どうすれば英語は身につく?

桜井陽氏(以下、桜井):(スライドを指して)ちょっとシェアしますけど、今はこんな状況みたいですね。英語も韓国語も、コロナで在宅留学というのが増えていて。

リクルートのスタディサプリは、4月上旬のダウンロード数が1月下旬の3倍になったと。TOEICの勉強用らしいですけれども、すごい伸びですよね。

オンライン会議が浸透すると世界中がつながった状態になるので、英語の重要性がさらに増しているというようです。まさに臣さんの言う状況が、外資系企業だけでなくて、すでにいろいろなところで起きているということですよね。

でも英語の重要性はもっともだと思うんですけれども、端的に言って、それを身につけるにはどうしたらいいですか? 

村上臣氏(以下、村上):文法で言えば、まず中学までの英語を完璧にすることですね。あとは経験で応用できます。それと慣れですね。自分の言葉で伝えるためには、反復練習しかありません。なるべくプライベートでも英語を話す機会を作ったりして、日々アウトプットを続ける。そしてフィードバックをもらうことを、ひたすら繰り返すしかないと思います。

TOEICの点数が良くても、仕事で使えない人はけっこういます。テストと実際の現場はやっぱり違います。自分の言いたいことを伝える行為は、案外、中学レベルの文法でも大丈夫ですが、論理立てて話すことがビジネスには求められます。やっぱり、経験がものを言う面も大きいかなと思います。

日本と世界で異なる、eラーニングの受講傾向

桜井:英語をハードスキルとした場合、それに対応するソフトスキルは何が大事ですか? コミュニケーション技術とかだと思うんですけれども。

村上:ロジカルシンキングですね。

桜井:ロジカルシンキング。これはスキルとして身につけておくべきですか? 

村上:あったほうがもちろん良いです。求められるレベルは職位で変わりますが、最低限、身につけていればいいと思います。

基本的に仕事は、まずやりたいことがあって、そこに向かってどういう順番で組み立てていくかを考えながら進めていきます。その過程で上司などと擦り合わせて、自分の担当範囲をしっかり決めていくことなので。基本的にはロジカルシンキングに基づいているべきですよね。

桜井:ここで、一度整理しようと思うのですが、まずスキルにはハードとソフトの2種類がありますと。

そして、大学生のみなさんがこれらのスキルを身に付けたいと考えた場合、どうやって身につけていくのか。これを明確にしていきたいと思っています。

スキルで言えば、この間見せていただいたリンクトインの調査がおもしろいと思って。このLinkedInラーニングの調査ですね。(スライドを指して)これ、解説していただけますでしょうか? 

村上:これはLinkedInラーニングという、リンクトインが提供している基本有料のeラーニングコースのデータから今、人気のコースを抽出したものです。その結果がけっこう興味深くて、グローバルでこの1年に一番視聴が多かったのは「タイムマネジメント(時間管理)」に関するものでした。「在宅勤務におけるタイムマネジメントの方法を学びましょう」みたいなコースが人気だったんですね。

次いで上位に入ったのは「クリティカルシンキング」や「Strategic Thinking」、戦略的思考法ですね。ロジックを立てて考える方法に、関心が高いんですね。

あとはプログラミング言語。4位にPythonが入ってきています。これはいわゆるデータサイエンティストがデータ解析の時によく使う言語です。新しいスキルを身につけようと思った時に、Pythonを学ぼうという人が多かったということですね。データ関連の仕事がどんどん生まれていて、こうした学習機会の需要が高まっていると言えると思います。

日本国内のランキングを見ると「クリティカルシンキング」が1位でした。あとは「課題解決力を高めるには」「無意識の思い込みと向き合うには」といったコンテンツが人気が高かったですね。「判断力の高め方」「タイムマネジメントの基礎」といったコンテンツもよく視聴されました。世界と比べてまた違う傾向が出て、おもしろい結果になったと言えると思います。

桜井:日本は思考系が人気ですね。これはなぜなんですか? 

村上:日本ではリンクトイン以外のeラーニングでも、やっぱりクリティカルシンキングって圧倒的に人気があるんです。いくつか理由があるんですけれども、1つはコンサルティング会社に憧れている人が多いんだと思います。

桜井:大学生もそうですもんね。

村上:志望職種の上位にコンサルは常連ですよね。中途採用市場でも、コンサルは人気です。そしてコンサルというと、クリティカルシンキングが求められる、という印象があるらしくて。

桜井:おそらく大学生がこれを見ても、ぜんぜん違和感ないですよね。

村上:ぜんぜん違和感ないと思いますね。

グローバルに活躍したい学生が、勉強すべきこと

桜井:学生の中には「グローバルに活躍をしたいんだ」という大学生もけっこう多いと思います。そういう人は、どのような勉強をしたらいいですか? 

