入社33年目で飛び込んだ人事の分野

黄瀬真理氏(以下、黄瀬):では次は、NTTコミュニケーションズさまの事例を用いて、浅井さま、お願いいたします。

浅井公一氏(以下、浅井):みなさんこんばんは、NTTコミュニケーションズの浅井でございます。よろしくお願いします。タナケン先生、それから浅川さんというビッグネームの後に本当に恐縮なんですが、こういう機会を与えていただきましたので、少しお話をさせていただきたいと思います。

私の経歴はこんな感じです。実は、昭和56年に公務員として電電公社(日本電信電話公社)に入社したんですが、まさかこういう会社になるとは思わず。「税金で食べていく」ということで入社したんですが、いろいろ激変の中を勤めてまいりました。

2006年から、7年間ほど労働組合をやっています。その時にも社員や組合員の方からいろいろ相談を受けていますが、今受けているようなキャリアの相談とはまったく違って、労働組合の相談でした。借金の相談や離婚の相談、「反社会勢力からちょっと脅されている。どうしたらいい?」とか、ほとんど弁護士を仲介するような相談ばっかりだったんですけど。

そういった機会を経て、2013年、入社33年目にして初めて人事の分野に飛び込んでいったという経歴でございます。タナケン先生と一緒に『ビジトレ』という本も書かせていただきましたし、今月から浅井塾という私塾も開設をさせていただきました。

ビジトレ: 今日から始めるミドルシニアのキャリア開発

2025年には社内の半分が50歳以上になる

浅井:まず、NTTコミュニケーションズってどういう会社かなんですが。今日はシニアがテーマですから、「こういう通信業」とか、そういう話をするつもりはなくて、年齢構成や従業員数ですね。

1万人ちょっとの会社で、先ほど「もうしばらくすると、40パーセントぐらい高齢者が増えている」という話がありましたが、今、NTTコミュニケーションズでは40歳以上が7割ぐらい、そして50歳以上が4割ぐらいいます。シミュレーション上では、2025年にはもう半分以上が50歳以上になってしまう計算です。

これは来年から入ります、65歳以上の雇用の努力義務化。この分が加味されていない数字ですので、今年1年前倒しでNTTはすでに66歳の雇用を始めているんですけど、そういったところを踏まえると、この数字が53パーセントではなく、もうちょっと高い数字になると思います。

私は毎年ずっと、50歳になる全社員とキャリアの研修と面談をしてきています。縦軸が我が社の人数で、横が年齢。この辺の層のところ、ほぼほぼ全員と面談をしてきたということになります。

シニア世代の間でネガティブな“風”が吹いている

浅井:この中では、我が社でいろんな都市伝説の話が出ていまして。例えば昇進でいうと、「45歳までに課長になれないと、もう上がれないよね」「どうせ評価は若手優先なんでしょ」「管理職は賃金が上がっていくけれど、俺たちって……」。

我が社の管理職比率は2割ぐらいなんですが、8割ぐらいの方が「45歳からぜんぜん(役職が)上がっていかない」と。賃金はちょっとずつ下がっていて、60になったらどんと落ちる。こんな都市伝説というか“風”が吹いてるんです。実はこれ、昇進についてはそんなことはないんですね。45歳を過ぎても上がってはいける。ただやはり、数は減っていく。

それから、評価については当たらずとも遠からずです。「若手が優先かなー」という感じですね。賃金は都市伝説ではなくて、ほぼほぼあっています。これが、NTTコミュニケーションズの状態だということです。

なので、みなさんの会社と比較してどうなるかはわからないですが、こんな中でシニア社員のモチベーションを上げてきた、といったところです。やってきた取り組みは、みなさんの会社とほぼほぼ一緒だと思いますね。

キャリアの研修をやって、その後面談をやります。面談をやった後、上司向けに「この人は、こういう感じの人でした。こういうキャリアの思考を持っているので、上司であるあなたはこういう接し方をするといいんじゃないですか」という所感を書いて、そこの上司にフィードバックしていきます。

行動変容の指標は、本人ではなく周囲の人の評価

浅井:それからもう一つ、キャリアの面談の中で「いつから何を始めますか?」というコミットをしてもらいます。コミットしてもらったら、「あなたその時期になったら、本当にそれ始めていますか?」と、行動を起こしているかどうかをメールとか電話で確認しています。

