毎日の料理を楽しみにする挑戦をし続けた20年
橋本健太氏(以下、橋本):ただ今ご紹介いただきました橋本です。よろしくお願いします。
今日は、大勢の方にお出でいただいて、本当ありがたく思います。楽しい発表がいっぱいあると思うので、ぜひ最後まで聞いていってください。
発表は「毎日の料理を楽しみにする挑戦をし続けた20年」という内容を、なんと20分でやるという、チャレンジングなものになっております。「橋本健太、いったい誰だ?」ということですが、2014年ぐらいまではクックパッドのCTOでした。その後、スペインに行って、Cookpad Spainの社長をやって、3ヶ月ぐらい前に日本に帰ってきたばかりです。
CTOの時代に何をやってたかというと……。CTOをやる前、クックパッドが立ち上がった頃に、創業者の佐野と友達だったので、「料理関係の楽しいこと始めるぞ」ということを聞いて、「手伝わせてやる」みたいな感じで手伝ったりしてました。まあ、すぐ辞めちゃったんですけど(笑)。
そういうことを経て、正式参加は2004年です。この時は有料会員事業の立ち上げがあって、「けっこうおもしろいことやるから、また一緒にやろうよ」と佐野に言われて。どういう話だったかというと、有料会員事業ってただユーザーからお金を取るという話じゃないんですね。
なにかいいものをつくって、「これは、ユーザーの役に立つぞ」と思ったものを出してみて、本当に役に立ったらお金を払ってくれるし、お金を払ってくれなかったら、いいと思ってたものがぜんぜん意味のないものでしたということが1日でわかる、ということをやって。
それをずっとやっていけば本当に役に立つものがつくれる、というかたちの事業をやりたいんだということを聞いて。「これはもう絶対やるべきだな」と思い、2004年に参加しました。それが14年前ぐらいです。
2006年には、それまで創業者が書いてたコードを全部なくして、自分が書いたコードに全面リニューアルして、2008年にはRailsのリニューアルやサーバーの仮想化など不思議なことをやったりですね(笑)。
その後、2014年前には、AWS化やiOSとAndroidのアプリが出たとかいっぱいありますけど、その辺りは自分でやったというよりも、だんだん優秀なエンジニアの方がいっぱい入ってきて、みんながやってくれたというかたちになっていきます。
そこから先はスペインに行きました。2014年ぐらいに「クックパッド、世界展開しようよ」ということになったのですが、世界展開するといっても、「する」って言ってできるわけじゃなくて、誰か行かないと無理なんですね。
当時の経営者の中に、「海外に住んでそういうことをやろう」という選択肢のある人はいなかったので、僕もあんまりそういう選択肢はなかったんですけども、「誰も行かないなら、クックパッドは世界に出ません」という話になるのもイヤだったので、「じゃあ、自分行きますよ」と言って。
その当時は優秀なエンジニアがいっぱいいて、「もう彼にはCTOを任せられるよ」という人間もいたので、CTOは任せて自分はスペインに行ったと。スペイン時代には、UUを3倍にしたり、作者数を10倍以上にしたり、アプリをスタートしたりしてます。
それで、3ヶ月前に帰ってきて、今はコーポレート戦略部で新規開発プロジェクトをいっぱい立ち上げているという状況です。
クックパッドの原風景
以上が自己紹介で、クックパッドの話に移っていきます。「クックパッドって何ですか?」って言うと、「料理レシピのサービスですよね」と言う人がいると思いますが、違います。クックパッドは、毎日の料理を楽しみにする会社。この毎日の料理を楽しみにするっていうことだけをやり続けていて、料理レシピ関連のことはその一部という感じの会社です。
じゃあ、なんでそんな毎日の料理を楽しみにする会社が生まれたんだと。普段こういう話ってあんまり外部にしないですけど、今日はせっかく20周年の機会なので、その話もしてみたいと思います。
ある時、創業者の佐野が「心からの笑顔をもっと増やしたいんだ」という感情を抱いたらしいんですね。詳しい話は機会があればぜひ佐野に聞いてほしいんですけれど、彼から聞いている話でいうと、学生時代になにかの国際会議に出たらしいんです。
そしたら、そこに来た人と友達になって、その友達があまり裕福じゃない国から来ていた人だったらしいんですが、ものすごくいい笑顔をしていて、「彼みたいな笑顔が世の中に増えたら、世の中絶対良くなるし、彼みたいな笑顔だらけの世界に自分は住みたい」と考えたらしいんです。
「どうやったらそんなことできるのか?」と、「笑顔って増えるの?」「お金いっぱいあれば笑顔になるのかな」という話をしていると、彼は別に裕福な国から来ているわけじゃないらしいんです。「便利なものがいっぱいあれば……」とか言っても、便利なものがない所から来ていて。
