花王による「リサイクリエーション」の取り組み

瀬戸啓二氏:よろしくお願いします。花王でリサイクリエーションのリーダーを担当しています、瀬戸と申します。

私ども花王では「リサイクリエーション」という取り組みを、2015年頃から始めております。

「使ったら、捨てる。このあたりまえを変えたい」を活動の理念としております。リサイクリエーションは花王の造語でありまして「リサイクル」と「クリエーション」を組み合わせた言葉で展開しております。

私の略歴なんですが、1997年に鐘紡に入社しまして、最初のうちは化粧品の中身を作っていたんですが、2002年ぐらいに研究企画ということで、研究戦略を作るような立場になりました。

その後、花王グループに入り、今は花王の中の研究戦略・企画部でリサイクリエーションを担当しております。

私が初めてサステナビリティという言葉を聞いたのは、おそらく十数年前です。当時、パリに鐘紡の研究所がありました。フランスはやはり化粧品の聖地というか、発祥の地なので。

そこで研究所長をしていた者が、日本で研究のリーダーになった時に「これからはサステナビリティだ」ということを言って。その時は私にはよくわからなかったんですけども。今こういったかたちでヨーロッパから、サーキュラー・エコノミーが浸透してくるのを見ると「やはり間違ってなかったんだな」と思っています。

そして、我々のリサイクリエーションという取り組みは「地域のみなさんと一緒に集めて、それをどうやって使おうかということを、一緒に考えて一緒に使っていく」といった活動になります。

集めるものは(スライドを指して)右下にありますとおり、使用済みの詰め替えパックです。こういったもの裁断・洗浄して、ペレット化してブロックに再生しております。

レンガ大ぐらいのブロックにすることで、誰でも使えるということで活用いただいているところです。集めているのは、北見市、石巻市、女川町、上勝町、鎌倉市という5つの自治体です。

世界にあまり例がない「詰め替え」の習慣

最初に「なぜ詰め替えパックを集めるか?」というお話をさせていただきたいと思います。

(スライドを指して)こちら、日本石鹸洗剤工業会という団体のデータなんですが、日本では詰め替えパックというものが非常に浸透しておりまして、現在では、売られている容器の8割は詰め替えパックになっています。詰め替えパックのほうが(本体の容器に比べて)、4倍売れているということで。4回ぐらい詰め替えて使っていただいているんじゃないかなと思います。

こういったように、とても浸透してきていまして。

(スライドを指して)これは花王のデータですが、1995年には本体の容器がほとんどを占めていた。濃い緑が本体容器ですけれども。それからだんだん詰め替えパックが広がってきています。

濃縮によるコンパクト化と、詰め替えパックの浸透によって、この一番下のActual usageというところが実際のプラスチックの使用量になります。売り上げが増えても、プラスチックの使用量が変わらずに推移しているという状況です。本当は減らせればよかったんですが、現状維持できているという状況で進んでおります。

こういった詰め替えの習慣は世界にはあまり例がなく、日本とアジアの一部で行われていまして、リデュースにはとてもは大きな貢献をしてきました。一方で、リサイクルについては問題がありまして。現在、こういった詰め替えパックの容器は容器リサイクル法の中で「その他プラ」という分類で、自治体によっては回収されてリサイクルされています。

詰め替えパックにある、難リサイクル性

日本で130万トンほど、こういった「その他プラ」が出るんですが、そのうちの3割ぐらいがリサイクルされています。我々のこういったパッケージも種類に応じて、委託料を負担してリサイクルされることになっております。

実際のところは「中身が汚れているものは燃やすゴミに捨てる」とか、つめかえパックは複合素材できているために(注:プラスチックにもさまざまな種類が存在する)リサイクルしにくいものということで、発電などの用途で使われCO2になっているということが多くあり、これは課題と思っています。

具体的なイメージでいうと、こういった(詰め替えパックの)パッケージは中側が泡で汚れやすい。

なかなか洗っても取れない。それからフィルム断面のイメージとして、(スライドを指して)こういうものですけども、ポリエチレンが主成分なんですが、それ以外にPETとか印刷面のインクとか接着剤、アルミの蒸着、アルミ箔。こういったものが含まれています。それらは中身を保護するために必要です。こういったものがあるからこそ薄くできるんですが、それがリサイクルを難しくしているということです。

