2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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澤田洋平氏(以下、澤田):では、セッション2を始めさせていただきます。よろしくお願いします。テーマは「数字だけで広告を考えて大丈夫? ユーザー行動から考えるマーケティングの本質」です。みなさんの自己紹介からお願いします。
羽片一人氏(以下、羽片):サイバーエージェントの広告部門の統括をしている羽片と申します。2009年にサイバーエージェントに入って、子会社の社長をやってから広告部門に戻り、いまはブランド領域をメインに担当しています。よろしくお願いします。
澤田:続きまして髙柳さん。
髙柳裕行氏(以下、髙柳):キリンの髙柳と申します。この中では唯一の広告主です。私は前職で電通グループの会社におりまして、2015年にキリンに来ました。
いまは、キリンでマス広告とのデジタル連動、データ活用、ダイレクトマーケティングをどうしようなど、いろいろ幅広くやっています。今日はそのあたりをお話しできればなと思っています。
澤田:続きまして、平田さんお願いします。
平田慎乃輔氏(以下、平田):平田と申します。私は2015年にカカクコムに入社しまして、メディア側のマネタイズでアドネットワーク・SSPさんの窓口として業務を担当をしておりました。その他純広のメニュー作成や営業サポートもしていたのですが、アドテクの方に興味が強く去年の5月にFLUXを起業しました。
今はメディアさんのアドネットワーク・SSP周りのマネタイズのサポートをしております。今日はマーケターのみなさんが多いと思いますが、サプライ目線でなにかおもしろいことを言えたらいいなと思いますのでよろしくお願いします。
澤田:ありがとうございます。私が今回モデレーターをさせていただきます、澤田と申します。フリークアウトに新卒で入りまして、丸々3年間はDSP(Demand-Side Platform:広告主が広告効果の最適化を行うためのプラットフォーム)の営業部署にいました。
広告主さんや代理店さんとお話しすることが多かったんですけれど、直近はメディアさんの収益化支援のプロダクトを担当していて、どちらかというと平田さんに近い領域で事業を展開しております。よろしくお願いします。
今日のテーマが決まった経緯ですが、最初にみんなで集まって話していた時に、各代理店さん・広告主さん・メディアさん・僕みたいなベンダーのポジションで、結局数字に追われて、数字しか見ないことによって各所で不幸なことが起きているという話があって。
「インターネット広告の闇」とか、いろいろ言われていますけど、そういうものも、数字ばかり追いかけて、そこに最適化した結果、いろいろ見失ってしまったからだと話したことがきっかけでした。
話は変わりますが、Twitterで投稿していただいていると思います。話したことのまとめ以外にも、質問や「いや、それは違うだろ」などの意見も、ぜひ投稿いただきたいなと思います。
平田:(会場からの)ご意見等を拾います。
澤田:話は戻りますが、僕自身の経験としても、ちょっと言いにくいんですが……代理店さんに営業している中で、シミュレーション依頼で「CPC(Cost per click:クリック単価)50円以下が目標です」みたいなことを言われて。
それを出して、絶対に他のベンダーも並んで50円で出ているはずなのに、なぜか決まらないことがあるんですよ。「なんで決まらなかったんだっけ?」「なんで決まったんだっけ?」みたいな話になってしまう。そういうことがあります。
メディアさんとも関わることが多いんですけど、よく言われるのがPV単価や、「数字至上主義でいいんだっけ?」といった話です。
広告主さんや代理店さん側も数字ベースで横並びにしてしまっていることがあると思うんですよ。羽片さん、そのあたりはどうですか?
羽片:インターネット広告の良さは、数字で可視化されることだと思っています。なので、運用ができる。それが一番素晴らしいポイントだと思っているんですけれど、数字が出てくると数字しか見なくなってしまうところはあるなと思っています。
いつの間にかエクセルのメディアプランだけでしか物事を判断しなくなってしまっているケースもあるので、そこは少し課題かなと思っています。
結局、広告主さんの出稿も目的はユーザーを動かすためにやっているので、別に特定のメディアを使いたいわけではない。そこで今日は、そのあたりの話ができればいいかなと思っています。代理店は、数字のコミットメントも求められるのですが、その数字の背景をちゃんと理解しないといけないと思っています。
髙柳:広告主としても、先ほど羽片さんが言った「ユーザーを動かす」ことが本来の目的だったはずなのに、「上司に説明するためには数字が必要ですよね」「結局、広告主もユーザーのことをまったく見ていない」ということがけっこうあるのかなと思っています。
ブリーフィングでの話に繋がるかもしれないんですけど、KPIは便利な言葉で、「達成していればそれでいいや」みたいに思ってしまうんですよ。
羽片:「(あとは)なんでもいいや」的な?