「じゃあ、何? どうやったら彼みたいな笑顔を増やせるの?」ということを必死で探して。まあ、探しても苦笑いみたいなものが、いっぱい見つかるらしいんですね。「そうじゃない。心からの笑顔はどこにあるんだ?」と探したところ、唯一彼が理解できたのは、おいしいものをつくって、みんなで食べている時で、「あれ? この瞬間はみんな笑顔じゃん」ということを発見したと。
「よし。じゃあ、それをやろう。毎日の料理を楽しみにする、それだけをやり続ける会社が世界に1つぐらいあってもいいんじゃないか」という理解で始まったのが、クックパッドです。
クックパッドはテックカンパニー
クックパッドはテックカンパニーです。ですが、いつからテックカンパニーになったのかというと、最初からです。社員が社長1人しかいなかった時代も、エンジニアが僕しかいなかった時代もけっこうありますけど。
しかもそのエンジニアがITの世界では駆け出しでしたという時代も、その後に名だたるエンジニアがバーッと入ってきて、優秀なエンジニア集団みたいになった後も、クックパッドはずっとテックカンパニーです。「それって言ったもん勝ちですか?」と思うかもしれないですが、ちゃんと理由があります。
これも昔話みたいなやつですけれども、ある時佐野に呼び出されて、「CTOやってよ」と言われたんですね。僕も「え? CTOなんか絶対イヤだ」と思って。
「ユーザーの役に立つプロダクトをつくりたいんだけれども、テクノロジーというと、ユーザー関係ないじゃん。そんなのはやりたくないです」と言ったところ、佐野に「ユーザーの役に立つプロダクトつくりたいんでしょ? それがテクノロジーだよ」と、とんちめいたことを言われて、すごく合点がいったと。
とくにクックパッドのテクノロジーというのは、料理が楽しくなるための方法であり、ユーザーの生活の役に立ち、なにかの課題を解決する方法であって、今の技術を最大限に活かせるというもの。これらを実現するための方法論なんです。なので、それを根拠にクックパッドは最初からテックカンパニーだったと思っています。
エンジニア採用の2つの基準
テックカンパニーと言うのは簡単なんですが、やるのはけっこう大変です。例えば、テックカンパニーとしての採用。その時は、エンジニアは1人しかいないからエンジニアを増やしたくてしょうがないのに、100人ぐらい応募してきても、中には超スーパーエンジニアがいて「よし!」って思っても、採用できないんですよね。
なぜかというと、そのエンジニアがどんなに技術力があっても、料理が楽しくならなそうだったり、そのエンジニアがユーザーの生活の課題解決には興味なさそうだったり、そういう場合には採用しませんでした。
それがずっと続いて、結果的にエンジニアはずっと1人だったんですけれども。やっとユーザー数が200万人になったあたりでエンジニアが1人増える、300万人になってもう1人増えるというかたちで、だいたい100万人あたり1エンジニアというのがずーっと続いて、今もそんな感じですね。
でも、実はこれはいい基準だなと思っていまして、このままずっといくと、だいたいユーザー数50億人ぐらいの料理を楽しみにしてる時には、それは5,000人のエンジニアでやってると、これはすごく気持ちのいい状態だなと思っています。
(会場を指して)たぶん今ここに、400人ぐらいいると思うんですが、この400人ぐらいの方が料理を楽しみにすると、さらに4億人の料理が楽しみになるという世界がいいな、と思って続けています。
テックカンパニーとしての信念
テックカンパニーというのはいろいろ大変で、これも、エンジニアが1人しかいなかった時代ですけれども、レシピ検索が当時すごく遅くて、30秒とかかかっていて。「さすがにインデックス、もうちょっと活かそうよ」となって、「よし、これなら2秒ぐらいで検索できる」って佐野のところに行くと、「は? それ、20msec(ミリセック)じゃないと意味ありません」と言われて。
当時は、ElasticsearchやSolrとかがない時代ですね。「できるわけないじゃん」って言ったら、「でもそれ、Googleはできてるよね」って言われたら、それでなにも言えない。できてる人がいるなら、やっぱりテックカンパニーとして自分だって、それができて料理を楽しみにしなくちゃいけないなと思って、グッとやってみると、1日ぐらいで解決策を思いついて20msecになっちゃったり、ということが起きたりしてました。
ビジネスも大変でしたね。テックカンパニーは、ユーザーの役に立つのがテクノロジーだとしていて、ユーザーのために最大限の開発ができるように白金台にあるすごくいいオフィスに引っ越しました。引っ越したところ、「お金なくなっちゃいました」と不思議なことをCFOに言われて。上場1年前ですよ。