村上:海外も、どの地域かで変わるとは思いますが、仮にアメリカだとすると、先程も触れたように極端なジョブ型雇用なので「専門性」を意識した方がいいでしょう。大学で何を専攻していたかも問われるし、学んだことを実務経験にどう生かすかも大事です。実戦経験が伴っていないと、基本的にはポジションには応募できません。

ですので「この会社」という漠然としたイメージではなく「このポジション」という職種を決めてかからないと、苦戦するかも知れません。

桜井:ポジションで決めてかかるって、日本の大学生が意識することはあまりないですよね。

村上:はい。リンクトインの画面で「求人」というタブを押すと、いろんなポジションが出てきます。興味のある会社を検索して、例えば「マーケティングマネージャー」とか「プロダクトマネージャー」といったポジションを見てみるといいかも知れません。興味を持ったら、ジョブディスクリプション(職務規定書)の中にある「必要な経験とスキル」を確認するといいでしょう。

中途採用の場合は大体「5年以上のマーケティングでの実戦経験」といった文言が並んでいます。新卒の場合はそういう求人はしないので、基本はインターンや友達からの紹介、いわゆるリファラルと言われるもの経由で入社することになると思います。

桜井:なるほど。たぶん大学生として気になるのは、日本もそうしたアメリカのような世界になっていくのかという点だと思います。別にグローバル企業を目指していなくて、国内で働きたいという大学生であっても「ポジション」「必要なスキル」を意識しないとだめなんでしょうか。

村上:みなさんの年代ぐらいからは、そういう考え方をベースにしたほうが、たぶんいいと思います。日本も今後さらにグローバルに合わせて変化していくと思いますので。そのためにも、いろいろな求人を見たり、参考になる先輩のプロフィールを見たりして、情報を集めることをおすすめします。リンクトインのプロフィールには全部書いてあるので。

そうした情報収集の過程で、想像力が膨らんで「こういうキャリアいいな」と感じるようになったら、リンクトインのプロフィールを見て、彼ら・彼女らがどのようにそのキャリアにたどり着いたかを見てみる。それを自分に当てはめて、逆算して考えてみるというのは、1つの思考実験として参考になると思います。

「ガクチカと希望の仕事」に求められる、ストーリー

桜井:ありがとうございます。これまでの考え方として、会社は社員を育ててくれるというものがありました。だから大学では、遊びも含めて見聞を思いっきり広げると。でも、これではまずいんですか? 

村上:もちろん、見聞を広げることは大事だと思うんです。ただ先ほど言ったように、そこで何を得たのか? というのが、より問われるということですね。いわゆる「ガクチカ」ですね。「学生の時に力を入れたことは何ですか?」を、人材業界では略してそう呼んでいますけれど、こういう質問は必ずきます。

そして答える際には、仕事とリンクしていたほうが、やっぱり有利なわけですよ。「こういう仕事がしたくて、こういう経験を得るためにこういうことをしました」みたいなストーリーが理路整然とつながっていると(企業の側も)「なるほどね」と納得します。

ぜんぜん関係のない話になると「で、何してたんでしたっけ?」となりかねない。うまく自分で説明できればいいと思うんですけれどね。自分が望むキャリアから逆算していく思考は、早いうちから身につけておいたほうがいいと思います。

変わりつつある、日本企業での管理職への道のり

桜井:ありがとうございます。最近の企業の状況については、こんなおもしろいニュースがあります。(スライドを指して)「20代でも課長に昇進できます。by損保ジャパン」。

このニュース、けっこう「おっ」と思ったんです。

村上:日本企業っぽいニュースですね。

桜井:すごくおもしろいなと思って。

村上:いわゆる、年功序列を改めるという話ですよね。

桜井:そうなんです。今までだったら40代以上じゃないと課長になれなかったけれども、役割等級というのを整理して20代でも可能になりましたと。この流れは金融業界で顕著らしくて。三井住友銀も「30歳で管理職になれます」と公表しました。

それまでには、特命課長とか業務課長とか副長とか、実にいろいろな肩書の課長がたくさんいたらしいんですね。その肩書きを変更しますよと。この例を見るまでもなく、日本企業もガラガラと変わっているのは間違いない。これから就職する学生は、こうした変化の中に入っていくわけです。

この変化をチャンスと見れば、例えば20代で「自分は課長になるんだ。早く課長になってどんどん経営を覚えたいんだ」という大学生にとっては追い風ですよね。それこそそういう大学生は、大学の時にスキルセットを身につけておけばいいんですかね?

村上:海外の企業では、マネージャー、いわゆる管理職も1つの役割で、スキルなんです。日本企業だと“出世する=管理職になる”ですけれど、海外はマネージャーは「マネージャー職」として別のラインがあります。ですから、例えば営業で法人営業を極めて等級が上がっていけば、マネージャーじゃなくてもマネージャーと同じ給料テーブルになります。

おそらく、日本もそういう体系に変わっていくのだろうと思います。入社年次に関係なく、要件を満たした人は基本的にマネージャーにしていくというのが、損保ジャパンの狙いなのだと思います。

伝統的な証券金融保険はこれからですが、メーカーやIT業界はグローバル化が進んでいるので「マネージャーは何歳以上じゃないとダメ」みたいな条件は、基本的に廃止しているところが多いです。実力主義が浸透しているということですね。

すると、問われるのが「自分はチームを率いたいかどうか」ということです。つまり、マネージしたいかどうかということ。給料が同じだとして、自分はチームを率いて、成功を助けるのか。もしくは、前線でぐいぐいお客さんと向きあっていくのがいいのか。それによって、まずファーストステップが分かれてくると思います。

桜井:そうした発想は、たぶんこれまでほとんどなかったですよね。

村上:そうですね。