学生のうちに見極めるべき「どっち向きか?」

桜井陽氏(以下、桜井):おもしろいですね。例えばマネージャーになりたい人とお客さんに向き合っていたい人って、要するにジョブからして違うということなんですね。

村上臣氏(以下、村上):そういうことです。キャリアパスがそもそも違うので。

桜井:当然、求められるスキルって違いますもんね。

村上:営業が分かりやすいと思いますけれど、お客さんに商品を説明してお客さんが成功するために、自社の商品を売っていくためには、コミュニケーションスキルだったり、組織の力加減を読み取るソフトスキルが要求されます。そういうものを体験や周囲から学びながら、目標を達成していく。自分で高い目標を設定して、それを達成するのが楽しいという人は、こちら(前線に立つプレーヤー)が向いていますよね。

一方でマネージャーは、やっぱりチームメンバーを助けて「チームで勝つためにはどうしたらいいか?」を考える。例えば1対1で面談をしたりとか、社内の課題に気づけるとか空気を読んで対策を打つとか。近くにいる人の成功を助けるためにコミュニケーションを取ったりとか、もしくは社内調整をしたりとか必要な予算を取ってくるとか。これは前線に立つプレーヤーとは、別のスキルが必要になってきます。

桜井:そうですよね。大学にいる時はその区別はなかなかつきにくいかも知れないですね。でもこれからの大学生は、社会人になる時には自分が「どっち向きか?」という点を見極める必要があるかも知れないわけですよね。

海外で働くキャリアパス

桜井:たぶん悩むと思うんですよ。「まず入ってそこから考えればいい」という世界ではなくなってしまっている可能性があるから。今、聞いていらっしゃる大学生のみなさんは、どういうところで悩んでいるんだろう。

もしコメントとかあれば拾っていきたいなと思うんですけれども。(リンクトインの)蛯谷さん、何かありますか?

蛯谷敏氏(以下、蛯谷):一つ、質問をいただいていて。スキルには関係ないのですが、将来、海外で働きたいという学生の方から質問です。

「海外で働くキャリアパスは、現状まず日本で外資系企業に入って、そこで経験を積んで転職する方法しかないのでしょうか?」という質問です。例えば、海外で働くことを希望している学生には、どんな方法があるのでしょうか?

村上:ありがとうございます。今で言うと、たぶん外資の日本法人に入るのが一番実現しやすい方法だと思います。入社すると、グローバルのいろんな職種が見えるはずなので、社内から他の国で働くことを希望できるケースは結構あります。

うまくいけば、社内の異動という形で転勤できるので、希望が叶いやすいかなと思います。それ以外の道で言うと、やっぱり現地の大学や教育機関を卒業して、そこから現地企業に就職するパスがあります。これは海外の大学に進学しないと難しいでしょう。

例外は研究者ですね。研究室と自分の研究が合致すれば、客員研究員のかたちで可能になります。ただレアケースだとは思います。

ですので、答えとしてはグローバルに展開している外資系企業の日本法人に入って、チャンスを待ってキャリアを積むのが早いのではないかと思います。

学生時代はOB・OGが話を聞いてくれる“ボーナスタイム”

蛯谷:もう1つ来ている質問が「アメリカではリンクトインがよく使われていますが、日本ではリンクトインで就職を決めた人の割合は、どれぐらいですか?」というものです。

村上:この1年で、学生のリンクトイン登録者数は25パーセント増えています。けっこう伸びている領域で、個人的に就活に使って就職したというお話を聞いています。ただ、割合としてはちょっと分かりません。

ただ、聞いた事例で言うと、インターンシップを募集していなかった会社に勤めている大学の先輩に、リンクトインでメッセージを送って熱意をアピールしたら、インターンに採用されたと。

ですから、自分でやりたいことを伝えていくのは大事です。特に学生の依頼は、大学のOB・OGの方も聞いてくれる“ボーナスタイム”でもありますので。臆することなくどんどんアタックしていくと、道が切り拓ける可能性が高いと思います。そういう使い方にリンクトインは向いているので、いろいろ試していただければと思います。

