2024.11.25
「能動的サイバー防御」時代の幕開け 重要インフラ企業が知るべき法的課題と脅威インテリジェンス活用戦略
提供:一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)
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長谷川宏之氏(以下、長谷川):広告業界やコンサル業界では、「パーパス・マネジメント」というコンセプトがあります。今の世の中はモノが飽和している状態ですので、持っている、使っていること自体に価値がある製品やサービスであるか、そのモノを供給している会社を応援したくなるか、ということが重要になってきており、左側の規制外のヘルステック分野はまさにそういうところが大事ではないかと思っています。
もう一点は、規制外のライフログのところで、血圧や体重などの数値だけでどれだけ継続的に使ってもらえるのか、限界があると思います。規制外でも血液データを容易に使えるようになると、サービスの幅が広がっていくと思います。
浅野武夫氏(以下、浅野):規制をどうするかというのも、ディスカッションのポイントですね。
カーク・ゼラー氏(以下、カーク):投資家、起業家の立場から言いますと、ニーズを見つけて製品開発しながら、薬事法やビジネスモデルを考えながら興した方がいいと思います。
上野太郎氏(以下、上野):規制を遵守しながらも、変え得るところがあるのではと思います。新しいテクノロジーに対して、規制が追い付いていない部分もあります。私たちがやらせて頂いている内閣府の「サンドボックス制度」というのが、まさにそういう、規制が先にありながらも、それを超えるテクノロジーが出てきた時に、どう社会実装するかという議論があります。
そういうところにチャレンジしていくというのは、スタートアップとしては存在意義があります。規制自体が変わり得るのか、あるいはテクノロジーをどう入れていくのかを考えていきたいです。
井上祥氏(以下、井上):医療情報サイトを運営をする上で、医療広告ガイドラインはよく見ています。会社としては日本医師会、医学会や病院団体の重鎮の先生にアドバイザーに入っていただいて、数か月に1回、報告会を開いているほか、個別のご相談にも細かくお伺いしています。
今回のシンポジウムで改めて気付かされたところですが、我々はコンサバティブにやっているのかもしれません。私は医局の中で育ったので、当たり前のように教授にまず確認、案件によっては医学部長にご挨拶して、事務サイドのキーマンとなる方に相談して、というような手順を自然に踏んでいる。右側の中心で、規制を常に意識しながらビジネスをやっていることに、改めて気が付きました。
三宅邦明氏(以下、三宅):役人時代に、「メタボリックシンドローム」の概念をつくるところに関わっていました。「メタボ」が流行語になったりして、生活習慣病を注目させるきっかけになりました。
その際、企業の方から、「三宅さんのお陰で、メタボ対策が注目を浴びた」と言われたのですが、市場となったのは、「健康的」なものだった。健康食品のような、これを飲んでおくと痩せるとか、免罪符になったものは儲かったが、健康そのものに通じる商品は売れませんでした。
「楽しい」や「楽」というのが、「不健康」。「真面目」に「厳しい」が、「健康」。この図式を崩したいのですが、健康食品的なものは市場が大きいし、これを前提に考えると、規制外のところは、よっぽどうまくやらないと、個人のポケットからお金が出ない。
そのために、生命保険会社や製薬企業と連携し、糖尿病で透析になっては困るという人を救い、成功報酬をもらうといったことをしないと、規制外が立ち上がらないと思っています。立ち上がってないものに対して、役人は規制したりコストを掛けたりしないので、ある程度放置しているわけです。
市場が大きくなり、悪いものから良いものまで「玉石混合」になったところで、その「石」のところが問題になり、どうにか規制をつくらなければならない、となる。健康食品の歴史ですよね。
そうやって特定保険食品ができた。エビデンスが出たものに対して、国が承認を与えたのです。機能性食品も、国が認可するほどではないが、ユーザからの感想だけではなく、論文で機能の証明を見える化しようとした結果、「石」をなくして上にあがる仕組みができた。
我々もデジタルヘルスの事業を立ち上げる中で、マネタイズの中で規制をつくらないといけないですが、まず、マネタイズができるような、お金を使う仕組みをどうやってつくるのかが一番重要なステージだと思っています。
松村泰志氏(以下、松村):医療情報学を担当している立場で、違う観点からのコメントをさせて頂きます。医療やヘルスケアに関わるものは、エビデンスが必要ですが、治療薬としてのエビデンスの出し方と、健康食品やサービスにおけるエビデンスの出し方を同じように考えるべきか? というところから議論してもいいのではと思っています。
もう少し緩やかなエビデンスの出し方でも良いというのを起点として、まったくエビデンスがないのは問題であるが、何らかのエビデンスがあれば良いとか、その辺のところを議論する必要があると思います。
医療情報を活用したプラットフォームをつくることが私自身のミッションですが、いわゆるエビデンスを出しやすい環境づくりというのをやりたいと思っているのです。
