2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
提供:一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)
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浅野武夫氏(以下、浅野):議論のポイントをお話ししたいと思います。スライドは、単純なモデルを表したものです。規制を中央に置き、薬機法など承認申請が必要な医療の領域を上側、承認申請の対象外である、ヘルスケアだとかウェルネスの領域を下側にしています。本来、デジタルヘルスやヘルステックはこの両方にコントリビュートできるはずです。
医療機器の付加価値を上げるために、AIを使った、ソフトウェア単体の製品の開発をした場合、この製品には承認申請が必要で、保険医療の中での医療機器への貢献に留まります。一方で、デジタルヘルスの領域は、製品としてのモダリティに捕らわれず、非常にマスが大きいと予想します。
次のスライドをお願いします。非常に乱暴ですが、こんな感じになるのではと。外来診療のみで、とりあえずは健常という領域が左側。明確に疾病のある人、病院にかかる人を右側として表しています。平成29年のある日のデータですが、国民1億2600万人のうち、850万人(約7パーセント)が疾病にかかって病院にアクセスしているとのデータがあります。言い換えれば、医療の領域のビジネスは、図の右側の人口の7パーセントでしかない患者さんしかターゲットにしていないということになります。
疾病のある患者さんを対象とする方がビジネスとしては確実ですが、医療領域の製品であっても、その製品のアウトカムは、健常な人向けの製品にフィードバックできる部分もあると思います。図の左側の、健常な人向けの、デジタルヘルスやヘルステックの領域をどう考えるか、この辺りのところを議論していただければと思っています。投資をする立場からもご意見いただければと思います。
松村泰志氏(以下、松村):予防医療として、将来、医療に関わらなくても済むようにする必要があると思います。左側のポピュレーションが、右側に行ってしまう。どんな人が右側に行くのか、予想し、予想ができたのであれば、そういう人を対象に介入していく。
データ解析の観点で考えると、左側だけでは勝負はできない。左右が繋がって初めて、意味のある解析ができる。そこに難しさがあって、右の世界は医療情報で、利用は厳しく制限されている。医療情報を「守る」という意識が強く、利活用しようというドライブがかかっていない。意識改革がまず必要です。
必ず言われるのは、漏洩に対して誰がリスクを負うのか、どこを切り出すのか、などです。一歩ずつ解決しないと。左側だけで勝負している間は、目途がたつが、右側と結びつけるとなったときに、難しさが発生し、両方解かないと、いいプラットフォームにならない。そこをブレイクしていきたいと考えています。
浅野:三宅さんに聞きたいのですが、左側の領域は健常な人なので、何か努力をさせるようなモチベーションを継続させるのは難しい。そこで、「エンゲージメントサイエンス」を大切にされているというお話をいただきましたが、参画に対する利点を常に出していかないと、健常人は逃げていくものなのでしょうか。
三宅邦明氏(以下、三宅):『ポケモンGO』など、いろいろなゲームで「歩かせる」製品があります。ある一定のマネタイズはできていますが、エビデンスは作れていません。個人が楽しむものであって、健康に寄与しているというエビデンスは作れるものではないのです。
ゲームなどで楽しく継続して何らかの運動をすると健康に良いというエビデンスを作ることができるプラットフォームを創り、続けることが健康にいいということを証明していかなければいけないです。そうしないと、「予防」自体でマネタイズするのは本当に難しいと実感しています。
エビデンスを出しながら、一緒にやっていく方法として、三つあると思っています。一つは生命保険会社です。今までは、健康な間は無接触で、病院に入院した時など医療が発生した際にしか関係しませんでしたが、健康的な行動をすると保険料が安くなるような形で、健康にコミットする、人生に同伴するような保険を作る動きがでてきています。生命保険会社と一緒にビジネスすることで、デジタルヘルス、規制外のところで、マネタイズの世界に入れると考えています。
もう一つは公的な保険制度。予防にエビデンスがあれば、生活習慣病対策になり、市町村国保など診療報酬外の保健事業としてへインパクトを与えていく。
三つ目は、エンゲージメントサイエンスでユーザに繋がり続けている特徴を活かして、継続的に健康データを取得する、アンケート等で追加的に調査するなどにより、製薬企業やアカデミア向けに研究費用を安価にするといったところで何かできないかと考えています。
浅野:医療産業との結び付きを作り、左側から右側へ染み出していく必要があるというお話を井上さんから頂きましたが、連携をしないとビジネスは難しいとお考えでしょうか。