ですから取り組みは至ってシンプルで、どこの企業でもやっている王道な取り組みだとは思いますけれども、流れとしてはこんな感じになります。これをやってきた結果どうなったかと言うと、実は9割ぐらいの人が行動変容を起こしてくれてるんですね。

この9割の行動変容というのは、我が社に1つこだわりがありまして。どうやって行動変容を取っているかなんですが、本人が「俺、ちょっと変わったな」「ちょっとがんばるようになったな」と思ってもだめなんですよね。

周囲の者、あるいは上司が「この人変わったな」と気づかないと意味がないので。面談と研修を受けてくれた人が数ヶ月経ってから、上司に対して「あなたの部下、行動変わりましたか?」というアンケート調査をするんですね。すると、「おぉ、変わったぞ」と言ってくれた人が9割いるということなんですね。

数ヶ月経ってから調査するのは、面談とかが終わると“湯上がり効果”でぽかぽかして、すぐ行動が変わるんですけど、1週間もすれば元に戻っちゃいますから。3ヶ月とか4ヶ月経って「変わったか?」と聞いた時に、「変わった」と答えてもらえれば、行動変容が続いているという1つの証しになるので、期間を置いてやっています。

行動変容以外にも、実は50代の昇格者の数がここ数年で3倍ぐらいに増えていますし、相対的に業績評価も1ランクぐらい上がっています。

それからメンタルヘルスの新規発生率なんですが、私が面談を行った2,000人と、面談をやっていない1万人弱の層があります。そこを分けて新規の発生率にどれぐらい差があるかというと、私がやった2,000人はその他の層に比べて、10分の1しか発生していないという間接的な成果も現れてきています。

キャリアの「自律」を果たせた人が、6年間で約17倍に

浅井:これは、私が施策を始めた2014年から2020年の間に、どれだけの人がすでに自律を果たしていたかというパーセントです。要は、研修とか面談をやる前から、自分で高らかなビジョンを持って、それに向かって一生懸命研鑽をしている。

さらに、そういう努力やビジョンだけではなくて、今の仕事ですね。業績評価も高いレベルでパフォーマンスを発揮し、さらにビジョンに向かってやっている人がどれだけいるかという割合です。最初、私が面談を始めた時は1.5パーセント。そんな人が100人に1人しかいなかったのが、年々こうやって上がってきたということです。

実は2019年の途中に我が社では大きな組織変遷があって、7割ぐらいの社員が上司と部下が変わっちゃったんですね。なのでビフォーアフターが測定できないということで、2019年のデータがないんですけれども、2020年は2月ぐらいまで面談をやってましたから、調査中の中間報告ですが26パーセント。

この先全部やった時に、さらにこれが上がってくれることを期待していますが、2018年の段階で、だいたい2割ぐらいの人がすでに自律を果たしていった。何もしなくても自律しているというデータです。

「変わろう」という意思がない社員にどう接するか?

浅井:21パーセントの2018年はどういう状況だったかというと、21人は自律しているわけですが、自律できていない人は79人いるわけですね。その79人の中で「このままじゃだめだ」と思っている人が65人いました。

そこに対していろいろアプローチをしながら面談も重ねていって、変わることができた人が60人。先ほど言いましたけど、92パーセントの相似は65分の60ということです。どうしても変われなかった人は、やっぱり5人ぐらいいる。

ポイントは「変わろう」という意思がないという、14人なんですよ。ここが14人いたというあぶり出しを、私のところでは非常に強くやっています。会社は成長していきますから、「このままでいいんだ」という状態を継続してしまうと、評価が下がってきたり、だんだんお荷物になっていってしまうんですが、「それでもいいんだ」という人が14人いる。

この14人をあぶり出すまでには、何度も何度も面談を重ねて「本当にあなた、それでいいんだよね?」と確認し「いいんです」と答える。こういった人たちはもう変わらない人たちなので、我々はアプローチするのを止めたわけですよね。

そうすると、この14人とすでに自律している21人の35人は、その人たちと接しなくてもいいわけですから、100のエネルギーを65人の「変わりたい」と思っている人にかけていけばいいということで、この14人のあぶり出しに、1つ焦点を当てているということです。ちゃんとこれを繰り返していけば、9割ぐらいの人は行動が変わってくれます。

