「空飛ぶクルマをつくる」ために

―まずは、お互いの自己紹介からお願いします。CARTIVATORからどうぞ。

中村翼氏(以下、中村):CARTIVATOR自体は有志団体という位置づけで、「空飛ぶクルマをつくる」という夢を叶えるためのボランティア活動をしています。

主に自動車・航空のエンジニア、いろいろな企業の専門家が業務外の時間に集まって活動をしています。活動時間は主に平日の夜や土曜日、日曜日の週末になります。

メンバーは今100人ぐらいで、技術系メンバーと事業系メンバーというかたちで、主に機体を作る人たちと、広報やスポンサー交渉、会計やHRなどをやっているメンバーに活動内容が分かれています。メンバーは20~30代が中心になります。

主な活動拠点は愛知と東京で、愛知は技術系メンバーが中心になり豊田市の「ものづくり創造拠点SENTAN」で活動を行っていて、東京の場合は技術系メンバーは「TechShop」、事業系は一部メンバーがシェアハウスをして住み込みで活動を行っており、事業チームの活動拠点にもなっています。

機械構造と流体力学、それぞれを担当

福谷和芳氏(以下、福谷):僕は東京の技術開発メンバーで、プロペラを囲うダクトの設計を担当しています。そもそも適用するメリットがあるのか、どういう形状がいいか、その最適化などを担当しています。

デザイン性に影響するところですので、アイデアを出し合って、デザインチームとか、制御のメンバーたちと一緒に「どういうのがいいんだろう?」と日々話し合っています。

小林裕氏(以下、小林):僕は今は学生で、週に1度、土曜日にTechShopに来て、愛知のメンバーと一緒にSkypeで活動しています。理論構築チームに今は入っていますね。「空飛ぶクルマ」は設計だけではなく、設計の裏付けの理論も重要です。

担当しているのは流体力学のモデルで、「どのような回転数であれば、理想的な姿勢にすることができるか」をあらかじめコンピュータでシミュレーションする作業です。論文の中から流体モデルを探してシミュレーションする「Simulink」などへの実装が僕が担当している部分です。

空気をどう流したら一番パワーが出るかを数式化してシミュレーションに落として、作る前に予測する部分です。

リクルートテクノロジーズのメンバー

-ありがとうございます。では、リクルートテクノロジーズの方の自己紹介をお願いします。

小玉祥平氏(以下、小玉):僕は ディレクション部所属で、新卒1年目です。担当事業である「ゼクシィ」にとって、ITの観点で「どういうことをしたほうが一番効果が出るのか」「利益が出るのか」を議論して、その上で実際に技術のある人やテクノロジーと協働して施策を推進しています。

直近では、ゼクシィの営業マンや企画者がより価値を出せるようにするための、業務用システムの企画や設計をしています。よろしくお願いします。

大戸一希氏(以下、大戸):現職は、名前がすごく長いのですが(笑)、ITソリューション統括部・サイバーセキュリティコンサルティング部・セキュリティアーキテクチャーグループです。

ITソリューション統括部内には、サイバーセキュリティコンサルティング部とサイバーセキュリティエンジニアリング部の、セキュリティと名のつく部署が2つあり、私が所属するのは、コンサルティング部の方であり、社内セキュリティ施策の立案・整備し、施策が全社に浸透するように、普及活動を行い、普及した施策がきちんと行われているかを確認するのが、主な部署になります。

ただ、私がいるセキュリティアーキテクチャーグループは、その中でもエンジニアリングを得意とする部署です。最先端のセキュリティアーキテクチャの調査、検証、および社内インフラ導入後の運用業務を行なっております。

また、私の所属するチームでは先進的な取り組みとして、狭義のセキュリティの枠を超えて、事業リスクとなりうるものをターゲットとして、ログを解析し、一部遮断までを事業会社と協力して課題に取り組んでいます。よろしくお願いいたします。

中村:よろしくお願いします。

松原舜也氏(以下、松原):僕は婚活領域のiOSエンジニアなんですけど、そちらのアプリを作るのが主な仕事になります。

『ドラえもん』のような世界を

-ありがとうございます。CARTIVATORのメンバーが今、何をやっているのかをお聞かせいただければなと思います。

中村:我々のミッションは「モビリティを通じて次世代の人達に夢(=能力の拡張)を提供する」です。メンバーみんなが乗り物などが好きで、「その夢を次の世代に伝えよう」という思いでやっています。

この「夢」を我々なりに2つ定義しています。1つは「今できないことをできるようにしよう」。『ドラえもん』の世界で出てくるようなモビリティを作っていきたいというところです。ですが「どこでもドア」や「タイムマシン」になると、けっこうな技術革新が必要で、直近の実現がまだ難しい。

制約のない移動という意味で「タケコプター」のようなものを作っていきたいと考え、これもそのままでは作れないので、「空飛ぶクルマ」というカタチでそれを実現しようと考えています。

小玉:「制約がない」「自由な」という定義についてお聞きしたいです。例えば、タケコプターと今の移動の違いは、どういうところなんですか?