医療データと健康データを結び付けることによって、どういう人が病気になりやすいかが見えてくる。それが見えてくると、どういう介入をすれば病気が防げるかもわかるので、観察研究でエビデンスを出していくことができれば、非常にコストが下がる。
ランダム化比較試験をする必要があるとしても、e-Consent(電子版同意説明文書)によって、もう少し気軽に患者さんを募れるような環境をつくり、基盤を作っていきたい。その基盤の上に、各々のビジネスが乗っかり、エビデンスが出てきて、それを基にサービスを提供していく。成功したところから、プラットフォームにお金が戻ってきて、お互いが助け合うような形で、業界を盛り上げていくことができたらいいなと思います。
浅野:短いスパンでは、ヘルスケア分野は医療をある程度考えながら適切にマネタイズしなければ、事業を興してもお金の回転が低いのかなという印象を受けました。お金を回していかないといけない、取れるところで事業をするとなった場合、規制の中へ行くと、ある程度、継続的に収益が得られるということなのでしょうか。
三宅:ベンチャーがある程度立ち上がっているのは、医療周辺です。プラットフォームを構築しているところは立ち上がっていますが、医療そのものは安全性と有効性をPMDAに証明するという長い時間とコストが掛かる。
薬のベンチャーなどは、Phase3を大企業がやっており、ベンチャーが最後までやりきるのは難しいと思います。AI、ヘルステックで規制の中に入るのは、難しい。ベンチャーがβバージョンでいいものをつくるという利点が活かしにくい。周辺なり、規制外をターゲットにしてマネタイズをしないと、規制の中に入るのは難しいなと思っています。
浅野:規制のど真ん中になるものに対して、信用するというか、エビデンスを強化するとか、あるいはデータを出すのを簡便にするなど、テクノロジーの良いところでサポートするソリューションですよね。寄り添ってじゃないですが、まず入ると、AIとかの利点が出せる。そういう感じだと思うのですが。
上野:医療のプロダクトとなると、足の長い話になりますし、マネタイズを考えるのであれば、当分先と思ってやらなくてはいけない。私たちは、臨床研究を効率化するためのAI分析や、DTx(デジタルセラピューティクス ※注:デジタル技術を用いた疾病の予防、診断・治療等の医療行為を支援または実施するソフトウェアなど)を開発するためのインフラづくりをしているので、それを活用してもらうことで、つまりBtoBのところでマネタイズをやりながら、私たち自身は、足の長いものを粛々とやる感じになります。
井上:我々も検索からの導線で医療情報を見てくださるユーザは月間2,000万程度いますが、そのうち有料の医療相談サービスに入って下さる割合はまだまだ多いとは言えません。病院、学会、医局、自治体、企業の情報発信を支援させて頂く部分は少しずつビジネスになっています。
一方で病院の発信や広報は、医療広告ガイドラインや医療法における病院等の広告規制の中でやらなければならないものです。そういう意味では、周辺でビジネスをしているようで、医療法という規制の中心にいます。何らかのブレイクスルーが欲しいと思いつつもまだまだビジネスとしてすべてがうまくいっているとは言えない状況です。
内田:デジタルヘルスやDTxのビジネスモデルの構築は過渡期で非常に難しい。アプリで治験をやって、高額なお金を掛けて、原価を積み上げて、安い保険償還しか付かなかったらどうするのか。
画像診断のAIがゴールドスタンダードになりつつある中で、病理医や放射線科医の人出不足を補うためにはなるが、がんの診断をするとなった場合、一定の有効性・安全性は必要。当局が要求するのは当然で。そのために治験にお金が掛かるが、国は保険償還し、お金を出してくれるだろうか。
画像診断プログラムについては、中国などの海外でも同じことができるわけです。非常に安くて精度が変わらないとして、最終診断を医師がやるとして。あくまで参考にするだけなので、医療機器にも該当しません。それを中国製のものが無料で使えますと言ったら、どうなるのだろうと思ったりするわけです。自動診断を誰がどうみていくのかが大事なポイントだと思います。
浅野:中国の話がでましたが、澤先生と宮田先生の話の中でも、この領域で勝っていこうという話がありましたが、海外での状況について、先日、シンガポールの人と話をしたのですが、医師が非常に少ない分、ヘルステックにかなり投資をしている。画像診断がメインですが、それ以外に、治療アプリにも投資をしている状況があり、全世界的な潮流として期待されていると思うのですが、その辺りを、投資家の3名にお聞きしたいのですが、どうでしょうか。
長谷川:日本の国民皆保険と対比する意味で、米国では民間保険があり、患者は加入している民間保険が契約している病院で診察を受けなければいけない環境です。
米国のあるベンチャー企業が、まだ承認はされていないのですが、糖尿病の患者さんの足の裏の酸素飽和度を測定する装置を開発しています。糖尿病の患者さんが三大合併症を発症してしまうと、その治療費として民間保険会社はたくさんお金を払わないといけません。民間保険会社が病院に対し、この装置を使って足の裏の酸素飽和度を測定し、糖尿病患者のDisease Managementするように、指導するというモデルです。