文化ができれば、社員は勝手に自律していく

浅井:大きな行動変容もあれば、非常にしょぼい行動変容もあるんですよ。「挨拶しない人がするようになった」とかね。それでも、上司がそれを変化と認めて「チームの雰囲気が変わったよ」と言ってくれれば、それも変化だし。すばらしい変化をする人もいるんですが、その濃淡はあれど、ちゃんと変わってくれます。

それからこの数字に表れているように、文化ができれば社員は勝手に自律していくんですよ。この取り組みは数年ずっと続けていますから、50歳になれば「今年は浅井さんとの面談があるんだな」という、健康診断みたいな位置付けになって。

あるいは、自律していく人を目の当たりにしていますから、「ちょっと俺も先んじてやろうかな」という人がどんどん増えていくので、ちゃんとやっていれば行動が変わりますし、文化ができあがれば社員は自動的に自律してくれるということです。

そして「ちゃんとやる」ってどういうことかなんですが、変化のきっかけをつかむまで面談を終えないんですよ。一番長い人は10時間ぐらい面談をやるんです。10時間と言っても、1日でやるわけではなくて「次の日も来てね」「来週も来てね」と、面談をしていきます。

あとは行動の変化が起きたら、“リバウンド”しないようにきちっとフォローし続けることですね。それが、私の言っている「ちゃんとやる」ということです。ちゃんとやることを何年も続けていれば、先ほど言いましたように文化ができあがっていきます。

キャリアコンサルティングにおける「再現性」の課題

浅井:そしてこれが最後の資料になりますが、各企業のキャリアコンサルにおける3つの大きな課題を挙げさせていただいてます。1つは、他企業の成功事例やキャリア理論を学んだところで、再現性がないということ。

例えば、浅川さんの話を聞いたり、田中先生の理論を聞いたり、私の話を聞いてその通りにやったところで、実は再現性がないと思っているんですね。ただ、別に勉強することを批判しているわけではなくて。そこはしっかり勉強していただいて、その中で理論や事例を使って自社の中でやってみて、「あ、これはうまくいくな」というものだけを選別していってほしいんですね。

だから、自社専用のキャリア理論。NTTコミュニケーションズでいうと、キャリアカウンセリングは大原則で「傾聴」があるんですけど、もともと公務員で入社した人たちに対して傾聴なんかをしても、実はキャリアのことなんてまったく考えていないので、意味がないんですね。

だから我が社の中では「傾聴なんてやったところでまったく意味がない」というキャリア理論があるんです。ですから、私がやってるキャリア面談の中でも、8割ぐらい私が話をしちゃっているのが実態なんですが、我が社についてはそのほうが効果があるので、こういったことをやっています。

あくまでも目的は「行動変容」

浅井:それから、施策の順番が逆なんですね。他のところでいろいろ講演もさせていただくんですけど、面談とか研修は、施策の順番としてはやはり最初は経営トップの理解がないと、施策って進まないんですね。

第2の条件として、それを誰がやるのか。あとは、やる人が本当にそれに専念できるか。いわゆる、上位者による環境作りですね。そこまでやった上で、初めて具体的な施策や面談のテクニックを学んでいく。この順番が正しいやり方なんですけど、多くの企業のみなさんがこの第3条件から入ってくるんですね。

「施策をやったら、結局経営のトップにダメだと言われちゃった。どうやって鈴をつけたらいいですか?」「浅井さんのようにやる人がいません」という課題にぶつかっちゃう。だから、順番が違うんだなと私は感じているところです。

最後になりますが、「やる」と決めても、やっぱりちゃんとやらないということですよね。要は、やるためには「どうなったら成功なのか」という定義付けができていないので、モチベーションを上げるためにやるだけでは、その先のいろんな工夫が続かないんですよ。

だから、行動変容率を50パーセントにしたいなら、最初に「50パーセントにする」と決める。「そうなったらこの施策は成功だ」という定義付けをすると、いろいろ数値を測ってみんなで知恵を出すじゃないですか。だから、そういった定義付けをやっていく営みが必要です。

「研修・面談をやった」というだけではなくて、やることの目的は行動変容させることなので、そこをちょっと間違えないように、ということですね。あとは成果があんまり出なかったとしても、「本当にここまでやったんだ」と言えるところまでやれば、失敗してもたぶん経営者は「ダメだ」と言わないと思うんですね。

「ここまでやったんだ」と言えるところまで、ぜひやっていただきたいなというところを最後にお願いして、私のプレゼンは終わりたいと思います。ありがとうございました。

黄瀬:浅井さま、ありがとうございます。