また「その他プラ」は(スライドを指して)このようにリサイクルされているんですが、ほとんどのものはパレットや擬木といった、我々のお客さまが直接使われないところ、目にされないところでリサイクルされていますので、実際「その他プラ」は分別していただいても、なかなか(消費者は)リサイクルされている実感がないんじゃないかなというところも課題のように思っています。

(上記の図は、公益財団法人日本容器包装リサイクル協会ホームページより引用)

徐々に増えつつある回収量

こういったことから、技術の開発によって難しかったリサイクルを可能にすることを進めたいということと、もう一方でリサイクルしたものに価値がないと広まらないので、それをクリエーションの力で価値を高めていきましょうということで、ブロックを作ってお返しすると。こういった活動をしてきております。

(スライドを指して)真ん中の図ですけども、回収BOXに地域の方が詰め替えパックを出していただけますと、我々がそれを集めて最終的にブロックにして、集めた量に応じて地域のみなさまにお返しするというお約束で、活動しております。

お客さんにとっては花王の商品か、他社の商品かはわからないと思いますので、すべてのものを集めております。そしてボトルも、もちろんリサイクルできるんですが、今回は集めず、フィルム容器のみを集めています。

食品も、もちろん同様にリサイクル可能なんですけども、腐敗の問題などがあるために現在は日用品のフィルム容器だけを集めております。

右側に年表というか、歴史が書いてありますけども。2014年ぐらいにTerraCycleという会社と一緒にビジネスモデルを検討し、2015年から社内で始めております。その後、上勝町、鎌倉、女川、石巻の順で広めていったんですけども。2019年以降、一旦課題を整理しようということで、地域の拡大は止めております。

具体的には(スライドを指して)このように、回収量は徐々に増えてきてはいます。

一番下の青いラインは、花王の社内で集めているものですが、そのほか5つの地域で集めていただいていております。それぞれの地域に特徴があって、それぞれ課題を設定して、実証実験というかたちで今、進めているところです。

リサイクリエーション拡大における、4つの課題

ここでわかってきた課題をご紹介しますと、1つはコストの問題です。

先ほどの図でも見ていただいたらわかるとおり、今はまだ、かなり(詰め替えパックの回収量が)少ないんですね。我々が扱っている業界で5万トンほど詰め替えパックを使っているんですけども、まだそのうちの10トンぐらいをようやくこの5年で集めたにすぎないという状況です。

こういうこともあって、コストが高いということもあるんですけども。これを広げていくには、今はすべて花王の持ち出しでやっておりますので、限界があるということです。それを解決するには回収コストを下げたり、安価な再生技術を作ったり、より高付加価値な用途を作って販売できることが必要と考えています。

もう1つは、拡大可能性ということです。今、一自治体ごとに仕組みを作って進めています。こちらの廃棄物に関しては法律がございまして、許可がないと集められないということです。こちらについては、各自治体、一自治体ごとに環境部みたいなところとお話をして、問題がないことを確認したうえで、進めております。これは日本の1,700以上の自治体がある中に、一個一個確認しながら、広めていけるのか? ということになります。

3つ目は、再生樹脂の用途ということです。ブロックにしてお戻ししていますけども、これもゴミになるものではないので、いずれ溜まっていって供給過多になります。使い道がなくなると、ゴミになってしまうということで、これをどう使っていくかを考えなきゃいけない。例えば「水平リサイクル」という(詰め替えパックに使われている)フィルムからフィルムにできる、我々自身が使っていけるような、そういったことが必要と考えています。

4つ目は目的の明確化です。地域の方々にご協力いただいていますが、習慣になっていきますので「明日から回収をやめます」ということにはいきません。実験がそれぞれ目的を明確化して、それに対して協力いただくということで、始めたら基本的には永続的にやりたい。こういったことが、ある意味、回収地域を増やすところの課題になってきています。

ついに実現した、花王とライオンの協働

これらを解決するにあたって、やはり1社でやっていると限界があります。そこで花王とライオンで協働するということを、昨年の夏ぐらいから議論をしてきました。1年ぐらいかけた議論の結果「一緒にやっていきましょう」ということで合意して、協働が始まりました。