中村:わかりやすいところでいうと、渋滞もですが、道路が必要ないところ。あとは山岳地帯などの地上の状況に依存しないところですね。

小玉:なるほど。そういう意味でやはり自由なんですね。

次世代によりよい世界を届けるために

中村:もう1つの夢は「次世代によりよい世界を届ける」。2050年をゴールイメージとして置いています。そのときに、交通に関する課題で大きなところとしては都市化による渋滞の問題。また、人口爆発によって道がないところにも人がどんどん増えていく場所でのアプリケーションとして我々は考えています。

ビジョンとしては、「2050年には誰もがどこでもいつでも空を飛べる時代に」と置いています。

それをやるために空飛ぶクルマ単体だけでは実現できないので、新しい交通のルールを作っていったり、インフラを作ったりすることが必要になります。当面、有志活動としてはまず「空飛ぶクルマ」の機体を作ることを目標に活動しています。

「空飛ぶクルマ」はよくSFでは出てきますし、実際に100年以上前の1900年代に飛行機ができた直後から取り組まれている分野ではあるんですけど、なかなか実現はしなかった。2013年ぐらいまでは、そういう波がいくつもありながらやっているところが少しあるという状況だったんですが……。

世界中で30〜40社の競合

中村:2014年ぐらいから今にかけて一気に競合が増えてきているという状況で、30〜40社ぐらい、世界中で取り組まれています。

大戸:どうしてこの時期に競合が増え出したんですか? 技術革新などが関係しているのでしょうか?

中村:そうですね。まず1つは、やはりドローンが出てきたことが大きいです。ドローンの背景としては、姿勢制御の技術がありますけれども、センサー類がすごく安くなって自律的な制御が安価でできるようになりました。

今取り組んでいるのは垂直離着陸するタイプなんですけれども、それをやろうとするとどうしてもバランスを取らなくてはいけない。技術の精度も上がり、安くなってきたので、そこの課題が改善できるようになったと思います。

大戸:バッテリーの問題に関してはどうなのでしょうか?

中村:そこはまだ、けっこうな課題ではありますね。

大戸:そうですよね。

中村:まだ長距離を飛べるレベルではないですね。ただ、先ほどの交通渋滞を回避するイメージでいうと、距離的には数10キロが壁です。

楽観的と言ったら、少し言葉が変ですけれども、そのぐらいであれば、今から5〜10年後に起きるであろうバッテリー革新でいけるんじゃないかと思っています。

欧米で盛んな「空飛ぶクルマ」開発

中村:「空飛ぶクルマ」の開発は、主にアメリカとヨーロッパと中国で盛んに行われています。アメリカはシリコンバレー中心、ヨーロッパはドイツなどですね。中国は深圳にあるドローンメーカーとかが進出しようとしてきているという段階です。

我々が作っているのは「SkyDrive」という名前の機体です。今は少しデザインを変えているんですが、「SD-00」(1/5スケール試作機)という初号機のデザインになります。

シンプルに説明させていただくと、まさにドローンのように4隅にプロペラがあって、その間にタイヤを3輪収めるという構成です。

垂直離着陸ができますし、1人乗り用なんですが、軽自動車よりも小さいサイズに収めることでどこでも行けるようにしたいと思います。

操作としても、車と飛行機の機能を持っているので、そのままシームレスに、ハンドルとペダルという普通の車のインターフェースと同じように操作ができるようにしたいです。最終的には自動運転に持っていこうと考えていますね。

普通の車のように走って、障害物があればそこから飛んでいける。なので、災害対応として使ったり、あとは道がないといったところでも乗り越えたりできる。

松原:体重移動で曲がるんですね。

中村:そういうことも1つの案として考えています。

松原:すごいですね。

中村:実際はけっこう難しいんですが、いろいろ検討した結果、今はハンドルとペダルでやろうとしています。

ヘリコプターの場合は基本、機械的につながっているので、ハンドルとペダルの切り替えは難しいです。「空飛ぶクルマ」に関しては、基本はドローンと一緒で、飛行姿勢を電子制御しているので、ある意味インターフェースは自由に設計ができます。

まずは先進国で確立を

中村:2050年に向けたロードマップですが、最初の目標は「2020年の東京オリンピック開会式での聖火台点灯デモフライト」です。2025年には発売を開始して、30年にはまず先進国でレジャーや通勤用として。2040年には道がない新興国で新しい交通インフラとしてやっていきたいです。

2025年まで7年しかないんですけど、今の競合としてはUberやエアバスが実はいます。彼らもこのあたりに実際にサービスにすることを目標にしている段階です。まず、2020年ぐらいにデモフライトをするスケジュールです。彼らとは、ほぼ同じ時間軸で動いています。

小玉:やはり、まず先進国でというイメージなんですね。

中村:そうですね。

小玉:人口爆発や社会インフラの課題のある新興国より、なぜまずインフラの整備された国で進めるのですか?