民間保険会社は契約している病院に対し、この測定装置を購入させるモチベーションが働いており、このような仕組みは非常におもしろいなと思っています。しかし、このビジネスモデルは米国だから成り立ちます。日本は国民皆保険の制度に添ったビジネスモデルを考えるべきで、医療機器としてのDTxは日本に合致しているのではないかと思っています。
カーク:文化の違いで、それぞれの国ごとに、お金を出してもいいところと、国が出してくれるもの、に違いがあります。全世界を見て、自分のモデルにあった市場を考えて、それは米国だったら、優先してモノを開発したほうがいいと思います。自分のビジネスが、お金を出してもいいか、国が払うのがいいか、考えた方がいい。
井上:米国では医療デジタルマーケティングが進んでいます。メイヨー・クリニックは、FBフォロワーが110万人以上、Youtubeチャンネルも30万人以上が登録しています。Similar Webのヘルスケアサイト世界ランキングでWHOのサイトが30位前後であるのに対し、メイヨー・クリニックは3位です。米国などで浸透している医療デジタルマーケティングの潮流が日本にもくると、今後、デジタルでビジネスをやっていく企業様にもプラスになるのではと思っています。
浅野:何をきっかけにすれば、ドーンときますかね? 焚きつけるというか。民間でやるというのも方法論としてなくはないと思うのですが。
井上:見つけられていない状況ですね。
浅野:内田さんも海外をみてらっしゃると思うのですが。
内田毅彦氏(以下、内田):繰り返しですが、混沌としていると思っていまして。IoTがらみは領域が広い。どれがだめで、どれがいいというのもまだ結果が出ていないと思います。人は「効率的なこと」に関して、取り入れたりお金を払ったりすると思うので、もともと非効率だった、例えばパーソナルヘルスレコードの話なんかは、絶対あっていいですよね。情報銀行みたいな流れというのは、自ずと来るし、個人だろうが、官だろうが、お金の払い手はきっといると思っています。
ゲノムやパーソナライズド・メディスン(個別化医療)は今までなかった領域なので、単純に健康寿命というよりも、病気そのものを治すというコンテキストからいっても、伸び代があると思うので、その辺りを軸に周辺を様子見するのが、デジタルヘルスとの付き合い方かなと。
カーク:ウェブで検索するよりも、SNSを見ている。自分のことですが、モノもFacebookを見て買ってしまうことがある。デジタルヘルスも、SNSに情報を載せたりするのも、いい手ではないか。
長谷川:銀行系ということもあり、事業計画の確からしさで投資をすると思われがちですが、私としてはデジタルヘルスというこれまでになかった新しい分野については、事業計画よりも新しい世界観の打ち出しがより大事ではないかと思っています。
将来、医療はこういう風に変わっていくはずだ、変わったほうが良いはずだ、という世界観に対しどれだけ共有させることできるかどうかということです。この世界観の共有が、投資家からお金を集めることに繋がると思っています。
私自身は創薬ベンチャーについてはアンメット・メディカル・ニーズがあるかで投資判断しますが、デジタルと医療の結びつきのところは、何が成功するかはわからないので、まず新しい世界観に心を揺さぶられれば、成長の道筋はあとから考えるとして、応援したいと思っています。
カーク:企業の立場から見ると、自分の国ばかり考えてしまいがちです。周りのニーズを考えて動いたりします。日本も重要な市場ですが、もっと大きい市場、アメリカなど、他の大きい市場のことを考えてやった方がいいと思います。
浅野:医療領域とヘルスケアの領域の真ん中に規制というものがある中で、この領域をどう考えればいいのかというのを切り口にご意見を頂きました。
もともとのディスカッションのタイトルは、「新たな潮流に備える心構えとは?」ということでしたが、会場のみなさんが持たれているビジネスモデルが、個によって違うとは思うのですが、最少限のキーワードは提示できたのではないかと思います。
この続きは懇親会の場で、先生をつかまえて、ディスカッションしていただければと思います。最後に、登壇のみなさまに感謝をこめて拍手をいただきたいと思います。ありがとうございました。
一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)
カーク・ゼラー
US-Japan Medtech Frontiers, Board member
三宅邦明
株式会社ディー・エヌ・エーChief Medical Officer(CMO)/DeSCヘルスケア株式会社 代表取締役社長
上野太郎
サスメド株式会社 代表取締役/ 医師・医学博士
井上祥
メディカルノート 共同創業者・代表取締役 / 医師・医学博士
内田毅彦
株式会社 日本医療機器開発機構 代表取締役CEO
松村泰志
大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学講座医療情報学 教授
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