(一同笑)
髙柳:そうそう。「KPIを達成していればいいよね」という打ち合わせも、なくはないんですよ。そういう悪いところがけっこうある。
本来はもっとたくさんのお客さんに喜んでもらいたいとか、ぜひ知ってもらいたいとか、いろいろあるはずなのに、デジタルだけ、そこが変に捻じ曲がってしまっているのは感じます。デジタルのエージェンシーから広告主になって、「ちょっとデジタルは数字に偏重しすぎじゃないかな?」と思うこともあります。
羽片:見えすぎる弊害ですね。数字に引っ張られすぎてしまうんです。
澤田:見えすぎるよさはあるけれど、各所で「結局、最終的に何で評価しているんだっけ?」みたいなところは見えていないことがけっこうあるんです。
髙柳さんにお聞きします。ものにもよると思うんですけど、最終的な数字の部分やほかの見えていない部分も含めて、「実際はどういうところで評価されているか」「理想はこういうところで評価したい」というのはあるんですか?
髙柳:実際はBtoCの商材なので、広告がすごかったから売れるかというとそれだけではない……。もちろん間にはいろんなものがあるんですけど、広告を評価するにはほとんどがリーチとかなんですよ。
ダイレクトの場合は売上もありますけれど、ブランドの場合はほぼリーチとフリークエンシーぐらいしか評価ができないんです。最近はソーシャルがあるので、SNSの反響も含めて評価を取れるようにはなってきています。
でも、そうじゃない場合はほとんどがリーチやフリークエンシーですし、動画だとCPVあたりになります。今回4人で集まって話した時にも「数字って作れちゃうんだな」「やっぱりそうだったか」と思う部分がけっこうありました。
実際の説明は数字でするんですけど、社内で聞いているほうも「たくさん数字があってわかりにくいけど、目標を達成しているから、よかったんじゃないの」「デジタル、悪くないよね」という感じになっていることはあると思います。
澤田:メディアのほうのCPV(Cost Per View:広告視聴1回あたりのコスト)はどうなっていましたっけ? これは別に「どこが悪い」という話ではないんですけど、オーバーレイで固定して動画が流れているみたいな......。
平田:そうですね。やっぱりメディアも作る時にマネタイズをするということで、いまお話があったようなオーバーレイの動画も、結局320×50や320×100のサイズで、左側に動画が流れているものも存在していて…。
私のパートナーさんがアドネットワークさんだったりするので、言いづらいのもあるんですけど、やっぱりメディアさんも短期的に、「いま儲かるからこれをやろう」になってしまうケースもあると思います。
平田:なので、「オーバーレイの動画は本当に見られているのか?」「視聴完了率がいいのは、ユーザーがメディアに接触している時間に再生されているんだから当たり前だよね」「結局、それは本質的なんでしたっけ?」みたいなことをメディアさんに言うように気をつけてはいます。
やはり「一時的なところで収益化して、本質的なことができているっけ?」というのは、メディア側も考えていかなくてはと思っております。
澤田:ありがとうございます。自分の立場で言うのは本当に頭が痛いんですけれど、それがいきすぎて、結局はネットワーク化されたよくわからないところに出てしまうことになるんですよね。そういった結果を代理店さんはどう捉えているのでしょうか?
平田:そうですね。そのあたりが聞きたいですね。
羽片:ブランドセーフティ分野(広告出稿が原因で企業や製品のブランドイメージを毀損するリスクと、そのリスクにどう対応するか)でしょうか?
平田:そうですね。
羽片:僕らは今、デジタルしかやっていないので、「真っ当な世界に持っていかないといけない」と思っているんです。ブランドセーフティの話が上がってから、広告主様の出稿予算はプラットフォームに予算が寄ることが多くなっています。
ネットワークのプロダクトに関しては、広告主様とちゃんと話をして、ブランドセーフティの話をとちゃんと説明したうえでやっていただくんですけど、「このメディアだったら配信する」みたいに、ホワイトリスト運用がメインになっていますね。
ネットワークの信用性があんまり高くない状況になってしまっているので、広告主様的にも、PMP(Private Market Place:参加できる広告主とメディアが限定されたプログラマティックな広告取引市場)より純広の方が出稿されている印象があります。
髙柳:そうですね。最近は「PMPですら怪しいんじゃないか?」みたいな。
(一同笑)
髙柳:「成果は出ているけど、YouTubeより効果が出ないな…」ということが実際にあるんですよ。ブランドトラッキングのよい・悪いは置いておいて、そういう調査をやると明らかに差が出るんですよ。
さらに突き詰めてMMM(Marketing Mix Modeling:統計情報を利用し、マーケティング活動が事業成果に与えた影響を分析する手法)をやると、もっと差が出ることもあります。
(一同笑)
「これ、ぜんぜん意味ないじゃん」みたいなこともなくはないですね。そうすると、純広回帰じゃないですけど、お金がたくさんあって、「態度変容指標をたくさん上げなきゃ」となったら、どうしても大きい純広から順番に買っていくようになります。
実際にヤフーのブランドパネルも見直されているんですよ。正直に言うと、「けっこう効果あるじゃん」という思いはありますね。
澤田:それはどういう効果でしょうか?