蛯谷:確かにインターンは、日本でもリンクトインで見つけている人がすごく増えていますよね。

村上:スタートアップの経営者も、最近はリンクトインを始めているので、探すとけっこう見つかります。メッセージすると、意外と返信が来たりしますので試すといいと思います。僕の元にもいろんなメッセージが、日々来ています。

桜井:やっぱり学生のうちに動くということが、すごく大事ですよね。「とにかく動く」と。リンクトインもそうですが、10年、20年前に比べればいろいろなツールがありますからね。やる気さえあれば、いくらでもできるはずですよね。

村上:そうですね。やっぱり雇用制度を変えるのは、大きな話なので相応の時間がかかります。5年10年のスパンで、徐々に変わっていくイメージですね。

おそらく、みなさんが就職活動をする時には、まだ従来型の新卒採用のスタイルが色濃く残っていて、特定の職種だけ完全ジョブ型雇用という状態になると思います。

エンジニアだったり、デザイナーだったり、あるいはデータサイエンティストみたいな職業ですね。それ以外は総合職として採用という形が、しばらく残るのだろうと思います。そして、入社した後すぐに社内でどのジョブにつくか? を選んでいくような形になるのではないかと、想像しています。

リンクトインは雇用制度を一気に変える「ど真ん中のツール」

蛯谷:もう1つ、質問が来ています。「なぜリンクトインが学生向けのイベントを開くんですか? 狙い・真意は何でしょう?」。

村上:「みんなに使ってほしいからです!」本音でそういう感じなんですよね(笑)。

僕は前職のヤフーからリンクトインに入社して、ちょうど3年経ちます。転職した大きな理由は、日本全体の雇用制度が一気に変わるなという予感があったからなんです。僕自身は、キャリアは自分で主体的に選ぶべきだし、会社の流動性が高まったほうが日本全体のためにいいと思っているんです。

そう考えた時に、リンクトインはそれを変える「ど真ん中のツール」として機能するだろうなという読みがあって、転職しました。今は新型コロナの影響もあって、多くの会社が変わろうとしているし、その変化は若い人たちが起こすと思っています。

さらに、リンクトインを学生のみなさんが使いこなすようになれば、企業自体変わっていくと信じています。それが、結果的に日本を変えていくと思うので、こういうイベントをやっています。

僕自身も含めて、社会人も学生のみなさんの質問から学んでいます。「今の学生の方はこういうことを考えている、こういうことを不安に思っている」といった声をプロダクトやサービスに反映して、なるべく多くの人たちに使いやすいものにしていきたいと考えています。それが、リンクトインのビジョンである「すべての働く人に対して経済的な機会を作り出す」につながると思っています。

“いいスタートアップ”の見分け方

蛯谷:もう一つだけ、質問です。「いいスタートアップをどうやって見分ければいいでしょう?」。

村上:(笑)。まず「いいスタートアップとは何か?」というのが、問いとしてはあると思うんですよね。「すごく売り上げが上がって、上場が近い」というのをいいと捉える人もいれば「社会課題に真剣に取り組んでいるスタートアップがいい」という人もいますから。

自分の中でまず「いいスタートアップって何だろう?」と定義してみてください。一般的なスタートアップのイメージって「ベンチャーキャピタルから15億円調達しました」と、みんな、ラーメン屋の店主みたいに腕を組んで写真を撮ってるのが多いじゃないですか(笑)。

人のお金を預かって事業をしているわけで、高い意識を持ってしっかり取り組んでいるか? という点は大事だと思います。そうした姿勢は、TwitterなりリンクトインなりFacebookなりの、情報発信から垣間見れることも多いです。そこで必要以上に“イキってる”と言うと変だけど(笑)、ことさら自分を大きく見せようみたいな感じの発信をしている人の会社は、気をつけたほうがいいと思います。

あとは、積極的に採用しているからいい会社だとも限りません。「お金が入っちゃったので、人をバーッと増やしました」と採用して、その後に困るスタートアップは、たくさんあるんですよね。

身の丈にあった事業をしているかは大切だと思います。社員が100人もいないのに馬鹿でかいオフィスを銀座の一等地に借りているようなスタートアップは、危険ですよね。やけに派手だったり、キラキラしすぎていて、そのわりには事業についてあまり聞かないみたいなのも注意ですね。

