すべて懇切丁寧に教えることが読み手にとって最善ではない

松尾茂起氏:続いて5つ目。問いを与えることで生まれる適度な思考負荷。ややこしいこと書いていますけど、簡単に言うと、何かを伝える際に1から100まで懇切丁寧に教えるのではなく、あえて問いを入れて考えてもらうことです。

『沈黙』シリーズは読んでいくとボーン・片桐がけっこう質問してくるんです。「じゃあ逆に聞くぞ。この旅館の強みは何だ?」「お前は自分の考えたコンテンツが公開後にどうなるかをしっかり考えたか?」「その引用はどうやって行うんだ?」とか。疑問をどんどんぶつけてくるんです。

なぜやっているかと言うと、わざとなんですね。ボーン・片桐が全部答えを言うとこの本ぜんぜんおもしろくないんですよ。一瞬でもいいから問いを投げかけられて、考えることによって我々は知的興奮を感じます。ちょっとチャレンジしたくなるわけです。

ゲームのスーパーマリオもそうですよね。穴や土管がなくて、ずっと平坦だったら何もおもしろくない。あれを飛び越えていく、穴をどうやってジャンプしたら先に進めるか、クリボーをどう避けたらいいのかと考えるからおもしろいんです。

その考えることを意識してコンテンツの中に入れてあげるのも重要です。すべて懇切丁寧に教えることが読み手にとっていいかと言うと、そうでないケースがあると考えておきましょう。

知的興奮があればワクワクを生むことができる。ただし、その問いを難しくしすぎない問いにする必要があります。読者が「これだったら考えてみよう」という問いを意識する必要があります。

問いの話でいうと、ワークショップなども考える負荷を与えるのでわりといいですよね。ただ、難しすぎたり、何やったらいいかわからないワークショップは逆効果です。疲れてしまうので。やはり取り組みたくなるようなワークショップを意識するようにしましょう。

情報の質量を増やすWHYの使い方

続いては6つ目。差異を細かく伝えることで生まれるWhy起点の情報質量。めちゃめちゃややこしいこと書いてますね。何のことかよくわからないと思うので簡単に言うと『沈黙のWeb』シリーズの中で、ビフォアアフターがたくさん出てくる。この文章をこう変えました、こうなりましたというプロセスがあるんですけど。そのビフォアとアフターの中のプロセスを細かく伝える。

例えば「文章をこう変えました」「画像をこう変えました」というのを一つひとつ取り上げることによって、「なぜ画像を変えたの?」「なぜ文章を変えたの?」「なぜ主語を変えたの?」という「なぜ?」がどんどん増えてくるんですね。

「なぜ?」で情報を返すことによって、ここで言う情報質量が増えていきます。沈黙シリーズにはビフォアとアフターがたくさん出てきますが、その中でWhyを何度も何度も繰り返し提供しています。

実際は問いを投げかけなくてもビフォアアフターをたくさん見せると、読者が勝手に「これなぜ変わったんだろう?」と考えるようになります。そうすると、細かな問いが増えるので情報の質量が増えるんですね。

細かな問いが増えれば情報の質量が増える。実はここがすごく重要で、この質量という言葉をしっかり覚えてほしいんですが、質問って質のある問いって書くんですよ。その質問に答えることによって、答える側も質問した側も両方に情報が増える問いのことを質問って言うんですね。

それを私は「情報の質量が増える問い」と言ってます。そのまま漢字のとおりです。質問を自分の中でどんどん作り上げていくと、情報の質量が増えるのですごく重要ですよね。

それを積極的にやってほしい。ちなみに、質が増えない問いのことは基本的に普通の問いか、もしくは逆に質量が下がるものは愚問ですよね。愚問しちゃいけないし、普通の問いだったらもったいない。やるんだったら質が増える質問をしようということです。

質問を読者さんが自分の中で勝手に作ってくれるコンテンツ構成は、ビフォアアフターを細かく出すことで、読者さんが読み進める中で質問を生み出して、自分の中で情報の質量を増やすことができます。

だから『沈黙のWeb』シリーズは、私が書いた内容や提供している情報よりも、みなさんが自分で導き出した情報の質量がたくさんあると思うんですよ。私がみなさんに提供している情報が10だとしたら、みなさんは自分でプラス90の情報を作り上げていて、それが100になっていると思うんですね。私の本を読んで質問を自分の中で生み出すことがうまい人であればあるほど、あの本はお役に立つと思います。

