パーキンソン病とよく似た症状を引き起こす、ある果物

マイケル・アランダ氏:1990年代、医師たちは、グアドループ、グアム、ニューカレドニア、英領西インド諸島などの島々で発症する、ちょっと変わった症状に気がつきました。患者たちは、こわばりや運動障害、認知症の他、震えや幻覚を訴えており、その症状は、進行性の運動障害や精神疾患を呈するパーキンソン病に似ていました。しかし、まったく同じというわけではありません。医師たちは、これらの症状がとあるフルーツに関連性があることに気が付きました。

さて、この患者たちは「非定型パーキンソニズム」だという診断を受けました。従来型のパーキンソン病とよく似た症状のクラスターではありますが、治療薬では効果が見られず、進行もより早いものでした。

非定型パーキンソニズムは、従来型のパーキンソン病に比べ変則的であるため、患者の環境にその要因があると考えられました。そこで患者の食生活が調べられたところ、患者はみな、トゲのついた緑色のフルーツ、サワーソップを好んで食べるという共通点がわかったのです。

サワーソップの学名はAnnona muricataです。グラビオラ、グアナバナ、コロソルなど多くの異名を持っており、ブラジル語ではパウパウなどと呼ばれています。マイルドにパイナップル、バナナ、イチゴなどが混じった味わいで、多くの人に愛されています。しかし残念なことに、その果樹やフルーツの多くの部位に、少量の神経毒が含まれます。

科学者たちは、サワーソップの毒素が、ドーパミンの生産を司る神経に有害なのではないかと考えました。

ドーパミンとは運動に関わる神経伝達物質であり、この「ドーパミン作動性ニューロン」が死滅することにより、パーキンソン病が発症するのではないかと考えられています。

2002年に行われた研究では、研究者たちがサワーソップの根皮から抽出した成分を、ドーパミン作動性ニューロンの培養床に注入しました。すると24時間後には、ドーパミン作動性ニューロンの半数が死滅してしまいました。サワーソップの毒素は、ドーパミン作動性ニューロンの「プログラム細胞死」を引き起こしていたのです。

この毒素は後日「アンノナシン」だと特定されました。アンノナシンが含有されるのは、根皮だけではありません。アンノナシンは、サワーソップの果実1つに15ミリグラムが、サワーソップの果汁には、缶詰1つにつき36ミリグラムが含有されます。

2004年の研究では、アンノナシンを注入されたラットが、1か月足らずの内に脳損傷を発症しました。しかし、これらのラットは精製成分を静脈内注入されているため、実際にフルーツを食べる場合と同じとは言えません。さらには、ラットの毒素への反応は、人間と同じとは限らないのです。

とはいえこうした研究は、この成分が人にとって絶対に安全だとは言い切れないことを立証しました。

しかし、この話には意外な裏があります。サワーソップに潜んでいる成分は、アンノナシンだけではありません。

研究者たちは、サワーソップに含まれているまったく別の成分で、ドーパミン作動性ニューロンを保護し、パーキンソン病の治療に役立つ可能性のある物を特定したのです。これはトリプタミン系アルカロイドという成分で、睡眠を整えドーパミン作動性ニューロンを保護する働きも持つとされるメラトニンというホルモンに、構造がよく似ています。

フランスに拠点を持つ研究チームが、一連の研究において、サワーソップに含有される物を基に複数の成分を合成・精製し、これにドーパミン作動性ニューロンをダメージから保護する機能があるかをテストしました。

一番有望視された候補は、PPQと呼ばれる成分でした。PPQは、パーキンソン病の実験マウスの体内で、ドーパミンの関連細胞のロスを補填する働きをしたのです。

さらなる臨床試験の必要はありますが、これらの研究者によれば、PPQはパーキンソン病の有望な候補薬となりそうです。

広く愛されているものの、パーキンソン病に似た症状を引き起こす、ちょっと危険な食品サワーソップは、パーキンソン病の治療薬となるかもしれません。