(スライドを指して)この絵は、一般の方が見たら普通に見られるんですけど、花王とライオンの従業員から見ると「花王とライオンの商品が並んでPRされている」というのは非常に違和感があって、社内では衝撃的な絵です(笑)。

こういった取り組みを広めていき、我々は「詰め替えパックをリサイクルしやすいような容器にしていかなければならない」と考えています。そこでまず、それは何が足かせになっているか? を共有化して、ガイドラインを作っていこうとしています。それからお互いに消費者に協力を求めて、分別いただくようにする。

それから行政と連携・法整備をして集めやすくする。それを運ぶところもコストダウンして、効率化して、環境への負荷も低くする。集めたものについても「どうやったら使えるだろうか?」ということを考え、品質・価格を改善して、入手しやすさも必要なポイントなので、そういうところも協力していこうとしています。

今はブロックとして地域にお返ししておりますが、詰め替えパック用のフィルムからフィルムへ戻すような、この輪をつないでいくことが一番大事と、我々は思っております。ライオンと花王でここをやっていこうということで、今年の9月10日に宣言をしたということになります。

我々の宣言の内容としては、(スライドを指して)この4つを一緒に取り組もうとしていたところです。1つ目は、普及促進・啓発活動をしましょう。それから2つ目が材料の活用方法を検討していきましょう。3つ目は、分別回収の仕組みを作っていきましょうと。それから4つ目に、容器の設計を一緒に考えていって、使いやすい、リサイクルしやすいものに合わせていきましょうと。こういう活動を今進めています。

まず第一歩として、この1番と3番。普及促進・仕組み作りということで、10月30日に墨田区の1店舗からなんですけども、イトーヨーカドー曳舟店さんに協力いただいて、店頭回収をスタートしました。

(スライドを指して)5つの回収ボックスがありますけど、一番右側が詰め替えパック専用の回収ボックスにしていただきました。その中に今、地域の方々に集めていただいているところです。

墨田区というのはライオンの本社があって、花王も研究所がある立地になっています。私の出身の鐘紡の発祥地、鐘ヶ淵もここにあります。こういった意味で、我々の産業の発祥の地でもありますし、そこで集めることで回収の状況をリアルタイムに見ながら改善できるんじゃないか? ということで、ここからスタートしたということになります。

地域で始めたことが日本の、世界の“あたりまえ”に

その中では今、3Dプリンターに使えるフィラメントも、ブロックと同じように作成しました。それをクリエイターの方に使っていただいて、アートとして広めているところです。ただ単に回収ボックスを置いても、これまでリサイクルに出す習慣がない方が集めてくださるわけではないので、いかに地域のみなさんに「集めていただくことに価値があるか」を伝えるということが必要です。

リサイクル樹脂の風合いって、少しくすんだような色合いになるんですね。もともとのペレットがグリーン寄りのグレーみたいな色なので、色をいくら入れてもそんな鮮やかにはならないんですが。(スライドを指して)こちらのワクイ アキラさんが言ってくださったことで一番うれしかったことは「それがかえってアンティークっぽい」ということかと思いますが「高級感のあるようなもので、とても素敵にできた」と言っていただいて。こういったことも価値につなげていきたいなと思っております。

方針を整理して2020年、花王の中にリサイクル科学研究センターというリサイクルのための研究所が発足しまして、ライオンとも協働を開始することになりました。こういったように地域で始めたことが、企業の戦略にも今なってきております。2025年に花王とライオンで年間1万トンを回収されるようにがんばっていきましょうと握っています。

かなりストレッチな目標で、今からちょっと心配している数値ではありますが、5万トンのうち、1万トンでも回収できれば「あたりまえ」にかなり近づいてくるということで、この目標を設定したところです。

最後のスライドになりますけれども、リサイクリエーションで感じていることとしては、こういった地域で始めたことが日本のあたりまえになって、世界のあたりまえになって。いつかこういったもの以外のものも、変えていくようなあたりまえを作っていくということを花王から、日本から発信していきたいと思っているところです。

私の発表は以上です。ご清聴ありがとうございました。