井上祥氏(以下、井上):正直、左側の健常層が病気のことに興味を持ってくれて、予防に積極的になるという世界は、まだあまり作りきれていません。医療情報サイト「メディカルノート」へのアクセス状況から考えても、Yahoo!検索と提携した病気の検索サービスを始めてからユーザ数が爆発的に上がりました。右側の病気の関心層がダイレクトに検索するというニーズに明確にこたえた段階で、伸びたわけです。
メディカルノートは現在、病気になった人を主な対象としていますが、澤先生もおっしゃっていたように、認知症とか生活習慣病とか、左右がオーバーラップしそうなところには関心を持ってもらえるチャンスがあると感じております。三大生活習慣病をターゲットにすることがまずは左から右側への染み出し、そして医療産業との連携へとつながるのではないかと、個人的には考えています。
浅野:上野先生が構想しているものは、薬や医療機器、クリニカルトライアルに対する最適化に貢献するプロダクトだと思うのですが、全く新しいものを創成するのでなく、サポートするだけだとすると、大枠としてもともとの事業サイズから広がらないように感じるのですが、いかがでしょうか。
上野太郎氏(以下、上野):私は医師で元々は開発の経験がなく、臨床開発をやってみて初めて、非常にハードルが高いなと感じました。日本発の医療ベンチャーがハードルを一様に超えるのは厳しい。左側から右側に行くところのハードルも高いと感じております。
海外では、GAFAなどIT分野の人が、医療の分野に入ってきていますが、医療レベルで求められる水準というのをいかに高効率に実現するかが重要になります。コスト部分のハードルを下げることで、左から右へ行きやすくし、医療のハードルを下げることで、医療ベンチャーのパイプラインを一本でも治験に入れるなど、そこに我々が貢献できるのではと思っています。例えば、モニタリングや労働集約的なところは、システムで担保していけるのではと思っております。
浅野:投資家サイドのご意見を聞きたいと思います。
カーク・ゼラー氏(以下、カーク):私は25年以上、通常の医療機器分野に携わってきました。通常の医療機器開発は道が分かりやすいのですが、アプリの時代になってきたことで、課題が出てきたと思います。商品開発した製品がソリューションにはなっているものの、どうマネタイズしていくのか。これまでの医療機器にAI技術などを組み合わせ、付加価値はつけられるとは思っていますが、投資家から見ると、しっかりしたビジネスモデルで、ペイできるのか? がいつも疑問に感じます。
浅野:バンカーの視点からはどうでしょう。メディカルデバイス以外にも、ヘルステック、創薬なども含め、俯瞰して見られていると思いますが、どう見えておられますか。
長谷川宏之氏(以下、長谷川):弊社はさまざまな業種に投資はしていますが、私自身はライフサイエンスを担当しており、浅野先生が示されたスライドの規制の右側を対象としています。デジタルやAIが医療と繋がる事業やベンチャーについて、関心を持って見ています。
個人の健康データや疾患データを結び付けるビジネスモデルの話をこれまで聞いてきましたが、本当にマネタイズできるのか? ビジネスモデルができているか? と思う部分があります。一方、デジタルセラピューティクス(DTx)に関しては、国民皆保険がある中でビジネスが成立しやすいのではないかと考えています。
DTxには投資していきたいと思っています。DTxも医薬品と同じような臨床効果を示すエビデンスを出し、薬価、診療報酬がついて、患者は2-3割負担の費用で使えることができるからです。マネタイズとしてはわかりやすいモデルなので、日本に一番合っていると思います。
規制側すなわち右側のビジネスの人が左側のヘルスケア領域でビジネスモデルをつくるのが下手だと思っており、逆に規制外すなわち左側のビジネスの人はビジネスモデルをつくるのはうまくても、薬事プロセスにアレルギーがあります。
互いの強みが相手の参入障壁になっています。両サイドの人同士が一緒にやれたら違ってくるのかなと思っています。規制外の人は規制側に入ってきてほしいし、規制側の人も上手にビジネスモデルを考えてもらって製品やサービスをつくっていくのが良いのではないかと思います。
浅野:内田さんにお聞きします。さまざまな企業からご相談をうけていると思いますが、内田さんから見てこの分野の秘めた可能性について、どういう評価をされますか。
内田毅彦氏(以下、内田):医療と健康の領域の境がなくなってきていると言われています。健康は自己責任。走れば元気になる、食べ過ぎはよくないとわかってはいても、そこは人類が放置してきました。病気になれば医療がなんとかしてくれる。その結果、病気になる人が増え、医療がひっ迫し、医療費の支払い手が「このままでは持続できない」となって、予防、未病だと考え始めたわけです。