適度な長さは達成感を生み、愛着に変わっていく

続いて7つ目。完走した人だけが感じられる達成感ですね。

『沈黙』シリーズをお読みいただいた方はみなさんお感じになられていると思いますが、(スライドを指して)みなさん読んだあとに写真撮ってくださるんですよ。すごくありがたいんですが、写真を撮りたくなる気持ちわかるんですよ。

なぜかと言うと、どんでもないページ数ですから(笑)。自分で言うのもなんですけど「よう読みはったな」と申し訳なくなります。人生の1ページって大事と言われてて、その1ページが大事なのに496ページや632ページもあって、読んでもらって申し訳ないと思います。

でも許してほしいんですけど、これわざとなんです。ページ数が多いのも。これが200とか300ページだったら、みなさんあまり達成感を感じられない。さらに言うと『沈黙のWeb』シリーズは無駄な技の描写とかも多いですし。無駄じゃないですけど(笑)。爆発するシーンばっかりあるのに200ページだったら、みんな怒ってくると思います。

このページ数だからこそ、みなさん怒らずに済んでいると思いますが、でも読破した達成感をみんなに伝えたくなるんですよ。この伝えたくなることがすごく重要だと思っていて、別に私がしてやったりと思っているわけじゃなくて、伝えたくなることはみなさん愛着を持ってくださっている。

そのノウハウについて愛着を持ってくれて、理解が深まっている状態なので。要は、余韻が続いているわけで、私の本がみなさんの知識アップに貢献できたことを感じられる瞬間だったりします。

私は『半沢直樹』がすごく好きだったんですけど、やっぱり半沢ロスになっちゃって。おもしろすぎてあまりにも見事なドラマ構成で、終わってから3日間くらい「もう半沢や大和田に会えないのか」と思うとすごく切ない気持ちになったんですけど。

あれほどの余韻を『沈黙のWeb』シリーズがご提供できているかわからないですが、余韻が残ることはものすごく記憶に定着しやすいんです。だから記憶に定着しやすいお手伝いができたことだけでも私はすごくうれしく思います。

(スライドを指して)ここで13時間のセミナーという言葉が出てきたんですけれども。これ何かと言うと、496ページや632ページという数字は私からするとたいした数字ではなくて、この13時間という数字のほうがインパクトがあって。

実は宣伝みたいになって恐縮なんですけれども、毎年自分が体系化したSEOの知識を超集中講座という動画に落とし込んでいるんですが、これが13時間もあるんです(笑)。でも、この動画をみなさんちゃんと見てくださるんですね。

13時間も見たらかなりノウハウが身につくんですよ。本当に質より量じゃないですけど、それだけ時間を使ったっていうところにみなさんの記憶に定着するきっかけが生まれるので。ものすごく選りすぐったノウハウを磨いて、それでも13時間になってしまって申し訳ないんですけども。

毎年お客さんから怒られるんですよね。「今年こそ短くしてください!」「わかりました、6時間にします!」って言って結局13時間になるんですけれども。ただやっぱり長いものに巻かれろじゃないですけれども、ちょっと違う意味で使いましたけれども、やっぱりがんばった分だけ記憶には定着しやすいと思ってます。

ちなみに、この動画の中で「古希祝い」というワードの記事を作る企画が行われていて、本日その古希祝いというワードで動画のノウハウを使って1位が取れました。ちょっとどさくさに紛れて宣伝しておきます(笑)。

(スライド指して)これが動画の内容なんですけれども13時間あるんですね。13時間あってもみなさんしっかり応えてくださるということでございます。やっぱりがんばった分、みなさんの記憶に定着しやすいというのが先ほど申し上げた完走した人だけが感じられる達成感で、それを沈黙シリーズは意識したところですね。

お約束のストーリー構成は読者に安心感を与える

次は8つ目ですね。勧善懲悪から生まれるカタルシスですね。『沈黙』シリーズは本当にわかりやすいストーリーで、悪がヒーローに倍返しされるストーリーです。最終的に悪がボーンにやられて終わっていく。これだけ見るといったい何の本かよくわかんないですけれども、こういう本なんですよね。