「これでは上場できません。なので、事業を伸ばしてください」と言われて、「マジか。どうするんだ?」と。でもこれはすごく大事で、事業のためにユーザーを増やしてるわけではないので、「ここでどうやってユーザーの料理を楽しくして、事業を伸ばそうか?」となりました。そこで、有料会員事業に注力してそこからバーッと伸ばしたんですね。
それがあるので、今もクックパッドが成功した状態を保っていられるな、と思っています。これからも料理が楽しくなる、ユーザーの生活の役に立つ、今の技術を活かせるという意味で、どんどんテクノロジーを伸ばす会社でありたいな、と思っています。
今ちょっと辛そうな話をしましたけど、けっこう昔の話なので。今は優秀な方が社内にいっぱいいて、もっとまともな状態で、サービス開発をしています。
グローバル展開を推し進めるクックパッドの想い
クックパッドはグローバル展開しています。これも、「なんでグローバル展開してるんですか?」という話をすると、2014年に1人の社員が、「世界的に料理のインターネットはブームになりつつある。そろそろクックパッドも世界に出ないとヤバいですよ」と言いだして、世界中を探して回ったんですね。
そしたら、世界中にレシピサイトがありました。でも、全部メディア系の会社から買収されかかってるという状況でした。メディア系の会社が買収すると何が起きるかっていうと、戦略はだいたいPVを稼いで、広告を売るっていうかたちなんです。なので、広告を売りやすいコンテンツをつくって、それをユーザーに見せるみたいな。
「これ、ぜんぜん料理は楽しみにならないじゃん。今、クックパッドが世界に出ないと、そういう世界になっちゃいますよ」っていう理解をして、「これはもうクックパッド、今いきましょう」って言って、すぐに動き出したんですね。
中でもクックパッドと同じように、メディアっぽくなくて、料理をちゃんと楽しくしようと思ってる会社が、インドネシア・スペイン・レバノンで見つかって、その辺りのサービスを買収して、どんどん一緒にグローバル展開をやっていくということを始めました。
それと個人的にスペインなんですけれども、まず最初にやったことはユーザー訪問ですね。スペインのスタッフたちよりも自分が、スペインのユーザーを理解してるという状況にならないと、その後待ち受けているたくさんのことを乗り越えられないという理解があったので、それをやっていきました。
料理を楽しんでいる人たちがいっぱいいました。(スライドを指して)彼女はアルゼンチンからスペインに移って、そこでアルゼンチン料理をつくって、クックパッドに投稿するということをしてくれてる方ですね。
こんなふうに一緒に食事をさせてもらったり、こんな感じの料理をつくったり、というのをすごくいっぱいやりました。
日本と同じで、世界中に「自分のやったことが人の役に立つとうれしい」という思いを持ってるみなさんがいっぱいいて、「やっぱそこだよな」と信じることができて、その後のサービス開発に活かしたりしています。
どんどん世界の料理を楽しみにしていく
その後スペインでは、毎日の料理のための機能やレシピ投稿のための拡充したんですが、けっこう大変なのはサービスを止めることなんですね。
大量のサービスや誰とでもチャットできるとか、「料理のコツを集めたコンテンツあります」とういうものをいっぱいやっていても、集中して料理を楽しくする方向にいけなさそうということで、大量のサービスを止めました。でもこれも、ユーザーの理解があって信頼されてっていうことで、続けていったっていうやつですね。
ここまではまだ普通の話だと思っていて。この後、グローバルプラットフォームというのをやりました。世界中にバラバラにあるレシピサービスを買収したんです。
それを「1つのクックパッドにしよう」と言った時に、これって「コンテンツを1ヶ所にまとめましょう」という話じゃなくて、「バラバラにいるユーザーアカウントどうするんですか?」とか「ドメインを全部cookpad.comにしましょう」ということをどうやるか。
サービス名がクックパッドだと思っていないユーザーさんたちに「クックパッドですよ」って言わなきゃいけなかったりとかいっぱいあって。インフラの話は今日この後、別の人から発表があります。
ですが、これはやりきらないと、各国にいる志の高いメンバーたちの力が合わせられないっていう理解はあったので、これはなんとかやりきったというかたちです。
今はそのグローバルのヘッドクォーターがイギリスのブリストルにできました。そこは開発拠点でもあって、そこでも新プロジェクトがどんどん動いています。あとは、社員がブログで公開したりもしているので、ご覧いただくといいかなと思いますし、来週あたりに「Cookpad Tech Kitchen」で、この辺りの発表もあるみたいです。
