2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
もしプロダクトマネージャーが野球のピッチャーだったら(全1記事)
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岡田佳代氏:よろしくお願いします、カシオ計算機の岡田佳代と申します。今日は「もしプロダクトマネージャー(以下、PM)が野球のピッチャーだったら」という、ちょっとふわっとしたタイトルでお話をさせていただきます。
カシオはG-SHOCKのような時計を作っている会社で、時計開発統轄部という部門があるんです。その中にスマートウォッチの部門がありまして、そこの商品企画をしております。
入社したときにはソフト開発ということで、デジカメの組み込みソフトを担当してました。そのあと商品企画ということでスマートウォッチを、初代の立ち上げまで4年くらいかかって、今ようやく2世代目の商品を売っているところです。私はもともと登山とかアウトドアが趣味で、雪山とかも登ってます。
私が手掛けた商品は「PRO TREK Smart」という……もともと「PRO TREK」というアウトドアウォッチがありまして、それのスマートウォッチ版という位置付けで「WSD-F20」という商品を開発しました。
スマートウォッチなんで、もちろん防水で、アウトドアで使っても壊れないというハードの部分があり、スマートウォッチの画面で何を見せるのかというソフト・アプリケーションの部分があります。その両方の比重が大きいプロダクトで、どうやって価値を作っていくか。ハードとソフトの開発プロセス、どうしたらいいのかなっていうのを模索しながらいろいろやっていました。
そこの話は、前回のPO祭りでお話させていただいて、そのスライドが公開されてます。「スマートウォッチのプロダクト開発」で検索していただくと出るかと思いますので、もしご興味あればどうぞ。
商品自体を知らない方にざっくりご説明します。時計ですからもちろん時刻は見えるんですけど、その時刻を見るくらい簡単に現在地をチェックできる時計を作りたいな、っていうのが私のもともとの商品コンセプトでした。
自分も登山をするので、やっぱり「どこにいるのかわかる」っていうことの安心感って、屋外にいるときにすごく強い、共通の価値だと思ったんですね。
「アウトドア向けスマートウォッチ」と言うからには、そこを実現することでいろんなお客さんの不安感を解消したり、モチベーションにつながったり、そういうところを価値として実現したいと思って取り組みました。
具体的には、GPSが内蔵されていてオフラインでもカラーの地図が見られるというのを、「Wear OS」というGoogleのOSを使ったプラットフォームで実現しました。世界中のどこでも地図上で自分の現在地がわかる、アウトドアに最適なスマートウォッチですよ、というものを作りました。
お陰様で、スマートウォッチというジャンルの中では尖った商品ということで好評いただいております。いろんなアワードをいただいたりもしていて、この新しいジャンルの中ではなかなかのヒット商品になったかなと思っています。
それでは本題です。今回の話、「もしPMが野球のピッチャーだったら」という……なんか『もしドラ(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』,ダイヤモンド社,2009))』をもじったようなタイトルを付けましたけども。野球における「先発型」と「リリーフ型」で考えてみると、いろんなフェーズやPMの特性みたいなものが、うまく共有できるのかなと思ってお話してみます。
野球をご覧にならない方のためにざっくりご説明しますと、今は一人のピッチャーが9回を全部投げるっていうのはあまり主流ではないんです。9回のうち、先発投手が5~7イニングくらいを投げて試合を作ります。そこで多少失点があっても持ちこたえる、スタミナ型のピッチャーというのが野球で前半を投げます。
それで後半は、リリーフと言われるピッチャーに受け継ぐことで勝つと。失点しない精度で、安定性のある登板が求められる。こんな感じで、ピッチャーも分業制が進んでいるのが野球になります。
このイメージをふまえて、カシオのスマートウォッチの話に戻ります。今ご紹介したF20というのを発売するときまでは前のモデルがあったんで、それの置き換えという感じでした。1プロダクトのみを集中して作るという体制で、私がメインで担当していました。
そこで求められる役割とか特性って、先発ピッチャーに近いのかなと。まずそのプロダクトのコア価値、さっきお話しした「腕で地図が見える」っていうものを作ることです。これは、いわば野球で試合を作るみたいなもんだと。
いろいろポカとかミスもあるかもしれない、判断ミスがあるかもしれないけども、トータルとしてちゃんと自分の役割をまっとうする。野球で言ったら6回、7回まで投げ通す、もちこたえるみたいな。そういったものがPMの役割としては求められるのかなと、今振り返ってみると思ってます。