こんなふうに勧善懲悪なストーリーです。初めて見る方はどういう結末になるかをドキドキしながら読まれているかもしれないですけども、世の中に普通に売られている本なので、そんなにおかしな結末にはならないと感じながら読んでくださっていると思います。

やっぱり正義があって悪がある場合はだいたい正義が最後に勝つ。それってある種のお約束なんです。だからそういう設定があると読者の方は安心して楽しめる。

私が大好きな『半沢直樹』もまさに勧善懲悪のストーリーで、最後まで勢いよくストーリーを引っ張っていって今作も最高でした。私は大和田さんが大好きで、最後すばらしかったですね。あえてヒール役を務めながら半沢に頭取への道をちゃんと導いて去っていく。いや、すばらしい。『半沢直樹』について語ると終わらなくなるので次いきましょう。

こういう勧善懲悪なストーリーは『沈黙のWebマーケティング』に出てきた言葉を借りるのであれば、メジャー感とでも言えます。メジャー感というのは「そうそう! これを見たかったんだ」「こうなるよね!」「お約束やけど、これこれ! これを私は求めていたんだよ」と感じさせる演出を入れることによって、読者の方は安心して見ることができます。

というのも、やっぱり読者の方はあまり脳に負荷をかけたくないんです。「この先どうなるんだろう」「う~ん、モヤモヤする」みたいな。もちろんそういうのが後押しとなって、コンテンツを楽しみたいという感覚が生まれることもあるんですけれども。

『沈黙』シリーズの場合は取り上げているテーマがWebマーケティング、Webライティングという専門領域だったので、シンプルに勧善懲悪やメジャー感を意識して作りました。

成功の裏にあった7つの誤算

ここまで『沈黙』シリーズが成功した8つの理由をお話してきました。今日は17のポイントなので、あと9つあります。9つはこのあと軽く紹介していきます。いろいろ考えたうえで成功しているように見える沈黙シリーズですが、どれだけ考え抜いても誤算はあります。というわけで、ここではちょっとNG集というか、誤算について紹介します。

発売してから発覚した7つの誤算。簡単に読み上げます。1つ目、女性が持ち歩きにくい。SNSを見て思ったんですけど、ツイートしてくださった女性の方が「なんで私こんな恥ずかしい本を電車の中で読まなあかんねん」とつぶやいていて(笑)。

しかもカバー取ってるんですよ。デザインやカラー、色合いなどめっちゃ計算したんですけども。みなさんカバー取って読んでらっしゃって。それでも読んでくださるのはすごくうれしいんですけれども。

あと誤算としてこういうのもありました。分厚すぎて書店の本棚に並びにくい。これは出版社の方に言われたんですけれども、「松尾さんの本は書店員からするとすごく場所を取る」と。「場所を取るわりに2冊分の金額じゃないから、書店員さんからすると本棚に置きたくないかもしれない」って。「平積みがいいかもしれないから平積み狙いましょう」みたいなお話を聞いてなるほどと。分厚いことはメリットだけじゃないと気づきました。

それ以外にも『沈黙』シリーズがウェブライダーより有名になってしまったので「『沈黙』シリーズ書いてます」って言った時に「あなただったんですか!」って言われるケースが増えた。

あとは、次の本を書く心理ハードルが上がりすぎた。本当に光栄なことにたくさんの方が読んでくださったので、別の本を書いた時に「あ~、沈黙シリーズが一番よかった」って思われたらどうしようって。誰もそんなこと思わないと思うし、ただの奢りだと思うんですけど、ちょっと心理の中に現れ始めています。

それと、会う人会う人に「そのカバン40キロですか?」って言われます(笑)。ネタだと思うんですけど、本当に言われすぎて最近は大きくしたらいいのかなと思って、カバンの中にどんどん物を詰め込むようになって、ようやく11キロくらいになりました。

あと実家の親に本を送ったら、表紙が裸体の筋肉ムキムキの人がバズーカーを発射してるので「あんた何書いてんの?」と。「あんたの会社大丈夫か?」とすごく不安がられましたね。

他にも『沈黙のWeb』シリーズを生み出した親でもあるので、自分がマーケティングをする時に「ボーンだったらどうするかな?」と考える癖がついてしまった。コンサルティングのご依頼をいただく時にも「もしかするとボーン級の提案を求められているのかな」と思うと心理ハードルが上がる事態になりました。

それが『沈黙』シリーズにあった誤算でございます。