中村:我々の中でも考えたんですけどね。「空飛ぶクルマ」には道路などのインフラとかは必要ないのですが、最低限の管制システムなどをコントロールする必要があるので、技術などにもやはりお金が必要です。

今は車をシェアする時代ですが、そこまで使えない人たちにとってはハードルが高いです。行きたいのは新興国なんですが、いったんは先進国で確立する方針です。ここはここで難しいですが。

大戸:法整備とか大変そうですよね。

中村:そうですね。

大戸:航空機の高度って決まっているじゃないですか。そこをどうするか。

中村:そうですね。これはある程度低い、地上から数百メートルぐらいの高さを飛ぶようなイメージで、ヘリコプターとかと近いイメージになるんですけれども、その下にはドローンがいて。

だからドローンと今のヘリなどの間に位置するイメージなのですが、そこはそこでコントロールしないと、「どう離着陸できるんだ?」という課題があるので、一筋縄にいかないです。

新世代の乗り物「eVTOL」

松原:「空飛ぶクルマ」と聞いたときに真っ先に連想したのがプライベートヘリです。プライベートへリを全員が持っている状態とほぼ同じだと思うんですけど、それが実現していない理由はたぶんいくつもありますよね。

それが車のようなローターが4つ型になったときに解決される道筋が立ったら、普及していく道筋を描ける気がします。プライベートヘリが小型の4つ型ローター式になれば解決する問題なのか? それをなぜ車だと解決できるのかというのはどう考えられていますか?

中村:すばらしい質問ですね(笑)。

松原:(笑)。

中村:大きく「ヘリとなにが違うの?」という問いだと思いますけど、一応正しくは「空飛ぶクルマ」は電動の垂直離着陸機なんですね。電動を表すelectricの「e」、垂直を表すVerticalの「V」、離陸を表すTake-Offの「TO」、着陸を表すLandingの「L」の頭文字をとって「eVTOL」と言います。

垂直離着陸機は「VTOL」と言いまして、代表的なものでいうとオスプレイですね。これに対して最近注目されているのは、車のEVと同じく「eVTOL」です。

シェアリング前提のプロダクト

中村:それでは、なにが違うのか。まず、VTOLはエンジンで動いています。ネガティブな要因は、まず騒音がけっこう大きいです。ケースによりますけど、エンジンの音の問題はヘリコプターの中でも半分ぐらいを占めています。それがモーターになってくると、その分の音はなくなることがまずメリットとしてある。

さらには、エンジンだとどうしても航行中にCO2とか大気汚染があるのが、モーターだったら、1つの変化点としてそういう問題がなくなる。

プライベートという意味では、「所有」ということになると思います。我々がイメージしているのは、これは所有ではなくて基本的にはシェアリングです。世界の潮流としてもやはりシェアリングとして使うのが前提で考えてられています。

それは値段の面でもそうですし、航空機はやはり天候に左右されてしまうので、飛ばないときに持ってても仕方ないところもありますので、本当に使いたいときだけ使う。

松原:個人的に、プライベートヘリが普及しない一番の理由が、面倒であることだと思ってたんですよね。ライセンスを取るまでに数年かかりますし、実際に費用の問題もあります。

また、航空計画を提出しなければいけないことの面倒さが、確かにシェアリングだと、パイロットが1人いて、その方が提出してくれれば解消されるのかなという気もするので、シェアリングは大きそうですね。

中村:そうですね。

自動運転でないと普及は難しい

中村:まさにそのライセンスの話でいうと、基本的に法整備はすぐにはできないですが、自動運転が前提になってくると思っていますね。

松原:ローターが4つになったので、自動操縦が大きく改善されるということなんですか?

中村:そうですね。やはり、個人のプロじゃない方が飛び交っている世界はなかなか危ないので、自動運転で全部コントロールすることを前提にしていかないと普及は難しいかなと思っています。

ローターが4つになったからというよりは、EVと同じく電子制御なので、eVTOL自体がコンピューターやセンサーなどを持っていてやりやすいという要素があります。

ヘリコプターは機械的なメンテナンスにすごくお金かかっているので、ここが簡単になると、操縦面でもシンプルになるという変化点があります。

松原:ありがとうございます。