こうした背景もあり、先の説明図の左側の領域がビジネスチャンスだと気が付き、そこに対するビジネスが広がってきたと思います。その流れは自然で、健康や予防に対する技術のブレイクスルー、例えばゲノム情報サービスや健康増進アプリなどが出てきたことで、社会が追い付きつつあります。ただ、結局、本当にビジネスとして成功するかするかどうかは、誰がいくら払うのかというお金の問題が最後まで残ります。
宮田さんからも、保険で40兆円使っているという話がありましたが、お金の配分をどうやって左側にシフトさせるかは、理にかなった議論だと思います。
個人は意外と健康にお金を使っていて、例えばサプリメント。ビタミン剤も中にはエビデンスがないと言われているものがあるにもかかわらず、なんとなく飲んでしまう。肌のために高級化粧品を買っている女性がたばこを吸っているなど、よくわからないことが起きています。そんな矛盾をデジタルヘルスの中のアプリが行動変容させて、変えていくのは時代に合致していると思います。たばこを吸わなくなった分のお金がアプリの方にも回ってくるといいですよね。
左側の領域に色々なものが登場し製品化されていますが、「本当に成功するブレイクスルーが何か?」については個人的には腹落ちしていません。デジタルヘルスやデジタルセラピューティクス(DTx)は個人的にとても興味を持っています。
米ウエルドック社が早くから糖尿病治療アプリで承認されたのを知り、こうした治療するアプリがこれから来ると考え、うちの会社で2015年に生活習慣病を治療するアプリをつくり、一早く厚労省に承認申請をしました。結局、治験をしないと承認は難しいのではないかと考え、申請は取り下げました。ですが、治験までやって、誰がお金を払うのか、保険償還は事業が成り立つ程度につくのかという部分は、結果が見えていません。
「行動変容」は医者が本来やってきたことです。糖尿病の患者に食べ過ぎや塩分の摂り過ぎを注意し、促してきた。単に「行動変容してよ」と言っても、持続できるかというのはわかりません。そのため、「インセンティブ」には興味があって、これからもこの分野については俯瞰的に流れを見ていき、時代に乗り遅れないようにしたいと思っています。
浅野:「様子見」というフェーズということでしょうか?
内田:手掛けてはいますけれども、そういう部分もあります。
浅野:特に規制の絡みで、最終的に製品にする方法論として、ウエットの検証が必要でないソフトウェアはやりやすい。スタートアップベンチャーも入ってきていますが、逆に規制を超える方法論は規制側の経験も少ないため難しく、ファンディングの問題もあり、できるだけ規制に触らないようにするビジネスモデルにしかならない。
先ほどの図でいうと、医療に対してダイレクトにコントリビューションできない、そういう意味では、医療への貢献レベルが低いものを出さざるを得ない。このように、規制を超えて、堂々と良いものにしていくには、課題があると思いますが、その辺りについて、「行動変容」へのインセンティブを与えるなど、継続性の問題も含めて、ご意見頂きたいと思います。
内田:最近、規制側も変わりつつあると実感しています。例えば唾液でがんをスクリーニングする製品が出ると、少し前なら、医師会も大反対、厚労省も敏感に察知して牽制していたように思います。ですが、今はリスクの提示だけであったり、研究目的であったりすれば、唾液でがんのリスクを提示する商品を売っても差し支えなくなっています。その背景には、全てを抱えきれないという現状があります。
23andMe(注:カリフォルニア州サニーベールの、個人ゲノムおよびバイオテクノロジー企業)は、FDAから一度は販売禁止を命じられましたが、もし遺伝子情報のすべてを国が規制し、良し悪しを判断するとなると、規制当局側にお金が掛かり過ぎてしまいます。先ほどの図の右側から左側へシフトする領域が増えているという見方もできると思います。ただ、規制がないなら、保険償還もつかないというのがフェアだと思います。なので、40兆円のポケットから出てくるから堂々とやろうよ、というのも増えてくる気がしています。
一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)
カーク・ゼラー
US-Japan Medtech Frontiers, Board member
三宅邦明
株式会社ディー・エヌ・エーChief Medical Officer(CMO)/DeSCヘルスケア株式会社 代表取締役社長
上野太郎
サスメド株式会社 代表取締役/ 医師・医学博士
井上祥
メディカルノート 共同創業者・代表取締役 / 医師・医学博士
内田毅彦
株式会社 日本医療機器開発機構 代表取締役CEO
松村泰志
大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学講座医療情報学 教授
長谷川宏之
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浅野武夫
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