髙柳:認知などですね。とくにブランド認知系は、意外と覚えられている。その後の飲用意向、つまり飲みたいと思う、みたいなところまで捉えた場合にあの広告はちょっと微妙なんですけど……。
(一同笑)
ただ、これを言っていいのかわからないですけど、そういう感じのところはありますね。実際にそういう結果が出ています。
(一同笑)
羽片:テクノロジーは進化していても、前からある商品に予算が戻っている傾向はありますね。
髙柳:ブラパネのことをデジタルOOHと言ったりしています。
羽片:言い方を変えて売るのは、新しいソリューションかもしれないですね。
(一同笑)
澤田:デジタルOOHは、そういうものでしたっけ?
髙柳:「交通広告+ブラパネ」みたいな考え方です。
平田:メディアの枠は純広⇒PMPになっているケースが多いので、リソースがあるメディアさんはけっこういいと思うんですよ。ちゃんとセールスをして、自分たちのメディアを伝えて、どういうユーザーがいて、あとはDMPを使って属性をまとめて……。
そういうところはあると思うんですけど、人が少ないメディアだと、どうしてもセールスがしっかりできなくなってくる。そういうメディアさんを私はサポートしていきたいなと思っています。髙柳さんや羽片さんなどの側に知っていただくためにはどうしたらいいかな、と日頃から考えていますね。
羽片:プランニングはもっと考えたいと思っていますね。プラットフォームのみしか出稿しないのは、インターネット的じゃないというか。インターネットには無数のメディアがあって、それぞれに色があり、価値があり、ロングテールも含めてそれらを全部使えるのがインターネットの一番いいところだと思っています。違う目的で使い分けができると思っているんです。
URLは有機的に星の数ほどできる中で、決まったプラットフォームしか配信していないのが現状だと思うんです。ここを安全な状態でどういう目的で活用していくか。チャレンジしていきたい領域ですね。
髙柳:そうですね。私もマス広告の延長線みたいな出稿の仕方は雑だなと思っていて。インターネットは、好きな人が集まって、それぞれの興味関心に応じて自分の好きなメディアを見て、毎日楽しんでいる人もたくさんいる。
その中に、本当は「この商材だったら、あるいはこういう楽しみ方だったら、メディアの読者が喜んでくれるのにな」という丁寧なプランニングがあるはずなのに、そこがごっそり抜けて「とりあえずCMと同じ素材を出そう」みたいな。
澤田:素材が一緒......。
髙柳:そうですね。「ちょっと字幕でも付けておこうかな」とか、雑じゃないですか。それはインターネットをうまく活かしきれていないと言っても過言じゃないと思うんです。そこは自分もやっているので反省するところですが、もうちょっとインターネットのよさを活かしたいなと思いますね。
澤田:羽片さんのキーワードにいきますか?
羽片:「浸透圧」。本当は一緒じゃいけないんですけれど、マスマーケティングの指標をそのままデジタルに持ってきていて、その数字で苦しくなっているのが現状だと思っています。僕は「メディアプランニングのエクセルのカラムは今のままで正しいのか」「もっとユーザー体験を考えないといけない」とよくメンバーと議論してます。
例えば、Facebookを見ている時と、DELISH KITCHENの動画を見ている時では、情報を取りにいく目的というかモチベーションが明らかに違う。YouTubeのバンパー(広告)で6秒間流れるブランド体験と、BuzzFeedで書かれている記事でのユーザー体験も違う。
エクセルのメディアプランだと、この部分が数値のどこにも入っていないので、とにかく「インプ単価だね」「リーチ単価だね」と……そういうプランニングをしたら当たり前ですけど、単価重視で選べば、全部の会社が同じプランニングになりますよね。
結局、それはプランニングではなくて、ただの数字でしかない。「ちゃんとユーザーに伝わっているかどうかが大事だよね」といつも言っています。
社内で飲んでこの話をしてた時に「浸透圧」というワードがしっくりきたんですけど、その人にどれくらいの濃度で情報が伝わったか、みたいなものをKPI化していったほうがいいなと思っています。僕らとしては、このあたりに取り組んでいきたいですね。
なので、カテゴリ特化したアプリメディアや、本当に魂をかけてコンテンツを作っている人たちにお金が落ちるような真っ当な方向に持っていくには、このKPIが重要になるんじゃないかなと思っています。
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