でも30度近い気温になる赤道直下のエリアを通過することになります。

普通のコンテナで運んでいたら、内部はとんでもない暑さになる。昔はそんな状態でワインが運ばれていたのです。これがワインに影響を与えないはずがない。その問題を解決するべく、成城石井が取り組んだのが、リーファーと呼ばれる定温コンテナ輸送で直輸入することでした。30年も前のことです。

そして、日本に着いてからも完全定温、定温管理の倉庫を建造し、ワインを保管している。24時間温度や湿度を管理し、冷気が全体にまんべんなく自然滞留される仕組みも取り入れている。成城石井はここまでやっているのです。だから1,500円のワインでもおいしいのです」。ということで、これで400字あります。

これは『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』という本の中に出てくる一節です。取材をして書いた記事なんですが、僕が表現めいて入れたフレーズはほとんどないです。あとは全部事実である「素材」なんです。つまり独自の事実です。

田原:すっきりしていますよね、すごいです。

上阪:「ヨーロッパから船積みされたワインは2カ月かけて日本に運ばれます」「冬でも30度近い気温になる赤道直下のエリアを通過する」。これが”独自の事実”ですよね。“数字”とは、「1,500円」「2ヶ月」「30度」。

”エピソード”は、「日本に着いてからも完全定温、定温管理の倉庫を建造し、ワインを保管している」。要するに私は、この3つの素材を探りに取材に行くんです。取材に行って得た内容を並べているだけなんですね。

田原:それでいいんですね。

上阪:はい。取材から得た情報だけで、400字の文章ができました。これを書くのに、5分かかってないです。

田原:これ5分かからないんですか?

上阪:はい。素材があるんですもん。あとはその内容を全部並べるだけです。

文章はひねり出すものではなく、そこにある事実や素材を紡ぐもの

田原:なるほど。どうやって並べようかな、みたいな、「順番」はあるんですか?

上阪:基本的にインタビューで話を聞いた時に、しゃべる人は大体この順番でしゃべってくれるので、ほとんどこのまま並べればいいんです。僕が考えたのは「成城石井はここまでやっているのです。」ここだけじゃないかな(笑)。

田原:そこにちょっと命を吹き込むわけですね。

上阪:結局「成城石井のワインは1,500円の安さでのおいしい」という話を、こうした「素材」なく書こうと思ったら、これは大変なことです。

田原:でも取材にきちんと行かないといけないということですよね。

上阪:もちろんそうなんですけど、結局その「おいしいのか」というのを、なんとかして日本語にひも解こうとすると大変な思いをすることになっちゃうので、そんなことよりも素材に目を向けて、素材を探しにいったほうがいいと思います。要は取材に行かなくても、Webで探せば出てくるかもしれません。「成城石井のワインはおいしい」で検索するとこういうこの内容が出てくるかもしれない。

そうすると同じ内容が書けますよね。それは素材に目を向けないと書けないということです。要するに文章ってひねり出すものじゃなくて、そこにある事実や素材を紡ぐものだと思ってほしいんです。大事なことは素材や事実をいかにたくさん集めるかが圧倒的に大事で、つまり準備のほうが大事なんです。

書きはじめてどうしようかじゃなくて、その前にどのくらい素材、文章の内容を用意できるか。何を用意できるかのほうがよほど大事。実は書くプロという意味でいけば一番わかりやすいのは新聞記者ですよね。

田原:新聞記者ってやっぱり取材に行くイメージがありますよね。

上阪:新聞記者って必ずメモ帳を持っています。あれで素材を集めているんです。今はICレコーダーですよね。あれ素材を集めるためなんです。素材を集めるために、手帳やICレコーダーを持つ。彼らはあれがなければ新聞記事は書けません。書くプロも、素材とメモをするためのツールがなければ記事が書けないんです。彼らも、何もそのメモなしで書いてくれと言ってもたぶん書けないと思いますね。

田原:いかに素材を集めていくかが大事になってくるんですね。

上阪:雑誌や新聞記者などの書くプロも、みんな「素材」から文章を書いているわけです。

田原:ひねり出しているわけではないのですね。

上阪:唯一の例外は、小説家さんや、一部のエッセイストさん。あの人たちは天才です。僕は何人もインタビューしましたが、あの人たちは天才です。絶対まねはできません。

田原:あれは本当に絞り出すということですよね。

上阪:絞り出すんじゃなくて、極論をいえば、神様が下りてきています。あれは絶対にまねはできないので、同じようなことをしようとするからみんな大変なことが起きるんです。違うんです。

美しい文章よりも、知らない内容のあるわかりやすい文章

上阪:メールもレポートも企画書も同じで、どのくらい素材、独自の事実、数字、エピソードを集められるかなんです。

田原:下りてくるわけじゃなくて、集められるかということなんですね。

上阪:それが大事なんです。メールも同じように、レポートも同じように、素材さえ意識していれば速く書けるし、ちゃんと伝わるものになるんです。最もやってはいけないのは、素材をちゃんと集めずにゼロから書こうとしてしまうこと。ちゃんと準備できてないのに。

田原:持ってないのに、さあ書こう、なんてすると、絶対書けないということですね。

上阪:それは書けません。僕でも書けません(笑)。

田原:神は下りてこないんですね(笑)。

上阪:下りてきません。絶対にきません。あるいは、素材が足りないのに書きはじめてしまうこともよくないことです。3つしかないのに、3行分しかないのに400字書こうと思ったら、それはなんとかして文章を長くしたり、紡いだりとかしなきゃいけないから。

たぶんこれは、ネタ的には1,000文字分くらいあったのを短くしているはずなんですけど。要は長ければ長いほどいいんです、たくさんネタがあればあるほど。これを短くすればいいので、いかにたくさん素材を集めるかのほうがよほど大事なんです。

田原:ということは、素材はあればあるほどいいということですよね。

上阪:あればあったほうがいいですね。

田原:そこから一番大事なのを選んでいけばいいですもんね。素材を集める力が強い人って文章もうまくなりそうな予感がしますね。

上阪:そういうことです。要は新聞記者もそうですから。どんなにうまい文章を書く人よりも、誰も持っていないネタを書いたほうが読者は驚くし、スクープになりますよね。同じことで、こねくり回して美しい文章にするよりも、知らない内容とかがあったほうが楽しくありません? 

勉強になる話とか、さっき言っていたうまい文章じゃなくてためになる話とか、おもしろい話とかがあったほうがいいじゃないですか。ぜんぜんわかりやすくていいんです。だから、背伸びしてうまい文章を書くことを考えるよりも、圧倒的に素材を気にしたほうがいい。いかに素材を集めてきて伝えたい話にするかというほうが大事なんです。