漫画に出てくる「壊れない物質」は生成可能?

ハンク・グリーン氏:コミック・ブックの中で、ヒーローたちは「アダマンチウム」や「ヴィブラニウム」といった、ほぼ壊れることのない物質を装備していますね。

しかし、自転車の鍵チェーンをボルトカッターで切った経験者であればわかると思いますが、あれほど硬い物質は、いまだに作られたことはありません。しかし、人類はこれに極めて近い物は作り出したようです。なぜなら、ヨーロッパの研究者たちが、切断不可能な合成物を開発したと発表したからです。

合成物とは、2種以上の異なる素材から成り、通常であればそれぞれの素材の性質は異なります。そのため、それぞれを合わせることによってより高い性能を発揮するのです。材料科学界の『キャプテン・プラネット』のようなものですね。例えばコンクリートであれば、セメント、礫、砂から成り、これらが力を合わせると強固で堅牢な建築素材となります。

このたび新たに開発された合成物は、アルミニウム、鉄、チタン合金、セラミックを合わせた、ユニークな混合物です。その密度は鉄の6分の1ですが、著しく切断が困難です。

「切断不可能な合成物」の製造法

それでは、その製造方法をお話ししましょう。

まずアルミニウムの粉末を、発泡剤として使われる水素化チタンと混ぜます。発泡剤の役割は、加熱により気体を発生させ、アルミニウムの内部に極小のポケットを作ることです。この場合、発生する気体は水素ガスです。

次に、このアルミニウムの混合物を棒状に圧縮します。この棒は、直径13ミリメートルのセラミックの球体と、互い違いの列に重ねられます。この列は、横から見るとチェッカーボードのような状態で積まれます。

これら全部を760℃に熱すると、アルミニウムが溶解し、チタン合金からは水素ガスが放出されます。この泡により、アルミニウムは膨張してセラミック球体を覆います。

全体を冷却すれば、アルミニウムの泡の鋳型跡にセラミックの球体が封じ込められた、新合成物の誕生です。科学者たちはこの合成物を、姿を変化させるギリシア神話の神にちなんで「プロテウス」と名付けました。

プロテウスは本当に切断不可能?

さて、残るはテストです。まず科学者たちは、厚さ4センチメートルのプロテウス板を、アングルグラインダーで切り付けてみました。あっさりネタばらしをしますが、刃はほとんど通りませんでした。アングルグラインダーは、わずか5分の1まで切り付けたところで、1分少々で使い物にならなくなったのです。プロテウスの頑健さが、これでおわかりでしょう。

プロテウスを開発した科学者たちによれば、頑健さの要因は主な物が2つあります。切り付けてすぐに、回転ディスクは、硬化したアルミニウム泡とセラミックの球体から成る、細かな砂粒大の粒子を削り出し始めました。

これは、まさに科学者たちが期待していたことでした。細かな粒子は、高い「破壊靱性」を持っています。これは細かな粒子は粉砕しにくいことを、単にかっこよく言い換えた言葉です。つまり、粒子が粗やすりのような働きをして、ディスクの刃先が摩耗してしまったのです。

細かな粒子は「貫徹力」、もしくは「貫通力」が瞬時に作用するのであれば、貫通しづらくもなります。これは、大きな力が細かな粒子に瞬時に働いた場合、粒子が凝縮しコンパクトになって、摩擦力が増加し互いに固定し合うため、貫通する力に対する抵抗力が増強されるためです。

砂袋が弾丸を止めることができるのも、この一例です。プロテウスの細かな粒子は、ディスクを摩耗させると同時に、抵抗力も持っていたのです。しかし、ディスクの刃がセラミック球体に届いてしまうと「振動」が生じてしまうため、ゲームオーバーとなりました。

振動とは、粒子の前後運動です。1つの粒子の振動が、時を経て他の粒子に伝播し、物質全体に波及効果を及ぼすこともあります。

アングルグラインダーのディスクが回転を始めると、ディスク中心部から振動波が発生します。今回のケースの場合は、アングルグラインダーがプロテウスと接触すると、振動波はプロテウス内部に伝播し、セラミック球体を震わせます。

振動するディスクが切り付けて、振動する球体に一つでも接触すると、その球体が「集中荷重」、つまりある一点のみに加わる荷重をディスクにかけます。この場合は、集中荷重はアングルグラインダーのディスクの刃先にかかります。

するとその振動は跳ね返り、ディスクそのものに負荷されます。これは、ニュートンの「運動の第3法則」の「作用と反作用」です。

研究者たちは、こういった前後への振動波が、刃先を鈍らせたと考えています。ディスクに戻る振動が、ディスクから発せられる振動と振動数が同じだった場合、刃の振動は「共振」を起こして大きくなります。こうなると、刃が起こす振動はすべて、ますますディスクの刃先を鈍らせてしまうのです。

これが本当にこのような仕組みなのかを決定付けるには、まだ研究が必要です。いずれにせよ、刃はプロテウスに1センチメートル以上切り付けることは不可能でした。研究者たちは、パワードリルやウォータージェットカッターも試してみましたが、結果は同じでした。切断装置はセラミック球体に到達した途端に、行く手を阻まれてしまったのです。

研究者たちは、プロテウスの強度をさらに上げるために、短いニクロムワイヤーを混入してみました。それによって、アルミニウムが延ばされたり引っぱられたりすることに耐えられる「抗張力」が増強されました。すると、いかなる道具でもプロテウスを数ミリメートル以上傷つけることはできなくなったのです。

プロテウスのような未来型の「切れない物質」は、多種多様にカスタマイズできることから、材料科学者を興奮させています。アルミニウムの泡立ち具合や大きさ、セラミック球体の数などを調整することにより、あらゆる利用法ができると彼らは考えているのです。

自転車の鍵はもちろん、装甲扉や、『ブラックパンサー』に登場するような貫通不能な靴底などが考えられます。プロテウスは「アダマンチウム」や「ヴィブラニウム」そのものではありませんが、極めてすばらしいシールドになりうるのです。