結果的に、現状では68ヶ国、22言語で、クックパッドが使われるようになっています。
開発も世界中9ヶ所で行われていますし、それ以外に、リモートで10ヶ国以上から開発している、という状況ができてきて、どんどん世界中で料理を楽しみにするための開発が広まっています。
Google Playのベスト オブ 2017に、そのグローバルアプリが取り上げられて、しかも7地域で取り上げられています。日本発のアプリで取り上げられた地域数は、このアプリが最大になっています。
それから、Apptopiaっていうところが調査した結果ですけれども、iOSとAndroidを合わせて、2017年に世界中でダウンロードされているアプリのランキング、Food & Drink部門でクックパッドは4位に入っています。これはUber Eatsより上というかたちになっています。
Webはもう間違いなくNo.1ということなので、これからも、こんなもんじゃなく、どんどん世界中の料理を楽しみにしていく、っていうことをやっていきたいと思っています。
料理の可能性はまだまだ広い
今度は、国内での話ですね。3ヶ月前に帰ってきたんですけれども、国内でもいろんなプロジェクトが動いています。クックパッドアプリの改善は当然ですし、ユーザーさんが動画レシピを自分で投稿できる動画スタジオがあったり、Cookpad TVについては、今日、別の人間から発表があります。スマートスピーカー対応もしました。これも、ライトニングトークで発表があるという噂を耳にしています。
2017年には、その他にも6個ぐらいのプロジェクトが動いていて、うまくいっているものもうまくいっていないものもあります。その中の1つは、今日、村本という者から発表があるということなので、楽しみにしていてください。
さらに、僕が帰ってきてから12月以降に、4つの新規プロジェクトを立ち上げました。どれもかなり野心的なプロジェクトで、そのすべてが毎日の料理を楽しみにするための新しい挑戦になっています。これは、リリースするのが楽しみでしょうがないです。
それで、少し方法論の話に移ります。帰ってきてから「SPRINT」という方法をけっこうやっています。
これがかなりいいので、みなさんにおすすめしたいなと思っています。
これは、Google生まれの開発プロセスなんですけれども、よく「2週間スプリントでリリースします」みたいに言っている意味のスプリントとは違います。固有名詞のSPRINTですね。ブリストルのグローバルのチームで導入してて、僕らも導入してみたら相当良かったんで、おすすめします。
半年後にわかりそうなことも、5日間でわかるために、7人ぐらいのメンバーの力を結集してどうやっていくか、という方法です。5日間にやることが決まっていて、全部そのとおりにやっていくといいので、「どうやってやりましょうか?」と相談をする必要もありません。
クックパッドは、こんなことをいろいろやってきて、現状ではWebとアプリの合計で月間ユーザー数が日本で5,665万人、海外で3,420万人です。
まだ正式発表はないんですけど、ロシアのサービスも先月統合されたので、まだそっちの数字は合わさってないんですが、ここも1,000万人以上いるわけです。暗算してみると、クックパッドはとうとうユーザー数が1億人を超えるという規模になってきました。
レシピ数で言うと、日本で283万品、海外が119万品。これは、「毎日食べても一生かかる」みたいなことをよく言うんですけど、絶対に無理で。なんでかっていうと、毎日数百レシピとか、1,000レシピも投稿されているので、1日に1,000食ぐらい食べないと、全部食べつくすことはできないという規模のサイトになっています。
プレミアム会員数は、もうすぐ200万人。本当に役に立つといってお金を払ってくれるユーザーが200万人。僕がクックパッドに入るきっかけになったことですけれども、お金を払ってでも使いたいと思ってくれるくらいに役に立つサービスのユーザーが200万人にはなっているかなと。でもまだまだ、200万人じゃないですよね、400万人なのか、4,000万人なのか、4億人なのか、もっともっとやっていきたいなと思っています。
クックパッドは毎日の料理を楽しみにすることだけに、20年間集中してきました。1億人が使ってくれるサービスになってきました。でも、料理の可能性はまだまだ広いです。
役に立ってこそのテクノロジーをどんどん活かしていきたいです。そうすることで、つくり手を増やしたり、生活者の課題を解決したりして、これからも毎日の料理を楽しみにしていきたいなと思っています。ご清聴ありがとうございました。