最近は、多くのスタートアップが学生イベントやミートアップをやっていると思うんです。ぜひ参加して、いろいろ見て学んでください。例えば、質問をした時に誠実に答えてくれるかどうか。経営者がオープンでフラットに接しているかどうか。時々「社長は神様!」みたいな感じで社員が取り巻く会社もあって、そういうのはだいたいダメです(笑)。

こういう、中にある情報も得ながら、自分に合ったスタートアップを見極めるのがいいのではないかと思います。

桜井:スタートアップの見極め方で言えば、メディアもうまく使ってもらったらいいと思います。日経新聞もスタートアップ情報には非常に力を入れています。「メディアに派手に出ているから、いいスタートアップか?」と言うと、もちろんそんなことはないんですが、日経新聞ってかなり厳しい目でスタートアップを見ているんですよ。だから、記事に載っている社長の言葉を、そこでちゃんと見てほしいですね。それで興味がわけば、直接コンタクトをしてみるとか、メディアの情報もうまく使ってもらえればいいかなと思いました。

デジタルスキルって本当に必要?

桜井:あと5~6分ですね。聞きたいなと思ったところは、ストレートに(スライドを指して)この辺りですね。

今はスキルと言った場合、求められるのはデジタルに関わるものが多いと思うんです。でも「日本はデジタル人材の育成がなかなか追いついていない」というニュースが多いんです。

例えばアメリカだと、人材育成にかかる費用の税控除が可能になっています。フランスでも、金額は忘れましたけど、多額のお金を投資して、デジタル人材の育成・医療人材の育成に力を入れようとしています。翻って、日本はそういった取り組みが少ないという報道は、けっこうあります。

一方で、デジタルスキルを持った人は、非常に重宝されるという面もあります。例えば「文系の1年生・2年生なんだけど、デジタルスキルのニーズが高いと言われているから、今からでも勉強したほうがいいのかな?」という声も聞くのですが、この辺りはどう考えたらいいですか? 

村上:すべての人が、プログラミングのスキルが必要かと言うと、そうではないとは思うんです。けれど、本質的なプログラミング思考は、文系理系関係なく必要になると思います。

ロジカルシンキングに近いんですけれども、コンピューターってやっぱりロジックをレゴブロックのように組み立てて、命令して動かしていくわけです。例えばエクセルのマクロもそうですが、いろいろなツールで目的を果たすために、ロジックを立てて命令する思考が大切になります。

最近だと、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールといいますが、いろいろなデータを分析して、分かりやすく可視化していく。そのツールの使い方も含めて、どうやって分析するかといったスキルは、近いうちにすべての社会人に必要となるスキルの1つになると思います。そしてその基礎となるのが、プログラミング的な思考だと思います。これを身につけるためには、なにか1つプログラミング言語を覚えるというのがいいかなとは思います。

筋トレはビジネスに通ずる?

桜井:なるほど。ありがとうございます。(スライドを指して)あ、筋トレ。これは別にいいですかね。

村上:これはなんでしょう?

桜井:なんとなくスキルというので、拾っただけです(笑)。

村上:あぁ、なんかやっていましたね、筋トレ特集(笑)。

桜井:でも、意外に「筋トレはビジネスに通ずる」というところもあって。

例えばプログラミング言語を1つ覚えると言うのも、けっこう筋トレに近い話かなと思っていて。時にストイックにやらないと身につかないことってあるじゃないですか。それを避けて「簡単に身につくスキルないかな?」と言っても、ダメな気がしていて。それなりに、自分に負荷をかけないといけないかなと。

村上:そうですね。やっぱり自分で目標を設定して、そのバーを越えていく。これも、マインドセット(意識)が大切ですよね。「常に学び続けるんだ」という思考があれば、何歳でも学ぶことはできると思います。5年でスキルが陳腐化するんだったら、5年ごとに大幅にスキルをアップデートすればいいと。常に学び続けるという思考も必要になってくるでしょうね。

その意味では、昔よりきついですよね。いろいろ覚えなくちゃいけない、自分をリセットしないといけない。ただそうしないと、自分のキャリアを作れない時代なのも事実です。やりきった人のほうが、キャリアはきっと充実すると思います。

桜井:なるほど。じゃあここで、セッションは終わりにさせていただければと思います。ありがとうございました。

村上:ありがとうございました。