お陰様で好評いただいたので、その後にバンドが付け替えられるモデルを作ったり、ちょっとデザインを変えてみたり、いろんなラインナップを追加してるんです。そのときのPMのタイプって、リリーフピッチャーっぽいかなと。もとのモデルを引き継いで事業貢献する、そこの手堅さや精度、安定性みたいなもの。場面によっては若手の育成に、あるテーマを使ったりとかいうことがあるかと思います。
よく言われていることに「PMは1人であるべきか」「合議制って成り立つんですか」っていう話があります。これにはいろんな意見があると思うんですけど、プロダクトのフェーズによるのかなって私の中では消化をしています。
つまり、立ち上げとか大きな変化が必要なときに求められるPMのタイプって、先発型なんじゃないかなと。基本、1人で決める。多少の判断ミスも織り込み済み。だけどやり通してもらうと。
これを表すのに野球で良い用語があって、「クオリティ・スタート」というのがあるんです。メジャーとかでよく言われる指標で、6イニング以上を投げて、3自責点。自分のせいで点を取られるのが3点以内であれば、先発投手として安定してる。逆に言うと、失点してもいいんですよ。10点取られたらダメですけど、3点くらい失点してても先発投手としては良い。
それくらいの感じが、先発型のPMで求められる判断・意思決定のモデルなのかな、というふうに考えました。逆にこのフェーズで無失点を目指して、じゃあ穴を埋めるためになんだかんだ、って合議をしていくと、いろいろめちゃくちゃになってくかなっていうのは。たぶんみなさん、けっこう実感としてあるとこなんじゃないかなって思います。
事業を伸ばす段階だったらリリーフ型です。もとのテーマを引き継いで伸ばしたり、なにかを改善して伸ばすには、着実に結果を出す精度や安定性が求められます。これはリリーフピッチャー的な特性かなと思います。
ここについては、例えば分担もできるでしょうし、合議をしてできるだけリスクヘッジをして、確実に成果を取るとか、そういった上の目標を実現するための手段として、合議制っていうのはありなのかなと考えたりしました。
じゃあ、「プロダクトを継続して回していくチーム作り」について。やっぱりプロダクトをずーっと発展させていくには、新しいものを追加するかもしれないし、もとのメジャーなやつをバージョンアップしていくかもしれない。
常に戦い続けるっていうのは、プロ野球のペナントレースみたいなものです。ある1試合をやったら終わりじゃなくて、シーズン通して戦い続ける、みたいなイメージですよね。
PMも野球のピッチャーがたくさんいるようにチーム化して、試合展開に合わせてピッチャーを分業していく。そんなイメージかなと思います。
シーズンを通して戦うためのチーム構成ってどうなのかなと。ここはまだ、私もこれから考えていきたいなと思ってるところなので、ちょっとモヤモヤしたイメージなんですけど。
ピッチャーで言ったら、先発ローテーションっていうのがあります。先発は長い回数を投げますので、1試合登板したらちょっと休んで、別の人が投げて、5人とかでローテーションして回していくんですね。だからもしエース級の人がいても、「毎試合投げてたら潰れちゃうよね、じゃあローテーションが必要だよね」みたいな考え方がもちろんあると思います。
じゃあ、若手をPMとして育てるとき、どの試合で実戦投入していくのか。野球で言ったら、どの回数、どの試合、どの局面で若手に任せるのか、みたいな。そういう視点もあるのかなと思います。
よく、「安定事業になると、0→1しづらくなる」みたいな話が言われると思います。いわゆる0→1が先発ピッチャー型、1→10はリリーフ型としたときに、やっぱり安定事業になると、それだけの事業規模があるからこれだけの結果が求められると。だからリリーフ的に手堅いテーマをどんどん積み上げていって、事業を拡大していく。だから0→1がしづらくなる。
そういったときに、じゃあその先発型の経験をどう作っていくのか、テーマをどう作っていくのか、みたいなところが普遍的な課題としてあるのかなと思います。こんな感じで野球に例えていろいろ状況を分析してみました。
まとめとして、プロダクトのフェーズによって適した判断の質や速度があると。それを野球のピッチャーに例えると、先発型のPMは、多少粗があってもやり通す。大きな立ち上げとか変化のときには、そういう意思決定が向いているのかなと思いました。
一方、リリーフ型のPMとして精度良く結果を出すっていうのは、事業を伸ばすときに求められます。そうやって役割分担を意識していくといいのかなと思います。プロダクトのタイプによるかもしれないんですけども、いろいろみなさんの思索のきっかけになれば幸いです。どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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